徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

水ぼうそうの流行を考える~「任意接種」という踏み絵

2011年12月16日 07時09分30秒 | 小児科診療
 当地域ではおたふくかぜと水ぼうそうが流行中です。
 水ぼうそうの流行は全国的で、その規模も大きいようです(添付記事参照)。

 日本は水ぼうそうのワクチンを開発した輝かしい歴史があるにもかかわらず、その位置づけが「任意接種」であるゆえ、接種率が20~30%と低いままであり、流行が制圧できずにいます。
 アメリカでは「2回定期接種」であり、水ぼうそうの流行は制圧されています。

 なぜこんなことが起こるのか?

 日本は医療が発達し「国民皆保険」によりフリーアクセス(いつでもどこでも安価で医療を受けられる)が保証されています。しかしワクチンの多くは任意接種=有料なので、お金に余裕のない子育て世代に重くのしかかり、まるで「子どもの健康にどれだけお金をかけられますか?」と試されているようなストレスさえ感じます。
 このような状況が「罹った方がまし」という誤った感覚が生んだものと思われます。
 一方、アメリカでは医療費はべらぼうに高く、一方予防接種は無料なので「受けた方がまし」という感覚が生まれているそうです。
 つまり、医療行政により疾患に対するスタンスが左右されているということ。

 しかし、ここにきてポリオワクチンが社会問題化しています。
 効果は高いが副反応の心配な生ワクチンか、効果はやや劣るが副反応の心配が少ない不活化ワクチンか。
 ようやく「子どもの命を守るワクチン」という基本スタンスに立ち戻った印象があります。

 これを機に、子どもの命を守るワクチンは定期接種にして「希望者は無料、受けるかどうかは家族で考えてください」というスタンスに切り替わっていくことを希望する次第です。

水ぼうそうが流行、過去10年間で第3位を記録
(国立感染症研究所)

 国立感染症研究所は12月9日掲載の感染症週報第47週(11月21~27日)で、水痘(すいとう=水ぼうそう)の定点当たり報告数が10月から増加し続けており、47週には1.77と、2001年以降の報告数としては03年、10年に次ぐ多さを記録したとして、注意を呼び掛けている。水痘ワクチンは日本で開発されたにもかかわらず、いまだに接種率は20~30%と低く、毎年約20万人の患者が発生している。

国内のまん延状況をコントロールするには程遠い
 感染研によると、水痘の定点当たり報告数の増加は第42週(10月17~23日)から続いており、47週には1.77を記録。これは03年、10年に次ぐ多さで、38都道府県で前週よりも増加が見られているという。
 また、11年第1週からこれまでに報告された累積報告数は20万620人で、男性が10万4,659人(52.2%)、女性が9万5,961人(47.8%)と男性がやや多い。この調査は小児科の報告に基づいて行われており、年齢群別の報告数では、5歳以下が全体の85%以上を占めている。
 同週報では、水痘を「通常は小児期に好発する予後良好な疾患」としながらも、合併症には敗血症を含む最近の二次感染、髄膜脳炎、小脳失調、肺炎、肝炎などがあり、成人では重症化することも多いと警告している。また、免疫抑制状態にある人にとっては致死的な影響があるほか、自然感染で治癒した場合、約20%の人が年齢を経て帯状疱疹(ほうしん)を発症する可能性があることも示されている。
 さらに、水痘ワクチンが世界に先駆けて日本で開発されたにもかかわらず、予防接種法で「任意接種」に位置付けられているため、接種率が低いことも指摘。実際の接種率は20~30%との報告もあり、そうした状況を打開するための多価ワクチンの開発も進められている。同週報では、「国内におけるまん延状況をコントロールするには程遠いと言わざるを得ない」とのコメントも記されている。

米国では四種混合+肺炎球菌ワクチンの臨床試験も
 一方、米国では日本で開発された水痘ワクチンの接種を1995年からは1回、06年からは2回、小児の定期接種プログラムに組み入れており、現在では90%以上の接種率を維持している。それに伴い、全年齢で水痘関連死を制圧したことや、定期接種対象外の乳児における水痘合併症発生率が低下するなどの効果も報告された(「Pediatrics」2011; 128: 1071-1077)。
 また同時期に、1歳から1歳半の子供を対象とした、現在米国で用いられているムンプス(おたふく風邪)・麻疹(ましん=はしか)・風疹(ふうしん=三日ばしか)・水痘の四種混合(MMRV)ワクチンに肺炎球菌7価ワクチンを加えた五種混合ワクチンの臨床試験に関する成績も報告されている(「Pediatrics」2011; 128: e1387-1394)。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「花粉症避粉地体験セラピー... | トップ | ヒブ・肺炎球菌ワクチンの助... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小児科診療」カテゴリの最新記事