のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

椿山課長の七日間/浅田次郎

2007年10月27日 20時31分02秒 | 読書歴
■椿山課長の七日間/浅田次郎
■ストーリ
 働き盛りの46歳で突然死した椿山和昭は、家族に別れを
 告げるために、美女の肉体を借りて七日間だけ現世に舞い戻った。
 親子の絆、捧げ尽くす無償の愛、人と人との縁など、「死後の
 世界」を涙と笑いで描いて、朝日新聞夕刊連載中から大反響を
 呼んだ作品。

■感想 ☆☆☆☆*
 さくさく読める軽いエンターテイメント作品だなと思いながら
 楽しんで読んでいた。話の展開に惹き付けられ、合間合間に
 登場人物たちがつぶやく言葉に深く頷きながら読んでいたところ
 最後の最後にやられた。感動してしまった。心が揺さぶられた。

 タイトルは「椿山課長の七日間」だが、彼だけが主人公ではない。
 彼と同じ日に殺し屋に人間違いで殺されてしまったヤクザの親分、
 武田と、たった7歳で交通事故にあってしまった男の子、蓮。
 彼らはそれぞれ、現世に戻り、心残りをなくすために行動するうちに
 お互いの行動範囲が重なり始める。
 特に蓮と深く関わりあうことになる椿山課長の父親の言葉には
 重みがあり、人間的魅力にあふれている。
 何より、彼は言葉だけではなく、自分の生き様で、行動で
 私達に「生きること」「悔いなく過ごすこと」を教えてくれる。
 彼が最後に啖呵を切る場面に胸も目頭も熱くなった。

 そこかしこに出てくる登場人物たちの単純で深遠な言葉の数々にも
 心を揺さぶられる。文庫本を購入して、読み返したい本の一冊だ。

  ・子どもを大切にするというのは、猫や犬みたいに可愛がることじゃ
   あるまい。未来を大切にすることだよ。だからいたずらに子ども
   扱いしてはいけないんだ。このごろでは親たちに子どもと猫の
   区別がつかなくなったね。おかげで生意気な子やおませな子が
   いなくなった。若者たちまでがみんな子どものように幼い。
  ・「もし死なずに大人になれたら、ぼくら二人で世の中を
    変えられただろうな。きっと、すばらしい日本を作ったよ。」
   (略)
   「むずかしいよ、そんなの。」
   「かんたんさ。ウソをつかなけりゃいいんだから。」
  ・役所というものは、住民を管理するための機関ではないのだよ。
   (略)そうではなくって、よりよい生活の便宜をはかることが
   役所のつとめなのだよ。
  ・貴様らも役人ならば、弱き者は救え。
   法を曲げても正義を掲げる勇気を持て!
  ・規則と礼儀は似たもの同士の大違いで、ともに守ることは
   あんがい難しい。

ライオンハート/恩田陸

2007年10月27日 19時46分06秒 | 読書歴
■ライオンハート/恩田陸
■ストーリ
 離れた瞬間から会う瞬間を待ち続けている。生まれる前も、
 死んだあとも。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、
 20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、
 いくつもの時代を必死に生き、細胞に刻まれた想いを頼りに、
 束の間出会い別れていく男と女。求め合う二人の感情を描く連作集。

■感想 ☆☆☆
 「メロドラマを書きたいと思っていた。メロドラマと言えば
  すれ違いであるが、きょうびすれ違いをやるのは難しく、成立する
  のはSFしかないと思っていた。」
 後書きの恩田さんの言葉だ。

 今の時代では、こんなに男女がすれ違うことも、こんなにも男女が
 お互いを恋焦がれることはないだろう。少なくとも、私にはない。
 私の人生には、こういう運命的な出会いも別れもない。そもそも
 そういったものを求めていない。私の求めるものは劇的な出会いでも
 強い愛情でもなく、穏やかな思いやりの日々だから。お互いが正面から
 向き合い、ぶつかりあって関係を築きあうような関係ではなく、隣に
 座り、同じ夕日を見て同じときを過ごすような関係に憧れているから。

 だから、エドワードとエリザベスの運命にはちっとも羨ましさを感じない。
 絶対に幸せになれない出会いや叶わない想いならば、
 初めからない方がいい。しかし、それでもふたりは出逢うたびに
 一瞬で恋に落ち、お互いを愛して、そして別れの痛みを味わいつつも
 笑顔で言うのだ。
 「幸せだ。こんなに幸せだったことはない。」
 「こんなに幸せだったことってないくらいなの。」
 「あなたにあった瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ。」
 命をかけられる想い、出会いに圧倒される。

 そして、ふたりがこういった運命のいたずらに翻弄されるようになった
 始まりのキーワードを持つ女王エリザベス。彼女自身は、歴史に
 翻弄されたために人を信じることができずにいる。だからこそ、
 求めるものが「完璧な魂の結合」だということにも、そんなものが
 この世界ではありえないことにも納得できた。人間の愛情は出会い、
 別れるからこそ、「離れているからこそ純粋でいられる」のだ。
 人間の魂の結合が持つ輝きは、ほんの一瞬だ。
 エリザベスはそういったことを幼い頃からの経験で学んだ。だから
 愛した人がいずれ変わることもお互いが築く暖かい関係がなくなって
 しまうことも怖かったのだろう。なくならない、変わらないと
 信じられるような経験をしたことがない孤独な女王。

 けれど、恩田さんは最後の最後に暖かい結末を用意してくれている。
 時間軸を追うことに躍起になったり、ちょっとした部分に矛盾を
 感じたりすることもあるが、この暖かい希望にほっとした気持ちで
 本を閉じることができた。