江國香織
『左岸�』★★★
ハードカバーを新書で読んで、今回は文庫版で。
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結局のところ、ほんとうに必要なものなんてそんなにはないのだ。
「でもね、物事には準備する時間は与えられてないんだ」
さよなら、またね。
大切なのは、受け容れられ、望まれるということだった。家族とか、学校とか職場とか、そういう背景と一切関係ない場所で、自分が誰かに望まれるということ。心だろうと身体だろうと構わない。何をもったいぶる必要があるのだろう。
空気は全部つながっている、
好意に甘えることと利用することとはどう違うのだろう。
「あたしたち、利用しあってるんじゃない?」
「考えるより、まず、飛び込む。それが必要な場合もあるのよ」
誰一人、おなじ場所にとどまってはいられない。
「あのね、誰かが心の中で何を思っているか知りたいと思ったり、わかったと思ったりするのは想像力だわ。口にだされなかった言葉をくみとるために、必要なのはつねに想像力なのよ」
「シアワセだ」
知らなかったことを知ると、知る前よりすこし遠くに行かれる。
4 恋におちる
人の人生にはいろんなことが起こる。そして、それは外からは見えない。
幸福な驚きと幸福な安心、幸福な胸苦しさと、幸福な自信。
まるで二つの人生を持っているみたいだ。
知らなかったことがどんどん起こる。そして、誰一人ひとところにとどまっていられない。
こんなにしあわせで、どうしよう。足が竦んだ。そして考える。しあわせすぎると足が竦む。このごろいつもそうだ。
「家族は一緒に暮らすべきだよ」
人は、なんてあっけなく死んでしまうものだろう。
ほめ言葉は鵜呑にしてはいけない。
「わからないわ。どんな場所も、行ってみなくちゃ絶対にわからない」
――どんな職業でも、大切なのは実力と人格です。それがあれば、何も恐れることはない。