蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

一夜限りの絢爛

2019年07月15日 | 季節の便り・花篇


 昨夜生まれたクマゼミが、庭の木立で姦しく鳴きたてる。「ワ~シ、ワシ、ワシ、ワシ♪」という空気の振動が肌に突き刺さる……夏到来を実感させる瞬間である。
 二日降り続いた雨がやみ、今日は梅雨の中休み。遅れに遅れて漸く本番になったというのに雨量は少なく、水不足の心配は消えない。今週が早くも終盤、来週にも明けそうな気配である。殴りつけるような酷暑が来る。

 プランターのスミレの群生に、ツマグロヒョウモンの訪れが頻りである。近付いても逃げようとせず、スミレの株の根っこに潜り込んで尻尾を曲げて新芽に卵を産む。大きく育った葉でなく、これから伸びようとする新芽を選ぶ智慧に感動する。鳥糞状の幼虫が孵化する頃、柔らかく育った若い葉を食べさせようという巧みな母性本能を、こんな小さな虫が持っていることは、大自然の摂理の驚異である。
 「おいおい、そんなに卵を産んでも、このスミレの量では2~3匹しか引き受けられないよ!」
 毎年の悩みである。春、庭中のスミレをプランターに集めた。それでも足りることはない。いずれ数匹を間引きして、観世音寺裏の野性のスミレ畑に移すことは既に想定済みだった。

 今年は異常にセミの誕生が遅く、少ない。今日の時点で、一昨年は49匹、昨年は33匹、それに対し、今年はまだ9匹に留まっている。天候に左右されているのだろう。昨年のピークには、一夜で13匹が羽化したこともあった。昨年のピークは11匹、いずれもここ3日ほどが最盛期だった。

 博多祇園山笠フィナーレの追い山が終わった。15日4時59分、薄明の中を一番山・千代流れから、「舁き山笠(かきやま)」が櫛田神社から博多の街を駆け抜ける。何故、こんな中途半端な時間に一番山が走るのか?……それは、櫛田入りを果たした一番山は「祝いめでた(博多祝い唄)」を唄う。その時間を見て、櫛田神社から舁き始める時間が丁度5時になるように設定されているという。
 「オイサ、オイサ!」の掛け声に、勢い水(きおいみず)の飛沫が被る……博多の街に夏を呼び込む、勇壮な夏祭のフィナーレだった。

 その前々夜、4輪の月下美人が華麗に咲いた。(最近、「かれい」と入力して転換すると、「加齢」が先に出る。パソコンも、ちゃんと使う人物を認識しているのだろう。呵呵)
 我が家から嫁に行った2軒からも、「今、咲き始めました!」とメールが届く。元々は台湾から長崎に上陸した数株が全国に広がっていったものであり、謂わばクローンである。全国ほぼ同じ夜に、一斉に豪華絢爛な花を開く。8時頃から蕾が綻び始め、5分咲きになった頃に、一斉に甘い香りを放ち始める。馥郁とした熱帯性の香りは、窓を開けないと息詰まるほど濃厚である。それからおよそ1時間、10時過ぎる頃に満開となる。
 その華麗さ故に、一夜限りの儚い花である。朝には嘘みたいに萎んで、うな垂れてしまう。あとには、早くも次の蕾が7輪も育ち始めていた。ひと夏を越え、秋風が立つ10月頃まで、何度か夢のような夜を演出してくれるのだ。

 黄昏を待って、夕顔1号が咲き、フウセンカズラ1号が緑色の小さな袋を提げた。オキナワスズメウリも葉数を増やし、そろそろ蔓を伸ばし始めるだろう。
 我が家の庭も、俄かに夏に向けて走り出したようだ。
                  (2019年7月:写真:月下美人の華麗)