カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

幼馴染みの思い出は、青い檸檬と誰が言う

2013-07-25 19:38:59 | 即興小説トレーニング
 最近トモダチの円が気になると父さんに話したら、どういう風にだと実に興味深げに訊ねてきたので、正直に全部話したら大笑いされた。
 幾ら父さんでも失礼すぎやしないかと本気でぶん殴りたくなったが、流石に親に手を上げるのは憚られたので我慢してその場を去ることにする。それから結構な長い間、とんでもない声量の馬鹿笑いが我が家の周辺で響き渡っていた気がするが構うものか、それで恥を掻くのは僕ではなく父さんの筈だ。多分。

 暫く戻る気はなかったのでいつものように円の家を訪ねると、円はいつものように笑顔で僕を迎えてくれた。
「もうすぐ全部のピースが縫いあがるよ」
 そう言って見せてくれた色々な色の布を組み合わせた(パッチワークとか言ったか?)四角い小さなものを、今度は繋げて大きな一枚の布にするのだそうだ。僕には良く判らないが、それがとんでもなく手間の掛かる大変な作業だというのは判る。
「円は手先が器用なんだな」
 僕が褒めると円は少し困ったように『そんなことない』と答える。いつものことだ。
「これは健へのプレゼント用ベッドカバーだけど、終わったら今度は詠の分も作ろうか?」
「…… 僕より健が先なんだな」
 円の双子の弟の名前が出てきたので僕が少しだけ機嫌を悪くしてみせると、円は面白いくらいに慌てて答えた。
「だって、先ずは試しに作って上手に出来たら詠の分を作ろうと思ったから」
 それで僕が表情を和らげると、円もようやく安心したように微笑んだ。

 僕が未だ幼稚園の年少だった頃、円の一家は僕の家の向かいに引っ越してきた。そして小さい頃から身体の弱かった円は、その頃から無駄に元気だった弟の健よりも僕と一緒に家の中で遊ぶことが多かった。
 幼馴染みで、一番の仲良し。
 円は僕にとって昔からそんな存在だった。だから、ずっと一緒にいたいと本気で思っていた。きっと円もそうだろう。

 そんな日常に影が差してきた原因は、クラスメイトの日崎に『円を紹介してくれ』と頼まれたことにあった。無下に断ると面倒なことになりそうだったし、かと言って僕は円を誰にも渡したくなかった。そして散々悩んだ末、僕は円を信じることにした。つまり日崎を紹介しても結局は僕を選んでくれるだろうと思ったのだ。しかし。
 円はそれからしょっちゅう日崎と遊ぶようになり、僕との誘いも断ることが増えた。当てが外れていじける僕に、円は困ったようにこう言った。
「日崎さんには家庭科の宿題を教えているだけだよ…… でも、詠だって結構人気があるんだから、そろそろ女の子とお付き合いを考えても良いんじゃないの?」
 そりゃ、ぼくだって詠と一緒にいるのは楽しいけどさ。などと慰めにもならない一言で、僕の秘かな初恋は無惨にも終わりを告げた。
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