目を覚ますと30分ほど経っていた。
やはり周りには誰もいない。
対岸にある如意輪寺に向けて再び歩き出す。
斜面を下り、小さな川を渡って登り返す。
周りは如意輪寺の檀家のものだろうか、お墓がくねくねと上る道横に散らばって立っている。
墓地に咲く桜はなんでか美しい。
ここの桜も綺麗なんだろう。
如意輪寺の側面の山には後醍醐天皇陵があるので見学に上った。
どこだったか忘れたが他の場所にある天皇陵と同じく、入口に宮内庁の注意書きがあり、石の階段の向こうに二重に囲った柵と鳥居があった。
お墓の真ん中に大木が何本も立っていて、死者の魂が宿っていてもおかしくない雰囲気。
静謐だ。
お参り後、寺を出てさらに上手へと登る。
道は落ち葉つもる遊歩道となり、周りは桜の木ばかり。
さっきの五郎平茶屋と標高は同じかこちらの方が高いはずだが、この辺りの木は葉をたくさん残していた。
品種の違いか日当たりの差なのか理由は不明。
西に傾いた太陽の光が葉っぱを輝かせていた。
斜面を縫う遊歩道は、道幅は広いがほとんど登山道である。
こんなところでお腹が空いてきた。
裏道だからお店どころか建物すらない。
大阪阿部野橋駅で買ったクッキーが手付かずだったのを思い出して、行動食よろしく歩きながら食べた。
甘くて美味しかった。
標高はどんどん上がり、眺めも開けてきて、振り返ると蔵王堂が望めた。
この道いいなあ
如意輪寺には何組か観光客がいたが、出てからこっち誰にも会っていない。
静かな山歩きをした気分。
稚児松地蔵を過ぎると今までにない急坂が現れた。
周りは杉か檜の針葉樹林になって急に暗くなる。
夕暮れが一気に進んだようだ。
短いだろうと思った急坂は結構な長さで続き、汗をかきはじめたので上着を脱ぐ。
さらに登り続けると再び見晴らしがよくなった。
おお、いい眺め。
日の入り間近だ。
吹き過ぎる風で身体の火照りを冷ましたが、秋の風は冷たい。
冷えすぎないようすぐに上着を着込んだ。
この辺りが上千本か、遊歩道は舗装された県道に出、この上にある吉野水分神社へと向かう。
時刻はだいぶ遅くなって、頭上を木々に覆われてもいないのに暗くなってきた。
これはもう拝観できる時刻を過ぎているんでないかな。
観光客の姿はもう無く、道横の民家の窓からは部屋の灯りが漏れてきている。
鳥居が見えてきた。
ああ、やっぱり、門は閉ざされている。
残念。
門とその周辺を少し撮影し引き返した。
少し下ると花矢倉というビュースポットがあった。
茶店の横から、遠く霞む山や峰に連なる吉野の町の眺めが一望のもとだ。
日はすっかり落ちて、山里は蒼く暮れつつあった。
花矢倉を出て帰宅するべく駅へと向かう。
帰りは本道である車道を下る。
こちらも上ってきた山道と同じくらいの急坂だ。
どんどん暗くなる道を歩く歩く。
しまったなあ、お土産を買ってないぞ。
周りの家が民家からお土産物屋さんになったが、もう営業しているお店は一軒もない。
吉野の町の一日が終わっていた。
ようやく見覚えのある通りまで帰ってきたがまだまだ駅は遠い。
さらに歩いてようやく七曲りの坂道に到着した。
街灯がポツリポツリと離れて道を照らしているだけで、家の無い曲がり道は真っ暗。
結局下千本の桜の状態は分からずじまい。
花矢倉から吉野駅までは1時間と少しかかった。
ああ、遠かったこと。
それでも秋の景色と良い眺めが楽しめたから良い旅路だった。
吉野駅からは結構遅い時間まで特急が出ていて助かった。
乗り込んだのは私一人ではないか?
帰りもさくらライナーのDXシートにして大阪まで眠って帰った。