子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」:これがメジャーで制作されていたという事実にたじろぐ

2010年09月21日 23時01分07秒 | 映画(旧作・DVD)
オリックスと日本ハムの最終決戦が行われた20日,札幌ドームへと向かう人並みに逆らうように札幌駅北口にある蠍座を目指した私はそこで「昭和のカルト作家」石井輝男の代表作と呼ばれている「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」を観ようと詰めかけた観客で埋まった客席を目にした。この大事な時期にファイターズを応援せずして,何が道民か?とレプリカを着て東豊線に乗り込む方々から,理不尽な非難を受けるのではないかという心配が,杞憂に終わったのは幸いだった。

しかしファイターズのCS進出を応援するために32,625人の観客がドームを埋める一方で,挑戦的な番組編成によって,ある意味で北海道を代表すると言えるミニ・シアターに,これだけのお客さんが駆け付けるというのは,作品そのものに溢れかえっていた石井監督独自の表現とは裏腹に,とても健全なことだと嬉しくなってしまった。石井監督が活躍していた時代を全く知らなそうな,若い世代のお客さんはそう多くはなかったが,裏を返せば「昭和のお客さん」の方が,男女を問わず(女性の比率が高くて驚いた)アブなくて,際どいものに飢えているということの現れなのかも知れない。

江戸川乱歩の原作「パノラマ島奇談」は未読だが,映画の筋自体は滅茶苦茶で,辻褄などというものはまるで存在しない。特殊効果も貧弱を通り越して,メイクと美術だけでどうにか体裁を整えただけ,といった水準だ。愛し合った兄妹が花火で自死して身体がバラバラになるラストシーンの,紙細工のようなSFXでは,劇場内に爆笑が巻き起こったほどだ。その代わりに,本当は誰でもこんなものを覗き見したいはずだ,と思わせるだけのいかがわしさには事欠かない。

とにかく,物語の筋とは関係のない場面で,女優がすっぽん,するりと脱ぐわ脱ぐわ,お金のかかっていない安直なメイクで,人工的に作りだされた奇形人間は百出するわ,今なら放送されない「差別用語」は乱発されるわで,日活ロマンポルノなどよりもCS放送やVODなどのコンテンツにはなりにくいながらも,「いかがわしいもの」を覗き見てみたい,という観客の根源的な欲求に応える「情念のエントロピー」とでも呼ぶべきものが,ここには確かに存在している。

「エログロ映画の巨匠」として知れ渡ってきた(今回の特集のチラシでもそう表現されている)石井輝男に,資金を提供して作品を作らせ,それを当時(本作は1969年作品)は全国の中心街に存在していた劇場で上映していたのが,メジャー5社のひとつである東映だったという歴史を,我々は忘れてはなるまい。「日本異端映画暗黒史【第1章】」と銘打たれた今回の特集だが,チラシに書かれた「まだこれは序章に過ぎない」という支配人の自信たっぷりの脅し文句が嬉しい。


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