お墓というのは死んだ方々の家であり、そう言う意味では墓場というのは死者の住宅街、若しくは団地のようなものだと僕は思う。それ故、そこを訪れる人間は住民に配慮して無闇に騒いだり、ましてやお墓に悪戯するような真似は絶対にしてはいけないのだ。
そんな簡単な理屈が、どうしてこの連中には判らないのだろうと僕は遠い目になる。
確かに今日は夜になっても暑かった。頭が沸くかと思うくらい暑かった。
だから学生寮の一室に集まっていた連中の一人が『肝試しに行こう』と言い出したとき、他の連中は退屈しのぎと憂さ晴らしとその場のノリから全員一致で近所の墓地に繰り出したのだろう。
ルールは至って簡単、二人一組が墓場の一番奥にある石碑の前に持参した蝋燭を点火して立ててくると言う、ちょっと参加者の正気を疑うものだった。火の始末とかそう言うことは考えていないらしい。
案の定、事あるごとに吠えるように叫び、与太話で場を盛り上げようとする連中に対して『住人』の皆さんの態度は冷ややかだった。殆どは天寿を全うし、現世に残した家族や子孫にきちんと供養されている方々なので大概は眉をひそめる程度だったが、不慮の事故を遂げたり病気で若くして亡くなった、若しくは誰も供養してくれない方々の表情はどんどん物騒になっていく。また、いきなり現れた侵入者に対してちょっかいをかけ始める小さな子どもや若者も現れ始めた。
「…… なあ、ちょっと寒くない?」
事故にあったときそのままの姿をしたお嬢さんが肩にしなだれかかり、面白がった子どもに小石をぶつけられ、そこに座れと説教を始めようとする御老人に立ち塞がれ、ある意味一気に賑やかになったその場で不安そうに首を竦める連中。それでも一応は何事もなく全員が石碑の前に点火した蝋燭を立てて墓地を去ったあと、僕は必死に周囲の皆さんに詫びを入れて回った。大概は『若い連中は仕方ないねえ』と許してくださったが、やはりというか当然というか、頑固な御老人には『何を考えているんだ!』と怒鳴られた。それでも周囲の方々が宥めてくれたので何とか場は収まり、僕は当然の責任として後始末を始めることにした。
学生寮の部屋割りは四人一組。肝試しのメンバーは八人。
幸い肝試しで組になったメンバーは部屋割りに準じていたので、僕はとりあえず蝋燭を返してやることにした。一番インパクトがありそうなのは点火した状態で机に立てておく演出だったが火の用心的な意味で却下、その代わり二本に折った蝋燭を各自の通学鞄に一本ずつ突っ込んでおくことにする。これで懲りてくれたら良いのだが、連中にとっては、せいぜい新しい寮内七不思議が爆誕する程度の騒動だというのは長年の経験上から判っている。
かつてこの学生寮で自殺した僕は、いつまでこんな風に『向こう側』に行けないまま彼らに微妙な警告を与え続けなければいけないのだろうと、ふと思った。
そんな簡単な理屈が、どうしてこの連中には判らないのだろうと僕は遠い目になる。
確かに今日は夜になっても暑かった。頭が沸くかと思うくらい暑かった。
だから学生寮の一室に集まっていた連中の一人が『肝試しに行こう』と言い出したとき、他の連中は退屈しのぎと憂さ晴らしとその場のノリから全員一致で近所の墓地に繰り出したのだろう。
ルールは至って簡単、二人一組が墓場の一番奥にある石碑の前に持参した蝋燭を点火して立ててくると言う、ちょっと参加者の正気を疑うものだった。火の始末とかそう言うことは考えていないらしい。
案の定、事あるごとに吠えるように叫び、与太話で場を盛り上げようとする連中に対して『住人』の皆さんの態度は冷ややかだった。殆どは天寿を全うし、現世に残した家族や子孫にきちんと供養されている方々なので大概は眉をひそめる程度だったが、不慮の事故を遂げたり病気で若くして亡くなった、若しくは誰も供養してくれない方々の表情はどんどん物騒になっていく。また、いきなり現れた侵入者に対してちょっかいをかけ始める小さな子どもや若者も現れ始めた。
「…… なあ、ちょっと寒くない?」
事故にあったときそのままの姿をしたお嬢さんが肩にしなだれかかり、面白がった子どもに小石をぶつけられ、そこに座れと説教を始めようとする御老人に立ち塞がれ、ある意味一気に賑やかになったその場で不安そうに首を竦める連中。それでも一応は何事もなく全員が石碑の前に点火した蝋燭を立てて墓地を去ったあと、僕は必死に周囲の皆さんに詫びを入れて回った。大概は『若い連中は仕方ないねえ』と許してくださったが、やはりというか当然というか、頑固な御老人には『何を考えているんだ!』と怒鳴られた。それでも周囲の方々が宥めてくれたので何とか場は収まり、僕は当然の責任として後始末を始めることにした。
学生寮の部屋割りは四人一組。肝試しのメンバーは八人。
幸い肝試しで組になったメンバーは部屋割りに準じていたので、僕はとりあえず蝋燭を返してやることにした。一番インパクトがありそうなのは点火した状態で机に立てておく演出だったが火の用心的な意味で却下、その代わり二本に折った蝋燭を各自の通学鞄に一本ずつ突っ込んでおくことにする。これで懲りてくれたら良いのだが、連中にとっては、せいぜい新しい寮内七不思議が爆誕する程度の騒動だというのは長年の経験上から判っている。
かつてこの学生寮で自殺した僕は、いつまでこんな風に『向こう側』に行けないまま彼らに微妙な警告を与え続けなければいけないのだろうと、ふと思った。