地獄は地下にはない、この世にある。
何とか絶えられるレベルの不幸が立て続けに襲いかかってきたとき、人は己の人生について真剣に考える。だから、たまには不幸に見舞われるのも悪くない。
最近は、気が付くとそんな戯れ事を呟きながら仰角四十五度の中空に定まらない視線を向けているような気がする。現実逃避と言われそうだが、実際現実というシロモノは人間の背中にぴったりと貼り付いて剥がれない子泣き爺のようなもので、どんなに遠ざかったと思っても律儀にその姿を変えぬまま、或いはより凄まじい姿となり、人間が振り向くのを待っていてくれるのだ。
事の起こりは交通事故だった。原付バイクでうっかり車の脇をすり抜けようとして、左折しようとした車にぶち当たったのだ。
幸い悪運は強い方なので原付の下敷きになった割に軽い打撲で済んだが、当然のように警察は来るわ取り調べが終わった頃には右脚が北斗の拳のケンシロウ並みに膨張するわ病院はたらい回しにされるわ職場に連絡を入れたら上司に怒られるわと散々だった。とどめが保険屋と連絡が取れない時間だったので治療費は一時金を負担することになり、何だか呆然とするしかなかった。
翌日から休みを貰って警察に出頭して病院で治療して保険会社と連絡を取って書類にサインしまくり、それでも何とか自体が落ち着いた一週間後。
通勤帰りに信号待ちをしていたら、後続車に突っ込まれて玉突き状態で、もう一度右脚をヤった。
見覚えのある警官に同情されながら検証を終え病院に行ったら担当医が執刀中だと言われ職場に連絡したら絶句され、やはり呆然とするしかなかった。
保険屋には凄まれ病院には嫌がられ上司には引っ越せと無茶を言われ、手続きに必要な書類を役所まで取りに行ったら改装のため更地になっていて遠方の仮庁舎まで出直す羽目になり、結局全てが終わるのに数ヶ月かかった。
そして事態が落ち着いた頃、不意に実家から手紙が届いた。人寂しいのか、母はたまにこうやって手紙を送って寄越すのだ。だが、長年の経験から何となく厭な予感を拭えないままに読み進めた手紙の最後には、こうあった。
お前が交通事故にでも遭っていないかと、よく新聞でそちらの地名の記事を探します。
もし何かあったら加入してある保険を遠慮無く使いなさい。
何とか絶えられるレベルの不幸が立て続けに襲いかかってきたとき、人は己の人生について真剣に考える。だから、たまには不幸に見舞われるのも悪くない。
最近は、気が付くとそんな戯れ事を呟きながら仰角四十五度の中空に定まらない視線を向けているような気がする。現実逃避と言われそうだが、実際現実というシロモノは人間の背中にぴったりと貼り付いて剥がれない子泣き爺のようなもので、どんなに遠ざかったと思っても律儀にその姿を変えぬまま、或いはより凄まじい姿となり、人間が振り向くのを待っていてくれるのだ。
事の起こりは交通事故だった。原付バイクでうっかり車の脇をすり抜けようとして、左折しようとした車にぶち当たったのだ。
幸い悪運は強い方なので原付の下敷きになった割に軽い打撲で済んだが、当然のように警察は来るわ取り調べが終わった頃には右脚が北斗の拳のケンシロウ並みに膨張するわ病院はたらい回しにされるわ職場に連絡を入れたら上司に怒られるわと散々だった。とどめが保険屋と連絡が取れない時間だったので治療費は一時金を負担することになり、何だか呆然とするしかなかった。
翌日から休みを貰って警察に出頭して病院で治療して保険会社と連絡を取って書類にサインしまくり、それでも何とか自体が落ち着いた一週間後。
通勤帰りに信号待ちをしていたら、後続車に突っ込まれて玉突き状態で、もう一度右脚をヤった。
見覚えのある警官に同情されながら検証を終え病院に行ったら担当医が執刀中だと言われ職場に連絡したら絶句され、やはり呆然とするしかなかった。
保険屋には凄まれ病院には嫌がられ上司には引っ越せと無茶を言われ、手続きに必要な書類を役所まで取りに行ったら改装のため更地になっていて遠方の仮庁舎まで出直す羽目になり、結局全てが終わるのに数ヶ月かかった。
そして事態が落ち着いた頃、不意に実家から手紙が届いた。人寂しいのか、母はたまにこうやって手紙を送って寄越すのだ。だが、長年の経験から何となく厭な予感を拭えないままに読み進めた手紙の最後には、こうあった。
お前が交通事故にでも遭っていないかと、よく新聞でそちらの地名の記事を探します。
もし何かあったら加入してある保険を遠慮無く使いなさい。