カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第九十七夜・台風一過

2017-10-17 22:35:53 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『乱れ染めにし』と『瑠璃色』を使って創作してください。

 凄まじい暴風を伴った豪雨が過ぎ去った後の空は、様々な形をした雲の残骸が取り残されたように黄昏に染まり、まるで頭のいかれた前衛芸術家が思うさまに画材をぶちまけたような惨状を呈していた。
 そんな中にウチで飼っていたミイによく似た姿を見付けて、私はただ涙を流す。あの日、癇癪持ちの父が振るったゴルフクラブは家の中を今の空と同じ光景に替え、ミイを奪ったのだ。
コメント

第九十六夜・紅葉おろしのゴルゴ

2017-10-16 21:08:32 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『月を待ち出で』と『紅葉色』を使って創作してください。

 うちのゴルゴは、目付きの悪さとサイズのデカさが近所でも評判の三毛猫だが、何故か二つ名を「紅葉おろしのゴルゴ」という。
 一体、どうしてそんな怪しげな名前で呼ばれるようになったのだろうと悩んでいたら、ある月の綺麗な晩に、ゴルゴの体重を支えきれなかったらしい紅葉の枝と一緒に僕の眼前に転げ落ちてきたので、だいたい納得した。
コメント

第九十五夜・てんでんご

2017-10-13 22:52:49 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『わが身一つの』と『藍色』を使って創作してください。

 天災時、いざという時に自分だけが逃げられるのか。そんな答えを即座に出せる人間は多分少ないだろう。だが、危険を察知した直後に家族を含む全てを振り捨てて命を永らえた時、私は自分がどれ程までに他人に対して冷酷になれるかを知った。だから現在、振り捨ててきた命の重みの分も含めて、どれ程の孤独に苛まれようと一人で生き続けるしかないのだ。
コメント

第九十四夜・大判焼きのララバイ

2017-10-12 22:56:22 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『立ち別れ』と『小豆色』を使って創作してください。

 故郷で過ごす休暇を終え、下宿先に帰ることになった僕に、珍しく父が何か包みを渡してきた。
 電車に乗ってからそれが大判焼きだと知った僕は、一応下宿先に着いた連絡時に礼を言っておいた。

 それからずっと、父は帰省した実家から新居に帰る僕に大判焼きを手渡してきて、お陰で僕は、昔は大嫌いだった筈の大判焼きを完全に食べ慣れてしまった。
コメント

第九十三夜・野生の帝国

2017-10-11 20:23:49 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『降れる白雪』と『雀色』を使って創作してください。

 古い言葉だが、冬の雀を『ふくら雀』と呼ぶことがある。寒い冬を乗り切る為に精一杯羽毛を膨らませ、文字通りふっくらとした外観となった雀だが、その姿が可愛いと思って近付くと、特に人間を恐れない都会の雀はトラウマになるレベルで物騒な目付きをこっちに向けて来る個体も少なくないので、注意が必要だ。
コメント

第九十二夜・花の終わり

2017-10-10 23:16:06 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花の色は』と『桜色』を使って創作してください。

 昔の貴族達が詠んだ歌では花と言えば桜で、だから花の色は桜色なんだよと言った彼は、夏に咲く鮮やかな色彩の花に心を奪われて私に問答無用の別れ話を切り出してきた。やがて夏の花がその色彩を失う頃、疲れ果てたように彼は戻ってきたが、その頃の私が纏っていたのは淡い桜色ではなく、血のように赤い紅葉色だった。
コメント

第九十一夜・降り続く花吹雪

2017-10-09 17:57:16 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『風のかけたる』と『桜色』を使って創作してください。

 たまに、漫画やドラマで吹雪のように渦巻く桜の花片を見ることがある。
 春の薄い色彩をした青空や星の見えない闇夜に散り急ぐ大量の花吹雪は、概ねは華やかでありながら同時にひどく物哀しい演出となるが、実は強い風に煽られて飛び回る桜の花弁は凶器同様で、頬に当たると結構本気で痛く、以降は花吹雪に対して抱いていた儚げなイメージが変質せざるを得ない。
コメント

第九十夜・天使の卵

2017-10-08 22:28:30 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『神のまにまに』と『鳥の子色』を使って創作してください。

 友人が旅行の土産だと言って天使の卵をくれた。基本的には食用だが孵化させることも出来るらしいので色々方法を調べてみたら、殆ど鶏の卵を孵す手間と変わらなかったので試してみることにした。三十日後、めでたく孵化した僕の天使はどうやら御使いだったらしく、ラッパを高らかに吹き鳴らして世界を滅ぼした。
コメント

第八十九夜・蜜柑と妹

2017-10-06 22:19:46 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『雲の通い路』と『蜜柑色』を使って創作してください。

 外国の丸いみかんも良いけど、やっぱり日本の平たくて柔らかいみかんが好きだなと笑った妹は、その年の蜜柑が獲れる季節になるよりも早く息を引き取った。そして私は今でも一人になると、しばしば蜜柑色の太陽が浮かんだ黄昏時の空を見上げながら、日本の蜜柑のように柔らかくて温かい色彩をした妹の笑顔を思い出すのだ。
コメント

第八十八夜・咲くは蔓花

2017-10-04 18:52:36 | 百人一首と色名で百物語
たかあきで『花の色は』と『橙色』を使って創作してください。

 東京で暮らしていたとき、夏の住宅街で狭い庭先を彩るノウゼンカズラの鮮やかな色彩を見ると元気をわけて貰えるような気がした。また、金属製の柵に絡んで不思議な円形の花を咲かせるトケイソウの造形に目を奪われた事もある。その頃の私は過酷な環境で花を咲かせる蔓草が、その生命力で他の植物を駆逐して繁殖する恐ろしさを知らなかった。
コメント