◎遺伝病系統者蕃殖防止ニ関スル法律(1933)
電報通信社発行の『独逸大観』(一九三六)の紹介に戻る。本日は、その四回目。
一昨日は、同書の第三篇「党と国家」から、「一、党と国家との統一」の後半部分を紹介した。本日は、同書の第四篇「内政」から、「四、人口政策」を紹介したい。やや長いので、何回かに分けて紹介する。
四、人 口 政 策
国民社会主義の見解に依れば、国家の主たる使命は国民の生活の源泉たる民族の保全に存する。国民の全創造力、文化、精神的躍動、国民の世界観的全態度は、該国民の血統的団結と不即不離の関係にあるものである。其故に独逸〈ドイツ〉国家は疾病其他の害悪に対して国民の保健を確保し、健全なる家庭の確立に努め、猶太〈ユダヤ〉民族との混血を禁じて独逸国民が好ましからざる状態に歪められる事を未然に防止するのである。
一、国民保健に関する処置
一九三三年七月十四日附の「遺伝病系統者蕃殖〈はんしょく〉防止ニ関スル法律」は国民保健にとつて基本的意義を有する。この法律の意図する所は精神病及遺伝病者に対する断種に依り民族と云ふ有機体が漸次遺伝病から清められる事である。此法律に表れた指導的理念であり且徹底的研究の結果である根本観念は次の如きものである。断種は法律に規定せられたる疾病に依るものとは言へ、刑法的意味を全然包含してゐない。断種は勧告に従ひ自由意志に基いて行はれるものであるが、場合によつては強制的に行はれる事もあり得る。此法律が濫用されざる様、詳細な保護規定が存する。なほ此法律の適用は決して精神病院の患者に限られたものではない。
更に一般の安寧を保持する見地より一九三三年十一月二十四日附「危険ナル習性犯罪ニ対スル法律」が制定された。この法律は全く特定の習性的犯罪者、例へば人倫を紊る〈モトル〉如き者に対して適用されるのであつて、此に従つて彼等は去勢される。
終〈オワリ〉に一九三五年十月十八日の「独逸国民ノ伝統的健全性保護ニ関スル法律」(優生的婚姻法)があげられる。該法に依れば婚姻に際し、婚姻当事者は前にかゝげた蕃殖防止法に抵触るする如き遺伝病を持たぬ事を證明せねばならない。
二、健全なる家庭を確立する為の処置
健全なる家庭を殖す〈フヤス〉為に執られる法律や処置は全く枚挙に遑〈イトマ〉がない程である。例へば全家族移住制度、工業の一時的休止、租税免除処置、子供の多い家族に於ける児童保護の保障(一九三五年九月十五日の命令)等である。特にあげらるべきは他の章で扱ふ独逸農民土地世襲法であつて、此は健全なる農民階級を生み出す基礎となるものである。又一九三三年六月一日附の法律に従つて規定された「妻帯貸付金制度」も重要である。この貸附金制度によつて数万の者が結婚して家庭を持つ事が出来た。此貸附金は最も安い利子で償還してゆくのである。しかし上述の問題に関連して全く特異な意味を持つてゐるのは、独逸人と猶太人の完全なる分離を遂行した処置である。【以下、次回】
ここで、「遺伝病系統者蕃殖防止ニ関スル法律」と訳されている法律は、「遺伝病子孫防止法」と訳されることもあるようだ。いずれにしても、日本の「国民優性法」(昭和十五年法律第百七号)の原型となった法律である。