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今読むとゾッとする本>「復活の日」

2009年12月20日 | ブックレビュー

 小松左京先生の「復活の日」を読みました。私は小説「日本沈没」の大ファンですので先生の作品をあれこれ読みたいと常々思ってたのですが、先日市内の「図書館祭り」というところで文庫を100円で売ってたので…。(左京先生ごめんなさい)

 この話は1980年に草刈正雄主演で角川が映画にしてたのでご記憶の方も多いでしょう。小説と映画は当然大筋は同じでも細部はかなり違います。まずはこれがどういう話か紹介しましょう。

 ごく簡単にいうと、<ある国が開発した生物兵器をスパイが入手したが、運搬中に飛行機が悪天候で山中に墜落。雪解けとともにウイルスが漏れ出して世界中に感染をもたらし、あっという間に人類は滅亡。ただし南極大陸に800名ほどの人間を残して…>というもの。

 ここまでが第一部でこれだけなら「さて、南極に残った人の運命やいかに?」ということになるのですが、第二部では日本の南極観測隊にいた吉住という地震学者が、北米大陸に大地震が来ることを予知してしまいます。米国には他国から攻撃を受けた際に自動的に核ミサイルが発射される装置があり、大地震のダメージによりそれが稼動することも予想され、さらにはソ連にも同様のシステムがあることが発覚しただけでなく、そのうちの一つは南極の基地も標的になっているらしい…と。

 そこで米国とソ連のミサイル発射装置を解除するため数人の男達が命を捨てる覚悟でそれぞれ旅立つ、ということになるのですが、当然地上にはウイルスが蔓延しているので試作品のワクチンを摂取され…ということで難題は山積み。果たして人類は復活できるのか、という話になるわけです。

 その第一部で蔓延するウイルスは、見かけはインフルエンザなのですが実は心臓に取り付いて麻痺を起こさせ、感染後は本体が姿を消してしまうという恐ろしい病原体も内在しているというもの。なので「インフルエンザのようでありながら実は謎のポックリ病」なんですね。この治療のために不眠不休で治療に当たる医師や看護士が力尽きてバタバタ倒れる様子はゾッとします。

 また、今の新型インフルの流行を鑑みても思い当たるような記述がいろいろあって、いくつか例を挙げると、

<ワクチン、ワクチンっていうけど、つくるとなれば大変なんですよ。卵に菌種を植えつけて、ワクチンをつくるまで百日もかかるんです。いま製造能力も多少ふえてるけど、日本中の製造能力をフルに使っても…さあ、全国民の三割分もできるかしら…>

<豚のインフルエンザは、人の流感、特にA型とよう似とる。スペインかぜのときは、豚がようけカゼひいたんやで。>

<そこでかさねて警告しておきたいのは、世界中、一般人の間で、インフルエンザという病気が、体験上、比較的かるく見られている事である。>

などなど。この話ではまず鶏にも感染したので卵が不足してしまってワクチン供給が困難になります。さらに毒性が強くてワクチンを3回摂取せねばならんと。ということは、既にかかった人も1回では免疫が形成されないとかいうことになってて、いちいち恐怖を煽る過程が周到です。

 読めば読むほどゾッとする話なのですが、是非今読んでみるべき本ですね。核ミサイルのシステムを構築した米大統領がブッシュ前大統領を彷彿とさせたりしますが。また、最後にもちゃんと仕掛けがあって、本来人類を感染症から救うためであるはずの医学が生物兵器を生み出して人類を滅亡させ、そのウイルスから南極に残った人間を救ったのは皮肉にも…という結末。(一応ネタバレしないようにしときます。)

 私の買ったのは角川文庫の1980年版ですが、なんと初版本は1964年の早川書房版なんですと。もう45年前ですか。小松左京先生は予言者ですか?と思ったり、あるいは45年前から警鐘を鳴らされてた問題がいまだに解決されてないということがわかったり。

 今はハルキ文庫でちゃんと新品が買えるようですので、関心を持った方は是非どうぞ。面白いですよ。