太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

家族のヒミツ

2019-06-08 19:28:33 | 日記
昨年になるが、夫の両親がふるさとのインディアナ州に、姪の結婚式に
出かけたときのことだ。
1番の目的は結婚式だが、もうひとつ目的があった。
それは、シュートメ姉妹が、初めて腹違いの弟に会うというものだ。
家族のルーツを調べていた、2番目の叔母が、
ひょんなことから、父親に隠し子がいることをつきとめた。
彼らの両親は、ともに50代後半で亡くなっているから、半世紀もたっている。

その義理の弟は、インディアナ郊外に住んでいて、
写真を見ると、優しそうな中年のおじさんだった。
「姉妹ばかりだったから、男のきょうだいが欲しかったのよ」
「お父さんは真面目な消防士だと思ってたけどねえ」
叔母たちは、義理の弟と楽しく過ごしたらしい。
義理の弟の母親も他界しており、今となってはどんなことが起きていたのか
知りようもないが、もうどうでもいいことだろう。


私の親戚のおじさんが亡くなったあと、
おじさんに隠し子がいたことがわかった。
おじさん夫婦には子供がおらず、おばさんの兄の子供を養子にして育てた。
おじさん夫婦は、私達と1番近しくしていた従兄弟の家の裏に住んでいたから
子供の頃はよく遊びに行った。
葬儀のあと、隠し子とその母親が線香をあげに来たらしいのだけれど
その瞬間まで彼らの存在を知らなかったおばさんは取り乱し、
けして家にはあげなかったと聞く。
半世紀近く夫婦をしてきて、最後の最後に裏切られた気持ちがしたのだろう。
本当の子供を持てなかったのだから、悔しさはなおさらのことかもしれない。
「それにしても、あのおじさんがねぇ」
私は姉と何度もそう言って、顔を見合わせた。
加藤剛さんや、津川雅彦さん、三国連太郎さんに隠し子ならわかる。
しかし、おじさんはチビで薄毛で、田舎の役場の窓口にぴったりの風体で、
隠し子などとは最も遠いところにいるような人なのだ。
けれども、考えようによっては、そういう人だからこそ、
妙に生々しいのかもしれなかった。

ずいぶん前に、新聞の記事で、夫を亡くした人の投稿を読んだことがある。
その人の夫はとてもその人を大事にしてくれて、申し分のない夫だったそうだ。
ところが、亡くなったあとで遺品の整理をしていたら、
知らない女性と一緒に映した写真が何枚も出てきた。
年齢の変化を見ると、十年以上にわたっているようにみえる。
年に何度か、仕事で出張に行くことがあったから、
そのときに会っていたのかもしれない。
それを見つけた時、その人は、嫉妬よりなにより、その写真に写っている女性は
夫の死を知らないだろうから
なんとかして知らせてあげなければと思った、という。
隠れて浮気をしていたことをなじるには、夫はあまりにも完璧な夫だった、
とその人は書いている。

それを読んだとき、単によくできた奥さんだなあと感心したが、
あれから10年あまりがたち、今の私は別の思いがある。
その人は、煮えたぎる嫉妬を乗り越えて、
こうありたい自分を必死に演じているのではないか。
死んだ夫を責め、相手の女性を呪ったら、これまでの幸せな結婚生活が
すべて無為になってしまうと恐れたのかもしれない。
相手はもう死んでしまっているのだから、自分がみじめにならない方法を
その人なりに見つけようとしていたのかもしれない。


家族には、多かれ少なかれ、ヒミツがあるものである。