蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

withコロナという幻想

2020年12月14日 | つれづれに


 国民に納得できる説明もなく、中途半端で、ちぐはぐで、遅きに失する対策がうろうろしている間に、第3次感染拡大が年の瀬を追い詰めている。総理も、都道府県知事も、何が足を引き摺っているのか、GoToキャンペーンの足を止めようとしない。
 感染防止と経済活動との両立を「withコロナ」という言葉遊びで包み込んで継続しようとしているが、裏付けの対策もなく叫び続けた「勝負の3週間」も空しい言葉遊びに終わり、予想通りコロナを抑え込むことは出来なかった。
 ある学者が、「withコロナなど、あり得ない!」と言い切っていた。同感である。そんな中途半端な政策で潰すことが出来る程、ヤワなウのイルスではない。
 ネットにあった。「ガースー」などと、馬鹿な自己紹介で笑いを取ろうとしたスガが、ムック本(雑誌のような作りをした単行本)、「菅義偉の人生相談大」を出したという。人力について日々研究するコラムニスト・石原壮一郎氏が皮肉たっぷりに叩いていた。いくつか引用させてもらう。

……もしも今「日本でもっとも悩みを相談したくない人は誰か?」というアンケート取ったら、かなり高い確率で、この方がトップになるのではないでしょうか。菅義偉首相、72歳。今年9月に総理大臣に就任して以来、コロナ禍に苦しむ日本国民に、失望感やもどかしさやイライラを頻繁に振りまいています。

……現状では菅首相と国民とのあいだで、十分なコミュニケーションが取れているとは言えません。政府の人たちは「お答えを差し控える」がすっかり口癖になり、平気でコミュニケーションを遮断するようになりました。説明の必要性はわかっているようなので、きっと事態は改善していくはず。改善しないとしたら、それは説明できない理由があるか、説明する能力がないかのどちらかです。

……愛読書だというマキャベリの『君主論』から、「恐れられるよりも愛されるほうがよいか、それとも逆か。……二つのうちの一つを手放さねばならないときには、愛されるよりも恐れられていたほうがはるかに安全である」という言葉を引用しています。
 合点がいきました。菅首相がこんなに無愛想で、不思議なぐらい見ているものの神経を逆なでするもの言いをするのは、自分が嫌われ役になって、バラバラになっている国民の心をひとつにまとめようとしているんですね。なんという深慮遠謀。そういうことなら遠慮はいりません。敬意を表しつつ、正直な感情を抱かせてもらいましょう。

 私の右手の薬指に、「コロナ除けリング」が輝いている。アマビエより効能が大きいと信じて(何かを信じるしかないから)、毎日嵌めている。
 15年前、 前年に三菱重工長崎造船所で建造され、就航したばかりのピカピカのクルーズ船で、10日間のアラスカクルーズを楽しんだ。まだクルーズが「贅沢」「リッチ」「ステイタス」などと言われていた時代で、11万6千トンのこの船は。当時としては最大クラスのクルーズ船だった。乗客は3500人(今は改装されて2700人)のうち、日本人は僅か35人しかいなくて、裕福な欧米の白人が殆どだった。タキシードとイブニングドレスが眩しいフォーマルナイトのディナーは、本当に別世界の贅沢だった。
 かつて脱日常を楽しむための憧れだったクルーズも、今ではアジア系の格安クルーズ船が蔓延り、ビジネスホテル並みの「買い物船」に堕してしまった。

 私たちが、生涯最高の経験をしたクルーズシップ、その名をダイヤモンド・プリンセス(Diamond Princess)という。そう、横浜港でコロナのクラスターが発生し、不本意にも一躍有名になった船である。客室の7割がオーシャンビューであり、私たちは少し贅沢をしてバルコニー付き船室でアラスカ沿岸を旅した。
 環境規制の厳しいアラスカ湾でも運航するために、ガスタービン発電機も設置し、また最新鋭の排水処理システムも採用していた。
 2014年には、日本市場向けに大規模改修を行い、展望浴場や寿司バーなどが新設され、近年の運行スケジュールは、日本人向けの日本発着のクルーズを担当している。

 実は、現在「ダイヤモンド・プリンセス」と呼ばれている船体は、もともとは「サファイア・プリンセス」という名で建造開始されたものだった。しかし、当時「ダイヤモンド・プリンセス」と呼ばれていた船体が造船所内で火災事故を起こしてしまい、修復作業や作業再開に日数がかかりすぎ納期が大幅に遅れ、運航会社にとって支障が出るため、仕方なく姉妹船で無事に建造中だった「サファイア・プリンセス」と呼んでいた船体の方を「ダイヤモンド・プリンセス」という名前に変更し、火災事故が起きた船体の名称を「サファイア・プリンセス」へと変更した、という経緯がある。曰く付きの船なのである。

 外国船籍の船にはカジノがあり、キャッシュ化が許されている。一夜、スロットマシンを楽しんだ。ラスベガスみたいに、一攫千金を賭けるわけではなく、あくまでも旅の楽しみだから、ジャックポットは期待出来ないにしても、そこそこ勝たせてくれる。
 少し豊かになった懐で、船内の売店に寄って記念の指輪と、リバーシブルの暖かいパーカーを買った。

 この冬、何の根拠もないのだが、自分で「コロナ除け」と決めてこの指輪を嵌め、パーカーの黄色い面を表に出して、早暁のウォーキングに出ている。
 今朝は、木枯らしの先駆けの冷たい風が吹いていた。石穴稲荷のお狐様に手を合わせて、一日の平穏とコロナ退散を祈った。
 万丈の波乱を孕んで、令和2年があと2週間ほどで終わろうとしていた。なかったことにしたい1年だった。
                       (2020年12月:写真:コロナ除けリング)