馬鹿正直な職人と愛情過多気味の義母が小さな奇跡
俺が一番最初に作って母に贈った櫛が何の前触れもなく割れた時、町に出かけていた妻の眼前をハンドル操作を誤った大型トラックが掠めていったと言う。櫛は俺よりむしろ妻の方を好きだと公言して憚らない母が庭の隅に埋めたが、数年後にはそこから植えた覚えのない椿の樹が生えてきて、櫛に彫り込んだ俺の拙い模様などより遙かに見事な椿の花を幾つも咲かせている。
俺が一番最初に作って母に贈った櫛が何の前触れもなく割れた時、町に出かけていた妻の眼前をハンドル操作を誤った大型トラックが掠めていったと言う。櫛は俺よりむしろ妻の方を好きだと公言して憚らない母が庭の隅に埋めたが、数年後にはそこから植えた覚えのない椿の樹が生えてきて、櫛に彫り込んだ俺の拙い模様などより遙かに見事な椿の花を幾つも咲かせている。