子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「スリザー」:SLITHER【ずるずると滑る】そのものずばり

2007年12月15日 23時21分37秒 | 映画(新作レヴュー)
ジャ・ジャンクーの新作「長江哀歌」を観ようと思って劇場まで行ったのに,窓口で,前売り券を挟んでおいたシステム手帳を家に忘れてきたことに気付く。折角,地下鉄賃を使って街中まで出てきたのにこのまま手ぶらでは帰れないと,歩いて20分の距離にあるシネコンまで行き,最も早く観られる映画を選んだら,この「ずるずる(ぐちょぐちょ)と滑る(原題の邦訳)」になった。
いい加減な出会いの結果は,題名そのものずばりの気色悪さを全編に湛えつつ,ゾンビ映画の定石をきちんと踏まえ,吐き気と恐怖がない交ぜになった「ホラー=コメディ」の佳作であった。これも一つの出会いだ。

巷で評判になった新世紀ゾンビ映画「ドーン・オブ・ザ・デッド」(未見)の脚本を書いた,ジェイムズ・ガンの監督・脚本作。
ジェイムズ・ガンは,監督作としてはこれがデビューでありながら,ゾンビ映画らしい起承転結のはっきりとした展開,とんでもない状況にも超然とした反応を見せるヒロインで笑いを取るセンス,そして過去のホラー映画に対する自然体のリスペクト,と「スクービー・ドゥー2」を始めとするヒット作の脚本家としてキャリアを磨いてきた腕を,臆することなく発揮している。

下敷きにされている過去の作品としては,ロメロの諸作は勿論のこと,魔物が住む森を舞台にしているという点で「死霊のはらわた」が挙げられるが,何よりゾンビの親玉となる怪物の造形において,ジョン・カーペンター版「遊星からの物体X」の影響を強く感じさせる。現代SF映画においては欠かせないものとなった「臓物露出的」で「粘着性」を持った生物の描写という点で,正にエポック・メイキングだった同作品が切り開いた表現をしっかりと継承し,貫禄すら感じさせる画面を作り上げたスタッフの気概は充分に伝わってくる。たとえそれが映画館の暗闇以外のどこにも繋がらない道であったとしても,そんなけもの道を歩むと決意した表現者の潔さと意地が,どのショットにも深く刻まれていることは確かだ。

「ヘンリー」のマイケル・ルーカーが,謎の生物の宿主という重要な役を演じているが,映画の終盤で物語が彼の純粋な愛情に収斂してしまうことによって,意志を持たない筈の怪物の恐ろしさが変質してしまうことが,そのまま映画としての弱点になってしまっていることが少し悔やまれる。
しかし,時々うぐっと顔をしかめつつ,身体を強ばらせて過ごした96分間は,大切な休日の午後の過ごし方としては,充分に濃厚で納得出来るものだったと断言できる。人に薦めることはしないけれど。


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