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今後の経済動向について―金融機関セミナーに参加して

先週、震災後というか今後の経済動向についての金融機関のセミナーが2つあった。いずれも、その見通しが彼らの営業に直接影響するので、何らかのバイアスがかかっているものと考えるべきかも知れない。しかし、私自身に何の定見も持てていないことから、何がしかの思考の手掛りを得られるものとの期待で参加に赴いた。
2つの金融機関の内、1つは古くからある日本の名門証券会社でありながら、山一証券の倒産事件以降、紆余曲折の激変を経て来た会社であり、もう1つは これも戦前から日本に進出していた外資系金融機関である。

日本のGDPについて、先週2011年1~3月の発表があったが、震災の影響は90日中20日分だったにもかかわらず、結果としてその影響は甚大である印象だった。その発表前のセミナーだったが、日系証券会社の情勢分析は次のようだった。
今後のGDPの推移は対前期比で2011年4~6月は1%程度のマイナス、7~9月期からプラスに転じるが1%未満であり、震災前に予想されていた景気の踊り場脱出までには及ばない、というもの。非常に残念だが仕方ない。その内容は、個人消費は10~12月からそろそろプラスに転じ、輸出も同じ傾向といずれも少々渋い結果となっている。国内公共投資は夏場から本格化し、10~12月に前期比+5%と変化率がピークに来ると見ている。この見通しは、国内の調査予測機関の見方としては厳しい部類だという。各機関の見方の差は、来年に向けての回復の見方の強弱によるもの、特に夏場への回復速度の実績が強く影響するとの推測とのこと。
今後の供給制約懸念として、電力不足と部品不足がある。電力は浜岡の停止により、全国的に深刻な事態となった。今後の原発定期点検後の再稼動の可能性が低下すればさらに電力供給能力に悪い影響を与える。これらの結果として、日本の国内生産力は低下し輸出数量は低減、もしくは横ばいとなるとの想定が上記のGDP予測の背景にある、との説明だった。だとすれば、国内は相当暗い予測となっているが、復旧・復興のための公共投資期待となるのだろうが、それ自体も当初から財源をめぐる議論となっていて、足枷がかかってしまっている。

米国の経済状況は、企業増益がハイテク企業(インテル、アップル等)を中心に堅調であり、大手銀行の不良債権処理もピーク・アウトし、好調に推移。その結果、雇用市場は回復基調であり、株式資産効果も見られて、米国個人消費は堅調であるとのこと。この状況を見て、金融緩和QE2は6月に終了との決定を見ている。
中国経済については、金融引締めを実施しているにもかかわらず、経済指標は上向いており、結果バブルの崩壊懸念は後退してきている。
ヨーロッパ、特にEU諸国ではアイルランド、ポルトガル、ギリシャの債務国問題がある。このデフォルトをどう回避するのか。ユーロ安でドイツ企業は好調となり、恩恵を受けたにもかかわらず、資金援助を回避するためにユーロ脱退の選択肢も考慮し始めているのではないかと言われているとのこと。

こういう経済環境を背景に、5~9月の間に復旧の動きはさらに加速するが、先行見通しに紆余曲折あり、夏場の電力不足の影響度により一時的に日経平均で二番底を見ることもありうる。原発の将来像をめぐって政治のリーダー・シップが問われる。
米国のQE2終了は、一時的な米国株価の抑制へつながるが、過剰資金による資源、エネルギーの価格上昇に見られるインフレ懸念は低下すると見られる。これは特に新興国の株価にはよい影響となる。
一方、ヨーロッパの懸念は、スイスやオーストラリア、日本等への一時的な資金移動を見る可能性は高くなる。また、日本円に関しては復興に伴う財政支出の拡大によるマンデルフレミング効果が懸念され、国債増発による利上げ傾向から、外資流入、円高、株安となるので、余程の大規模な金融緩和策が必要となる、ということであった。増税は当然不可で、しかも国債増発不可となればどうするのが適正なのか・・・・。
しかし、日本の株式市場ではこのところ海外投資家が日本株をかなり買い越しているという。発災後、自動車やハイテクの主要企業で業績予想を下方修正するところも多いが、個別には、震災被害の小さいファンダメンタルズの優良な企業では、収益予想を上方修正するところもある。したがって、今は優良株や復興需要の見込める株を仕込む時期かも知れない。
最後に 個別の東電については、少なくとも向こう10年は利益を出せない企業となった。したがって、理論上、株の価値は0になったのに等しい。中電も赤字に転落するだろう。しかし、公共性から電力値上げは許容される環境に無い。当該企業の株主には辛い状態となった。このマイナスの状況を少しでも食い止めることが枢要であり、そのためには、一刻も早い福島原発の静穏化が必須である、というコメントであった。

米国系金融機関の経済見通しは、彼らの商品ラインアップから見て、日本株式や債券等のファンドがないためか、日本経済に関してはポジティブな解説は見られなかった。しかし、日本の財政状況は問題であり、成長が認められない経済状況下で、間もなくハードランディングも含めて大きな問題になるとの指摘はあった。だが震災の直接的な経済への影響のコメントは無かった。

世界経済の成長における先進諸国(米国、ユーロ圏、日本)と新興諸国(BRIC)の成長格差が近年に引き続き継続される。2011年の実質GDP成長率の予測で 先進諸国の平均2%に対し、新興諸国平均6%と4%の格差と考えられている。消費者物価指数についても同様の関係と見込まれている。経常収支、財政収支も先進諸国の赤字幅が大きいのに対し、新興諸国の健全性が引き続き認められる。
この分化傾向があったとしても、ドル不安には影響しない、という。米国の企業・家計部門は急速に黒字化つまり貯蓄超過の傾向を示し、政府財政の大幅赤字を補っている。米国に展開されている魅力的金融市場が 引き続き世界的な投資を呼び込んでいる。米国には日本には無いオープンな債市場があること、国際商品も世界中で85%は米ドル建てで取引されていることが 米国の市場が魅力的である要因となっている。したがって経常収支の赤字は資本収支の黒字で補填されるという構造は変化していない。特に、米国外の政府系公的機関が外貨準備の運用先として米国債を買っており、もしそれを大量に売却すれば、ドル安となり自ら外貨準備の価値を低下させることになるので、そのようなことは生じない。基軸通貨として、他の通貨との比較を行ってもドルの優位性は揺るがず、ドル暴落はありえないとなる。

それに対して、危機的なのが日本財政である。その債務残高は膨張の一途であるが、それを補う家計部門の金融資産は、90年代後半から頭打ちの傾向にあり、団塊世代の現役引退にともない、2013年頃には家計貯蓄率はプラスからマイナスに転じるものと予測される。人口減少傾向も相変わらずである。非金融法人企業の過剰債務も2010年にあっても未だ解消されていない。
要するに、いつまで経っても日本は景気が回復せず、経済成長が無く、政府債務のみが増加している。このため、国債の国内引受けが不可能になった場合、その瞬間に“日本売り”となり、長期金利上昇、通貨安、株安、極端なハイパーインフレというハード・ランディング・シナリオも予想されるとのことであった。

その他の予測は次の通り。欧州財政問題は近い将来は何とかコントロールできても、拡大するだろう。中東情勢は今のところ限定的。中国はさらに利上げがあるだろうが、景気に深刻な打撃はない、と先の証券会社と同じ見方。

両金融機関とも ほぼよく似た見通しであるが、米国系の方が日本の財政状況に厳しい見方をしている。それが本当の客観状況なのだろう。
これらの経済見通しを聞いて、米国にしても中国にしても その危機的状況は何とか回復基調にあるにもかかわらず、日本だけが90年代から財政再建か、景気回復かをめぐって果てしない議論の挙句、その首脳を1年程度で取り替えてきた。肝心な問題を一向に解消することができず、事態は時間の経過とともにどんどん悪化しているというのが客観情勢である。
それでも 経済の自律的回復が この春以降期待されていたし、まさに株価上昇の矢先だったにも関わらず、震災が起きてしまった。これにより、様々な産業のサプライ・チェーンは大打撃を被った。そこへ、東電の福島原発での対応ミスが加わって、電力供給リスクがあらわになってしまった。エネルギー不全のままで、経済が復活することなどありえない。ここで、またしても政治無策により震災復興が上手く為されなければ、日本の明るい将来は全くありえない。
ところがこの深刻な事態にもかかわらず、国民自身も まさに バブル以降の“ゆで蛙”的ムードそのままで危機感が無く、ワールド・カップだ、オリンピックだ、AKBだと憂さ晴らしのみに熱心である。さりとて、ナチス的な政治的過熱の人々が台頭するのは歓迎できないが、とにもかくにも 日本は このままでは自滅しかありえないのではないか。

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