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ジム・ロジャーズの発言―アベノミクスで日本経済に何が起きるのか

先々週だったと思うが、週刊現代(3月29日号)にジム・ロジャーズ氏のインタビュー記事が載った。そこには、驚くほど極めて真っ当な見解が語られていた。同氏は、ジョージ・ソロス氏とともにクオンタム・ファンドを創立し、10年間で3300%余りのリターンを稼ぎ出したとされる伝説のファンド・マネージャーであり、現在もその発言は世界中に絶大な影響力がある。
そんな切った張ったのカリスマ的ファンド・マネージャーの語り口は少々乱暴な見解ではないかと思ったが、それが正統派経済学者に近いような内容だったので、“非常に驚いた”のだった。今 日本にはアベノミクスという妖怪が闊歩している。果たして、その妖怪を、ジム・ロジャーズはどう見たのか。

その記事の冒頭で、ジム・ロジャーズ氏は次のように語っている。“今後1~2年、日本株はさらに上昇すると思います。私がいまNTTなどの日本株を持っているのも、それが「上がる」と信じているからです。しかし、「その後」を考えた時には、暗澹たる気持ちにならざるを得ません。長い目で見るとアベノミクスというのは、日本経済を破壊する政策でしかないからです。” しかしさすがに、日本株を持っているのは、抜け目ない。“相場に沿う”のが相場師だからだ。だが、それは長く持つものではないことを言っている。“(アベノミクスで)紙幣が刷られると株価が上がるというのは歴史が証明していることであり、ほぼあらゆる投資家たちがその「真実」に忠実に行動したまで”のことだと“経済原則”を強調している。

そして、アベノミクスは第一の矢(金融緩和)と第二の矢(財政出動)、第三の矢(成長戦略)からなるが、実際に為されたのは第二の矢まで。ここまでで、“日本人のほとんどが幸せにならずに、一部のトレーダーや大企業だけが潤っている。それが果たして良い政策か”、と言っている。それは“(金融緩和による)通貨切り下げ策が中長期的に一国の経済を成長させたことは一度としてない”からで、“日本が輸入に頼っている製品の価格が上昇したことで、庶民の生活費はむしろ上がったのではないでしょうか。建設コストや製造コストが上がったことで、苦しめられている企業が出て来ていないでしょうか。”とコスト・プッシュ・インフレを言っている。
またインフレのコントロールは、一旦引き起こせば制御不能になるものという経済学での経験則も語っている。さらに、“(現状で財政赤字は)1000兆円を超す巨額赤字にもかかわらず、安倍首相がさらに借金を膨らませて無駄な橋や高速道路を作ろうとしているのは正気の沙汰とは思えません。…そこへきて、この4月から消費税を5%から8%に増税するというのだから、クレージーですよ。増税して得た予算は社会保障の充実に使われるとされていますが、本当は無駄な橋や道路を作ろうとしている”とまで言い切っていて、安易な“国土強靭化”への批判とも受け止められる。
“いま日本がやるべきは、減税と支出削減”と言う。これこそは慧眼かもしれない。何故なら、乗数効果のない支出を麻薬のようにダラダラ点滴するよりはいっそ削減し、その分減税するのが正しい経済政策かも知れない。それに、これまで政府予算に頼って生きてきた人達は、これまでさんざんフリー・ランチ(ただ飯)を食べてきたのだから、それを躊躇する理由はない、と至極真っ当な見解だ。つまりは、“(アベノミクスによって)本質的な問題を隠そうと莫大な量の紙幣を刷って、大規模な財政支出を続ければ続けるほど、後世の日本人が背負う借金が膨れ上がってしまう”ことになる。
特に、日本は高齢化社会へ突入し、“人口減少で経済全体が収縮していく中で、国の借金だけが膨れ上がり続ける。…最悪の場合、借金を返せなくなり、国家が破綻することだってありうる”し、それまでに“残された時間は多くない”とも言っている。
金融緩和をやった米国経済をも批判し、“(直近の)雇用統計を見て、米国経済が復活してきたと指摘する人もいますが、実はこれはリーマン・ショックが起きた‘08年時とほとんど変わらない”。“FRBはこの5年ほどでバランスシートを4倍にふくらませましたが何ら効果がなかったことが明らかになった”と指摘している。“(金融緩和は)巨大な経済破たんでしかありません。そして最終的には、1929年の世界大恐慌のような状態になってしまう”とまで言っている。ある意味 現代資本主義の在り方を批判している。資本主義市場の真っただ中にいる人物の言説としては興味深い。
さらに、シンガポール在住の彼は、東アジアでの現状の緊張を“馬鹿げた”ことと言い、“政治家の失政”による武力衝突の懸念を強く表明し、“日本人はなにが起きてもおかしくないと、身構えておいた方が良い”とまで言っている。それは日本企業の株価の暴落を招くだけだからだ。
つまるところ、ジム・ロジャーズ氏は現状の日本の政権とそれを構成する政治家の資質は低いものとして、ハラハラして見ているといったところだ。恐らく、ハイ・レベルの外国の目も これと同じものと思って良いのかも知れない。

さて、著名ファンド・マネージャーの語る日本経済の破綻懸念要因については、おおよそは分かったが、果たして具体的にどのような経済プロセスで破綻に至るのかとなると、そこまで語られることはほとんどない。つまりは、“懸念”は分かるのだが、“懸念”から一気に“破綻”に至る議論ばかりなのだ。知りたいのは、正しく“日本経済に何が起きるのか”なのだが、乏しい経済学知識しかない者には 想像すら困難な課題だ。
そこで、見つけた本が 小幡績氏の“ハイブリッド・バブル―日本経済を追い込む国債暴落シナリオ”であった。世にある破綻シナリオは不思議に“金融緩和から国債暴落に至る”がほとんど一致している。しかし、それも具体的に どのように国債暴落に至るのか語られることは少ないが、この本は 現状の国債取引のマーケットの参加者と構造を明らかにした上で、どうなるのかを明示してくれている、その点で貴重な本と言える。
この本の結論から言えば、現状の市場参加者と構造からではこれまでもそうならなかったように、アベノミクス前は国債暴落には至らない構造になっていたと言う。しかし、アベノミクス或いはクロダノミクスにより金融緩和が昂進すれば、低金利の持続 つまり国債価格も極限にまで高騰するが、それが永遠に持続するはずがなく、いずれは買い手もなくなる。つまり金融緩和効果が行きわたり景気が回復すれば、日銀は絶対的買い手から降りざるを得ない。すると暴落が始まるというもの。端的に言えば、そういう内容だ。

著者・小幡績氏によると国債市場のプレイヤーは大きく3つのグループに分かれるという。第一のグループは、何らの制約もなく“常に投資利益の最大化を狙う”徹底した合理的行動をとる“ムーバー”と分類され、具体的には「外国人」投資家、ヘッジファンド、投資銀行、農林中金、それらに追随する国内投資家がそれにあたる。第二のグループは、“常にファンダメンタルズに基づいて投資し、必ずしもキャピタルゲインで儲けようとしない”パフォーマンスをとる“ファンダメンタリスト”で、具体的には、メガバンクなどの国内大手金融機関や多くの年金基金が当てはまる。第三のグループは、“一定条件下でのみ、合理的な投資行動をとる”投資家で、“限定合理的投資家”と呼び、具体的には 信用金庫や信用組合といった国内の中小金融機関、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、生命保険である、という。私が、この本からみの数字を整理し直してみると、この3者は、ほぼ拮抗した比率になっているように見受ける。

日本国債取引市場で、彼らはこれまでは次のような行動をとったと推測している。“ムーバー”は その時々、例えば有事の円買いで買う等の状況で日本国債を売買していたであろう。“ファンダメンタリスト”も安定した買い手ではなく、できるだけ短期のデュレーションにして国債を保有していた。
このような中で例えば、日本国債が財政赤字の継続を根拠に将来的に暴落することは確実とされており、それを根拠として、ムーバーの一部、海外系ヘッジファンドが何度か空売りを仕掛けたが、その都度 第三のグループの“限定合理的投資家”である郵貯の返り討ちにあって、敗退したというエピソードがある。それは、1990年以降 日本国債が圧倒的に最も良いパフォーマンスの金融商品であったので、郵貯は“買い支えて守るためでなく、真の買いチャンスと考えた”からであり、結果として“郵貯は、ほかの国内金融機関よりも運用成績がよかった”ことが、背景にあるとしている。
この郵貯に追随する投資家には、地銀、信金、信組も含まれた。特に彼らにとっては、一般企業の資本借り入れが多様化しさらに不況で企業倒産や承継も進まず、貸出先が細り預貸率(預金に対する貸出の比率)が低下し、その穴埋めに日本国債を選好する必然性があるという。こういう“需要”がある限り、日本国債の空売りに追随する勢力もなく、“国債暴落はありえない状態”である、と解説している。これが、この本の根幹的前提部分だ。

ところで、そのような状況下で問題は日銀の黒田総裁によるアベノミクス第一の矢(金融緩和)は今後どうなると予測されるのか。まず、“国債全体の価格が高騰する中で、イールドカーブのフラット化が急激に進む。”これにより、デュレーションを中期に設定していた“限定合理的投資家”である信金・信組など中小の金融機関が、利回益を得られなくなり、ロールダウン戦略を積極的に使って、キャピタルゲインを狙うだろうとしている。つまり国債価格上昇のメリットを享受するための長期国債の売却益を確保する。つまり、“限定合理的投資家”であった信金・信組など中小の金融機関は、“常に投資利益の最大化を狙う”合理的な行動をする“ムーバー”に変貌するだろう、という。同様に“ファンダメンタリスト”も“ムーバー”に変貌する可能性は非常に高い。
こうして、全員がムーバーになり、“「投資家の同質性」という(バブル形成と崩壊の)条件が満たされる”ことになる。次に、中小金融機関は将来のキャピタルゲインを先食いしてしまうことで、逆に収益の手段を完全に失い、死期を早める要因を作ってしまう。また、こうして結果的に市場参加者全員が“テールリスク(生起確率は極小だが生じるとダメージの大きいリスク)の無視”をしてしまうことになる。つまり、“日銀の政策変更による国債の価格下落というシナリオを無視”することになってしまっている。
ところが、その“(日銀の)政策転換が起きるときが100%確実にやってくる。景気が回復し、万が一、物価上昇率が2%になれば、必然的に金融緩和は縮小に向かう。そうなれば、金利は上昇、国債は暴落、となる。”こうして、少なくとも日銀の黒田総裁によるアベノミクス第一の矢(金融緩和)は、国債市場で“暴落が起こるか、(さもなくば他に買い手の居ない)「日銀おひとりさまバブル」となって安楽死するか、どちらかの運命をたどる”とも言っている。(詳細は、当然だが本書を読んでいただきたい。)

これからするとやはり、クロダノミクスの出口戦略が非常に重要になる。米FOMCの今の出口戦略どころの騒ぎではないことが分かる。つまり、もし2%の物価上昇を認めたとき、出回った貨幣回収のため利上げのサインを出しただけで、国債暴落へ一気に進む可能性大・・・であろうか。また逆に、それを一旦放置すればそれだけで“憧れのインフレ”へと突き進むことになる・・・。
今の物価上昇はコスト・プッシュ・インフレだが、ジム・ロジャーズが言ったように国民生活は悲惨な状態の入口にある。クロダノミクス後は日銀が何をやっても、インフレとなり、インフレは円安を生み、それが昂進すれば超円安となりキャピタル・フライトも生じ、果てしないインフレ・スパイラルからハイパー・インフレへと突き進むのであろう。ならば、我等は今からインフレへの備えが必要となろう。少なくともデフレ頭の切り替えが必要だ。

このように、アベノミクス第一の矢(金融緩和)は悲惨な結果を迎えることが予測される。しかし、既に後戻りはできない。第二の矢(財政出動)も まさしくジム・ロジャーズの指摘通りだろう。さらに第三の矢(成長戦略)は、これまで語られた課題の蒸し返しばかりで、それを突破しようとするほどの覚悟とエネルギーを持っているとは とても思えない。それよりもむしろ“戦争ができる国”にすることに熱心であるように見える。
日本の株式市場は、5月には年明けに売りを入れた短期の海外ファンドが残り半分の売りを入れるとされる。その後様子見で低迷し、7月頃に消費税増税の悪影響と第三の矢の正体があらわになり、さらに売られてついに崩落するのではないか・・・その懸念は大きいのではないかと見ている。この時 クロダノミクスが慌てると、その後の悲惨さはより一層酷いものになるのではないか。

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