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森永 卓郎・著“年収200万円でもたのしく暮らせます―コロナ恐慌を生き抜く経済学” を読んで

自民党の裏金問題は追い詰められた首相の独断による派閥解消宣言へと発展した。そして、安倍派は霧消、茂木派はバラバラ。そして首相と幹事長の間に亀裂 が生じた。
今度は裏金対策の政治資金規正法改正で追い詰められた首相が独断により公明・維新の要求を呑んだ。そして、派閥として最後に残った麻生派と首相の間に決定的な亀裂が入った。
そしてその結果、首相は自民党内では孤立化している。つまり政権は死に体となった。ゾンビ政権となった訳だが、報道特にTVはこの実態を国民に伝えようとはしていない。何かと言えば、ショウヘイ・ヨシノブで尺を取って誤魔化している。報道は脳死しているのか。否、考えたらゾッとしているのか?かくして“日本の報道の自由”は劣後して行くのだ。

おまけに先週、打ち出す政策にマイナスのデータが発表された。
骨太の方針で“デフレからの脱却”を掲げたが、実質賃金は25カ月連続でマイナスの結果となっている。
“子ども・子育て支援法”改正案を成立させたが、合計特殊出生率が統計開始以降最低の1.20となっている。

自民党政権はアホアホのまま、ついにゾンビとなって延命している訳だが、岸田氏に代わる有力政治家が居ないため、党内権力闘争が起きていないためでもある。要は人材不足なのだ。このような隙間にヒットラーが再生される恐れは大いに有り得る。それを報道しないのは、日本社会の後退に手を貸していることになるのだ。日本の報道人の覚悟を問いたい。



前々々回、森永卓郎氏の“書いてはいけない―日本経済墜落の真相” を読んでの感想を投稿していたが、そこで気になったのがアベノミクスを同氏はどう評価しているのかだった。それを知りたくて、この本を読んでみた訳だ。この本の概要は紀伊国屋書店のウェッブ・サイトから以下に引用する。

【出版社内容情報】
コロナ暴落前に全株を売却した人気経済アナリストが緊急提言! “大不況は1年続く”――いまこそ現金を大事に、好機を待て!

【内容説明】
新型コロナウイルスは世界経済に甚大な影響を与えた。しかし、それは「終わりの始まり」にすぎない。資本主義経済とグローバル化がもたらした「バブル」が限界を迎え、まもなく大恐慌が訪れる。もちろん、日本も対岸の火事ではいられない。東京一極集中による行政・医療・福祉の課題は山積し、行政改革が追いつかない。多くの企業が資金繰りに奔走する。未曾有の大不況の先で待つのは、一億総年収200万円時代である。「これから何が起きるか」「国・企業・個人はどうすればよいか」。コロナ暴落をいち早く読み切り全株売却した話題の経済アナリストが、35の不安・疑問に答える。

【目次】
第1章 過去最大級の経済不況に備えよ!―コロナ・ショックは「終わりの始まり」(コロナ・ショックとは?;コロナ禍が収束すれば、日本経済はV字回復するか? ほか)
第2章 最大の敵は国内にあり!―コロナ対策で露呈した日本政府の弱点(日本のコロナ対策「失敗の本質」は?;「緊急事態宣言」は正しかったか? ほか)
第3章 これから日本経済はこう変わる!―10年後の未来予測(国内の製造メーカーにはどういった変化があるか?;東京一極集中は、本当に解消されるか? ほか)
第4章 日本株が危ない!―成功する投資、失敗する投資(アフターコロナに伸びる市場は?;金(ゴールド)は買いか? ほか)
第5章 都会を飛び出し「トカイナカ」で暮らせ!―自給自足で自律的に働く方法(東京一極集中を解決するには?;トカイナカ生活のメリットは? ほか)

【著者等紹介】森永卓郎[モリナガタクロウ] 
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。 1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。 日本専売公社、経済企画庁総合計画局、UFJ総合研 究所主席研究員などを経て現職。
主な著書に『新版 年収300万円時代を生き抜く経済 学』(光文社)『「価値観」社会』(角川SSコミュニ ケーションズ)『森永卓郎の年収復活!』(マガジンハ ウス)『「騙されない!」ための経済学』『「民主党不況」 を生き抜く経済学』(ともにPHP研究所)など多数ある。(データ作成:2010年)


この本の“はじめに”で、“大きな問題と感じている点を述べます”とあるので、ここでアベノミクスの問題をのべるかと期待したが、“はっきり言って、新型コロナウィルスの感染拡大に対する日本政府の打ち出した対策は、お粗末”と言うのみであってアベノミクスに言及することはなかった。
米国がさっさと“一人最大1200ドル(約13万円)の現金給付を含む総額2兆9000億ドル(2020年4月24日現在、薬310兆円)という大きな財政出動を構える”のに比べて“日本では一人10万円の給付を含む約25.7兆円の補正予算に、第二次補正予算として約31.9兆円が積み増しされたが、アメリカの5分の1、人口比を勘案すると、6割減にとどまる”しょぼいものだったと非難するのみだった。そしてついでに感染拡大対策に“政府は市中感染率をしるための無作為調査を一貫して拒否し続けた”と言って非難。そんなことで、ウィルスの突然変異や新ウィルスの登場に対応できるのか、と言っている。しかも感染拡大に東京一極集中が寄与しているのではないかとの懸念を表明していて、アベノミクスに言及はしていない。
そして、“現状把握”に第1,2章、“経済予測”に第3章、“資産防衛”に第4章を当て、それに関連して“トカイナカ(都市と田舎の中間)”でのメリットを説明すると言っている。
では、本文でアベノミクスに言及しているのか。

著者の基本的姿勢として、“「コロナショック」は行き過ぎたグローバル資本主義への警告”だったという認識がある。
グローバル資本主義によって、“国際間移動の爆発的な拡大”と“サプライチェーンのグローバルな拡大”、“バブルの崩壊の要因”が助長されたという。
“バブルの崩壊の要因”については、イェール大学のロバート・シラー教授が提唱するシラーPER(株価収益率)が25を越える状態が一定期間続くと株価が暴落するという。“ITバブルは79カ月”、“リーマンショック前は52カ月”そして“今回は69カ月”で命運は尽きた、というのだが・・・そして持ち株を全て売却したと・・・だが、実際には、コロナ崩壊は起きてはいない。
この予測の間違いはどこにあるのか、むしろ、今となってはこの分析の方が重要な気がする。

アベノミクスに言及しているのは、“財政破綻”についての項目である。コロナでの経済へのダメージに消費税減、つまり0にせよとの議論で、“第二次安倍政権誕生後6年間で、日銀は毎年平均60兆円ずつ国債保有を増やした”が、インフレにはならなかった。“60兆円ずつ増やしても大丈夫なら、さらに(消費税を0にした時の財政収入減の)28兆円を増やしても大丈夫”つまり財政破綻はしないという。だが少々乱暴な議論のような気はする。これまではそうでも、これからは分からない。本書でのアベノミクスへの言及は実際は残念ながらここまでで、これ以上の評価・分析はない。
だが、“国の財務書類”すなわち財務諸表における負債は2019年3月末現在で1,517兆円、資産は1,013兆円、つまり純債務は505兆円。一方、通貨発行益は470兆円でほぼチャラ!という論法である。そして結論、“今の日本財政は、実質的に無借金”となる、という。その傍証は日本の長期国債の利率は健全財政のドイツと同様のゼロから明らかだろうという。
だが、日本の2019~20年で金利がゼロなのはゼロ金利政策によるもの。この純債務はその後2020年度:523兆円、2021年度:540兆円、2022年度:572兆円、2022年度:582兆円とわずかずつだが着実に増加の傾向にある。通貨発行益はどうか、残念ながらデータは見当たらない。チョット、財政拡張派の議論にも眉唾のところがある。


著者は“感染拡大で実体経済が悪化したのに続いて、今後は不良債権が増えていくので金融危機が訪れる”という。だが実際は、どうやら表面的に経済が悪くても、日本経済はバブル崩壊で強靭な財務に改変され内部留保を積み増したことによって、実体経済がそれほど悪くはならなかった。不良債権が増えるのは、ゼロゼロ融資を受けた体質の悪い零細企業ばかりとなったのではないか。そしてこの零細企業の不良債権は日本経済を脅かすほどの規模にはなっていなかった。要するに、非効率なゾンビ企業がこれを機会に淘汰されるだけではないのか。
だから日本の株価は上昇し始めたのではないか。一時4万円を抜けた日経平均は一旦後退したが、再び上昇の気配だ。これは強い相場だ。
過度な円安は日本経済をインフレに持ち込んだ。賃金も上昇し始めた。インバウンドはついでの話で、決して日本経済にとっての本筋ではない。マスコミがドラッグストアに追徴課税を課したことを面白がって報道しているが大した話ではない。課税当局が消費税増税の果てに見逃した隙を中国人に見透かされただけのことだったのだ。
円安は必ずしも企業収益を改善するものではないことも明らかになりつつある。そして円安が円の還流を阻んでいるかのようだ。ドルを売らずに儲けた折角のドルで企業買収や投資に回した方が得策なのだという。それが正しいドルの使い道だ。
この過度な円安は、米国との金利差がいずれ縮まって修正されるものと見ている。経常黒字がある限り、これ以上の円安が一方的に昂進するとは考え難い。米国への投資はそれからでも遅くないと見ている。だがその時同時に、足下の日本経済が活況を呈し始めている可能性は大いにあると甘く考えている。
だから第4章の“日本株が危ない!”は誤った従来の視点からの分析ではあるまいか。森永氏の視点が少々古いのではなかろうか。

世界経済では“シラーPER(株価収益率)が25を越える状態が一定期間続くと株価が暴落する”という議論に対し、IT革命による技術革新がAIの出現でさらに進展することで、景気は高揚しているというのが事態なのだ。この場合、“ロバート・シラー指数のPER”よりもシュンペーターの“イノベーション論”が優先されているのだ。
それが証拠にIT革命で新たに登場して来る企業は目まぐるしく変化している。アップル、マイクロ・ソフト、インテルがFANGにとって代わられ、最近はエヌ日デア、AMD、アームが登場してきている。ここに日本の企業が無いのが大問題なのだ。それがデジタル赤字の原因なのだ。それは“書いてはいけない―日本経済墜落の真相”で明らかになったように、経産省が米国に魂を売って、TRON等日本のIT企業に政策的圧力をかけて芽を摘んだのが大きな原因なのだ。日本人の敵は日本国内、そのトップにあり。これでは世界で戦えない。

“アフターコロナでは中国が世界経済の覇権を握る可能性”は、現状ではほぼ無くなったのではあるまいか。中国のバブルが崩壊しかけなのだ。どうやら不良債権処理が遅れているようで、その限り中国経済の回復はあるまい。“覇権制覇”はどんどん遠のくであろう。中国に深く関与している向きは、当局に逮捕される前に逃げ出すのが肝要なのではないか。いずれ恐らく、それにつれ中国の地方政府に加えて中央政府の財政も悪くなるに決まっており、海外援助や軍備拡張すら困難になる可能性は大きい。中、露、北朝鮮はいずれ困難を抱えることになるのではないかとすら見ている。

日本経済が活況を呈するならば、何も無理して“「トカイナカ」で暮らす”ことはあるまい。私は従来通り神戸市内で暮らして行きたい。医療機関も揃っているし、買い物、グルメもある、京都にもお出かけし易く。全般に快適に暮らせている。
何も、著者の見立て違いを糾弾する気は全然ない。著者は未だコロナ禍初期の2020年前半でこの本を書いているからだ。むしろ、そのころにしては参考にするべき大胆な仮説だったと言える。また、本書でのアベノミクスへの評価・分析は残念ながらなかったが、これを総括することで、私の将来への見通しがまとめられたことに感謝したい。

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