のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

幸福な食卓/瀬尾まいこ

2007年09月14日 00時38分18秒 | 読書歴
■幸福な食卓/瀬尾まいこ

■ストーリ
 「父さんは今日で父さんをやめようと思う」
 ある朝、父親が食卓でこう宣言する。少しおかしい家族(父さんを
 やめた父さん、家出中なのに料理を持ち寄りにくる母さん、
 元天才児の兄・直ちゃん)、そして佐和子のボーイフレンド、
 兄のガールフレンドを中心に、あたたかくて懐かしくてちょっと笑えて
 少し泣ける、「優しすぎる」物語。
 中学から高校にかけて成長していく佐和子を追った
 4編の連作連作短編集。

■感想 ☆☆☆☆
 それぞれの役割をほんの少しずつ放棄している佐和子の家族は
 少し変だけれど、互いに互いを思いやりあっていて十分に暖かい。
 お互いを思いあっているのには、原因があって
 その原因に家族の誰もが痛みを感じている。
 痛みを感じているにも関わらず、いや、痛みを感じているからこそ
 お互いにその傷口に触れることができず、
 ただ思いやりあうしかない様子は、十分痛々しいのだけれど
 やはりそこには暖かさを感じあうことができて
 安心して読み進めることができた。
 但し、安定した何かの上ではなく、どこかバランスが
 おかしいものの上に成り立っている家庭には
 表現しにくいゆがみが存在していて、
 そのゆがみが物語に継続して小さな小さな不協和音を与え続ける。

 そんな小さな不協和音がかすかに聞こえる家庭の中で、
 佐和子は家族からたっぷりの愛情を与えられて健やかに成長していく。
 学生の佐和子にとって、日常生活の多くの割合をとられるのは
 学校や塾で、そこでの問題のほうが大きい。
 家族と関係なく学校や塾で起きる嫌なこと、辛いこと、不安なことを
 家族と共有し、それらの出来事によって少しずつ強くまっすぐ育つ佐和子。
 そして、佐和子によって、父親、母親、兄も少しずつ変わっていく。

 物語全体に希望の光が差し込んできた矢先に
 佐和子に信じられないような出来事が起こる。
 その唐突さと哀しさ、やるせなさに涙腺が刺激され
 外出先で読んでいたにも関わらず、大号泣してしまった。