ふたたび大統領に選ばれたトランプの初当選時に出た紹介本「炎と怒り」から抜粋などをしてきました。突然現れた泡沫候補時代のトランプ事務所につめて彼を見てきた著名ジャーナリストの著作内容の紹介です。18年4月の連載第5回目です。
トランプという人間、「炎と怒り」の今⑤ 文科系
今回も閑話休題。この本のその後や結末に当たる重大な新聞記事二つが昨日載っていたから、その記事と本の内容とを照合してみたい。神が「炎と怒り」を示すような所業が、今尚続いているということである。
一つは、「米下院議長が引退表明 ライアン氏 中間選挙 出馬せず」。
これは以前の共和党副大統領候補にもなった人物で48歳とまだ若い。この本によると、こんな立場、人物ということになる。
『2016年春の時点でも、ライアンはなお共和党の候補者指名でトランプに対抗できる位置にあり、このころにはそうできる唯一の人物になっていた』
『だが、ライアン本人はもっとしたたかな計算をしていた。指名はトランプにとらせたうえで、本選で彼に歴史的な敗北を味わわせる。そうなれば当然、ティーパーティー=バノン=ブライトバード(バノンの新聞社)一派は一掃される。その後は誰の目にも明らかなリーダーとして自分が党を主導していく、というシナリオだ』
こういう、初めはトランプを馬鹿にしていた人物が、当選後はトランプ政権に急接近。法案作りなどにも協力して来た。それが今、引退。トランプと違って非常なやり手だそうだから、家族支配などの政権内情を知って、もうやる気が失せてしまったのではないか。
もう一つの記事の見出しは、こうだ。
『特別検察官の解任 「米大統領に権限」 報道官が見解』
トランプのロシア疑惑に関わるニュースなのである。大統領選挙中からこれを調べていたコミーCIA長官を、トランプは首にしてしまった。この本に書いてあるその場面をご紹介すると、こうなる。
この解任は、バノンを初めとして周囲のほとんどが反対したもの。それを押し切って一人で密かに決めて、解任通知書を自分のボディガードにCIA長官室に直接届けさせる異例な異例な方法が採られた。通知書の最も肝心な部分には、こう書いてあったとのこと。
『これにて貴殿は解任、免職とする。本通知は即刻発効する』
大統領首席補佐官らは、今後のことをすぐにこう考えたのだそうだ。
『「となると、次は特別検察官だ!」五時前にこれから何が起きるかを知らされたプリーバス(首席補佐官)は呆然とし、誰に聞かせるともなくそう言ったという』
この歴史上なかったような暴挙以降の成り行きは、司法省が特別検察官を任命し、彼にトランプのロシア疑惑を捜査させることになる。事実として、後に司法省は、元FBI長官のロバート・モラーを任命したわけだ。
さて、昨日の新聞記事は、こういうモラー検察官に対して「こうやれば首に出来るんだぞ!」とばかりに、トランプがわざわざ記者会見発表をさせたということなのだ。新聞記事中にはこんな一文があった。
『米CNNテレビは十日、トランプ氏がローゼンスタイン司法副長官の解任を検討していると報じた。トランプ氏はモラー氏を直接解任できないが、副長官を解任し、後任者にモラー氏解任を間接的に指示することは理論的には可能である』
コミーと言い、モラーに対してと言い、法理念を無視して、その間を擦り抜けるような荒技ばかりが続いている。まさにトランプらしく、こんな所がネット右翼らに人気が高い理由なのだろう。