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2年ほど前の随筆ですが  文科系

2007年06月18日 20時31分36秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
「遊ぼ!」
                                  
 一月末の日曜日昼下がり、きらきらした陽光に誘われて南の庭に出て、ボケの枝を切っていた。切る時期がちょっと遅いかと思いながら。突然人声が聞こえきて、振り向いた。敷地西にある胸高程のブロック塀越しの、契約車がほとんどない駐車場で二人の女の子がドッジボールのキャッチボールを始めようとしていた。一人は斜め向かい十メートルほど東の家のレイちゃん、もう一人はたしかすぐ真向かいの新築住宅に最近引っ越してきたばかりの背高のっぽの女の子だ。三年生と聞いた記憶があるレイちゃんは赤いTシャツに紺のジャンパー、もう一人は黄色の長袖Tシャツだけ。北風の中を二人ともきゃーきゃー言いながら跳ね回っている。「遊べ、遊べ」と、定年退職後丸三年近い僕は微笑みつつたださりげなく眺めていた。跳ね回る子供の姿、僕はこういうのが好きだったなと、三十歳を超えた二人のわが子との昔を思い出しもした。じきにボケの剪定に戻っても、耳はあちらを向いている。他愛ないはずの会話もぜんぜんそんなふうには聞こえない。
 「おじちゃん、何してるの?」
塀に胸を引っかけた顔見知りのレイちゃんが、こちらを見ていた。背高のっぽちゃんも横に立って、くりくりとよく回る目で覗いている。
 「これ、ボケという木なんだけどね、ちょっと長すぎだなと思って、切ってるんだよ」
 僕は誰に対してもまず当たり前のことしか言えないなと、そんなことを頭に過ぎらせながら、目の前の枝に改めて鋏を向けた。
 「おじちゃん、ドッジボールできる?」
 思えばこんなことを心待ちにしていたのかも知れない。およそわが子がすることなら時間を工面して何を置いてもつきあってきたなと、随分昔のことを振り返っていたところだったから。
 レイちゃんがジャンパーを脱ぎ捨てたのが合図のように、すぐに三人のキャッチボールが始まった。小柄だが頑丈そうなレイちゃんは総てが上手い。背高のっぽちゃんはサキちゃんと名乗ったが、ちょっと難しいボールだと、玉筋から上手に逃げる。これもドッジボールのコツなのだ。それでも、レイちゃんが強いボールをがっちりとキャッチして誇らしそうなときに「凄い、凄い」と声をかけていると、サキちゃんも逃げていたボールの半数くらいに挑戦を始めた。こんな子供の向上心は、つきあっていてとても楽しい。僕も分厚いセーターを脱ぎ捨てた。自分の思わぬ喚声が辺りの家々に響いているのに気づいて驚いたりもしたが、そんなことを気にする気質でもない。

  こんな事があって数日経ったころ、呼び鈴が鳴ったので玄関に出るとあの二人が立っている。レイちゃんの背中にくっつくようにして、サキちゃんが遠慮がちにたずねる。
 「おじさん、遊べる?」
「遊べる?」というその言葉が何かおかしくて苦笑いが出たが、「よーしっ、やろう」とすぐに応えていた。日曜日のお父さんに頼んででもいるような調子なのだろうと受け取って。またキャッチボール開始。
「おじちゃん、いくつー?」、レイちゃんがたずねる。一瞬考えて逆に質問、「人が仕事を辞めるのはだいたい何歳だー?」。ちょっと考えてサキちゃん、「六十歳!」。「それからおじさん何年たったかー?」と僕。二人ばらばらの応えの中に正答があったところで、「そー当たりー、六十四歳」と僕、息がはーはーしていたはずだ。対してレイちゃん、「うちのおばーちゃんのが十歳も上だ」。〈そうかそうか、おばーちゃんと比較したかったのか!〉

 こういう「遊べる?」が間をおいてさらに二日ほど続いたある日のこと。所用から帰ってくると例の駐車場から二人の声がする。近づいて駐車場のブロック塀から顔を出した。二人がほぼ同時に振り返ったとき、僕の口から思わず声が出た。
 「遊ぼ!」
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2 コメント

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良寛の句のような (老感覚派)
2007-06-18 22:53:21
 素人なので感覚でしか言えませんが。

 良寛さんの句を思いました。
 まずは「あそぼ」の逆転はおもしろかったです。

 ただこうした子供達との温かい交流を描写する場合
もう少し平易で素直な良寛さんの句のような無邪気で坦坦とした文体が合うのではないでしょうか。少し文体がゴツゴツというかかどばっている気がしました。
 
 
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ご批評深謝! (文科系)
2007-06-19 11:03:24
ご批評深謝、です。嬉しい批評でした。

「良寛さん」がひらめいたら、僕もゴツゴツをなくしたかも知れません。考えてみれば子どものように遊んでいるわけだから、やはりゴツゴツはまずいですね。

これから以降、ちょっと気を付けてみます。
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