カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

店の名は琥珀亭・さよならは言わないで

2017-06-21 22:22:13 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【嘘つきの純情】というテーマで創作してください。

 そろそろ、この街でも俺の歳を気にし出す奴が出るだろうし、奴がまた俺を殺しに来て町が破壊されたら洒落にならん。幸いこの街の近くには幻獣界の入り口があるからほとぼりが冷めるまで匿ってもらうさと軽く答える店長。何処にそんなモノがと尋ねる楽師に、お前の前に拾った狼がちょうど故郷に帰る途中の幻獣だったんだよと呟いてから店長は明日の早朝出て行くと宣言した。
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第十二夜・天国旅行

2017-06-20 20:59:29 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『長長し夜を』と『松葉色』を使って創作してください。

 防砂林を抜けた先には砂浜があり、月ばかりが奇妙に明るい夜空の下で波の音を繰り返し響かせている。そのまま特に何をするでも無く沖に目を向けていると、不意に傍らから掛けられる声。

「かえらないの?」

 そう尋ねられた俺が何処へ?と尋ね返すと、かえれなくなる前にいった方が良いよと呟いて声は消えた。

 それでは、そろそろ逝くべき場所に還ろうか。
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店の名は琥珀亭・始まりの天使

2017-06-20 20:42:32 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【へたくそな口笛を捧ぐ】というテーマで創作してください。

 姫の国を滅ぼしたのは今で言う国教教会の僧兵どもだが、その中に『天使』と呼ばれる凄まじい力を持った少年兵が居て、俺はそいつに憎まれていると店長は言った。当然楽師はその理由を尋ねるが、始めに顔を合わせた時に憎悪に満ちた表情で父さんと叫ばれた。心当たりは無いから人違いだろうが、それ以来出会う度に何度も殺されているぞとは店長の談。
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第十一夜・十力の金剛石

2017-06-19 20:08:50 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『萌木色』を使って創作してください。

 空を見上げると、梅雨時の重く重なり合う雲から絶え間なく降る雨粒が木立の若葉を濡らしていく。あの子がもし天に還ったのだとしても、例えこの地上の土に入り混じったのだとしても、きっとこうやって細かな粒となって天から降り、染みこんだ地中から立ち昇って緑を育て、ずっと世界を旅して廻るのだろう。
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店の名は琥珀亭・居られない理由

2017-06-19 19:51:21 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【指の意味】というテーマで創作してください。

 お前もどうだと飲ませたワイン一杯であっさり撃沈した娘を寝かせてやってから、結局その国は姫が継いでから三代程で滅びたと話を続ける店長。
 しかし、その全てを見届けたなら一体何歳なんだと楽師が問うと、店長は指を何度か折るように数えてから諦めたように忘れたと答える。それが街を出ていく理由かと更に楽師が問うと、店長はまだあるし、実はそれの方が深刻だと答えた。
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第十夜・変わる人と変わらぬ青

2017-06-16 21:29:06 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『まつとし聞くかば』と『青磁色』を使って創作してください。

 子供の頃よく近所で一緒に遊んでいた少女は、いつも夕方になって私が家に帰るのを自分は帰らぬままずっと見送ってくれていた。その子は私が入学した小学校には見当たらず、今となってはくすんだ青いワンピース姿しか思い出せないのだが、やがて結婚した私の娘が近所で仲良く遊ぶようになったと言う少女は、常にくすんだ青いワンピースを着ているそうだ。
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店の名は琥珀亭・少年の決断

2017-06-16 21:07:37 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【呼ぶ声は遠く】というテーマで創作してください。

 その後、居合わせた店長に対して『我ガ主ノ匂イガスル』と呟いた黒い犬が幻獣だと判明して、一同は重大な決断を迫られた。つまり兄王子派と妹姫派が血眼になって捜している少年を何処に匿うか、果たしてこの地上に安全な場所は存在するのか。
 結局、父親を殺した人間に対する恐怖と嫌悪を拭い去れなかった少年は、例え人の姿を失い獣の姿に変わり果てるとしても幻獣界で暮らすことを自ら望んだ。
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第九夜・泣く女

2017-06-15 19:56:26 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『乱れ染めにし』と『時雨の色』を使って創作してください。


 始めは鮮やかな葡萄色が斑の入った赤紫に変わり、やがて濁った黄色混じりの色となる。今まで身体のあちこちに叩き込まれた痣がそんな風に治っていくのを私は何度も見てきた。けれどコレはもう治らないだろうと見下ろす彼の身体は無数の重なり合った緋色に染まっている。

 もっと早くこうしていれば、コイツと私の赤ちゃんも死なずに済んだのに。
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店の名は琥珀亭・獣の忠誠と慈愛

2017-06-15 19:40:29 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【雪の中のきみを弔う】というテーマで創作してください。

 あの話ならまた聞きたいと部屋に居座る娘の前で、店長は仕方なく話を再開する。

 姫の屋敷には大きな黒い犬が飼われていて、父親を殺され自身は何処かに連れ去られそうになった小さな息子を守って侵入者を皆殺しにしたまでは良かったが、その後も泣きじゃくる息子から離れず、現場に到着した国境警備兵にまで牙を剥いて唸るばかりだった。
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第八夜・たたろう

2017-06-14 20:57:19 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『むかしの友』と『萌木色』を使って創作してください。

 うちには田んぼがあるのだが、そこには「田太郎」と呼ばれる男の子が棲んでいるそうだ。それは神様と言うよりは妖怪に近い存在らしいが働き者で、田植えや稲刈りの際に何処からともなく現れて仕事を手伝ってくれるという。

 なお、住処を粗末に扱うと家を絶やすという恐ろしい一面もあると伝えられるが、米農家が自分の田んぼを蔑ろにしたら家が絶えるのはむしろ当然だと思う。
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