たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

2008年『フェルメール展』-フェルメール「小路」

2020年07月22日 09時41分56秒 | 美術館めぐり
ヨハネス・フェルメール(デルフト1632-1675デルフト)
《小路》
1658-1660年頃
左側、窓の下に署名
油彩/カンヴァス、53.5×43.5㎝
アムステルダム国立美術館

(会場で購入した公式プログラムより)

「フェルメールは熟達した風俗画家であるのみならず、都市風景がの独創的な先駆者の一人でもあった。低地地方オランダは、17世紀において、おそらくもっとも人口密度の高い都市地域であったが、その事実を考えれば、オランダが都市景観画を創始するのにふさわしい場であることが理解されよう。とはいえ、このジャンルは、ネーデルランドおよびオランダの画家たちが考案した様々な専門的画種のなかで最後に手掛けられたものだった。風景画の下位ジャンルである都市景観画が、風景画、そして地図や地誌を絵画化した作品(風景画に描きこまれた都市の側面像は、主として地図の伝統を汲んでいる)と区別され、独立したジャンルとしてデビューを果たすのは、ようやく17世紀中頃のことである。こうした都市景観画の展開には、デルフト、アムステルダム、ハールレム近隣地域が主に中心的役割を果たしたが、デルフトはなかでも他に先んじていたようである。(略)

 都市景観画は、観察者を都市の外側から都市内の公共空間へと移動させ、広場、公園、教会、通り、運河を記録した画家たちによって始められた(略)。

 しかしながら、特別な貢献をした画家となればフェルメールの名を挙げねばならないだろう。フェルメールの都市景観画は、《小路》として知られる本作品と《デルフトの眺望》の2点しか現存しない。(略)フェルメールがさらに多くの都市景観画を描いていたと推測する理由はほとんどない。というのも、これら2作品は、どちらも1696年に開催されたかのディシウス競売で売り立てられているからである。このオークションでは21点を下らないフェルメール作品が売りに出されたが、そのなかには《デルフトに建つ家の眺め》、《何軒かの家々の眺め》、そして《南から眺められた、遠近法によるデルフトの街》という3作品が含まれていた。その簡潔なタイトルは、いずれも、われわれの都市景観画という考えに合致する。競売目録に登場する一連のこうしたタイトルからは、フェルメールは都市景観画を多くは手掛けなかったものの、デルフトの一軒の家を描いた(失われた)絵画から、本作品の数軒の家の眺め、そして都市全体の眺めに至るまで、テーマの枠内で一定の範囲の可能性を開拓したということが推測できる。

 本作品に関連するタイトル、《何軒かの家々の眺め》は、この場面がデルフトであると特定していない。このことは特筆すべきであろう。(略)フェルメールのねらいは、地誌的な正確さや、その土地の建物の記録ではなかった。むしろ親密な、感情に訴えかける街の肖像、近隣とその静かな家庭的雰囲気を描こうと努めていた。

 《小路》は、長い間、「メールヘレン」と呼ばれるフェルメールの実家1階からの眺めだと思われてきた。すぐ外にはフォルデルス・フラハト運河が続き、その向かい側には、1661年から聖ルカ組合が事務所を構えた「救貧院」があった場所である。この建物は、18世紀の図版を見ると、アーチ型の戸口のある低い壁によって左側の老人ホームとつながっていた。その戸口は、本作品の左側の小さい壁に穿たれた戸口にいくらか類似するが、聖ルカ組合の建物は、右側の破風(はふ)づくりのレンガの建物と似ても似つかない。

 この破風づくりのレンガの建物は、どこか他の場所で観察された現実の建築物に基づいているかもしれないが、間違いなく創造的な操作が加えられている。レンガと漆喰のファサード、驚くほどむらがある石膏や水漆喰が塗られた1階部分などは現実を記録したと思わせる。にもかかわらず、建物の建築的構造をつぶさに調べてみると、描かれたとおりに存在するなど、とうていありえないことがわかってくる。2階の2つの窓は、背の高い中央戸口から同じ距離にはない。その非対称性は下階でも変わりない。左側の緑色の雨戸は、右側の赤い雨戸よりも幅が広い。つまり、ありそうにもないことだが、戸口の両側にある縦長の背の高い窓は、それぞれ幅が異なっているのだ。フェルメールが純粋に構図的な理由からこうした調整を行ったのは明らかだ。X線写真によれば、赤いよろい戸は白い漆喰の上に描かれている。つまり、フェルメールは、初めは斜めに開けたよろい戸を描こうと考えたが、その後押し返し幅を広げ、壁の上にかぶせることにし、建物のファサードの平面性を強調しようとした、ということなのだろう。」

 公式プログラムの解説文、長いのでもう少し続きます。画像はイヤホンガイドを写メしたものですが、あまりにも有名な絵なので、検索すると素敵な画像がたくさん出てきます。










2017年10月5日;2008年8月‐12月『フェルメール展』_光の天才画家とデルフトの巨匠たち
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/efc0a93d13fbc7ecf00fde39bd8d58ab