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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

新しい中古品

2013-07-30 19:11:06 | 即興小説トレーニング
 色気がないなぁ。
 一抱えもありそうなごつい立方体に付属した画面とキーボードを部屋に運び込み、机に設置した僕の、それが最初の感想だった。

 とは言うものの、父さんにねだって中古とはいえ手に入れた機械だ、充分に活用させて貰おうとワクワクしながら紙袋から取り出した分厚いマニュアルに力尽きそうになり、気を取り直して開いたマニュアルの内容に今度こそ力尽きた。

 一体何故、読解可能な日本語で記されているはずの文章がココまで理解不能なのか?ひょっとして、僕がマニュアルと思って開いたのは実は地上の真実が書かれた高邁な哲学書か何かだったりするのか?

 そんな訳ないか、と気を取り直した僕は速攻で友人の隼人に連絡することにした。奴ならこういう事に詳しいはずだ。
「あ、隼人か?僕だよ僕」
『何だお前か、用件は何だ?』
「実は父さんからパソコンを」
 途端にいきなり通話が途切れる、きっと通信事故だと思った僕は再び隼人に電話を入れ、とにかくひたすら奴が出るまで待った。
 やがて電話に出てくれた隼人は、心なしか疲労が滲んだ口調で僕に問う。
『…… 何が判らんのだ』
「実は何から何まで」
『ネット接続は』
「さっぱり」
『それで、何がやりたいのだ』
「取りあえず最初はメールを出せるようになりたい」
 それでまず電源なんだけど、と続いた僕の言葉を、隼人は悲壮なまでの覚悟と決意を滲ませた口調で遮った。
『判った…… 今からそっちに行く』
 やはり持つべきものは友達だ。

 両腕を広げて抱擁せんばかりの僕の歓迎を軽くいなした隼人は、さっそく机に向かい…… 少しの間眼前の立方体を眺めたり倒したりと色々弄り回した挙げ句に言った。

「おい、これパソコンじゃなくてワープロだぞ」
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