カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「電気」「コーヒーカップ」「ゆがんだ恩返し」ジャンル「ホラー」より・苦い飲み物

2014-12-09 22:07:55 | 三題噺
 彼女の淹れるコーヒーは非常に濃く、それは誰が何度注意しても変わらなかった。それでも一人だけ、濃いのが好みだから淹れて貰ったの飲み物をと残さなかった男性社員もいたが、それはあくまで社交辞令で、程なく妙な誤解を始めたらしい彼女を初めはやんわりと、しまいには露骨に避けるようになった。やがて彼女は仕事を辞め、暫く後に事故とも自殺とも付かない状態で亡くなったと風の噂で聞いた。

 その後、職場には新しいコーヒーサーバーが設置されたのが、何故かどれたけ調整しても豆を変えても濃く苦い味にしかならない。
コメント

「雪」「井戸」「増えるツンデレ」ジャンル「指定なし」より・爺様の遺産

2014-12-08 19:57:59 | 三題噺
 毎夜のように庭の井戸の底から這い上がって来る、長髪で顔を隠した白服の女があまりに鬱陶しいので井戸の縁に手をかけて身を乗り出してきた辺りを狙って雪玉をぶつけてやったら、バランスを崩して再び井戸の底に落ちていった。これで静かになると思いきや、今度は時間差を付けて老若男女器物妖怪取り混ぜた様々な格好で現れるようになった。

 気が向いたときにアレの相手をしてやってくれ、ただしあまり近付きすぎないように。

 そんな遺言と共にこの古屋敷を俺に譲ってくれた爺様は、一体「何」をあの井戸に棲まわせてしまったのだろうか。
コメント

「黒色」「告白」「壊れた遊び」ジャンル「大衆小説」より・救済の火焔

2014-12-04 18:33:48 | 三題噺
 奴の趣味は自分に告白してきた相手を騙して弄ぶというドス黒いものだが、あんな屑の外面に騙される相手に同情は出来ない。大体が散々周囲に止められても聞く耳を持たなかった結果なので尚更だ。

 だから、姉貴が奴の告白を受け入れたときは激烈なまでに反対した。が、全てを知った上で、それでも「あの人を信じて、救ってあげたい」と静かに微笑んだ姉は俺の忠告を受け入れず、結果として他の女達のように弄ばれ、捨てられた。
 それからすぐに焼身自殺を図った姉は身籠もっていたが、奴は自分の子ではないと頑なに言い張るばかりだった。

だから、俺は奴に灯油をかけて火を付けた。死にはしなかったが酷い火傷の痕を顔に焼き付けた奴に騙される女も、もうこれでいなくなるだろう。
コメント

「西」「笛」「バカな枝」ジャンル「学園モノ」より・目指せ就職率百パーセント

2014-12-03 20:46:20 | 三題噺
 西洋の有名なお伽噺にあやかった魔道士養成学校の卒業試験は、まず森に行って適当な枝を手に入れ、笛を作らなければならない。
 次にネズミを捕まえて籠に入れておき、当日に試験官の前で笛を吹いて操って見せるのだ。

 ちなみにネズミの操り方だけでなく笛自体の出来や音色や演奏術、当日の服装及び試験官に出した茶菓子まで採点対象とされるのは、学生が魔道士として仕官や開業が出来なかった場合に備えた一般職能確認と進路指導の為だと言う。
コメント

「黄昏」「タライ」「ゆがんだ主従関係」ジャンル「青春モノ」より・それは毒入り檸檬のように

2014-12-02 21:46:03 | 三題噺
 家が隣で親同士が友達、更に産湯を使った産院も産まれた日も同じという完全無欠の幼なじみに、オレの人生は物心つくかつかないかの頃から散々に弄ばれてきた。しかも双方の親公認でだ。

 だから「大事で内密な話がある」と黄昏時の校舎裏に呼び出されても、愛の告白とか甘いことは一切頭に浮かばぬまま、どうせ面倒事を持ち込んできたのだろうとしか思わなかった。
 そしてそれは実際にその通りだったのだが、結果として頭の逝ったストーカーやら他校の生徒会長やら極道教師やらが絡んだとんでもない騒動の末に、何故かアイツとオレの恋人としての付き合いが始まることになった。

 どうにもこうにも、世の中というのは逃れようのない罠が充ち満ちているものらしい。
コメント

「桃色」「コタツ」「きわどい子ども時代」ジャンル「ミステリー」より・冬の日の思い出

2014-12-01 20:53:41 | 三題噺
 弟は六つになる前に死んだ。冬の寒い日に掘り炬燵に潜り込んで一酸化炭素中毒になったのだと言う。あの頃は炬燵以外の暖房器具がなかった我が家は弟の保険金で新しい家を建てた。
 妹は十三の時、三番目の父と一緒に死んだ。耐震装置が無い古いストーブが倒れて家と一緒に燃えたのだと聞いた。母は火災保険でさらに立派な家を建てた。

 きっと僕が死ななかったのは、母が今でも一番愛していると公言して憚らない最初の父にそっくりだったせいなのだろう。
コメント