Pride of all the World 華、誇らかに
統べる華―William B Yeats×万葉集
Rose of all Roses, Rose of all the World!
The tall thought-woven sails, that flap unfurled
Above the tide of hours, trouble the air,
And God’s bell buoyed to be the water’s care;
While hushed from fear, or loud with hope, a band
With blown, spray-dabbled hair gather at hand.
薔薇すべての中の薔薇、世界統べる唯一の薔薇よ、
高らかな思考の織りなす帆を羽のごとく翻し、
時の潮流より上にと高く、大気を揺るがせ、
神の鐘は水揺らめくまま浮き沈み、
恐るべき予兆に沈黙し、または希望への叫びに、集う
風惹きよせ、飛沫に濡れ艶めく髪を手にかき集めるように
…
But gather all for whom no love hath made
A woven silence, or but came to cast
A song into the air, and singing passed
To smile on the pale dawn; and gather you
Who have sought more than is in rain or dew
Or in the sun and moon, or on the earth,
Or sighs amid the wandering, starry mirth,
Or comes in laughter from the sea’s sad lips,
And wage God‘s battles in the long grey ships.
The sad, the lonely, the insatiable,
To these Old Night shall all her mystery tell;
だが恋人なき者は全て集うがいい、
静穏の安らぎ織らす恋人ではなく、運試しの賽投げつけ
虚ろなる空に歌い、謳いながら透り過ぎ去り、
蒼白の黎明に微笑む、そんな相手しかない君よ、集え
愁雨や涙の雫より多くを探し求める君よ、
また太陽や月に、大地の上に、
また陽気な星煌めく彷徨に吐息あふれ、
また海の哀しき唇の波間から高らかな笑いで入港し、
そして遥かなる混沌の船に乗り神の戦を闘うがいい。
悲哀、孤愁、渇望、
これらの者へ、盤古の夜はその謎すべてを説くだろう。
…
Rose of all Roses, Rose of all the World!
You, too, have come where the dim tides are hurled
Upon the wharves of sorrow, and heard ring
The bell that calls us on; the sweet far thing.
Beauty grown sad with its eternity
Made you of us, and of the dim grey sea.
全ての薔薇に最高の薔薇、世を統べる唯一の薔薇よ、
貴方もまた、仄暗い潮流の砕ける所へ来たる
悲哀の岩壁に臨み、そして響きを聴いた
私達を呼ばう鐘、甘やかに遥かなる響鳴。
美は永遠のままに涯無き哀しみを育ませ
我らに貴方を創り与えた、この仄暗き混沌の海に。
上述はWilliam B Yeats「The Rose of Battle」抜粋&自訳です。
第65話「如風」で一部引用した詩ですが英二のイメージに合います、笑
全文を通して誇り高いトーンで謳いあげられる詩で、叙事詩的な空気がカッコいいなと。
主題は世界の混沌から「薔薇」=戦う意志と誇りが誕生する、そこに美学があるって感じです。
作者のイェイツはアイルランドの詩人で、憂愁美と勇壮に織られる神話調が特徴かなって思います。
故郷アイルランドの神話や伝説のモチーフも多く物語的、そんな作風は1910年代から社会風刺を孕んでいきます。
それはアイルランドという国が困難な道を辿った為で、母国の戦いが彼の作詩にも顕われていく結果でした。
「The Rose of Battle」は1892年初出ですが、後のアイルランドと詩人を予見する詩のようでもあります。
薔薇は百花の王、花の女王、そんなふう称えられる花です。
冒頭から「Rose of all the World」世界全ての薔薇と讃えられています。
訳文では「世界統べる唯一の薔薇」としましたが、Roseが単数形なので「唯一」象徴的存在として訳しました。
訳文の「盤古」は中国神話の天地創造神です。
天と地が分かれず混沌とした世界を天地に分け、万物を生みだしたとされる神になります。
左目は太陽で右目は月、瞳を披くとき世界は照らされ暁を迎え、瞑るとき光も眠りについて黄昏となるそうです。
声は雷霆・雷の轟音として世界を響かせて、吐息は風と雲になって息吹の熱で世界を温め、息吸えば熱も吸われ寒冷になります。
朝夜=時間、雲すなわち雨と風と気温=天候、そして万物の生成を司っている天空神かつ地母神を兼備する姿が盤古です。
なので盤古は天地双方に席があり天上に坐す時は「大梵天王」大地に在る時は「堅牢地神」と異称があります。
盤古は男神の姿に描かれますが天地万物の神=万物の胎なので「her mystery」でもOKって解釈にしました。
で、頻出「gray」を詩意から「混沌」としたので「Old Night」年経た夜・太古の夜=混沌から天地生まれた「盤古の夜」です。
先にも書いたようイェイツは神話モチーフでもあります、その空気感を出したいので邦訳も神話を絡めてみました。
道の辺の 宇万良のうれに延ほ麻米の からまる君を波離れか往くむ 丈部鳥
往く道の傍にも咲いている野茨、
その花に腕延ばさす蔓荳のよう僕に縋り抱きつく君、君を置いて波の離れるよう僕も往く
けれど戀からまる君と僕は離れない、野薔薇と蔓花が寄添わすと同じに僕たちも添い遂げる
これは『万葉集』巻第二十掲載の防人歌で、防人=東国から徴兵された人です。
作者の丈部鳥(はせつかべのとり)は上総国、現在の千葉県中部・房総半島上部の出身でした。
当時は街道も未整備で旅することは冒険に等しく危険、そのため防人に出れば帰郷出来ないことも多かったと言います。
そして防人は兵士である以上、国内外で戦争が起きれば当然のよう戦場へ連れていかれる運命にあります。
こうした危険に赴く男が妻への想いを謳った相聞歌に「宇万良」野茨が詠まれています。
宇万良は「うまら」と読む万葉仮名で、野に咲く茨を指す言葉です。
バラの野生種で現在一般的なバラ=薔薇のような大輪八重ではなく、小さな一重咲きの花は清楚可憐です。
下に野茨の写真を載せましたが、上載した深紅の薔薇とは別種の花である印象を抱く方は多いかと思います。
麻米は「まめ」ですが蔓荳ツルマメの古称です。
大豆の原生種であわい紫色の花が可憐な草花で、歌にあるよう他の植物に絡みついて生えます。
薄紅ふくんで白い花に寄添う薄紫の花、道野辺に咲いた姿はたおやかに優しいカンジでしょうね。
華やかで香高い大輪の薔薇、清楚にも逞しく山野で生きる野茨。
その印象通り「The Rose of Battle」の薔薇は世界に君臨する百花の王、「宇万良」は一兵卒を表す野花です。
けれど戦いへ赴く男を象徴する花として謳われていることは、薔薇と野茨どちらのバラも同じだなって思います。
そこには戦うこと、危険の困難にも屈さないで希望を見出そうとする誇りと意志が謳われて「華」がただ綺麗です。
薔薇は近年日本でも父の日に贈るポピュラーな花ですが、そう思うと薔薇は男性的イメージの花かもしれませんね。
そんな訳で序文「Pride of all the World」は二つの意味を懸けてあります。
この「Pride」はプライド・誇りって意味が一般的ですが「華麗」という意味もあるそうです。
誇り高いものが持つ美しさは魅力で惹きつけられる、そんなトコから「華麗」なのかなって思います。
華麗なる誇りで世界と戦う、ソンナ意味解釈で「Pride」は詩歌に謳われる薔薇を表してくれる言葉だなと。
なんて書くと、先日の休題短評「 Pride×Picaresque、その土下座論」に繋がりますね、笑
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【引用詩歌:William Butler Yeats「The Rose of Battle」/丈部鳥『万葉集』より】
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Rose of all Roses, Rose of all the World!
The tall thought-woven sails, that flap unfurled
Above the tide of hours, trouble the air,
And God’s bell buoyed to be the water’s care;
While hushed from fear, or loud with hope, a band
With blown, spray-dabbled hair gather at hand.
薔薇すべての中の薔薇、世界統べる唯一の薔薇よ、
高らかな思考の織りなす帆を羽のごとく翻し、
時の潮流より上にと高く、大気を揺るがせ、
神の鐘は水揺らめくまま浮き沈み、
恐るべき予兆に沈黙し、または希望への叫びに、集う
風惹きよせ、飛沫に濡れ艶めく髪を手にかき集めるように
…
But gather all for whom no love hath made
A woven silence, or but came to cast
A song into the air, and singing passed
To smile on the pale dawn; and gather you
Who have sought more than is in rain or dew
Or in the sun and moon, or on the earth,
Or sighs amid the wandering, starry mirth,
Or comes in laughter from the sea’s sad lips,
And wage God‘s battles in the long grey ships.
The sad, the lonely, the insatiable,
To these Old Night shall all her mystery tell;
だが恋人なき者は全て集うがいい、
静穏の安らぎ織らす恋人ではなく、運試しの賽投げつけ
虚ろなる空に歌い、謳いながら透り過ぎ去り、
蒼白の黎明に微笑む、そんな相手しかない君よ、集え
愁雨や涙の雫より多くを探し求める君よ、
また太陽や月に、大地の上に、
また陽気な星煌めく彷徨に吐息あふれ、
また海の哀しき唇の波間から高らかな笑いで入港し、
そして遥かなる混沌の船に乗り神の戦を闘うがいい。
悲哀、孤愁、渇望、
これらの者へ、盤古の夜はその謎すべてを説くだろう。
…
Rose of all Roses, Rose of all the World!
You, too, have come where the dim tides are hurled
Upon the wharves of sorrow, and heard ring
The bell that calls us on; the sweet far thing.
Beauty grown sad with its eternity
Made you of us, and of the dim grey sea.
全ての薔薇に最高の薔薇、世を統べる唯一の薔薇よ、
貴方もまた、仄暗い潮流の砕ける所へ来たる
悲哀の岩壁に臨み、そして響きを聴いた
私達を呼ばう鐘、甘やかに遥かなる響鳴。
美は永遠のままに涯無き哀しみを育ませ
我らに貴方を創り与えた、この仄暗き混沌の海に。
上述はWilliam B Yeats「The Rose of Battle」抜粋&自訳です。
第65話「如風」で一部引用した詩ですが英二のイメージに合います、笑
全文を通して誇り高いトーンで謳いあげられる詩で、叙事詩的な空気がカッコいいなと。
主題は世界の混沌から「薔薇」=戦う意志と誇りが誕生する、そこに美学があるって感じです。
作者のイェイツはアイルランドの詩人で、憂愁美と勇壮に織られる神話調が特徴かなって思います。
故郷アイルランドの神話や伝説のモチーフも多く物語的、そんな作風は1910年代から社会風刺を孕んでいきます。
それはアイルランドという国が困難な道を辿った為で、母国の戦いが彼の作詩にも顕われていく結果でした。
「The Rose of Battle」は1892年初出ですが、後のアイルランドと詩人を予見する詩のようでもあります。
薔薇は百花の王、花の女王、そんなふう称えられる花です。
冒頭から「Rose of all the World」世界全ての薔薇と讃えられています。
訳文では「世界統べる唯一の薔薇」としましたが、Roseが単数形なので「唯一」象徴的存在として訳しました。
訳文の「盤古」は中国神話の天地創造神です。
天と地が分かれず混沌とした世界を天地に分け、万物を生みだしたとされる神になります。
左目は太陽で右目は月、瞳を披くとき世界は照らされ暁を迎え、瞑るとき光も眠りについて黄昏となるそうです。
声は雷霆・雷の轟音として世界を響かせて、吐息は風と雲になって息吹の熱で世界を温め、息吸えば熱も吸われ寒冷になります。
朝夜=時間、雲すなわち雨と風と気温=天候、そして万物の生成を司っている天空神かつ地母神を兼備する姿が盤古です。
なので盤古は天地双方に席があり天上に坐す時は「大梵天王」大地に在る時は「堅牢地神」と異称があります。
盤古は男神の姿に描かれますが天地万物の神=万物の胎なので「her mystery」でもOKって解釈にしました。
で、頻出「gray」を詩意から「混沌」としたので「Old Night」年経た夜・太古の夜=混沌から天地生まれた「盤古の夜」です。
先にも書いたようイェイツは神話モチーフでもあります、その空気感を出したいので邦訳も神話を絡めてみました。
道の辺の 宇万良のうれに延ほ麻米の からまる君を波離れか往くむ 丈部鳥
往く道の傍にも咲いている野茨、
その花に腕延ばさす蔓荳のよう僕に縋り抱きつく君、君を置いて波の離れるよう僕も往く
けれど戀からまる君と僕は離れない、野薔薇と蔓花が寄添わすと同じに僕たちも添い遂げる
これは『万葉集』巻第二十掲載の防人歌で、防人=東国から徴兵された人です。
作者の丈部鳥(はせつかべのとり)は上総国、現在の千葉県中部・房総半島上部の出身でした。
当時は街道も未整備で旅することは冒険に等しく危険、そのため防人に出れば帰郷出来ないことも多かったと言います。
そして防人は兵士である以上、国内外で戦争が起きれば当然のよう戦場へ連れていかれる運命にあります。
こうした危険に赴く男が妻への想いを謳った相聞歌に「宇万良」野茨が詠まれています。
宇万良は「うまら」と読む万葉仮名で、野に咲く茨を指す言葉です。
バラの野生種で現在一般的なバラ=薔薇のような大輪八重ではなく、小さな一重咲きの花は清楚可憐です。
下に野茨の写真を載せましたが、上載した深紅の薔薇とは別種の花である印象を抱く方は多いかと思います。
麻米は「まめ」ですが蔓荳ツルマメの古称です。
大豆の原生種であわい紫色の花が可憐な草花で、歌にあるよう他の植物に絡みついて生えます。
薄紅ふくんで白い花に寄添う薄紫の花、道野辺に咲いた姿はたおやかに優しいカンジでしょうね。
華やかで香高い大輪の薔薇、清楚にも逞しく山野で生きる野茨。
その印象通り「The Rose of Battle」の薔薇は世界に君臨する百花の王、「宇万良」は一兵卒を表す野花です。
けれど戦いへ赴く男を象徴する花として謳われていることは、薔薇と野茨どちらのバラも同じだなって思います。
そこには戦うこと、危険の困難にも屈さないで希望を見出そうとする誇りと意志が謳われて「華」がただ綺麗です。
薔薇は近年日本でも父の日に贈るポピュラーな花ですが、そう思うと薔薇は男性的イメージの花かもしれませんね。
そんな訳で序文「Pride of all the World」は二つの意味を懸けてあります。
この「Pride」はプライド・誇りって意味が一般的ですが「華麗」という意味もあるそうです。
誇り高いものが持つ美しさは魅力で惹きつけられる、そんなトコから「華麗」なのかなって思います。
華麗なる誇りで世界と戦う、ソンナ意味解釈で「Pride」は詩歌に謳われる薔薇を表してくれる言葉だなと。
なんて書くと、先日の休題短評「 Pride×Picaresque、その土下座論」に繋がりますね、笑
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【引用詩歌:William Butler Yeats「The Rose of Battle」/丈部鳥『万葉集』より】
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