カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

『雪』と【不思議 】より・獣雪の季節に

2015-10-20 19:57:16 | 物書きさん、お題です
 お前は獣雪を知っているかと聞かれ、知らないと答えると、やっぱり知らないかと返事が返ってきた。何でも、以前何処かで読んだ物語の中に出て来た、人を狂わせ殺戮に走らせる雪のことらしい。
 多分作者の創作なんだろうが、辺り一面を覆い尽くした新雪に緋色が散らばった光景はさぞ美しかろうなとヤツは笑った。

 当然かもしれないが、俺はそれ以来ヤツと冬に会うのを止めた。


作者註:文中の「獣雪」は、たがみよしひさの短編に出て来ました。
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『子供 』と【寂しい】より・架空の友達

2015-10-19 20:05:54 | 物書きさん、お題です
 寂しい子供って良く「架空の友達(イマジナリーフレンド)」を作るって言うだろ?
俺も昔、親が近所の子と仲良くしちゃいけないって言うから家の蔵の中で遊んでいたんだけど、よく着物姿の可愛い子とお手玉とか鬼ごっこをしていたな。
 でも、その子に会えなくなってから親の仕事が不運続きで家も土地も手放して引っ越して、きっと親戚の子だったのだろうと訊いてみても、俺以外の誰もそんな子は知らないって言うんだ。
 だからきっと、あれは俺のイマジナリーフレンドだったんだな。

「いや、それはイマジナリーフレンドとは別物だろう明らかに」
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『二度目の初恋』と【嬉しい】より・二番目の彼女と三番目の妻

2015-10-16 23:40:59 | 物書きさん、お題です
「初恋は二度目で、結婚は三度目で真の相手が見付かる」が口癖だった伯父は、当然のように派手な女性遍歴を重ね、最期には親戚一同に縁を切られた状態で、複数の女性に看取られながら病院の一室で亡くなった。それは一般的には想像するだに恐ろしい修羅場ではないかと思うのだが、何故か彼女たちは一致団結して粛々と伯父の葬式を上げ、その後も墓参りを欠かさなかったそうだ。
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『姉』と【低い】より・柱の傷は一昨年の

2015-10-15 21:35:29 | 物書きさん、お題です
 昔は背が低かった姉は、子供の頃一緒に歩いていると高確率で私の妹に間違えられた。それが悔しかったのか、姉は常に牛乳を飲み続けながら運動を欠かさなかった。やがて長身ついでに筋肉質と言って良い状態まで成長した姉は嬉しそうに、毎年初詣で神様にお祈りし続けた甲斐があったと笑ったが、多分それは違うと思う。

 こうして、お人形のように小さくて可愛らしかった姉はターミネーターに変わった。
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『子供 』と【未来】より・砂糖菓子と硝子片

2015-10-14 19:28:32 | 物書きさん、お題です
 子供の頃に考える「将来の夢」とは大概がその場限りの幻想で、無責任なまでの甘みを一頻り味わった後には何一つ残らないというのが相場だ。そして大人になった今、かつて抱いていた夢の屍を次々と打ち棄てながら進んできた道を振り返ると、砂糖菓子のように甘いものだとばかり思っていた夢の残骸は砕かれた硝子片のように無残な切っ先を晒していて、たまに触れた指を傷つけたりするのだ。
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ケータイ』と【別れ】より・貴方をなくした私

2015-10-13 19:57:28 | 物書きさん、お題です
「もう止めてくれ」
 携帯から聞こえてきた彼の一言で、私たちの関係は終わった。実にあっけない別れだが多分これで良かったのだろう。私は彼のことをよく知っていたが、彼は私のことなど知らなかったし、途切れることのない贈り物と無言電話の真意を彼は理解出来なかったらしい。

 だから、今度は別の相手にもっと上手くやろうと思う。
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『泣き虫』と【今】より・罪と罰と記憶

2015-10-12 18:24:33 | 物書きさん、お題です
 子供というのはどうしようもないモノで、俺は小学生の時に同じクラスだった奴を散々苛めていた。別に奴が嫌いだったわけでも迷惑を掛けられたわけでもなく、強いて言えば大人びて妙に達観した不思議な雰囲気が怖かったのだ。

 やがて大人になって遅まきながら自分の非道に気付いた俺が謝罪した時、奴の答えは「失礼ですが、どなたですか?」だった。
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『裏切り』と【たとえば】より・確信妄想

2015-10-09 21:54:11 | 物書きさん、お題です
 例えば貴方が私を裏切るならと言う妄想に苦しむ私を、貴方は笑うだろうか、それとも軽蔑するだろうか。それでも私は実にしばしば貴方に裏切られる自分を妄想する。貴方に裏切られボロボロになりながら、それでも貴方に対して最後の、そして極上の笑顔を向ける自分の姿を。
 それは貴方に対する愛だろうかと自問自答する私が愛しているのは、きっと自分自身だけなのだろう。
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『姉』と【高い】より・優しくて可哀想な姉

2015-10-08 18:50:35 | 物書きさん、お題です
 いつだって姉の口癖は「かわいそう」だ。
 捨て猫、泣いている女の子、事故による怪我人、人死にが報道されたニュース、それら全てを「かわいそう」と言うが、同時に「でも、私にはそれを助けるだけの力が無いから」と哀しげに目を背けてしまう。

 多分、姉にとっては無力な自分が一番「かわいそう」なのだろう。
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『体温』と【仮】より・大和煮さんとフライドくん

2015-10-07 19:39:00 | 物書きさん、お題です
 うちの鯨のぬいぐるみであらせられる大和煮さん(父が命名、無闇にデカい)は、たまに窓辺に出しておくとその黒い体で思う存分太陽光を吸収するのか日向の匂いと共に温もるリラックスグッズと化し、しばしば家族内で仁義なき争奪戦が繰り広げられることになる。ちなみに大概、この戦いの最終勝者はうちの猫のフライドくん(母が命名、きつね色の鉢割れ)となることが決まっているのだ。
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