徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

HPVワクチン、その後

2013年10月30日 06時18分12秒 | 小児科診療
日本の現況
 厚労省の委員会はHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の積極的勧奨停止を続行することを決めました(下記)。
 まだCRPS(複合性局所疼痛症候群)との関連はシロともクロとも判断できないようですね。

子宮頸がんワクチン、副反応の3割超が重篤- 検討部会、接種勧奨中止を継続
(2013.10.28:CB News)
 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種後に重篤な副反応が相次ぎ、積極的な接種勧奨が中止されている問題で、医療機関から報告のあった副反応のうち、意識消失や視力障害といった重篤症例が3割超あったことが分かった。厚生労働省は28日、厚生科学審議会の検討部会に、医療機関や製造販売業者から報告された症例数などを提示。検討部会はこれを受け、接種勧奨の中止の継続を決めた。
 厚労省の報告によると、4月1日から7月末までに、約25万人がHPVワクチンを接種。この期間に接種した人のうち、医療機関から105例の副反応報告があり、3割超の37例が「重篤」に分類された。
 未回復の10代女性のケースでは、意識消失、視力障害、頭痛などの副反応、回復した10代女性のケースでは、握力低下や多汗症、四肢痛などの副反応がそれぞれ出たという。
 厚労省はこのほか、専門家の評価で接種後のアナフィラキシーが疑われた重篤の2例を報告。副作用歴やアレルギーのなかった10代女性のケースでは、ワクチンを接種したところ、約5分後に数回嘔吐、顔面蒼白となった。アレルギー性のショック症状と考えられたため、生理食塩水などを静注。接種から45分後に回復し、帰宅したという。
 また、検討部会に対し、国外のHPVワクチンに関連する情報を収集していることも報告した。今回報告のあった症例などについて、検討部会は次回の会合で詳しく検証する見通し。


世界の状況
 一方、外国の状況として北欧からの報告を紹介します。
 不思議なことに、この論文の中では「HPVワクチンは有害事象として神経疾患の頻度を増やすことはない」と結論づけられています。CRPSの名前さえ出てきません。
 欧米ではCRPS様の症状は「心因反応」に分類され副反応として捉えないという文章を読んだことがあります。
 この違いは何なのでしょう?

HPVワクチンに神経疾患やVTEの発症リスク認めず~ベーチェット病、レイノー病、1型糖尿病は否定できず、北欧のコホート研究から
(2013. 10. 28:NM oline)
 デンマークとスウェーデンにおける大規模コホート研究から、4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、重篤な有害事象として、ほとんどの自己免疫疾患、神経疾患、静脈血栓塞栓症(VTE)を生じないことが示された。ただし、ベーチェット病、レイノー病、1型糖尿病は弱い発症リスクが否定できなかった。スウェーデンKarolinska研究所のLisen Arnheim-Dahlstrom氏らが、BMJ誌電子版に2013年10月9日に報告した。
 これまでに海外で報告されているHPVワクチンの有害事象は、発熱、頭痛、注射部位の反応などで、多くが軽症で一過性だ。著者らは、ワクチン接種に関連する重篤な有害事象を同定するため、デンマークとスウェーデンのデータベースに登録された情報を利用したコホート研究を実施した。
 06年10月から10年12月に登録された10~17歳の少女99万7585人の個人データを得て解析を行った。両国でHPVワクチン承認後4年間に、ワクチン接種を1回以上受けていたのは29万6826人(全体の29.8%)、2回目の接種を受けたのは23万8608人(23.9%)、3回の接種を終えたのは16万986人(16.1%)だった。述べ接種回数は69万6420回だった。
 重篤な有害イベントは、自己免疫疾患と神経疾患、VTEを合わせた計53アウトカムに設定。入院記録、病院の外来と救急部門の受診記録から発生の有無を確認した。接種から180日間に、ワクチン接種群に5例以上の報告があった29アウトカムについてさらに分析を進め、接種群と非接種群の罹患率を比較した。
 主要転帰評価指標は、各回の接種から180日後までに発生した重篤な有害事象に設定。接種群と非接種群の発生率を推定し、年齢、居住国、年度、親の出生国、親の学歴、親の社会経済的地位などで調整して率比を求めた。
 接種群に5例以上認められた29種類のアウトカムのうち自己免疫疾患は23種類だった。そのうち20種類では、非接種群と比較した率比は有意でなかったが、残るベーチェット症候群(率比3.37、95%信頼区間1.05-10.80)、レイノー病(1.67、1.14-2.44)、1型糖尿病(1.29、1.03-1.62)の3疾患では、非接種群に比べて接種群で有意に高かった
 29種類のアウトカムのうち神経疾患は5種類だったが、率比はいずれも有意な上昇を示さなかった。また、てんかん(率比0.66、0.54-0.80)と麻痺(0.56、0.35-0.90)は、非接種群に比べて接種群で有意に発生率が低く、逆相関関係が見られた。
 ワクチン接種とVTEの間には有意な関係は見られなかった。率比は0.86(0.55-1.36)だった。
 自己免疫疾患の中で率比が有意に上昇した3疾患とワクチン接種との関係を、「接種群に20例以上発生(分析の信頼性)」、「率比が3.0以上(関係の強度)」、「2つの国のデータをそれぞれ別個に分析してもリスク上昇が有意(関係の一貫性)かどうか」の3つの基準で解析した。その結果、3疾患はいずれも、これら3基準のうちの1つしか満たさなかった。
 また3疾患とも、接種後の時間経過に対する発症のパターンに一定の傾向は認めず、181日以降の罹患率比もそれ以前の率比と同様の傾向を示した。ベーチェット病の率比は3.18(0.83-12.19)、レイノー病では1.50(0.95-2.37)、1型糖尿病(1.18、0.91-1.55)と、接種後に一過性に見られたものではなかった。
Autoimmune, neurological, and venous thromboembolic adverse events after immunisation of adolescent girls with quadrivalent human papillomavirus vaccine in Denmark and Sweden: cohort study
BMJ 2013; 347 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.f5906 (Published 9 October 2013)
Cite this as: BMJ 2013


 約100万人のデータですが、日本の報告と決定的に異なる点があります。それは「HPVワクチンを接種していない人との比較」つまりコントロール・スタディと呼ばれる統計学的手法を採用していることです。
 日本でのデータはHPVワクチンを接種後症状を訴えた人たちだけを問題にしていますが、同じ症状が接種していない人に発生する頻度と比較されていません。これでは客観的な評価ができませんね。

 肺炎球菌とヒブワクチンの同時接種が問題になったの時にも感じたことですが、日本人には科学的・統計学的視点が欠如しています。
 あるイベント後に乳児死亡例が報告された場合、イベントと死亡例に関連があるかどうか?
 そのイベントに参加していない乳児の死亡数と比較するとわかる、というのが統計学です。
 例えば、ワクチン同時接種後1週間以内に死亡例が報告されたとします。
 統計学では、それを以下の状況と比較します;
①ワクチン同時接種をしていない乳児が1週間に死亡する率と比較して多いかどうか。
②他のイベント(例えば乳児健診)後1週間以内に死亡した乳児数と比較して多いかどうか。
 私が得たいろいろな情報をもとに判断すると・・・
 ①も②でも「差はない」(統計学的有意差は存在しない)と判断され、同時接種は再開するに至りました。

 HPVワクチンについても、科学的に解析して万人が何得できる報告をしていただきたいと思います。
 国民は不安に駆られて接種を躊躇し、中止を呼びかける団体も出てきました;

子宮頸がんワクチン:被害者連絡会、中止要望 知事と前橋市長に /群馬
(毎日新聞:2013年10月29日)
 子宮頸(けい)がんワクチンの副作用による被害を訴える女性や家族らでつくる「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」(東京都)は、ワクチン接種事業の中止などを求める要望書を大沢正明知事と山本龍・前橋市長に提出した。連絡会は県支部を発足させ、県内でもワクチン被害に対する支援などを呼びかけていく。
 同連絡会によると、県内にはワクチン接種後に体調不良を訴えている10代の少女が少なくとも4人おり、頭痛や体の痛み、ひどい物忘れなどに苦しんでいるという。同連絡会は原因究明や治療法の確立などを国に求めており、「病院を回っても原因が分からない人が多い。思い当たる症状があれば連絡してほしい」としている。問い合わせは同連絡会(042・594・1337)へ。
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