誰彼時、戀ひるがえし
解夏、緋雲天衣―morceau by K2
竹刀袋と学生鞄の向こう、薄紅きらめく空ひるがえる。
あわい紫暮れる山は蒼く、森は夜の墨色しずませ融けてゆく。
自転車を漕ぐ頬に風は火照りを醒まし、稽古着の衿元から涼ませる。
すっと冷えてゆく汗に首元で紐揺らぐ、その懐に弾むガラス細工が心地良い。
―いまごろ病院も終わる頃かね、今夜はちゃんと帰れる?
汗薄い胸ふれるガラス細工に、これと揃いを持つ人が慕わしい。
水曜日の今日は日勤だけのはず、けれど急患が訪れたら白衣を脱がないだろう。
あの人は勤務時間外でも医師である誇りにただ微笑んで、優しい手に目の前の人を援ける。
―そういうトコ大好き、でも、構ってほしいってのも本音だね?
いつも真摯に微笑む白衣の美しい人、だから尊敬に仰いで愛している。
そんな人だから自分だけ見てほしいと願う、こんな我儘ごとあの人は愛してくれる。
だから離れている時すら我儘も幸せで、胸ゆれるガラスに微笑んでいつもの坂を漕いでゆく。
梢ふる薄闇に黄昏の木洩陽は紅い、その鮮やかな色彩に逢いたい肌を想い光一は自転車を止めた。
遥か連なる故郷の山嶺、その空は緋色あざやかに夏日暮れて秋を呼び、いつかの約束すこし近くなる。
blogramランキング参加中!
にほんブログ村
解夏、緋雲天衣―morceau by K2
竹刀袋と学生鞄の向こう、薄紅きらめく空ひるがえる。
あわい紫暮れる山は蒼く、森は夜の墨色しずませ融けてゆく。
自転車を漕ぐ頬に風は火照りを醒まし、稽古着の衿元から涼ませる。
すっと冷えてゆく汗に首元で紐揺らぐ、その懐に弾むガラス細工が心地良い。
―いまごろ病院も終わる頃かね、今夜はちゃんと帰れる?
汗薄い胸ふれるガラス細工に、これと揃いを持つ人が慕わしい。
水曜日の今日は日勤だけのはず、けれど急患が訪れたら白衣を脱がないだろう。
あの人は勤務時間外でも医師である誇りにただ微笑んで、優しい手に目の前の人を援ける。
―そういうトコ大好き、でも、構ってほしいってのも本音だね?
いつも真摯に微笑む白衣の美しい人、だから尊敬に仰いで愛している。
そんな人だから自分だけ見てほしいと願う、こんな我儘ごとあの人は愛してくれる。
だから離れている時すら我儘も幸せで、胸ゆれるガラスに微笑んでいつもの坂を漕いでゆく。
梢ふる薄闇に黄昏の木洩陽は紅い、その鮮やかな色彩に逢いたい肌を想い光一は自転車を止めた。
遥か連なる故郷の山嶺、その空は緋色あざやかに夏日暮れて秋を呼び、いつかの約束すこし近くなる。
blogramランキング参加中!
にほんブログ村