蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

沖縄旅情(その1) 避暑地?沖縄

2016年08月14日 | 季節の便り・旅篇

 星空の天球、その中天を滔滔と流れる天の川……沖縄では、天河原(てぃんがーら)という。水平線から水平線まで半球を描いて、のし掛かるように落ちてくる星の煌めきは圧巻だった。おびただしい星屑に呑みこまれて、星座を見付けることさえ難しいほどだった。
 8年ぶりに訪れた慶良間諸島・座間味島、国立公園に指定されて2年、蘇る珊瑚に密かに期待しながらやって来たダイビングだった。朝一番の高速船「クイーン座間味」に乗って50分、エメラルドグリーンの眩しい海が待っていた。
 午後、5年ぶりのダイビングに備え、阿真ビーチのシュノーケリングで身体を慣らした夜、早速友人のIさんご夫妻から「ゆんたく」のお誘いが来た。庭のテーブルで、ご近所さんや友人たちが思い思いに寄って、泡盛を呑みながら談笑する……沖縄特有のふれあいの時間である。
 夢にまで見た、満天の星空がそこにあった。

 1年半ぶりに帰国した次女と3人で楽しみに待っていた旅だった。4か月前から手配を始め、1か月前に高速船チケットを予約して整った旅が、出発の前日、思いがけないドクターストップがかかって家内が入院するハプニングが起こり、やむなく娘との二人旅となった。

 10時5分、福岡空港を発った。連日37度という猛暑の太宰府、30度の沖縄が避暑地に思えるほどの異常な夏だった。空港に予約待機させていた観光タクシーで北に向かった。
 高速に乗って名護に走り、新山(しんざん)食堂で遅い「そーきそば」のお昼を摂り、本部(もとぶ)半島に入って、時計回りに瀬底ビーチ、渡久地港、今帰仁の赤墓ビーチ、古宇利島大橋を渡ってハートロックと走り廻った。JALのCMで人気アイドルグループ「嵐」が紹介したことから、俄かに人気スポットになった古宇利島ハートロック、波に削られた二つの岩が、ある角度から見るとハートに見える。
 折り悪しく干潮時の為に、歩いて渡れるのが仇となった。相変わらずほかの観光客に眼もくれず岩に渡り、我が物顔で傍若無人に振る舞うアジア系観光客がカメラの邪魔をする。強い日差しに顰めた眉が、一層険しくなるのを意識しながらイラついていた。

 西日を浴びて、20時近くに那覇に走り戻った。汗に濡れた身体を洗うのも後にして、行きつけの海鮮と沖縄料理の店「G丸」で、オリオンビールと泡盛で沖縄料理をと期待していたのに……8年前の繁盛が嘘のように寂れ果て、板場一人と日本語が殆ど通じない店員が一人、客も一組だけの無残な状況だった。注文が通らず、違う品が運ばれてくる。さすがに辛抱しかねて、ビール代も取らないというのを無理やり支払い、料理をキャンセルして店を出た。

 幸い、娘が探した久茂地の「抱瓶」が、120%の満足を与えてくれた。「だちびん」と読む、沖縄古来の陶器製の腰に着ける携帯用の酒瓶のことである。腰の曲線に合わせた三日月形が、泡盛を野や畑に提げていくには格好の形状である。若いころ、山歩きに持ち歩いていた水筒が、やはり腰の曲線に合わせてあったことを思い出しながら、この店の沖縄料理ともてなしに疲れが消えて行った。
 アルバイトのベトナム女子留学生が、2階席を見事な目配りで取り仕切り、客の注文を捌いていた。「アリガト、ゴザイマ~ス」というたどたどしい言葉が、何とも心地よかった。「海ぶどう(海藻)」、「島らっきょう」、「じーまみー豆腐(ピーナッツ豆腐)」、「山羊の刺身」……懐かしい沖縄料理に舌つづみをうち、最後に「ひらやちー」(沖縄風お好み焼き)でおなかを満たして、泊港近くのホテルに戻った。
 座間味ダイビング、助走の夜が更けて行った。強行軍の一日の疲れで、シャワーを浴びたらストンと眠りに落ちた。
                      (2016年8月:写真:抱瓶)

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