睡眠に関する悩みを抱えている方は、多いのではないでしょうか。
今はタイパ、コスパが極端に重視される時代ですが、
精神科医で、早稲田大学睡眠研究所所長の西多昌規さんは、
「人生で眠っている時間は決して無駄な時間ではない」と断言します。
本稿では、しっかり寝ることが、どれほど大事なことなのかについて、
西多昌規さんの著書『眠っている間に体の中で何が起こっているか』より一部抜粋、
紹介します。
☆何歳でもニューロンは新生する
赤ちゃんの睡眠時間の半分は、レム睡眠です。
成長にしたがってレム睡眠は減少し、大人では全睡眠時間の20~25%で落ち着きます。
子どもの頃に、レム睡眠が多めに出現することから、
レム睡眠は、脳の成長に重要なのではないかと、漠然と考えられてきました。
大人になっても脳が成長し続ければいいのですが、
残念ながら脳の大きさのピークは、25歳頃です。
その後は、年齢とともに徐々に小さくなっていきます。
1日に失われるニューロンは、約10万個ともいわれます。
以前は、成人になったらニューロンが減っていく一方で、
新しくニューロンが生まれることはない、と考えられていました。
しかし現在では、大人になってもニューロンは、
新しく生まれてくる(神経新生)というデータも多く発表されています。
成人におけるニューロン新生は、海馬で生じます。
海馬は、記憶や学習機能をコントロールする、いわば「記憶の司令塔」のような存在で、
日常の出来事や学習して覚えた情報は、すべて海馬に送られ、一時的に保存されます。
この海馬でのニューロン新生に関わる興味深い現象が、
レム睡眠中に行われていることがわかりました。
海馬の情報伝達は、ニューロンの樹状突起(細胞体から出ている突起)から
飛び出す「樹状突起スパイン」という、棘(とげ)の形に似た部分で行われています。
情報のメッセンジャー的役割の樹状突起スパインは、
レム睡眠のときだけ形成されます。
そして、樹状突起スパインを除去したり、必要な樹状突起スパインだけ残したりする、
樹状突起を整理する機能も、レム睡眠中に行われていることがわかりました。
この樹状突起スパインが新しくつくられたり、
逆になくなったりするのは、脳の発達や記憶の整理強化にとって大切です。
レム睡眠が、この記憶の固定プロセスに重要であることは、
細胞レベルで明らかになったわけです。
睡眠不足は、脳のいろいろな部分に、さまざまなダメージをもたらします。たとえば、
・神経線維が密に通っている白質の広範囲にわたる(良くない)変化
・大脳皮質の広範囲にわたるニューロンの(よくない)変化
・脳室の拡大(=脳の萎縮)
など、ニューロンやグリア細胞を含めて、
睡眠不足は、脳の細胞には、ロクなことがないようです。
これらの研究は、脳MRIを研究者が多大なエネルギーを傾けて解析したものです。
MRI画像の解析なんて脳科学者にしかわからない、と思われるかもしれませんが、
もしかしたらわたしたち自身が、自分の脳の老化を可視化できるようになるかもしれません。
☆睡眠不足で脳は老化する
「新しいものを覚えられない」、「人の名前が出てこない」、
「とにかく話が長い」、「すぐにカッとしてしまう」
これらの特徴は、悲しいかな脳の老化現象の表れです。
脳神経系のダメージを身近に感じさせる脳の老化ですが、
人間の脳は一晩眠らないだけで、1~2歳老けることが、
新しい研究で明らかになりました。
チューリッヒ大学やハーバード大学など、欧米の合同研究チームは、
「brainageR」という機械学習アルゴリズムを用いて、
睡眠不足の人の脳MRIから「脳年齢」を推定し、
同じ人の一晩中眠ったあとの脳MRIと比較しました。
ちなみにbrainageRは公開されていて、
約4年先の脳年齢を、正確に予測できることが確かめられています。
結果は先述した通りで、一晩眠らなかった場合は、
ちゃんと睡眠をとったときと比べて、平均で1~2歳老けていると、
brainageRが推定しました。
幸いなことに、この老化現象は一晩眠ったらなくなりました。
この研究では、一晩の睡眠不足でしたが、
継続的な睡眠不足による脳年齢の変化も、
そのうちデータが発表されると思われます。
おそらく結果は、一晩よりももっと老化が進むことになると予測されます。
☆睡眠不足は「孤独」にも関係する?
これからの人間の健康には、単に平均寿命が長いだけではなく、
幸福感や満足度の高い生活、いわゆるウェルビーイングが、大きな課題です。
孤独や社会的孤立は、喫煙や運動不足、飲酒よりも、
死亡率やウェルビーイングに悪影響を及ぼします。
睡眠不足と孤独、社会的孤立の間には、双方向の関係があることが注目されています。
睡眠不足の人が、見知らぬ人が自分に向かって歩いてくる
ビデオクリップを見たときに脳スキャンをとると、
人間がパーソナルスペースを侵害されたと感じたときに
活性化する神経ネットワークが活性化し、強い拒否感が見られました。
それだけでなく、睡眠不足は、社会的関与を促す脳活動も
鈍らせてしまうという結果が出ました25。
睡眠不足になると、外見からも他人から敬遠されるようにもなります。
睡眠不足によって強まる社会的孤立傾向も、脳の老化を促進している可能性大です。
その意味で、脳を若々しく保っておくことは、非常に重要です。
そのためにも、その人に合った十分な睡眠時間の確保や、
あるいは睡眠時無呼吸症候群などの早期発見と治療などが、
より大切になってくると思います。
注)記事の原文に、あえて改行など多くした。
このようなことでも、恥ずかしながら私は無知だったが、
遅ればせながら学び、年金生活の今、幸運にも熟睡しているので、
良かった・・と微笑んだりしている。