ずっと連載のように紹介してきたノーム・チョムスキー「覇権か生存か」のなかから、アメリカのニカラグア内戦工作の下りを紹介してみたい。戦後世界政治史において最も酷い小国への所業の一つと国連内部で語られてきたものだ。中南米ではそれほどに有名な、小国への内乱工作と政権打ち倒しという長く続いた世界史的大事件である。国際司法裁判所(仲裁裁判所ではないことにご留意願いたい)の裁定結果や賠償命令の完全無視が鮮やかすぎるほどである。こんなことをするなら国連を出ていくべきだろう、手前勝手にただ利用したいだけが動機で入っている、などと誰しもが思うのである。つまり、利己的利益からの悪用目的なのだ。拒否権を最も多く発動したのがイスラエル問題であるということでも、この事は明らかなのである。アメリカにイスラエルへの介入問題がなければ多分、アフガン戦争、イラク戦争、シリア内乱、イスラム国建国、難民問題、イギリス離脱問題等々は起こらなかったはずだ。では・・・
『1986年に、国際司法裁判所はニカラグアの言い分を認め米国政府の主張を退けた。そして「不当な武力行使」──平たく言えば国際テロ(アメリカがニカラグアに対して 文科系注)──に関してワシントンに有罪判決を下した。判決はニカラグアによる限定された告訴以外にも及んだ。以前に下した判決を、より強い調子で繰り返しながら、同裁判所はいかなる形態の介入も「政治、経済、社会及び文化制度の選択と、政策策定」の主権に干渉するものであれば、それを「禁ずる」と裁定した。(中略)
この判決には、見るべき効果はほとんどなかった。国際司法裁判所は、ミューヨーク・タイムズ紙の編集者から「敵意ある法廷」と非難され、それゆえに国連と同様、問題外だとされた。(中略)
その後のコントラ(米国が支援したニカラグア反政府軍 文科系注)への援助は、一様に「人道的」とされ、同裁判所の明確な裁定を侵害した。(アメリカ 文科系注)議会はただちに一億ドルの追加援助を承認し、同裁判所が「不当な武力行使」と非難した行為を助長した。米国政府は「非現実的な法律重視の手段」を阻止し続け、ついには暴力によってそれを終わらせるのに成功したのである(つまり政権を転覆させた 文科系注)。 国際司法裁判所は更にアメリカに賠償金の支払いを命じ、ニカラグアは国際的な監督のもとで、損害額を試算した。見積額は170億ドルから180億ドルの間だった。賠償請求は勿論、論外だと(米国政府に 文科系注)片付けられた。』
(ノーム・チョムスキー「覇権か生存か」集英社新書版144~145ページから)
『国際司法裁判所の命令をアメリカが拒否したことを受け、ニカラグアはーーそれでも暴力的な報復や、テロによる脅しに訴えようとはせず問題を国連安全保障理事会に託した。安保理は国際司法裁判所の判決を支持し、全ての国に国際法の遵守を呼びかけた。ところが、アメリカはこの決議案を拒否した。ニカラグアは国連総会に訴え、そこでも同様の決議が採択された。アメリカとイスラエル、エルサルバドルだけが反対した。翌年には別の決議が通り、この時反対したのはアメリカとイスラエルだけだ。こうしたことはほとんど報道すらされず、この問題は歴史から消えている』(同上書149ページから)
有罪と判定されても何もしない。賠償命令も無視して、逆に反乱軍支援金を予算化する。国連海洋法条約には入っていない。ご自分は縛られるのが嫌だということなのだ。こんなに悪用だけ目的が明らかならば、何のための国連や国際司法裁判所なのか。むしろ国連を出ていくべきだろう。出て行けと言うよりも「いるなら従うべきだ」と、そう言いたいのである。ただ米国は絶対にでては行かない。イスラエル問題のように、嫌な決定にどこよりもどんどん拒否権を出すために。「国際的大義名分」が欲しいときが常に起こってくるとも知っているからなのでもある。つまり、イラク戦争開戦では国連のお墨付きが欲しくて果たせなかったのだが、このように国連悪用だけはしたい!