◎日本本土の軍事占領を行ふ、それは作戦の性格を採る
朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、有竹修二の「新日本への発足」という文章を紹介している。本日は、その五回目で、「マツカーサー司令部を迎へて」の節の前半を紹介する。
マツカーサー司令部を迎へて
すでに連合軍は、日本&池に進駐し、マツカーサー司令部は東京に本陣を構へ、連合軍と日本政府との間に、ポツダム宣言履行に関する諸般の折衝が続けられつゝある。
日本政府は、終戦連絡中央事務局を外務省外局として設置しマツカーサー司令部と政府との間にたつて連絡折衝を司る〈ツカサドル〉ところとした。最初、この長官には、外務省調査局長、岡崎勝男氏が起用されたが、この局は、その仕事の性質と重要性に鑑み〈カンガミ〉、その機構を拡大強化するの必要が認められ、種々協議の結果、やがてその改組が決定、その長官として元正金〔横浜正金銀行〕頭取、前中支振興総裁児玉謙次氏が撰ばれ、次長として満洲中央銀行総裁西山勉氏が起用された。この改組問題にからんで重光〔葵〕外相は辞任し、吉田茂氏の外相就任を見るに至つた。
マツカーサー司令部は着々、所定の仕事を進めつゝある。極めて冷静に厳粛に、降伏後の日本に対する諸施策を実行しつゝある。すでに「降伏後の日本に関する米国の最初の政策」が、公表された。いはゆる日本管理案である。それは、大統領の承認を得て連合軍最高司令官および米国の関係各省その他の諸機関に対し指針として配布されたものである。その内容は全く連合軍諸機関が政策遂行上の根本的指針であつて、政策決定を必要とする日本占領に関する一切の問題は包含されてゐない。
その大要
一、目 標
国際連合国憲章の理想および原則に随ひ、他の諸国家の権利を尊重し、米国の諸目的の達成を支持する平和にして責任ある政府を将来樹立すること
右目的達成の手段として、A、日本領士の限定、B、日本の完全武装解除、軍国主義的一切のものの芟除〈サンジョ〉、C、日本国民の個人の自由、人権尊重、信教、集会、言論、出版の自由に対する希求は助長され、民意代表の諸組織結成が助長され、日本人は平和時の需要に応じ得る程度の経済を有する機会を与へられる。
二、連合軍の権能
日本本土の軍事占領を行ふ、それは作戦の性格を採る、占領軍は米国が任命する最高司令官の統率下におかれる、天皇ならびに日本政府の権能は右最高司令官に従属、最高司令官は降伏条件の実施、占領実施のために樹立された政策の遂行および日本の上陸に必要なる一切の権力を掌握する、最高司令官は米国の目的を満足に進捗せしめる程度に、天皇を含めて、日本政府機構および諸機関を通じて権力を行使する、日本政府はその最高指揮官の指令を受けて通常統治権を行使することを許きれる。右政策は日本の現存政府形体を支持せずに利用するにある。日本国民によつて着手される政府形体の変更、その封建的官憲主義傾向を抑止する方向にある政府は許可され、支持を受けるであらう
日本国民が武力を行使しまたは政府自身が反対人物に対抗して武力を行使して、かゝる変更を実現する場合が生じたとき、最高指揮官は麾下〈キカ〉軍隊の安全を保障しその他占領上の一切の目的達成を保障する必要ある時にのみ干渉すべきである
三、政 治
第一節
イ、武装解除と軍国主義の抹殺を即時断行す、陸海空軍、秘密警察、民間航空、大本営、参謀本部の廃止
ロ、軍的資材の引渡
ハ、陸海軍高級官吏、国家主義者、軍国主義的諸組織の指導者、軍国主義および侵略の著名人の拘禁、処分
ニ、軍国主義並に軍国的国家主義の活動的名士たりし人々は公共の職位並にその他いかなる公共乃至重要私的責任のある地位から排除されるであらう
ホ、過激な国家主義、軍国主義的諸団体は禁止される
ヘ、軍国主義、国家主義を教育制度から除去する
第二節 戦争犯罪人の処分
第三節 個人の自由および民主主義過程への冀求〈キキュウ〉の助長
四、経 済
軍事力を形成する一切の経済施設の禁止、戦力を強化することを目的とする特定の研究又は指令の禁止
民主主義的経済組織は助長される。日本の諸政策は国民に甚大なる経済的破壊をもたらし経済的困難と艱苦〈カンク〉の見通しに直面せしめた。日本の敗北は日本自らの行為の直接の結果であり、連合国は損害を修理する重荷を負はない、但し日本国民が軍国主義的目的を放棄して平和的生活様式を目指して専心務めるならばこの場合にのみ連合国は修復を行ふであらう。
第四節 A賠償、B返還
第五節 財政貨幣銀行政策
第六節 国際通商および金融団体 政府は終局において世界の他の国と正常の通商関係を再開することを許可される
占領期間中適当なる統制の下に日本は外国から平和目的のための必要とする原料および他の商品を購入し、且つ承認された輸入の支払ひをなすため商品を輸出するを許可されるであらう
第七節 在外日本資産の処分方法
第八節 日本国内における外国企業に対する機会均等
第九節 皇室財産 【以下、次回】