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次世代エネルギー技術シンポジウム“未来を支えるエネルギーを探る”を聴講して

今、将来エネルギーについて語る場合、原子力エネルギーに対する評価態度を明確にしてからでないと語る資格はないだろう。私は、この点について次のように考えている。
福島原発事故を経た現在、人類は暴走する原子力エネルギーを安全確実に制御できる技術を持ち合わせているとは言えない。また、使用後の核物質の安全確実な廃棄処分や、それ自体を無害化する技術も持ち合わせていない。また低線量被曝の安全限界への科学的知見の確立や、多くの科学者による合意がなされていない。また被曝による障害を抱えた場合の、回復への治療法も確立しているとは言えない。その限りにおいて、それを産業分野へ応用し、経済資源として活用することはできない。従って、現在の原発は 廃炉としなければ維持コストがかかるばかりだ、と考えるのが適切ではないかと考えている。
しかし、核燃料サイクルを夢のまま放置することは、人類の科学的進歩に対する怠慢であり、冒涜でもあると信じる。従って、核燃料サイクルへの研究開発は継続するべきであるが、それと共に廃棄される核物質や放射能汚染物質の、安全確実な廃棄処分化技術や無害化技術の研究開発は、今後も続けられるべきである。さらにそういう開発が行われるには、低線量被曝の安全限界への合理的合意形成がなされるように十分な調査研究もなされるべきであり、被曝障害への治療法も確立するべきだと考える。
どうやら、科学界においては放射能の安全限界には、京大の小出裕章助教等の主張する閾値はないとする考え方があるようだが、私は それは科学的にも間違った見解であると考えている。なぜならば、宇宙には その生成から放射線が満ちており、そういう障害を越えて生命は誕生したからである。太陽は核融合で、太陽系へエネルギーを放射しており、地球の地熱は放射性物質の自然崩壊によるものである。そして、宇宙線は絶えず宇宙空間を飛び回っていて、地球上にも容赦なく降り注いでいる。地上の岩石類の発する放射能もわずかながら必ず存在し、決して放射能が0の絶対的安全空間は、この宇宙には存在しない。否、むしろ核エネルギーそのものに、宇宙の根本的秘密が隠されているのではないかという気すらする。
従って、放射能に対する安全性の閾値があるとするのが、合理的見解であると考えている。しかし、それが具体的にどのようなレベルかの科学的合理的合意が未だに形成されていないのは、不思議としか私には思えない。こういう現状は、ある意味では科学者達の怠慢ではないかと考えている。一般人からの科学者達への信頼性が低下しているのは、そこにも原因の一つがあるのではないか。

さて、こういった分野の専門家でない門外漢からすれば、原子力エネルギーに対する評価態度については、当面判断停止のペンディング事項として、研究や技術開発の進展や合意形成を見守るしかあるまい。つまり、そのための研究開発は鋭意継続し、注力されるべきである。そこで、私達は当面は非核エネルギーの開発に関心を向けざるを得ない。

こうした、非核エネルギーに関するシンポジウムが“未来を支えるエネルギーを探る”と題して開催されたので、出かけることとした。開催時期は 未だ寒い2月17日であったので、今頃これを紹介するのは、いささか時期を失していると思うが、御容赦願いたい。場所は、JR堺市駅の近くのサンスクエアホールであった。
ここには、与謝野晶子文芸館があるようだったので、少し早めに出かけて、シンポジウムが始まる前の小1時間で見学しようと計画した。先ず駅の西側に出て、大阪寄りの北側の大衆食堂で親子丼を食べてから、文芸館に行ってみると、当日は月曜だったためか休館していた。堺出身の歌人と言えば、与謝野晶子なので見学できないのは非常に残念であった。
こうなるとシンポジウム開始まで、時間が余りすぎるので駅から南西方向にある反正天皇陵に行ってみることにした。西進すれば、南海・堺東駅に結構近づく。堺市の繁華街は南海線沿線にある。ところが、陵の近隣には民家が結構立て込んでいて中々近づけない。ようやく、陵の南面に出たが、宮内庁の管理下にあるようで、その看板が目立つ。ここからしか陵には接することはできず、全貌を見ることはできないのが残念。どうやらそこは、野鳥の楽園になっているようで、人工物が自然化して、この界隈にはここにしか“自然”がない。



話題を本来テーマに戻そう。シンポジウムは次のようなプログラムであった。
第一部 基調講演
“未来を担うエネルギー革新技術の展望”独法・科学技術振興機構 顧問 相沢益男 氏
第二部 パネルディスカッション~新世代植物工場を事例として~
□話題提供の研究報告
- “新世代植物工場におけるエネルギー課題”大阪府立大学特任教授 村瀬治比古 氏
- “宇宙太陽光発電所SPS” 京都大学 教授 篠原真毅 氏
- “人工光合成について~国内・大阪市立大学での取組”大阪市立大学教授天尾豊 氏
- “水素エネルギー社会の実現について” 岩谷産業中央研究所部長 繁森敦 氏
- “バイオエネルギーについて” ㈱豊田中央研究所主席研究員 梶野勉 氏
□(報告者による)パネル討論

基調講演では、2030年頃をターゲットにした日本のエネルギー開発戦略を語っていた。福島原発事故を経過して、原発依存政策の転換をキィ・ワードの一つとしている。曰く、“①低コスト・クリーンエネルギー供給の安定確保 ②分散エネルギーシステムの拡充 ③エネルギー利用の革新 ④社会システムのグリーン化 ⑤多様なインセンティブの導入Feed-in Tariff”を目標課題にする。特に、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーを重点的に開発する。短期的には“高性能太陽光システム”のためのシリコン系、有機系の太陽電池開発。中期的には“従来技術の延長上にない太陽光発電技術”の開発を狙い、長期的には“宇宙太陽光発電(文科省)”、“宇宙太陽光発電システムにおける無線送受電(経産省)”を開発する。最先端次世代研究開発プログラムとして、329件の研究課題に、5年間で500億円を投入する。特に日本が、ノーベル賞受賞者根岸教授の先導で世界をリードする人工光合成に注力する、との説明であった。

パネル・ディスカッションでは、植物工場の村瀬教授が司会を務めた。生化学など、私の理解が及ばない個所も多々あったがおおよそ次のようであった。
2030年には人口増で食糧の35%増産が必要で、これが人類的課題だが、気候変動が要因で困難となるだろう。植物工場は、エネルギーの食料変換システムと言えるが、低コスト・エネルギーを開発・活用できれば露地栽培よりも安価な食料となる可能性がある、との議論があった。
水素エネルギーについては、あらゆるものを水素に集約してやっていけるかが課題となる。水素キャリアとしては、アルコールやアンモニア、有機物が考えられ、目的に応じて選択すればよい。有機物化した場合、セルロースの分解困難が障害となるので、焼却してエネルギーを取出すのも選択肢の一つだが、分解のためにはシロアリの腸内酵素が有効だろう。
有機薄膜太陽電池と植物の光合成ための太陽光は、使われる波長が違うので組合せで効率が上げられる。つまり、CO2と水で酸素と燃料を作りながら、発電が可能となる。人工光合成によって、肥料や人工添加物、触媒、グルタミン酸、アミノ酸が出来れば、この技術は広がるはずだ。食料作物だけでなく、エネルギー作物という考え方もあり得、地域によっては、その比率を考えて効率化を図ることは考慮に値する。
宇宙太陽光発電システムでは、無線送受電で、電磁波の有害性に留意するべきだが、今のところ明らかな有害性を検出しておらず、それが障害になる可能性は少ないと認識している由。エネルギーの全てを電力に還元して考えるよりも、もう少し自然界の輪廻の中で直接利用できるようなことを考えるべきではないかと京大・篠原氏は語った。

宇宙太陽光発電については、日本もかなり研究しているらしいことは、桜井淳著“プルサーマルの科学”(朝日選書)に書かれていたので知ってはいたが、実際に研究者の口から聞いたのは これが初めてだった。
ここでは、風力発電や地熱発電、潮流発電については主催者がコンタクトできる研究者は居ないのか語られなかった。潮流はあまり研究開発の対象となっておらず、今のところその短所すら良く分かっていないと思われるが、私は日本では風力よりも安定的に得られるエネルギーである潮流の方が有力だと思う。特に、日本列島南岸を流れる黒潮の膨大なエネルギーを放置・無視することは賢い選択ではない、と思うがどうだろうか。

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