ドキュメンタリーの鬼才、原一男監督特集
「挑発するアクション・ドキュメンタリー 原一男」シリーズ。
「極私的エロス・恋歌1974」まさに私的ドキュメントの極み。
製作年度:1974年 本編98分
「さよならCP」に続く第二作目。こちらも白黒。
トノンレバン国際独立映画祭グランプリ受賞作品
監督自らが、かつて一緒に暮らし、子供を産んだ女性を執拗に
カメラで追い続けた作品。
とにかく相手の武田美由紀さんが強烈。
彼女が「S」で監督が「M」かって関係に見える。
3年間同棲していた武田美由紀は子供と共に家を出た。そして
「次の男の子供を産むから撮ってくれ」と言ってきた。
相手に未練タラタラの原一男監督は、彼女との繋がりを失わない
ために映画を撮影し始めた。
美由紀はその子という女性と沖縄で暮らしている。
そこでは凄まじい仲たがいが始まっていた。レズビアンの喧嘩か?
しかし罵るのは美由紀さんだけ。
「男と女ならSEXで誤魔化せるけど、女同士はそうはいかないさ」
監督に当たり散らすように言い放つ美由紀さん。やっぱ強烈。
美由紀の相手は黒人米兵。妊娠しているが、誰の子か分からない
ような事も言い放つ。分かるようなガキを産むのもつまらん…と。
黒人兵士も不安定なもんだと言い放つ彼女に「じゃあ、なぜ!」と
泣きながら詰め寄る若き原一男氏。
ちなみに美由紀さんは相手をずっと「原君」と呼んでいる。
詰め寄られても言い負ける彼女じゃない。まぁ、強いこと!
未練も嫉妬も曝け出しての撮影。
そこで原一男監督が次に打った手は…「いまの彼女を連れてくる」
はい、現在もパートナーとして原一男作品を支える小林佐智子さん
でございます。
黒くて長い髪が魅力的な小林さんは可憐で可愛らしい女性。
三つ編み姿もカワイイ。
※「あの」強烈なドキュメンタリー作品のプロデューサーとは…
武田さんに嫉妬させようと仕掛けた目論見は当たったか、原一男
監督は罵倒を一心に浴びる事になる。
なんと、ここで挿入されるのは「男と女ならヤっちゃえば済む、
もんな」のシーン。
喘ぐ美由紀さん、終わったあと横たわる顔は猛々しい普段とは
違い、おんなの表情を称えている。
持ち前のキャラクターで沖縄に腰を据えたかに見えた美由紀さん
だったが、黒人兵とは別れ、沖縄とも離別する決意を示す。
そして、出産のために東京へ帰ってくる。
「それを撮れ」と原一男監督に求める。お願いというより強制。
行き当たりばったり、行動は迷走…に見えるが彼女は堂々とより
困難な道を進んで行く。有無を言わせぬパワー。
彼女はアパートの一室で、出産を試みる。産婆も医療関係者もなし。
原監督はカメラを回し、小林さんは付き添う…。
ここで出産シーン。
わぁ、ホントに頭が出てきてるトコロ撮ってるよ!
「なにかあったらどうしよう」という緊張から、ピンボケで撮って
しまった、一生の不覚…という監督だが。
いやいや充分撮れてますよ。
後の「全身小説家」みたいに開腹手術がバッチリ撮れてるみたいな
シーンが続いたら私ゃ目の前が暗くなっちゃいますよ。
あの時は目を細めて自分でボヤかした。今回も同様です。
そして、松田さん出産時なんと小林さんも妊娠していた!
次は小林さんの自宅(?)出産。もうムチャムチャです!
さすがに毛布で隠されてましたが、陣痛で苦悶する表情は本物です!
この頃は武田さんがリーダーのコミュニティが形成されていた。
女性が自立するコミュニティ。
「さようならCP」同様、激動の時代のシッポが見える。
沖縄にもその空気が感じられた。
武田さんの彼氏はイケてなかったが、現地クラブで踊る黒人兵は
ファンキーでカッコよかった。
※流れる黒人音楽も!!
ちなみに原一男監督と美由紀さんの間に生まれた男の子は父親に
そっくりなのだが。
その子を「ぱっとしない顔だ」とか「何かに切り込んでいくような
男にはなりそうにないね。そういう面構えじゃない」と、言い放つ
美由紀さん。ミモフタもない。
原一男監督はその言葉に抗うように「カゲキな」映像を撮っている
ようにも見える。今でさえも。
母子の入浴シーンでは乳房をまさぐる子供の姿もあったが、それは
まさに原一男監督そのものにも見えた。