太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

同姓同名

2013-11-11 19:23:43 | 人生で出会った人々
「えーと  本を売りたいんですけど」

その男性は、手提げ荷物を3つ抱えて立っていた。

規定の用紙に名前を書いていただく。

5分ほどかかります、と言うと、じゃあまた戻ってきますとおっしゃって立ち去った。


何気なく名前を見ると



HARUKI MURAKAMI



と整ったローマ字で書いてある。

日本人の同僚のMさんに見せる。


「見て見て、同姓同名!」

「あっほんとだ!いるんだねえ、同姓同名が。どんな人だった?」

「うーん、普通のおじさんだったよ」

「有名人と同じ名前だと、いろんなところで言われるだろうね」

「うんうん、おっ、おまえ作家と同じ名前じゃん、ってね」

「めんどうだねー」

「名前のことでは苦労しているだろうから、私たちは気づかないふりをしてあげよう」

「それがいい、それがいい」



その方が持ってきた本の中に、村上春樹の本はなかった。


同姓同名だから意識して読まないのかもしれない。



そうこうしている間に、Mさんの帰宅時間になってしまった。

同姓同名氏の顔を見てから帰りたい、と言っていたが、子供を迎えに行く時間が迫ってきて、渋々帰った。



同姓同名氏が戻ってみえて、お金を払い、氏が帰っていった。


そのあと、ふと気になって、インターネットで村上春樹氏を検索してみた。






そこには、今さっき、店先に立っていた同姓同名氏が写っていた・・・・・・





ほ・・・・・本物だった。


そりゃ、自分の本を売らないよな・・・・・・





芸能人が来たとしても、それほどには興奮しないかもしれない。

子供の頃ファンだった、秀樹が来たらわかんないけど。

しかし作家とか芸術家は別だ。

その作家の作品が好きかどうかにかかわらず、

私はとても尊敬してしまう。



私の記憶にある村上氏の顔は、ずっと若いときのままで、しかもその記憶もいい加減なものだ。

アメリカの小説本は、なぜだか作家の顔写真が裏表紙一杯に載せられているものが多く、

本のタイトルよりも作家名のほうが大きく印刷されているのに比べて、

日本の本も作家も、大変控えめだ。

写真があったとしても、白黒で2センチ四方程度の大きさ。

これじゃあ本人に会っても、わからなくてもしかたがあるまい。





この感動を誰かと分かち合いたいが、唯一日本生まれの日本人のMさんが帰ってしまい、あとは地元の同僚ばかり。

かろうじて、ハワイ生まれの日本人同僚とだけ分かち合う。



5時に仕事が終わり、すぐにMさんに電話をかけた。

「本物だったよ!」

「なにが?」

「HARUKI MURAKAMI氏は本物だったんだってば」

「ぅえーーーーーーッ!なんでわかったの」

「ネットで調べたら、同じ顔だった」

「サインもらったでしょね」

「その人が帰ってから調べたんだもん」

「なんだぁーー!そんなことなら、子供の迎えなんか放っておいて待っていればよかったー!」



びっくりした。

私があんまりミーハーで。




村上春樹氏は本も売れまくって、有名で、ものすごいお金持ちだろうに、

読んだ本を売ってくれるなんて、なんて庶民的なんだろう。

ウクレレ奏者の ジェイク・シマブクロ が、スズキのバンに乗っているのをみて

50%ぐらい好感度がUPしたのに似ている。

(きっとそれは見せ掛け営業用の車で、実はばんばんポルシェとかに乗っているんじゃないの、と言った友人は
根性が曲がりきっているに違いない)



村上氏がまた来たら、どうしたらいいだろう。

有名人の気持ちはわからないが、プライベートな場面でサインを求められるのはうっとうしいかもしれない。

作家の村上春樹さんですよね?と、わかりきったことを聞くのも馬鹿みたいだし、

本、読んでますよ。なんて、まるで友達に「ブログ読んでるよ」というみたいで気が引けるし、

村上氏はすごい作家だと思うけれど、個人的には得意な本ではなくて

数えるほどしか読んでいないのだから、「読んでますよ」というのは嘘くさい。



今日のように、気づかないふりをして(実際に同姓同名氏だと思っていたのだけど)

なにごともなかったようにするのがいいのか、

気づいていることをさりげなく伝えたほうがいいのか、

サインを求めてしまったほうが普通っぽくていいのか・・


また来てほしい、またお会いしたい、と思うものの、

どういう態度をとればいいのか悩ましく、今からドキドキしているのである。










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怖い話が好きな怖い人

2013-11-11 07:23:00 | 人生で出会った人々
「日本の怖い話のDVDはありますか・・・」

職場の本屋に、地元の男性がやってきて、そう言った。

肌は浅黒く、もっさりとした長髪で、くぐもったようなでゆっくりと話す、

少し不思議な雰囲気だ。

日本のDVDコーナーを案内して、怖い話を探してみる。


「KWAIDAN(怪談)」というDVDを見つけた。


「これは日本の怖い話です」

すると男性は



「それ、実話ー?・・・・」


と聞く。


そこでハタと考える。実話、ではないかもしれない。

お皿を数えるやつは実話だと聞いたけれど、そのほかのものは違うかも。


私が探していると、男性が、『HOUICHI(耳なし芳一)」を手に取った。


「これ、実話ー?・・・・」


「違います」


私が手にとったもの、自分で手にとったものすべてについて



「これ、実話ー?・・・・」


その人自身の存在がが怪談のようで、ぞわぞわと怖くなってくる

どうしてそこまで『実話』にこだわるのか。


結局、彼がほしい実話の怖い話はなかった。


「また、来るーー・・・・・・」


その人はスーっとすべるように店を出て行った。

どうかもう来ませんように。






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