蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

無念無想

2021年06月22日 | つれづれに

 霜枯れから守るために、冬の間広縁に避難させていた月下美人を、春から初夏の間はしっかりと日差しを浴びさせる。そして苛烈な油照りの真夏は、日焼けを防止するために、梅の木の下の半日蔭に置く。
 待っていたように、今年もアマガエルが葉の上に鎮座した。このところ、毎年のように現れて、月下美人の葉の上で雨を待っている。指で触れても煩わしそうに半眼をわずかに開くだけで、再び瞑想に入る。

 嫌な日々が重なっていく。一喜一憂ならまだしも、一怒一憤にも疲れてきた。泰然自若・我関せずのアマガエルの姿勢が、心底羨ましいと思う。
 早すぎた梅雨の動きが読めない。平年なら明けるはずの沖縄に、梅雨前線が傲慢に居座り、北部九州は真夏の先取りが続いている。昨日の最高気温は33.4度!アマガエルもしんどかろう。
 かつて、沖縄・慶良間諸島の座間味島にダイビングに行くのは、このタイミングだった。本土は梅雨真っ盛りで、旅行気分も盛り上がらず、7月に入れば大学生が夏休みで動き始める。梅雨明けとともに入道雲が沸き立つ6月20日から月末までの10日間が、エメラルドグリーンの海を独占できるベストシーズンだった。もう一度最後に、と思っていたが、コロナが妨げた。訪れること自体が、島の人たちに迷惑をかけることになる。もう、あの海で海亀と戯れることもないだろう。悔しく、寂しく、アマガエルの心境には及ぶべくもない。

 やっぱり!という結論だった。観客を入れてオリンピックをやるという。すべて、見え見えの結果である。50%以内で最大1万人という。×会場数×試合日数という計算が、奴らには出来ない。しかも、他府県からからの観客もOKという。矛盾だらけの政治(利権)決定に、もう勝手にしやがれという気分である。
 しかも、大口スポンサーが専売権を持つビールの販売を認めるらしいという噂まである。こんな会社のビールはもう飲まない。馬鹿な大臣が何をほざく!!

 西日本新聞特別論説委員井上裕之氏の「風向計」というコラムに、すべて言い尽くされていた。『「3密」と「3無」の病理』という文章から、一部引用する。
 ――無原則、無思想、無責任――かつての指導者の病根が「3無主義」にあるという。コロナと向き合う長期戦略の要諦は「3密」(密閉、密集、密接)の回避と、永田町に巣くう「3無」の排除。こう整理するとすっきりする。――

 ここで指摘されている「かつての指導者」とは、太平洋戦争を推し進めた軍事指導者のことである。
 ――日本の軍事指導者に、長期戦略はなかった。兵たんや補給を軽んじ、作戦一辺倒。最後まで小状況にこだわって大状況を見ず、国民の命を軽視して戦争に敗れた。この病理を忘れてはならない。――
 ――東京五輪の「開催ありき」で突き進む菅義偉政権の姿を太平洋戦争に重ねた考察だ。人類とコロナウイルスはいわば戦争状態にある。それに打ち勝って五輪を開催するにはウイルスを封じ込める確たる戦略が必要なのに、それがない、というわけだ。――

 背筋が寒くなるような一文だった。とんでもないしっぺ返しがあるような気がする。「五者協議」の正式決定というが「愚者協議」の間違いだろう。愚者を何人集めても、愚かな結論しか出ない。そして、最後に命を奪われるのは彼らではない。いつの世でも、振り回される無辜の国民なのだ。
 とても、アマガエルのように無念無想でいるわけにはいかない。

 明日は、沖縄「慰霊の日」――
                      (2021年6月:写真:雨蛙の瞑想)