interval 幕間
第75話 回顧act.7-side story「陽はまた昇る」
ぱちっ、
炎爆ぜて芳ばしい、その燻ぶりが熱を照らす。
薪からり崩れてまた枝を足す、ぱちり鳴って朱色の光散る。
こんなふう焚火を眺める時間は好きだ、ただ寛いでゆく火端に深い声が笑った。
「宮田と焚火するのは2度目だなあ、4月の終わりと今日と、」
大らかに笑ってくれる声は明るくて呼吸の乱れもない。
いま11月の寒夜の山中、それでも体調の崩れ見せない笑顔に英二は笑いかけた。
「4月も少し寒かったですね、今も寒めですけど調子は如何ですか?」
「まったく問題無いよ、それより宮田の方が問題だ、」
笑って枯枝くべた火灯りに大きな手が映える。
炎に朱い手は節くれ頼もしい、その変わらない手に問いかけと微笑んだ。
「俺の問題ってなんですか?」
「まずは吉村のことだよ、おまえさん今夜は泊めてもらう予定だったろう?それをこっちの手伝いですっぽかせちまった、」
困ったよう笑ってくれる貌に火影ゆれる。
ぱちり爆ぜた金粉に救助隊服のオレンジきらめかす、その明滅も懐かしいまま笑った。
「もしかして救助の手伝いがあるかもしれないって最初から言ってあります、でも電話だけ今すこし良いですか?」
秋の三連休なら遭難事故も起きやすい、そんな予想は吉村医師も当然している。
だからこそ不確定な宿泊訪問を誘ってくれた、その信頼に山ヤの警察官も微笑んだ。
「もちろんだよ、ここなら電波もなんとか繋がるだろう。俺からもよろしく伝えとくれ、」
「はい、ありがとうございます、」
笑って火端から立ち上がり携帯電話を開く。
ふっと山の闇に画面明るんで瞳を射る、その人工的な灯りに微笑んで歩きだす。
ヘッドライトの光に尾根すこし歩いてアンテナ本数を確かめる、その最大値で立ち止まり発信した。
―ほんとは周太にも架けたいけど今夜は駄目だな、メール読んでくれたかな、
本当はもう一人すぐ電話したい、声を聴きたい。
けれど今は手伝いとは謂え上官の指示を得て現場に立っている。
それも自己志願である以上は私的連絡も最小限が礼儀だろう、そんな思案にコール3つで繋がった。
「宮田くん、捜索お疲れさまです、ビバークですか?」
言わないでも察してくれる。
もう心積もりしていた、そんな信頼に笑いかけた。
「申し訳ありません、泊めて頂く約束していたのに、」
「いや、後藤さんに付き添ってもらえて良かったです、そちらは冷えているでしょう?」
感謝と心配を告げてくれる。
その配慮と理解の温もりに英二は微笑んだ。
「いま焚火で暖をとっています、ツェルトもあるので大丈夫です、」
「よかった、迷われた方も場所の確認は出来ているようですね?」
「はい、二人とも元気そうです、朝になったら行動開始します、」
「朝は私も行きましょう、現在地を教えてくれますか?」
提案の向こう紙開く音かすかに響く。
登山図を用意してくれている、そんな気配に嬉しく笑いかけた。
「ありがとうございます、吉村先生は山ヤの医者ですね?」
「そうでありたいなって思ってますよ、」
笑ってくれる返事に去年の秋が懐かしい。
秋、吉村医師と登った本仁田山は山容より物語を憶えている、あの言葉どおり吉村は今日も明日も医師でいるのだろう。
そんな想い微笑んで話し終えて、すぐメール1通だけ送って携帯電話ポケット戻しながら踵返して、焚火の傍ら座った。
「おかえり、吉村なんか言ってたかい?」
火灯りにウィンドブレーカー羽織りながら尋ねてくれる。
その愉しげな笑顔が元気そうで安堵に笑いかけた。
「朝になったら来て下さるそうです、あと今夜の冷えこみを心配されていました、」
話す吐息が火影に白い。
やはり冷えこんできた、そんな山の夜に後藤も頷いた。
「そうだなあ、この時季の沢筋だと冷えこみもだが霧も心配だな?天気も悪くないしビバークも出来ているようだが、」
「はい、霧で濡れると低体温症も怖いです。そのために吉村先生も来て下さるんだと思います、」
答えながら吉村の意図を考えてしまう。
遭難者の健康も心配でいる、それ以上に後藤を気遣って明朝は来るのだろう。
そんな医師の篤実は温かい、その温もりに微笑んだ焚火の向こう深い瞳が静かに笑った。
「なあ宮田、さっきオヤジさんが湯原の事を知ってるって言ったな?その理由を聴くことは出来るかい?」
父は本当は知ってるし解かってるんです、
そう自分でさっき言ってしまった、それを今改めて訊いてくる。
その理由と現状と裏付けに脳裡めぐらせて結論を綺麗に笑った。
「3月に川崎まで父が来てくれたんです、そのとき湯原の母から話を聴いているので。コーヒー淹れますね、」
馨さんのこともご存知ですよね?たぶん父も同じです、父は本当は知ってるし解かってるんです。
そう自分はさっき言ってしまった、その意味は本当は3月の訪問を意図してなど言っていない。
けれど今は3月の所為にして誤魔化してしまうことを選ぶ、そして生涯ずっと言わないだろう。
―血縁のことは知られない方が良い、もう誰にも、
馨は父の再従弟にあたる、その事実を誰も気づいてはいない。
鷲田の祖父と自分の血縁関係は調べてすぐ解かるだろう、けれど祖母と馨の母親の関係は気づかれ難い。
この条件2つが自分に権利と証拠と自由をくれる、だから秘密に閉じこめたままコッヘル支度する向こう山ヤは微笑んだ。
「そうか、うん…おまえさんも佳い男だな、」
佳い男だな、
そんな言葉に笑った貌こそ佳い男だろう?
そう想うまま微笑んだ聴覚の端、枯葉リズミカルに踏む音を捉えて英二は笑った。
「後藤さん、俺よりも佳い男たちが来るみたいですよ?」
「うん?」
後藤も顔上げて深い瞳すっと細まらせる。
そのヘッドライト翳された先からスカイブルーのウィンドブレーカー姿は現れた。
「あははっ、やっぱり宮田たち此処だったんだ?原さん、俺の言った通りでアタリだよ、」
落葉かさり踏みながら小柄な救助隊服姿が来てくれる。
その大らかな人好い笑顔に英二は笑った。
「おつかれ藤岡、よく俺たちの場所が解かったな?」
「この辺は俺んとこ管轄だしさ、何度か山井さんとも来てるんだ。副隊長、おつかれさまです、」
闊達に笑って敬礼してくれる。
その後ろからすぐ細身の長身も現れ敬礼し、照れくさげに笑った。
「副隊長おつかれさまです、宮田も、」
「おう、藤岡に原もおつかれさん、宮田に面会しに来たのかい?まず座れ座れ、」
大らかに笑って敬礼返すと席を勧めてくれる。
焚火ゆれる山上、落葉の厚く敷き詰めた上に胡坐かくと藤岡が笑った。
「木下さんの奥さんから差入が来たんです、それで持ってきました、」
言いながら登山ザックおろして紙包み出してくれる。
受けとって開いた包装と中身に後藤は愉快を笑った。
「握飯を竹皮と新聞紙で包むなんて気が利いてるなあ、焚付に使えるよ。木下の奥さんは山好きだって聴いてはいたが、」
「今も暗いとこ登って来たんですよ、夜間の登山は慣れてるそうです、」
話しながら藤岡は魔法瓶まで出してくる。
開けてみると味噌ふわり香たつ、その配慮にありがたく微笑んだ。
「熱い味噌汁って良いですね、助かります、」
吐息の白い山の夜、熱い汁物はご馳走だ。
そんな感覚を理解した差入に感謝しながら、安堵そっと笑った。
―原さんと藤岡がいてくれるの助かるな、つい話さないで済む、
後藤とふたり山の夜なら話してしまうかもしれない。
さっき速滝の道で吐露してしまったように自制が緩む、あの脆さが一夜に出てしまったら?
そんな信頼感と弱さが自分に怖かった、だから今こうして来てくれた隠した感謝に笑いかけた。
「原さんって木下さんとは同期で仲良いですよね、奥さんとも面識あったんですか?」
「こっち来てからな、結婚式でも見たが、」
相変わらずの短い応答は一見ぶっきらぼう、けれど温かい。
こうして座り話すのは2ヶ月半ぶりになる、その懐かしさに同期も笑った。
「宮田と焚火すんのって久しぶりだなあ、国村もいたらもっと面白いのにな?」
からっと言われた名前に鼓動そっと刺されて、けれど先刻より傷まない。
もう速滝で覚悟ひとつ呑みこんでいる、そのまま微笑んだ隣で精悍な瞳すこし大きくなった。
「おい、今も呼び捨てしてるのか?国村さんのこと、」
「そうしろって言われてんだ、タメだからタメ口が良いってさ、なあ宮田?」
あっけらかんと笑って訊いてくれる。
その朗らかな笑顔は変わらず温かい、この変わらなさ嬉しくて英二は綺麗に笑った。
「ああ、プライベートまで堅苦しくするなって言われるな?俺も業務じゃなかったら光一って今も呼んでるよ、」
名前を声にして抱えこんだ自責やわらかに疼く。
この傷み感じられるだけ自分はすこし人間らしくなったのかもしれない。
―雅樹さん、あなたの欠片を俺は北鎌尾根でもらったんですか?
北鎌尾根、あの場所で自分は雅樹を演じた。
そうすることが光一の慰霊登山を超えさせる手段だと信じて、憧れの山ヤを我が身に映した。
あのときから何か自分の深く燈されている、そんな感覚は山と向き合うごと気づかされて今また深まらす。
―父さんのこと気づいて泣けたのも、光一を利用したこと謝りたいのも昔の俺なら考えもしなかった、罪悪感の欠片も無いまま、
もし昔の自分のままだったら今も自責など傷まない。
ただ周太のことだけ考えて自分が信じた我儘を貫くのだろう、そんな生き方は楽かもしれない。
けれど今こうして自分以外の感情と理由を考える時間こそが多分、いつか分岐点で自分を惹き戻して止められる。
いつか観碕征治と自分は対峙する、それが共食いになるか勝利になるのか?
その分岐する鍵は傷みかもしれない、そう想える。
(to be continued)
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第75話 回顧act.7-side story「陽はまた昇る」
ぱちっ、
炎爆ぜて芳ばしい、その燻ぶりが熱を照らす。
薪からり崩れてまた枝を足す、ぱちり鳴って朱色の光散る。
こんなふう焚火を眺める時間は好きだ、ただ寛いでゆく火端に深い声が笑った。
「宮田と焚火するのは2度目だなあ、4月の終わりと今日と、」
大らかに笑ってくれる声は明るくて呼吸の乱れもない。
いま11月の寒夜の山中、それでも体調の崩れ見せない笑顔に英二は笑いかけた。
「4月も少し寒かったですね、今も寒めですけど調子は如何ですか?」
「まったく問題無いよ、それより宮田の方が問題だ、」
笑って枯枝くべた火灯りに大きな手が映える。
炎に朱い手は節くれ頼もしい、その変わらない手に問いかけと微笑んだ。
「俺の問題ってなんですか?」
「まずは吉村のことだよ、おまえさん今夜は泊めてもらう予定だったろう?それをこっちの手伝いですっぽかせちまった、」
困ったよう笑ってくれる貌に火影ゆれる。
ぱちり爆ぜた金粉に救助隊服のオレンジきらめかす、その明滅も懐かしいまま笑った。
「もしかして救助の手伝いがあるかもしれないって最初から言ってあります、でも電話だけ今すこし良いですか?」
秋の三連休なら遭難事故も起きやすい、そんな予想は吉村医師も当然している。
だからこそ不確定な宿泊訪問を誘ってくれた、その信頼に山ヤの警察官も微笑んだ。
「もちろんだよ、ここなら電波もなんとか繋がるだろう。俺からもよろしく伝えとくれ、」
「はい、ありがとうございます、」
笑って火端から立ち上がり携帯電話を開く。
ふっと山の闇に画面明るんで瞳を射る、その人工的な灯りに微笑んで歩きだす。
ヘッドライトの光に尾根すこし歩いてアンテナ本数を確かめる、その最大値で立ち止まり発信した。
―ほんとは周太にも架けたいけど今夜は駄目だな、メール読んでくれたかな、
本当はもう一人すぐ電話したい、声を聴きたい。
けれど今は手伝いとは謂え上官の指示を得て現場に立っている。
それも自己志願である以上は私的連絡も最小限が礼儀だろう、そんな思案にコール3つで繋がった。
「宮田くん、捜索お疲れさまです、ビバークですか?」
言わないでも察してくれる。
もう心積もりしていた、そんな信頼に笑いかけた。
「申し訳ありません、泊めて頂く約束していたのに、」
「いや、後藤さんに付き添ってもらえて良かったです、そちらは冷えているでしょう?」
感謝と心配を告げてくれる。
その配慮と理解の温もりに英二は微笑んだ。
「いま焚火で暖をとっています、ツェルトもあるので大丈夫です、」
「よかった、迷われた方も場所の確認は出来ているようですね?」
「はい、二人とも元気そうです、朝になったら行動開始します、」
「朝は私も行きましょう、現在地を教えてくれますか?」
提案の向こう紙開く音かすかに響く。
登山図を用意してくれている、そんな気配に嬉しく笑いかけた。
「ありがとうございます、吉村先生は山ヤの医者ですね?」
「そうでありたいなって思ってますよ、」
笑ってくれる返事に去年の秋が懐かしい。
秋、吉村医師と登った本仁田山は山容より物語を憶えている、あの言葉どおり吉村は今日も明日も医師でいるのだろう。
そんな想い微笑んで話し終えて、すぐメール1通だけ送って携帯電話ポケット戻しながら踵返して、焚火の傍ら座った。
「おかえり、吉村なんか言ってたかい?」
火灯りにウィンドブレーカー羽織りながら尋ねてくれる。
その愉しげな笑顔が元気そうで安堵に笑いかけた。
「朝になったら来て下さるそうです、あと今夜の冷えこみを心配されていました、」
話す吐息が火影に白い。
やはり冷えこんできた、そんな山の夜に後藤も頷いた。
「そうだなあ、この時季の沢筋だと冷えこみもだが霧も心配だな?天気も悪くないしビバークも出来ているようだが、」
「はい、霧で濡れると低体温症も怖いです。そのために吉村先生も来て下さるんだと思います、」
答えながら吉村の意図を考えてしまう。
遭難者の健康も心配でいる、それ以上に後藤を気遣って明朝は来るのだろう。
そんな医師の篤実は温かい、その温もりに微笑んだ焚火の向こう深い瞳が静かに笑った。
「なあ宮田、さっきオヤジさんが湯原の事を知ってるって言ったな?その理由を聴くことは出来るかい?」
父は本当は知ってるし解かってるんです、
そう自分でさっき言ってしまった、それを今改めて訊いてくる。
その理由と現状と裏付けに脳裡めぐらせて結論を綺麗に笑った。
「3月に川崎まで父が来てくれたんです、そのとき湯原の母から話を聴いているので。コーヒー淹れますね、」
馨さんのこともご存知ですよね?たぶん父も同じです、父は本当は知ってるし解かってるんです。
そう自分はさっき言ってしまった、その意味は本当は3月の訪問を意図してなど言っていない。
けれど今は3月の所為にして誤魔化してしまうことを選ぶ、そして生涯ずっと言わないだろう。
―血縁のことは知られない方が良い、もう誰にも、
馨は父の再従弟にあたる、その事実を誰も気づいてはいない。
鷲田の祖父と自分の血縁関係は調べてすぐ解かるだろう、けれど祖母と馨の母親の関係は気づかれ難い。
この条件2つが自分に権利と証拠と自由をくれる、だから秘密に閉じこめたままコッヘル支度する向こう山ヤは微笑んだ。
「そうか、うん…おまえさんも佳い男だな、」
佳い男だな、
そんな言葉に笑った貌こそ佳い男だろう?
そう想うまま微笑んだ聴覚の端、枯葉リズミカルに踏む音を捉えて英二は笑った。
「後藤さん、俺よりも佳い男たちが来るみたいですよ?」
「うん?」
後藤も顔上げて深い瞳すっと細まらせる。
そのヘッドライト翳された先からスカイブルーのウィンドブレーカー姿は現れた。
「あははっ、やっぱり宮田たち此処だったんだ?原さん、俺の言った通りでアタリだよ、」
落葉かさり踏みながら小柄な救助隊服姿が来てくれる。
その大らかな人好い笑顔に英二は笑った。
「おつかれ藤岡、よく俺たちの場所が解かったな?」
「この辺は俺んとこ管轄だしさ、何度か山井さんとも来てるんだ。副隊長、おつかれさまです、」
闊達に笑って敬礼してくれる。
その後ろからすぐ細身の長身も現れ敬礼し、照れくさげに笑った。
「副隊長おつかれさまです、宮田も、」
「おう、藤岡に原もおつかれさん、宮田に面会しに来たのかい?まず座れ座れ、」
大らかに笑って敬礼返すと席を勧めてくれる。
焚火ゆれる山上、落葉の厚く敷き詰めた上に胡坐かくと藤岡が笑った。
「木下さんの奥さんから差入が来たんです、それで持ってきました、」
言いながら登山ザックおろして紙包み出してくれる。
受けとって開いた包装と中身に後藤は愉快を笑った。
「握飯を竹皮と新聞紙で包むなんて気が利いてるなあ、焚付に使えるよ。木下の奥さんは山好きだって聴いてはいたが、」
「今も暗いとこ登って来たんですよ、夜間の登山は慣れてるそうです、」
話しながら藤岡は魔法瓶まで出してくる。
開けてみると味噌ふわり香たつ、その配慮にありがたく微笑んだ。
「熱い味噌汁って良いですね、助かります、」
吐息の白い山の夜、熱い汁物はご馳走だ。
そんな感覚を理解した差入に感謝しながら、安堵そっと笑った。
―原さんと藤岡がいてくれるの助かるな、つい話さないで済む、
後藤とふたり山の夜なら話してしまうかもしれない。
さっき速滝の道で吐露してしまったように自制が緩む、あの脆さが一夜に出てしまったら?
そんな信頼感と弱さが自分に怖かった、だから今こうして来てくれた隠した感謝に笑いかけた。
「原さんって木下さんとは同期で仲良いですよね、奥さんとも面識あったんですか?」
「こっち来てからな、結婚式でも見たが、」
相変わらずの短い応答は一見ぶっきらぼう、けれど温かい。
こうして座り話すのは2ヶ月半ぶりになる、その懐かしさに同期も笑った。
「宮田と焚火すんのって久しぶりだなあ、国村もいたらもっと面白いのにな?」
からっと言われた名前に鼓動そっと刺されて、けれど先刻より傷まない。
もう速滝で覚悟ひとつ呑みこんでいる、そのまま微笑んだ隣で精悍な瞳すこし大きくなった。
「おい、今も呼び捨てしてるのか?国村さんのこと、」
「そうしろって言われてんだ、タメだからタメ口が良いってさ、なあ宮田?」
あっけらかんと笑って訊いてくれる。
その朗らかな笑顔は変わらず温かい、この変わらなさ嬉しくて英二は綺麗に笑った。
「ああ、プライベートまで堅苦しくするなって言われるな?俺も業務じゃなかったら光一って今も呼んでるよ、」
名前を声にして抱えこんだ自責やわらかに疼く。
この傷み感じられるだけ自分はすこし人間らしくなったのかもしれない。
―雅樹さん、あなたの欠片を俺は北鎌尾根でもらったんですか?
北鎌尾根、あの場所で自分は雅樹を演じた。
そうすることが光一の慰霊登山を超えさせる手段だと信じて、憧れの山ヤを我が身に映した。
あのときから何か自分の深く燈されている、そんな感覚は山と向き合うごと気づかされて今また深まらす。
―父さんのこと気づいて泣けたのも、光一を利用したこと謝りたいのも昔の俺なら考えもしなかった、罪悪感の欠片も無いまま、
もし昔の自分のままだったら今も自責など傷まない。
ただ周太のことだけ考えて自分が信じた我儘を貫くのだろう、そんな生き方は楽かもしれない。
けれど今こうして自分以外の感情と理由を考える時間こそが多分、いつか分岐点で自分を惹き戻して止められる。
いつか観碕征治と自分は対峙する、それが共食いになるか勝利になるのか?
その分岐する鍵は傷みかもしれない、そう想える。
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