厚生労働省は2022年1月21日、ファイザー製の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、用法・用量が異なる「コミナティ筋注 5~11歳用」の製造・販売を特例承認しました。
流行の中心がオミクロン株になった今、新型コロナワクチンの要否を再考してみたいと思います。
まずは、ワクチンの基本を押さえておきましょう。
単純に「自然感染で免疫をつけるか、ワクチンで免疫をつけるか」という視点で考えると、
・自然感染の重症度・後遺症
・ワクチンの効果・副反応
を比較して天秤にかけて判断します。
もちろんこの比較検討は大切ですが、私の説明は少し異なります。
自然感染とワクチン接種は何が違うのか?
突き詰めると、
「ワクチンはウイルスの一部を身体に入れて免疫を付ける」
「自然感染はウイルスの全部が身体に入り免疫が付く」
のどちらを選ぶか、ということ。
当然、
「体へのダメージはウイルス全部が入って暴れまくる自然感染の方が、
ワクチンより大きい」
と考えられます。
免疫獲得の程度はどうでしょうか。
「体へのダメージが大きい自然感染の方が、
ワクチン接種より強い免疫が獲得できる」
というのが一般的な認識です。
いわゆる“生ワクチン”(麻疹、風疹、水痘、ロタウイルスなど)ではこの一般論通りであり、
「自然感染は1回で終生免疫が獲得されるが、
ワクチンは1回接種では終生免疫は獲得できず複数回接種が必要」
になります。
しかし生ワクチン以外では、各ワクチンで効果が異なります。
複数回接種することが原則であるものの、
中には自然感染より強い免疫を獲得できるワクチンが存在します。
例えば、肺炎球菌ワクチン。
小児に重篤な髄膜炎を起こす細菌ですが、
中には複数回罹患する例もあり、
十分な免疫を自然感染では期待できません。
しかし、肺炎球菌ワクチン(プレベナー13®)を接種すると、
自然感染より高い抗体価を獲得できます。
例えば、HPV(子宮頚癌)ワクチン。
自然感染では感染を繰り返す、
つまり免疫獲得しにくいウイルスですが、
ワクチン接種により10年単位の免疫持続状態が確認されています。
では、新型コロナウイルスではどうでしょう。
■ 小児にCOVID-19抗体は生じ難い~ワクチンは有望で効果91%
この報告では、
「新型コロナの自然感染では子どもは免疫がつきにくく感染を繰り返す」
可能性が示唆されています。
一方、ワクチン接種では自然感染より強い免疫がつくことが報告されています。
つまり、新型コロナにおいては、
「免疫獲得に関してはワクチン接種>自然感染」
ということになるのです。
これは驚きの事実!
さらに、ワクチンと自然感染の決定的な差として、
「ワクチンにより免疫が付く過程で他人に感染させない」
「自然感染により免疫が付く過程で他人に感染させる」
が存在します。
この違いは、
「感染症から友達・家族を守る、学校を守る、地域を守る、社会を守る」
視点に繋がります。
そして新型コロナ初するの変異株の中で、
「オミクロン株は他人に感染させるリスクが最強・最大」
なのです。
自然感染で免疫獲得を選択し、集団免疫を目指すと、
流行拡大による重症者・犠牲者がたくさん出て、
社会機能・経済活動が麻痺することは火を見るより明らかです。
以上をまとめると、
ワクチンの方が自然感染より体へのダメージが少ない
ワクチンの方が自然感染より免疫獲得効果が大きい
ワクチンは他人に感染させないが自然感染は感染を広げる
というワクチンの有用性が証明されました。
以上に基づき、私は基本的に新型コロナワクチン接種を推奨します。
では、小児に限定するとどうでしょう。
リアルワールドのデータで、自然感染とワクチンの比較をしていきましょう。
【自然感染】
・国内における5~11歳の新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)症例の大多数は軽症であるが、感染率が同年代人口の1~2%にとどまるなかでも、酸素投与などを必要とする中等症例は散発的に報告されている。
・2歳未満(0~1歳)と基礎疾患のある小児患者において重症化リスクが増大することが報告されている。
【ワクチン】
※ ファイザー社ワクチンの5-11歳のデータを中心に記載しました。残念ながらオミクロン株に対するデータはまだありません。
・国内で5~11歳を対象とする接種への承認申請が出されているワクチンは、
現時点ではファイザー社製のみで、
同ワクチンは従来のワクチンと比べ含有されるmRNA量が1/3の製剤である。
・ファイザー社ワクチン10μgの2回目接種後1か月の免疫原性は、
16-25歳における同社ワクチン30μgの 2回目接種後1か月と比較し同等で、
2回目接種後7日以降の発症予防効果は90.7%であった報告されている。
ただしこれはオミクロン株出現前のデータであり、
オミクロン株への有効性を示すデータは十分に得られていない。
・2回目接種後約2か月の追跡期間において安全性が示されたと報告されている。
・米国のCDCより、
5-11歳の小児の新型コロナワクチン接種後の副反応の状況について、
2021年11月3日から12月12日 までに集計された41,232人のv-safe参加者の解析結果が報告されている。
それによると、5-11歳の小児の新型コロナワクチン接種後に、
学校への出席が困難となる頻度は高くなく、
医療ケアが必要となることはまれであった(約1%)と報告されている。
・米国のV-safeよると、
5-11歳の小児の新型コロナワクチン接種後の副反応のほとんどが、
軽度から中等度であったと報告されている。
その内訳は、2回接種後、局所反応が57.5%、全身反応が40.9%に認められ、
発熱は1回目接種後7.9%、2回目接種後13.4%であった。
11件が心筋炎と判断されたが、
全員が回復した(心筋炎の発症リスクは、COVID-19に罹患した場合の方がはるかに高い)。
5~11歳の小児では16~25歳の人と比べて一般的に接種後の副反応症状の出現頻度は低かった。
・ワクチンはCOVID-19の合併症・後遺症とされる、
多系統炎症性症候群(MIS-C)のリスクを減らす(これは12-18歳のデータ)。
・COVID-19罹患歴があっても接種が推奨される。
・米国、カナダ、イスラエルでは全ての小児に対して接種を推奨しており、
フランス、ドイツはより限定的な対象者に対する推奨をしている。
(小児科学会の考え)
・基礎疾患のある子どもへのワクチン接種により、
COVID-19の重症化を防ぐことが期待される。
・5~11歳の健康な子どもへのワクチン接種は、
12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種と同様に意義があると考える。
・健康な子どもへのワクチン接種には、
メリット(発症予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解する必要がある(子どもに内緒で接種会場に連れてくるのはダメですよ〜)。
<参考>
■ 5〜11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2022.1.19;日本小児科学会)
■ 5歳~11歳の新型コロナウイルスワクチン接種にあたって(2022.1.19;日本小児科医会)
■ 本日の論点;小児(5-11歳)の新型コロナワクチンの接種について(2021.12.20)
■ 子どもへのワクチン接種 対象を5歳以上に拡大 承認方針を決定(2022年1月20日;NHK)
■ 「オミクロン株 ここまでわかった特徴と第6波対策」(時論公論)(2022年01月20日:NHK)
(2021.12.21:ナショナル・ジオグラフィック)ただし私の考えは、ワクチンが十分に有効であることが大前提です。
私が懸念するのは、ファイザー社のmRNAワクチンのオミクロン株への発症予防効果です。
武漢株〜デルタ株までは、90%以上の高率でした。
しかしオミクロン株に対しては、英国におけるデータでは、
2回接種後まもなくでも65%、その後どんどん減衰し、
半年後には10%程度まで落ちてしまうことがわかっています。
3回目接種(=ブースター接種、追加接種)後2週間では65-75%に再上昇しますが、
3回目接種まで約半年開いてしまいます。
一方、2回接種でも重症化予防効果は十分に期待でき、効果は長く続きます。
また、後遺症発生率もワクチン接種で低下すると報告されています。
以上より、オミクロン株の登場により、
残念ながら新型コロナワクチンは
「打てば罹らない」
というレベルではなくなりました。
「感染予防より重症化予防」
という、インフルエンザワクチンと同じようなレベルになったのです。
それを待つという選択肢も・・・
いやいや、小児の治験が行われているかどうか不明なので、
いつになったら接種できるようになるのかわかりません。
やはり、現時点における(ベストではありませんが)ベターな選択は、
ファイザー社のワクチン接種と考えるのが妥当でしょう。
<参考動画>
■ (オミクロン後)「重症化リスクを抱える子どもには早くワクチン接種を」
長崎大学大学院・森内浩幸教授(2022/1/21:東日本放送)
■ (オミクロン前)質疑応答【動画版】「子どもへの新型コロナワクチン接種は必要か?」森内浩幸教授(2021/10/7:日本医事新報社)
■ (オミクロン前)シンポジウム「若い世代の新型コロナワクチン接種について」
参加者:森内浩幸(長崎大学大学院教授)、小島勢二(名古屋小児がん基金理事長、名古屋大学名誉教授)、袋本久美子(関西大学4回生)、千葉陽太(関西大学3回生)、南出賢一(泉大津市長)、城下英行(関西大学准教授)、山岡淳一郎(ジャーナリスト)、家田堯(Think Vaccine)
(2021/9/28:厚生労働省)