徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

『抗微生物薬適正使用の手引き』公表(2017年3月)

2017年03月28日 14時16分25秒 | 小児科診療
 少し前に国が抗菌薬の適正使用により耐性菌対策に乗り出したことを紹介しました(「風邪に抗生物質投与は控えて」〜厚労省が手引書)。
 先日、その成果の一つが公表されました;
■ 「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版(案)
 
 医療関係者向けの書き方なので一般の方にはちょっとわかりにくい文章ですが、「風邪に抗菌薬(=抗生物質)は必要ない」ことを国が公言したことは大きな意義があります。
 これで「取りあえずビール」のように「とりあえず抗生物質」という風邪診療が変わっていくことを期待したいと思います。

 さて、今回取り上げられたのは「急性気道感染症」と「急性下痢症」。
 他の分野は今後、順次公開されるようです。
 扱う対象は「学童以上」が基本ですが、主に小児に言及されている箇所を抜き出しました;

【急性気道感染症】
「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。」
「小児では、急性鼻副鼻腔炎に対しては、原則抗菌薬投与を行わないことを推奨する。」
「小児の急性鼻副鼻腔炎に対して、遷延性又は重症の場合には、抗菌薬投与を検討することを推奨することとし、そ の際には、アモキシシリン水和物を第一選択薬として 7~10 日間内服することとする。」
「A群β溶血性連鎖球菌(GAS)が検出されてい ない急性咽頭炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。」
「小児のマイコプラズマやクラミドフィラに関連した数週間遷延する、または難治性の咳についてはマクロライド系抗菌薬の有用性が報告されている。」



(医師から患者への説明例:急性鼻副鼻腔炎疑いの場合)
 あなたの「風邪」は、鼻の症状が強い「急性鼻副鼻腔炎」のようですが、今のとこ ろ、抗生物質(抗菌薬)が必要な状態ではなさそうです。抗生物質により吐き気や 下痢、アレルギーなどの副作用が起こることもあり、抗生物質の使用の利点が少な く、抗生物質の使用の利点よりも副作用のリスクが上回ることから、今の状態だと 使わない方がよいと思います。症状を和らげるような薬をお出ししておきます。
 一般的には、最初の 2~3 日が症状のピークで、あとは 1 週間から 10 日間かけ てだんだんと良くなっていくと思います。
今後、目の下やおでこの辺りの痛みが強くなってきたり、高い熱が出てきたり、い ったん治まりかけた症状が再度悪化するような場合は抗生物質の必要性を考えな いといけないので、その時にはまた受診してください。

【急性下痢症】
「小児における急性下痢症の治療でも、抗菌薬を使用せず、脱水への対応を行うことが重要である。」
「嘔吐に対する制吐薬、下痢に対する止痢薬は科学的根拠に乏しく推奨されていない。」
「健常者における軽症のサ ルモネラ腸炎に対しては、抗菌薬を投与しないことを推奨する。ただし3 カ月未満の小児は重症化の可能性が高く、抗菌薬投与を考慮すべきである。」
「健常者における軽症のカンピロ バクター腸炎に対しては、抗菌薬を投与しないことを推奨する。」
「海外の総説では、抗菌薬使用により菌からの毒素放出が促進され、HUS 発症の危険性が高くなることから、EHEC 腸炎に対する抗菌薬投与は推奨されていない。一方で、日本の小児を中心にした研究では、EHEC 腸炎に対して発症早期にホスホマイシンを内服した者では、その後の HUS発症率が低いことも報告されており、これらのことも踏まえて、JAID/JSC の指針では、現時点で抗菌薬治療に対しての推奨は統一されていない、とされている。 」




(医師から患者への説明例:小児の急性下痢症の場合)
 ウイルスによる「お腹の風邪」のようです。特別な治療薬(=特効薬)はありませ んが、自分の免疫の力で自然に良くなります。
 子どもの場合は、脱水の予防がとても大事です。体液に近い成分の水分を口か らこまめに摂ることが重要です。最初はティースプーン一杯程度を 10~15 分毎に 与えてください。急にたくさん与えてしまうと吐いてしまって、さらに脱水が悪化しま すので、根気よく、少量ずつ与えてください。1 時間くらい続けて、大丈夫そうなら、 少しずつ 1 回量を増やしましょう。
 それでも水分がとれない、それ以上に吐いたり、下痢をしたりする場合は点滴 (輸液療法)が必要となることもあります。半日以上おしっこが出ない、不機嫌、ぐっ たりして、ウトウトして眠りがちになったり、激しい腹痛や、保護者の方がみて「いつ もと違う」と感じられたら、夜中でも医療機関を受診してください。
 便に血が混じったり、お腹がとても痛くなったり、高熱が出てくるようならバイ菌に よる腸炎とか、虫垂炎、俗に言う「モウチョウ」など他の病気の可能性も考える必要 が出てきますので、その時は再度受診して下さい。


 しかし、「患者・家族への説明」の例示には参りましたね。
 なんだか医者が小学生扱いされているようで、複雑な気分(^^;)。
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