「ピチン!」と弾ける音が微かに聞こえそうなほど、ピンクが跳ねる、白が揺らぐ。直径7ミリほどの小さな花が輪状に開き、まるで秋の花火のようだった。
たった今まで、眩しいほどに差し込んでいた日差しで、部屋の中は春のように温かい。ガスストーブ、ホットカーペット、加湿器……我が家の冬の「三種の神器」も、もう整えた。身体以外は、冬への準備万端である。後期高齢者講習修了証明書も手にした。
スッと陰った日差しに、俄かに吹き始めた風が冷たくなる。今日の最高気温は午前中に出て、午後から次第に寒くなるとテレビが報じていた。「木枯らしのはしり」だと。霜月、もう木枯らしが悪戯小僧のように庭木立の影を奔り抜けてもおかしくない時節である。
神無月師走の先週土曜日、8ヶ月半振りでJRに乗り、快速で15分の博多駅に出た。マスクで武装し、吊り革など車内のどこにも触れないように気を使いながら、空いていた席に座った。昼下がりのせいか、それほどの混雑ではない。しかし、博多駅構内は想像以上の混雑だった。稀に、マスクなしの非常識な若者の姿も見える。人混みに流されながら早々に横断歩道を渡り、目的の建物に入った。
久し振りの人混みは、何となく緊張感に包まれ、すっかり疲れてしまった。コロナに倦み、コロナに疲れ、いつの間にかコロナに毒されてもいる。
そんな中に、嫌いな冬がやって来る。コロナを伴い、インフルエンザを連れて。1兆数千億円を掛けたアメリカ大統領選挙が終わる。醜い罵詈雑言を交し合う選挙運動の中で感染に歯止めがかからず、ヨーロッパでも危機的状況が再来しつつある。
そのアメリカの次女から「GoToキャンペーンなんて、日本は何てバカなことやってるの!」と呆れ果てたようなメールが届く。「アメリカに、何にも学んでないの?」
確かに、今後爆発的感染拡大があるとすれば、その元凶はGoToキャンペーンということになるだろう。
厳戒地区のカリフォルニアに住み、さらに史上最悪の山火事の煙と灰に悩まされながら、ひたすら自粛している次女だが、PCR検査は近くの薬局でいつでも無料で受けられる環境にある。進化しない日本の検査体制も、彼女には「信じられない事態」なのだろう。
先日、掛かり付けのホームドクターに、インフルエンザの予防接種を受けながら訊いた。「政府は、掛かり付けの医療機関でPCR検査が出来るようにすると言ってるけど、先生の所もOK?」
答えは「NO!」だった。「院内感染を防ぐ為の万全の体制なんて、一般の病院で出来るわけないよ!」
いつものことながら、政治家の目と実態には、これほどの大きな開きがある。総理が変わっても全く変わらない中途半端な政策に踊らされながら、厳しい冬がやってくる。
娘たちにも、もう1年会ってない。アメリカの次女は勿論当分絶望的だが、横浜の長女に「そろそろ、老親の生存確認に来ないか?」と謎を掛けたら、こっ酷く拒否された。「ここまで用心して自粛してるいのに、関東から行って親に感染させたらどうするの!わたしは、親殺しにはなりたくない!!」
そう啖呵を切った長女が、実は帰ってくることになった。完全武装で1時間半かけて横浜から八王子まで働きに通っている娘である。感染防止するすべは知り尽くしている。「十分用心して帰るから、大丈夫だよ!」と、やはり、老いた両親のことは気に掛かっていたのだろう……これが、娘心。
会える時に会っておかないと、これ以上感染が拡大して再び緊急事態宣言が出るような事態になったら、もういつ会えるかわからない。こちらも、さらに用心しながら迎えることにした。
河豚コースを食わせ、温泉にでも連れて行ってやろう……これは、親心。
45年前に仕事を共にした沖縄の仲間から、思いがけないコメントが届いた。皆に羨まれながら娶った可愛い奥様も同じ仕事仲間だった。半世紀近い歳月が、一気に折り畳まれて懐かしかった。
13年間、旅を共にした一眼レフが壊れた。「この年で新調して、あと何年使える?」と散々迷った挙句、回りからの勧めと励ましもあって「アベの10万円」を使って買い替えた。私の最後の道楽である。「アベの10万円」は、財源としてはもう使ってしまっているが、口実としてはまだ何度も使える(呵々)
小型軽量を求めて、初めてミラーレスの一眼レフにした。標準レンズと200ミリの望遠レンズがセットされて、ほぼ「アべの10万円」で賄えた。しかも、1万円ほどのマウントを買い足すと、今まで使っていたカメラの標準ズーム、60ミリのマクロレンズ、300ミリの望遠レンズも使えるようになった。
マクロレンズに接写レンズを噛ませて、初めてファインダーに捉えたのが、開き始めたイトラッキョウだった。白とピンクの花が、弾けるように輪状に開き、まるで花火のように鉢の中で輝いていた。
3鉢に増やした1鉢を友人に贈り、「形見分けの先渡し!」とふざけながら、近づく冬の足音を遠くに聴いていた。
(2020年11月:写真:ピンクのイトラッキョウ)
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