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パンデミックとリスク・マネジメント

先週から、新型インフルエンザが 世界的に広がりはじめている。
私は以前、リスク・マネジメントの仕組に関する講演を聴いて、そんな“想定外事象への備え”など、一般の企業特に中小・零細企業にとっては殆ど不可能であり、そんなことに対応していては返って日常のリスク対応がおろそかになり、事業継続の基本的な部分で困難に陥る結果になると表明したつもりだった。
その講演では、次のような事例が挙げられていた。

‐9・11テロ
‐鳥インフルエンザ
‐SARS/新型インフルエンザ
‐地震/ハリケーン等の自然災害の多発
‐金融システム障害

これらは、政府が主導的に対応するべき国家的課題であり、個別の企業で対応は無理だと述べたつもりであった。
だが、そうは言うものの、個別企業経営者であっても 様々なことにリスク意識は持つべきでありそうでなければ、自分の会社の存続は困難であるのは当然のことだ。しかし、逆に見方を変えると企業経営者は日頃の 思わざるリスクにさらされており、リスク・センスについては 常に練磨されているものと考えられ、しっかりした経営者であれば、それを意識的に行っていると思われる。それこそ、机上で“リスク・マニュアルが必要だ”とのたまう リスク・コンサルタントなどより 遥かに現実的で適切なリスク・センスを お持ちであると考えべきなのが現実ではないのか。

現在のパンデミック対応についても 実際には政府の“立派なガイドライン”があるというが、これは いくら読んでもある程度の抽象的対応についてしか 書かれていない印象だ。つまり 具体的にどこまでが 法規制対応となるのか、そしてその法規制は誰が遵守させるように監視し、強制するのか不明なのだ。つまるところ 全ての事項が“要請”レベルの話であり、それが有効な対策と成りうるのか疑問なのだ。
この点について 実際には ガイド・ラインでしか示せず、逆に マニュアルでガチガチに 手順を規制してしまうとそれが 返って思わぬリスクを生むことになる、という尾身茂氏の解説が 昨朝のテレビであった。全てのことを紙には書けない。この書けない部分、即ち不測の事態に対応するのは人間であり、その時点での適切な行動目的を明確に理解し的確に対処することが大切なのだ、という。つまり、個々人の それぞれの目的意識を持った対応力に試されている、国民的総力戦である、というのだ。
ならば、“机上で‘リスク・マニュアルが必要だ’とのたまう リスク・コンサルタント”の発言に意味は あるのか。マニュアルは ガイドライン程度で 何に注意するべきであるとの 選択幅の広い 言わば抜けの多い表現で構成されなければならない。これは、リスク・マニュアルは品質マニュアルのセンスでは 作ってはならないことになる。つまり リスク・マニュアルは 緊急事態対応であるため 定常業務とは 全く異なるセンスで作成しなければ 返って問題を拡大してしまう結果となるのだ。それに対し、品質マニュアルは定常業務を想定し、必要事項や手順に抜けがないように誤り無く、もれなく記載されていなければならないからだ。

リスク対応では、限られた情報の下で、いわば 生きているか死んでいるか分からない“シュレジンガーの猫” に対して、適切な判断を下さなければならないのだ。答えが分かってからでは 事態は進展して行ってしまって、多くの場合 ダメージが大きくなってしまっているのだ。
これは もう、机上で云々するコンサルタントの世界より、日頃様々な現実のリスクに立ち向かう零細企業のオヤッサンの世界なのだ。つまり、リスク・コンサルタントは 下手をすると “仏に法を説く” ような滑稽な図式となることを 覚悟するべきなのだ。こんなマーケットに対して、並のリスク・コンサルタントにプロフェッショナルなビジネス展開ができるのだろうか。

さて、かく言う私の 今回の対応は どうだったか、というと、先々週 土曜日メキシコで 豚インフルエンザが 発生し、被害が拡大しているというニュースを聞いた直後、N95対応のマスクを 必要最小限の家族2週間分 インターネットで確保し、先週火曜日には手許に届いて 一安心していた。そのころ、市中の薬局では N95対応でない一般的なマスクですら品薄になり入手困難な状態となっていた。自身の迅速行動に、内心、リスク・センスの高さの勝利と ホクホクしたのは事実だ。だが、果たして“国民的総力戦”と言われる共生意識が重要な場面で、このような“出し抜き”に近い行為は 許されるものだろうか、との疑念も浮かんでくるのだ。
リスク・マネジメントとは このような他人を出し抜いて生きる “カンタダの糸”のようなものなのだろうか。ギリギリの生存競争の中にあって “1人勝ち”するべきものなのか。Winner take allで良いのだろうか。お互いの足の引っ張り合いが 結局は 全体の滅亡への道となるのではないか。“リスク・マネジメント”には、本来 そういう不純な要素は含まれていないと言い切れるのだろうか。

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