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“ISOを活かす―4. 工程内検査の活用によって、生産性を向上させる”



事例4は OA機器メーカーでは“工程内検査”を無くしたためトラブルが増加したという事例です。

【組織の問題点】
OA機器メーカーA社では 認証取得したISO9001:1994から 2000年版への更新審査で 規格の要求事項がなくなったこともあり、生産向上のため“工程内検査”を無くしたが、逆にトラブルが増加し、生産性が悪くなり困っているという問題です。

1994年版のISO9001では“4.10 検査・試験”に “4.10.2 購入検査・試験”,“4.10.3 工程内の検査・試験” ,“4.10.4 最終検査・試験”の規定があり、工程内検査を やる必要がありました。A社では 要求事項に従い 工程検査をやっていたのでしょう。2000年版のISO9001では“検査”の項目が消えてしまいました。A社では 要求事項がないので 工程内検査の意義を見失い 見かけの生産性向上のため これを止めたものと思われます。

*ISO9001:2000年版で“検査”の言葉が 登場するのは以下の2箇所です。“7.1 製品実現の計画”のc) 項 と “7.4.3 購買製品の検証” でプロセスの中の要求事項として “検査”を挙げているだけです。
ですが、“検査”の 実体的要求事項として “8.2.4 製品の監視及び測定”で“監視及び測定は個別製品の実現の計画に従って、製品実現の適切な段階で実施すること。”になっています。ですから、厳密に言うと2000年版の要求事項からは “工程内検査”を 廃止する必要性は ありません。

【磯野及泉のコメント】
この本の著者は “工程内検査”の意義を3つの効能として説明しています。
①製品が完成してしまった時点では検査ができない場合の有効性 ②生産ロスの低減 ③適切な工程内検査を行うことで、その製造工程のレベルが判断できる。
“したがって、工程内検査は・・・・省略するのではなく、製品の品質保証と生産性の向上に活用することができます。” と著者は指摘しています。

さて、“検査の工数を増やして品質を維持する” という考え方の方向性は 正しいのでしょうか。
確かに著者の指摘通り、建設現場での建築途中での工程確認を兼ねる中間検査は 大切なように思われます。しかし、この事例でのA社のように、“中間検査を省略したら最終検査での品質が悪くなった。” というのは そもそも その生産工程の技術水準が 低いことを 示しているのではないでしょうか。
品質工学では “検査は省略しろ!” と言っています。検査をしなければならない生産工程の技術は 欠陥だらけだという認識があるからです。品質工学では “ロバスト(劣化を含め外部条件に乱されない)技術の確立”を目指します。そして “検査”を当てにしなければならない生産技術は 確立された技術ではなく、開発途上の技術だと言うのです。もし、そのような“弱い”技術の生産工程で 商用生産しているならば、問題だというのです。この原因は設計・開発マネジメントに欠陥があると言うのです。

この事例は、品質工学を持ち出さなくても、普通に考えても分かる話です。これまで中間検査では一体何をしていたか。このようなA社の状況では、中間検査で 当然 不合格品は出ていたはずですから 手直しをしていたものと思われます。つまり これまでは隠れたコスト・アップ要因を抱え込んでいたのです。この問題を解消せずに 中間検査を省略すれば、最終検査で不合格品が増えるのは当然です。

そもそも“検査”の本質は何か。“検査”によって本当に品質保証が可能なのでしょうか。
モノによっては“検査”できないものがあります。例えば 溶接です。溶接部分の検査を完璧に行おうとすれば 外観だけでは駄目で、完璧な検査を行おうとすれば溶接部分を取り出して 破壊検査を行うか 溶接部分の断面組織観察を行う必要があります。そんな ことをすれば 検査の度に溶接部を 切り出さなければなりません。それは 全く無意味です。だから 工程保証という形を取っています。つまり、適正な技術条件を満足していれば それで一応大丈夫だろう、という考え方です。そこで、溶接者の技能も重視されています。これには資格制度もあるくらいです。
“建物” の検査も この本で指摘しているように困難です。入り組んだ建築工程の中で 逐一工程内検査をやるというのも煩雑なことです。ある程度は 真面目な 工程管理によって品質保証せざるを得ません。

世の中には“検査”できないものもあるのに“検査することで品質保証は可能”、と考えることの危うさを思うべきです。安易に 検査を増やしても無意味で、コスト・アップ要因にしかならない場合もありうるのです。
以前に ご紹介した西堀栄三郎氏の言葉「検査課の強大な会社ほど、品質は良くない。」は 至当だと思います。

このOA機器メーカーでは “検査” よりも品質工学で 言われるように技術の本質を見極める作業が必要です。設計・開発プロセスでのマネジメントを見直し、技術の本質に迫るための体制強化が必要だと思うのです。これが 本件での本質課題だと思います。
検査偏重の意識は 改めるべきでしょう。だからこそ、ISO9001の規格から“検査”という言葉が 隅に追いやられたのだと思うのです。
ですが、品質工学の碩学が 言われるように“検査の省略”を 声高に言うつもりは 私には ありません。出荷前の 最終外観検査は 重要だと思います。この検査は ポカミスも含めて想定外の製品異常には 結構、有効だと思うからです。

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コメント
 
 
 
ポイントの枠設定ミスです (磯野及泉)
2007-02-28 02:18:51
スミマセン
ポイントの総括枠が事例3のものでした。
今(24時間経過した2/27深夜)まで気付きませんでした。


改めて 差し替えました。スミマセン。
 
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