たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

『アンナ・カレーニナ(中)』-第三篇-17より

2024年08月28日 00時08分51秒 | 本あれこれ

「それはそうと、ロランダ夫人のお祝いにはいらっしゃいます?」アンナは話題を変えるために、たずねた。

「行くつもりはありませんわ」ベッチィは答えた。そして、友だちののほうを見ないで、小さな透きとおったコップに用心ぶかく、かおりの高いお茶を注ぎはじめた。彼女はコップをアンナのほうへ勧めて、とうもろこしの葉につつんだ巻たばこを取りだすと、銀のパイプへさして、吸いはじめた。「ねえ、ごらんのとおり、あたしはしあわせな立場におりますから」彼女はもう笑わずに、お茶のコップを手に取って、しゃべりはじめた。「あたしにはあなたのこともわかってますし、リーザのこともわかってますわ。あのリーザという人は、とても素朴な性質(たち)でしてね。まるっきり子供みたいに善悪の区別がつかないんですの。すくなくとも、ごく若い時分には、あの人にそれがわからなかったことだけはほんとうですわ。ところが今じゃ、そのわからないってことが、自分には似合いのことだって承知しているんですのね。今は、ひょっとしたら、わざとわからないふりをしてるのかもしれませんわ」ベッチィはかすかな微笑を浮かべながら、いった。「でも、とやかくいっても、やはり、それがあの人には似合っているんですわ。ねえ、おわかりになって。同じ一つのことを、悲劇的に見て、そのために苦しむこともできれば、もっと単純に考えて、いえ、それどころか、楽しくながめることもできるんですのよ。どうやら、あなたは物事をあまりに悲劇的に見るほうかもしれませんわね」

「あたしはただ自分のことがわかってるように、ほかの人のことも知りたくてたまらないんですけど」アンナはまじめくさって、考えこむような調子でいった。「あたしはみんなより悪い人かしら、それとも、いい人かしら? 悪いような気がしますけど」

「恐るべき子供、そう、恐るべき子供ですよ!」ベッチィは繰り返した。「それはそうと、みなさまがお見えになりましたわ」」

 

(トルストイ『アンナ・カレーニナ(中)』昭和47年2月20日発行、昭和55年5月25日第16刷、新潮文庫、116-117頁より)

 

 

 

 


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