夫が監督した作品に女優の妻が出演する,というパターンは洋の東西を問わず枚挙にいとまがないが,そこに加えて夫も共演してしまう,という作品はあまり聞いたことがない。
作品のフレームとしては,既に堂々たるマネーメーキングスターの仲間入りを果たしたエミリー・ブラントが,実力はともかく「格」の点では相当に劣る夫を監督に抜擢した,という形になるのかもしれないが,夫ジョン・クラシンスキーはそんな「外見」を吹き飛ばすような素晴らしい仕事をやってのけた。おかげで仕事では凝らない肩が,たったの90分で,もみほぐしが必要になるくらいにガチガチに固まってしまった。
音のみに反応するエイリアンが支配する世界で,サバイバルを図ろうとする4人家族の物語。実際にほぼ全編,スクリーンに映るのは4人だけ。エイリアンと書いたが,その実態はまったく説明されず,リドリー・スコット版「エイリアン」の聴力進化版のような姿態は中盤以降頻繁に出てくるものの,あくまで物語は4人の関係性とエイリアンに対抗する奮闘にフォーカスされている。そんなシンプルな物語にも拘わらず,観客は「音を立てたら死ぬ」という単純ながら実に映画的に秀逸なアイデアとクラシンスキーのオーソドックスなホラー演出によって,90分間の金縛りに遭う。
4人だけ,しかも危機的状況にある家族であれば,当然一致団結して敵に対抗するはず,という先入観を覆してその関係性を豊かにしている要素のひとつは,難聴の長女が過去に末っ子のわがままを許したが故にその命をエイリアンに奪われるという経験をしており,そのことで父親が自分を恨んでいると思い込んでいるという点。年齢に関係なく父娘故の確執がドラマティックなのは,「ミリオン・ダラー・ベイビー」を持ち出すまでもないが,娘を演じるミリセント・シモンズは「ワンダーストラック」を遥かに超える大役を,ほぼ完璧に演じてエイリアンをも退けている。エミリー・ブラントも釘を踏み抜いて大量に出血しながら無事に出産を果たし,ラストではショットガンを構えて「エイリアン」でのリプリーと化す。
音を出さないために靴を脱いだ生活をせざるを得ないという伏線を活かした展開,ティム・バートンの「マーズ・アタック」に対するリスペクトのような結末も見事。
劇中,唯一緊張が和らぐ夫婦のダンス・シーンに流れるニール・ヤングの「ハーヴェスト・ムーン」がいつまでも耳に残る。ボブ・ディランの歌声が撃退法だった,という別の結末を頭に思い描きながら,肩をほぐしつつ帰宅。
★★★★
(★★★★★が最高)
作品のフレームとしては,既に堂々たるマネーメーキングスターの仲間入りを果たしたエミリー・ブラントが,実力はともかく「格」の点では相当に劣る夫を監督に抜擢した,という形になるのかもしれないが,夫ジョン・クラシンスキーはそんな「外見」を吹き飛ばすような素晴らしい仕事をやってのけた。おかげで仕事では凝らない肩が,たったの90分で,もみほぐしが必要になるくらいにガチガチに固まってしまった。
音のみに反応するエイリアンが支配する世界で,サバイバルを図ろうとする4人家族の物語。実際にほぼ全編,スクリーンに映るのは4人だけ。エイリアンと書いたが,その実態はまったく説明されず,リドリー・スコット版「エイリアン」の聴力進化版のような姿態は中盤以降頻繁に出てくるものの,あくまで物語は4人の関係性とエイリアンに対抗する奮闘にフォーカスされている。そんなシンプルな物語にも拘わらず,観客は「音を立てたら死ぬ」という単純ながら実に映画的に秀逸なアイデアとクラシンスキーのオーソドックスなホラー演出によって,90分間の金縛りに遭う。
4人だけ,しかも危機的状況にある家族であれば,当然一致団結して敵に対抗するはず,という先入観を覆してその関係性を豊かにしている要素のひとつは,難聴の長女が過去に末っ子のわがままを許したが故にその命をエイリアンに奪われるという経験をしており,そのことで父親が自分を恨んでいると思い込んでいるという点。年齢に関係なく父娘故の確執がドラマティックなのは,「ミリオン・ダラー・ベイビー」を持ち出すまでもないが,娘を演じるミリセント・シモンズは「ワンダーストラック」を遥かに超える大役を,ほぼ完璧に演じてエイリアンをも退けている。エミリー・ブラントも釘を踏み抜いて大量に出血しながら無事に出産を果たし,ラストではショットガンを構えて「エイリアン」でのリプリーと化す。
音を出さないために靴を脱いだ生活をせざるを得ないという伏線を活かした展開,ティム・バートンの「マーズ・アタック」に対するリスペクトのような結末も見事。
劇中,唯一緊張が和らぐ夫婦のダンス・シーンに流れるニール・ヤングの「ハーヴェスト・ムーン」がいつまでも耳に残る。ボブ・ディランの歌声が撃退法だった,という別の結末を頭に思い描きながら,肩をほぐしつつ帰宅。
★★★★
(★★★★★が最高)