神聖天皇主権大日本帝国軍隊の性奴隷とされた、現在「ナヌムの家」で暮らす韓国人女性ら12人が安倍自公日本政府に対して、一人当たり1億㌆の慰謝料を求めた訴訟の判決が2021年1月8日、ソウル中央地方法院(地裁)で言い渡された。日本軍性奴隷問題で日本政府を相手取った損害賠償請求訴訟で、韓国の司法が判断を示すのは初めてである。
元日本軍性奴隷は2013年に地裁に民事調停を申し立てたが、安倍自公政権が応じなかったため、16年に提訴した。安倍自公政権は、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場をとっているとともに、「主権免除」(国家に対しては他国の裁判権は及ばないとする国際法上の原則)などを理由に、裁判自体を認めず訴状の受け取りを拒否したまま、法廷には一度も出席しなかった。
そして、判決について、菅首相は「慰安婦問題については、1965年の日韓請求権協定において完全かつ最終的に解決済みである。我が国としては、このような判決が出される事は、断じて受け入れる事はできない」と訴訟却下を求めた。
茂木外相は「国際法上の原則を否定した判決は極めて遺憾で、断じて受け入れられない」と韓国外相に抗議した。また、「国際法に違反するような常識では考えられない判決である。あらゆる選択肢を視野に入れて毅然と対応したい」と述べた。秋葉外務省事務次官は「極めて遺憾だ」と韓国駐日大使に抗議した。
外務省幹部は「司法の暴走が目に余る。韓国政府が『日韓関係の戦後処理は解決済みだ』と、きちんと対外的に言わないからこうなってしまう」と述べた。
早稲田大・萬歳寛之教授は「一般的な国際法上の認識では、主権免除は手続き上の判断であり、実体(中身)の判断とは別物だ。だが判決はそれを一緒にしてしまっており、違和感を感じる。65年の日韓請求権協定や2015年の日韓合意に照らしても、判決は不十分な内容と言わざるを得ない」と述べた。
朝日新聞「社説」は、「安倍自公政権が結んだ合意を文在寅政権が評価せず、骨抜きにしてしまった事が最大の原因」「(韓国政府が)合意の意義を原告らに丁寧に説明していれば訴訟が避けられたかも」「韓国政府はまず、慰安婦合意を冷静に評価し直し、今回の訴訟の原告でもある元慰安婦らとの対話を進めるべき」と、客観的立場に立たず安倍自公政権側に傾いた主張を連ね、結論では、「日韓が和解のための最大の努力を尽したとは言いがたい。両政府の外交力が問われている」など、喧嘩両成敗の無責任な批判に逃げている。
主権者国民は、上記のような「主張」を鵜呑みにせず惑わされず判決そのものに触れ主体的に判断をする事が大切である。以下はソウル中央地方法院の判決についての「報道資料」である。
■ソウル中央地方法院大34民事部(裁判長部長判事金正坤)は2021.1.8慰安婦被害者裵○○ら計12人が日本国に対し提起した損害賠償請求訴訟において、原告らの請求をすべて認容し被告日本国が原告らに各1億㌆ずつ支払えという判決を宣告する。
■原告らの請求の要旨
原告らは日本帝国が侵略戦争中に組織的かつ計画的に運営していた「慰安婦」制度の被害者であり、日本帝国は第二次世界大戦中侵略戦争遂行のために組織的・計画的に「慰安婦」制度を設けて運営し、「慰安婦」を動員する過程で植民地として占領中であった韓半島に居住していた原告らを誘拐したり、拉致して韓半島の外に強制移動させ、原告を慰安所に監禁したまま常時暴力、拷問、性的暴力にさらした。このような一連の行為(以下「本件行為」という)は不法行為であることが明らかであり、これにより原告らが深刻な被害を受けたので、被告にその慰謝料の一部として各1億㌆の支払いを求める。
■判決要旨
ア 裁判権の有無(国家免除の適用可否)の判断:裁判権あり
国家免除(または主権免除)は、国内裁判所が外国国家に対する訴訟について裁判権を持たないという国際慣習法である。19世紀後半から例外事由を認める相対的免除理論が台頭した。
韓国大法院判決によっても私法的行為については、裁判権の行使が外国の主権的活動に対する不当な干渉となるおそれがあるなどの特別な事情がない限り、外国の私法行為について当該国家を被告として韓国の裁判所が裁判権を行使することができる。しかし、本件行為は私法的行為ではなく主権的行為である。
国際司法裁判所(ICJ)は2012.2.3ドイツ対イタリアの事件で「国家免除に関する国際慣習法は、武力衝突の状況における国家の武装兵力及び関連機関による個人の生命、健康、財産侵害に関する民事訴訟手続きにおいても適用される」という趣旨の判決を宣告したことがある。
しかし、本件の行為は日本帝国によって計画的、組織的に広範囲に強行された反人道的犯罪行為であって国際強行規範に違反するものであり、当時の日本帝国により不法占領中であった韓半島内で我が国民である原告らに対して強行されたものであって、たとえ本件行為が国家の主権的行為であっても国家免除を適用することができず、例外的に大韓民国裁判所に被告に対する裁判権があるといえる。
その根拠としては、
1)韓国憲法第27条第1項、国連「世界人権宣言」第8条でも裁判を受ける権利を明らかにしている。権利救済の実効性が確保されていない場合、これは憲法上の裁判請求権を空虚にするものであるから、裁判を受ける権利は他の実体的基本権と合わせて充分に保護されて保障されるべき基本権である。
2)国家免除は手続的要件に関するものではあるが、手続法が不十分なことにより実体法上の権利や秩序が形骸化したり、歪曲されてはならないものである。
3)国家免除の理論は恒久的で固定的な価値ではなく、国際秩序の変動に応じて継続して修正されている。
4)1969年に締結された条約法に関するウィーン条約第53条によると、国際法規にも上位規範である「絶対規範」と下位規範の間に区別があり、下位規範は絶対規範を離脱してはならないとするのであり、ここにいう絶対規範の例として国連国際法委員会の2001年「国際違法行為に対する国家責任条約草案」の解説で挙示された奴隷制及び奴隷貿易禁止などを挙げることができる。
5)被告とされた国家が国際共同体の普遍的な価値を破壊し、反人権的行為により被害者に深刻な被害を加えた場合までも、最終的手段として選択された民事訴訟で裁判権が免除されると解釈することは不合理で不当な結果を導くことになる。すなわち、ある国家が他の国家の国民に対し、人道に反する重犯罪を犯さないようにした国際諸条約に違反しても、これを制裁することができなくなり、これにより人権を蹂躙された被害者は憲法で保障された裁判を受ける権利を奪われ自身の権利をまともに救済されない結果をもたらし、憲法を最上位規範とする法秩序全体の理念にも合致しない。「慰安婦」被害者らは日本、アメリカなどの裁判所に何度も民事訴訟を提起したが、すべて棄却又は却下された。請求権協定と2015年の「日本軍慰安婦被害者問題関連合意」も被害を受けた個人の賠償を包括することをできなかった。交渉力、政治力をもつことができない個人に過ぎない原告らとしては、本件の訴訟のほかに具体的に損害の賠償を受ける方法は見出しがたい。
6)国家免除の理論は、主権国家を尊重し、みだりに他国の裁判権に服従しないようにする意味をもつのであって、絶対規範(国際強行規範)に違反して他国の個人に大きな損害を与えた国が国家免除の理論の背後に隠れて賠償と補償を回避する機会を与えるために形成されたものではない。
イ 国際裁判管轄権の有無についての判断:管轄権がある
不法行為の一部が韓半島内で行われ、原告らが大韓民国国民として現在大韓民国に居住している点、物的証拠はほとんど消失しており、基礎証拠資料はほとんど収集され、日本での現地証拠調査など必ずしも必要でない点、国際裁判管轄権は排他的なものではなく併存可能な点などに照らせば、大韓民国の本件の当事者ら及び紛争となった事案と実質的関連性があるといえるので、大韓民国の裁判所は本件について国際裁判管轄権を有する。
ウ 損害賠償責任の発生
日本帝国は侵略戦争の遂行過程で軍人の士気高揚と苦情発生の低減、効率的統率を追求するために、いわゆる「慰安婦」を管理する方法を考案し、これを制度化して法令を整備し、軍と国家機関で組織的に計画を立てて人員を動員、確保し、歴史上前例のない「慰安所」を運営した。10代初中盤から20歳余に過ぎず、未成年又は成人になったばかりの原告らは「慰安婦」として動員された後、日本帝国の組織的直・間接的な統制下で強制的に一日に数十回日本の軍人たちの性的行為の対象となった。原告らは過酷な性行為による傷害、性病、望まない妊娠、安全性がまともに保証されていない産婦人科治療の危険を甘受せねばならず、常に暴力にさらされ、まともな衣食住を保証されなかった。原告らは最小限の自由も制圧され、監視下に生活した。終戦後も「慰安婦」だった前歴は被害を受けた当事者に不名誉な記憶として残り、いつまでも大きな精神的傷となり、このため原告らはその後社会への適応が困難であった。
これは当時の日本帝国が批准した条約及び国際法規に違反したものであるだけでなく、第二次世界大戦後、東京裁判所憲章で処罰することを定めた「人道に反する犯罪」に該当する。
したがって、本件行為は反人道的な不法行為に該当し、被告はこれにより原告らが被った精神的苦痛に対して賠償する義務がある。被告が支払うべき慰謝料は、少なくとも原告らに対し1億㌆以上とするのが妥当である(ただし、原告らが1人当たり各1億㌆のみを一部請求として請求したので、上記金額を超える部分については、判断しない)。
エ 損害賠償請求権消滅についての判断:消滅しない
原告らの損害賠償請求権は、韓日両国間の1965年の請求権協定や2015年の日本軍慰安婦被害問題関連合意の対象に含まれていないので、請求権が消滅したとは言えない。[以上]