小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

新規薬剤目白押しのRSV感染症対策2024

2024年06月18日 15時35分19秒 | 予防接種
小児科医にとってRSV感染症は、
最後に残ったやっかいなウイルスです。

生後3ヶ月までの赤ちゃんが感染すると、
1/3はゼーゼーしてきて気管支炎となり、
呼吸困難で入院することがあります。

医学的対応は、
予防薬としてのシナジス®が以前からありましたが、
これはハイリスク乳児のみ使用できるもので、
一般の健康な赤ちゃんには使用できませんでした。

ワクチンもなく、
特効薬もなく、
重症化して入院した赤ちゃんも、
対症療法で本人の体力勝負・・・。

そこに近年、次々と新薬が登場してきました。

まずはワクチン。
高齢者向けのワクチン(アレックスビー®)と、
高齢者と妊婦向けのワクチン(アブリスボ®)が登場。

なぜ高齢者かって?
赤ちゃんが重症化することで有名だったRSVですが、
近年、高齢者も重症化することが判明したからです。
今まで検査しなかったからわからなかっただけ。

妊婦向けワクチン?
これは妊婦さんが重症化するわけではなく、
妊婦さんにワクチン接種して免疫を獲得させ、
胎盤〜臍帯を通して赤ちゃん(胎児)に免疫をつけ、
出生後の感染予防効果を期待するという、画期的手法です。

次に予防薬。
シナジス®と同じ仲間のモノクローナル抗体(ベイフォータス®)が開発され、
認可・発売されました。
そしてこの薬は一般の健康な赤ちゃんにも使用可能です。

ただし、モノクローナル抗体製剤は高価であり、
自治体の補助がなければ接種は普及しないと思われます。

さらいn残念ながら、
インフルエンザに対するタミフルのような、
直接ウイルスをやっつける治療薬はまだ登場していません。

これらのことを整理した記事を見つけましたので、紹介します。
報告によるとインフルエンザ、新型コロナ、RSVの中で、一番重症化しやすいのはRSVである、とのこと。


成人に多いRSV感染症、予防面で進展相次ぐ
予防薬のラインアップが充実しつつあるRSV感染症診療を交通整理する
(東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/渡辺 彰)
 RSウイルス(RSV)感染症は、小児の感染症として捉えられがちであるが、実際には成人や高齢者の罹患(再感染を含む)が多く、重症化・死亡に至る例も少なくない。文献レビューとメタ解析に基づく研究によると、日本では60歳以上のRSV感染症は年間約70万例発生し、このうち入院が約6万3,000例、入院例中の死亡は約4,500例と推定されている。
 それに対し、小児の受診例は2021年には約22万7,000例と報告されており、日本でもRSV感染症は小児より成人・高齢者に多いことが認識されつつある。
 このような背景から、近年は感染予防を目的とした抗体薬やワクチンを中心に開発が進み、診療ツールがそろい始めてきた(関連記事:朗報!60歳以上対象にRSVワクチンが本日承認)。本稿では、RSV感染症の最新知見を踏まえ、診療技術の進歩をキャッチアップするとともに残された問題点を見直し、RSV感染症診療の将来を展望したい。

▶ インフルエンザとCOVID-19に比べ重症化しやすい
 RSV感染症の重症度に関し、髙橋らは自験例の解析を行い、成人のRSV関連肺炎例では同一期間中のインフルエンザ関連肺炎に比べ入院数が多く(43例 vs. 25例)、平均年齢や呼吸器症状の重症度は高く、平均入院期間も長かった(30.0日 vs. 15.2日)と報告している。この期間中、全肺炎例に占めるRSV関連肺炎例の割合は5.3%であったが、冬季の流行期は14.6%に増加したという。細菌との重複感染例は60%以上に上り、特に肺炎球菌との合併が多く、流行のピーク時には肺炎球菌肺炎例の20%がRSVとの重複感染であった。また、RSV関連肺炎例のうち21%は初診や紹介受診の時点で誤嚥性肺炎と診断されていたことから、同氏は「RSV感染症は見逃されている可能性が高い」と指摘しており、これは感度が低いといった検査・診断の抱える問題点に起因すると思われる(関連記事:健康寿命延伸に寄与、RSVワクチンへの期待)。
 RSV関連肺炎の死亡率は、急性期においては10%以下でインフルエンザ関連肺炎と同等だったが、高齢者では気管切開や胃瘻造設が行われたり、寝たきりになるなど日常生活動作(ADL)の低下を招きやすい。そのため、罹患後1年間の死亡率は急性期の4~5倍に及ぶ。
 それでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と比べてはどうだろうか? Surieらは2022年2月~23年5月に、米国20州の急性期病院25施設に入院した60歳以上のRSV感染症患者304例、COVID-19患者4,734例、インフルエンザ患者746例を対象に、治療の対応を比較する前向き疫学調査を行った。
 その結果、通常の酸素投与(30L/分未満)を必要としたのはRSV感染症で79.7%、COVID-19で58.2%、インフルエンザで65.8%(P<0.001)、同様に高流量酸素投与(30L/分以上)または非侵襲的陽圧換気はそれぞれ23.0%、11.7%、13.7%(P<0.001)、集中治療室(ICU)入室は24.3%、17.3%、16.8%(P=0.05)で、いずれも他の2疾患と比べRSV感染症で有意に頻度が高かった。また、挿管による人工呼吸管理または死亡は13.5%、10.2%、7.0%(P=0.07)と3疾患間に有意差はなかったものの、RSV感染症はインフルエンザと比べ有意に頻度が高かった(調整オッズ比2.08、P=0.001)。
 以上を踏まえると、3疾患の中ではRSV感染症が最も重症化しやすいといえよう。

▶ 診断の課題は検出キットの性能向上と保険適用の拡大
 RSV感染症の診断としては、迅速抗原検出キットを用いた診断法があるものの、RSV感染症がもっぱら小児、特に乳児の感染症と考えられてきた経緯もあって、保険適用は1歳未満の乳児や入院中の患児、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の小児への使用に限られている。また、成人・高齢者では排出ウイルス量が乳幼児の約1,000分の1と少なく、排出期間も短いため陽性となりにくいことから、同キットでの陽性検出率は2割程度にとどまる。診断精度の向上には、複数回の検査やペア血清による抗体価測定との組み合わせの他、COVID-19の流行を契機に普及したPCR検査機器の活用なども考えられるが、感度・特異度を高めた安価な迅速抗原検出キットの実用化とともに、成人・高齢者に対する保険適用の拡大が喫緊の課題である。
 なお、その他の診断法として、新型コロナウイルス・季節性インフルエンザウイルス・RSVの同時検査法(PCR検査、抗原検査)は、COVID-19疑い例に対する鑑別診断として保険適用が認められている。また、Multiplex-Nested PCR法を利用した病原体核酸検出キットの「Film Array呼吸器パネル2.1」は、「COVID-19疑い」以外の条件でもRSVなどが検査できるが、多岐にわたる制約がある点に加え、保険点数が高いことに注意が必要となる。

▶ 抗RSウイルス薬は発展途上、抗体薬は前進中も価格が課題
 発症予防を適応とする抗体薬を除けば、実用化されたRSV治療薬はまだない。開発中の治療薬では、感染の成立に不可欠なRSVのF蛋白質を標的とする薬剤〔ファイザー社のsisunatovir(PF-07923568)など〕が多いが、塩野義製薬とUBE(旧宇部興産)が共同で開発中のS-337395はウイルスの増殖に必要なL蛋白質を阻害するRNAポリメラーゼ阻害薬である。前者のうちsisunatovirは高齢者と小児を対象とした臨床試験が始まっているが、これまでにも開発を中断した薬剤があり、治療薬の実用化にはまだ時間を要するというのが現状である。
 一方、抗体薬については開発が進み、発症予防としての使用に限られるが現時点で2つの抗RSVヒトモノクローナル抗体製剤がある。アストラゼネカ社のパリビズマブ(商品名シナジス)は、12カ月齢以下の早産児、24カ月齢以下の先天性心疾患や免疫不全およびダウン症候群児などの乳幼児を対象に保険適用が認められており、RSV感染流行期に月1回投与をする。今年(2024年)3月に承認、5月22日に発売されたアストラゼネカ社/サノフィ社のニルセビマブ(商品名ベイフォータス)は、前記の重症化リスクの高い乳幼児(保険適用)だけでなく、それ以外の全乳幼児(保険適用外)が対象になり、1回投与で流行期の1シーズンをカバーできる長期間作用性を特徴とする。
・・・
 パリビズマブはさらなる前進があり、医師主導の臨床試験によって効果が確認されたことから、今年3月に肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患などのある乳幼児が保険適用の対象に加えられた。今後、臨床における2剤の位置付けを考えるべきであるが、抗体薬はいずれも薬価が高い点に懸念が残る。

▶ 相次ぐワクチンの実用化、mRNAワクチンも登場
 検査・診断と治療薬に問題が残る一方、ワクチンに関しては実用化と発売が相次ぐ。RSVワクチンの開発は、1957年に初めてウイルスが分離され間もなく始まったが、当初の成績は芳しくなかった。21世紀に入って、RSVのF蛋白質がヒト細胞の受容体と結合し、ウイルス粒子が細胞膜と融合した後に構造が変わるという機序が明らかになってから、融合前F(prefusion F)蛋白質を標的としたワクチン開発が国内外で進展し始めた。
 日本では、昨年9月にアジュバントを添加したグラクソ・スミスクライン(GSK)社のRSVワクチン(商品名アレックスビー筋注用)が60歳以上の成人に対する初のワクチンとして承認、今年1月に発売されたのに続き、同じく今年1月にファイザー社のRSVワクチン(商品名アブリスボ筋注)が母子免疫ワクチンとして妊婦への投与が承認、3月には60歳以上の成人が適応に追加され、5月31日に発売となった。さらに、5月30日にモデルナ社がmRNAベースのRSVワクチン(mRNA-1345)の製造販売承認を厚生労働省に申請。実用化ラッシュ期を迎えた今、注目されるのが各ワクチンの有効性である。以下、臨床試験の成績を中心に紹介しよう。

アレックスビー:初回時は高い効果も再接種による追加効果は認められず
アブリスボ:母子感染予防だけでなく高齢者でも最大85.7%の効果
mRNA-1345:効果は80%を上回り、安全性の懸念なし

▶ 先んずるべきはワクチンによる予防、その鍵は公的補助の拡充
 世界では日本に先行して3剤のRSVワクチンが実用化され、妊婦への投与を含めて高齢者を中心に接種が広がっており、検査・診断と治療薬の開発の面でまだ問題が残る現状では、ワクチンによる感染予防を先んじて実施すべきと考える。そのためにも各ワクチンの低価格化の実現が望ましく、加えて社会に与える疾病負担の大きさに鑑みれば、RSVワクチンの接種費用に対する公的補助や定期接種化を検討すべきである。自治体対応の先駆けとしては、今年4月に北海道の小平町と神恵内村がRSVワクチン接種への公費助成を開始している。特に神恵内村では自己負担を1割に抑えており、同村のB類疾病用定期接種ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌感染症、COVID-19など)への9割補助と同等の手厚い施策を講じている15, 16)。こうした方向性が全国に広まることを期待したい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学校健診問題:このままでは学校医の撤退が始まります

2024年06月18日 07時22分13秒 | 予防接種
「着衣診察で側弯症を見逃すと医師が敗訴する」
という事実があります。

(2008-03-28:個人ブログ)
(2019年7月2日:朝日新聞)

学校医は今、
「脱衣診察すると“セクハラ”と言われる」
「着衣診察で病気を見逃すと“犯罪者”にされる」
というリスクに挟まれて身動きできなくなっています。

さて、学校健診では「チェック項目」が決められていることをご存知でしょうか。

児童生徒等の健康診断マニュアル(平成27年改訂版)
この中の19ページにチェック項目一覧表があります。
学校医はそれをシンプルに実行しているだけです。
着衣では心臓や肺、皮膚や胸郭の診断精度が下がり、
医師としてはそれは避けなければならないこと。

「健診ごときで上半身裸になるのはやり過ぎでは?」
という意見の背景には、
「健診で何をチェックしているのか?」
に関して“理解不足”があります。

TVやメディアで取りあげられる際も、感情論が先走り、
健診の意義がなおざりにされていることを感じます。

生徒家族側が理解して初めて信頼関係に基づく「健診」が成り立ちます。
理解なき健診は、上記のような誤解の元です。

健康診断は医師にとって、
「自覚症状がまだ出ない段階で、病気を早期発見する繊細な医療行為」
なのです。

生徒家族の方々、健診の内容を知ってください。


そして健康チェックを受けたい方だけ、診察を受けてください。
健康チェックを受けたくない方は、拒否してください。

今まで理解不足、啓蒙不足を放置してきたのは、
文部科学省系機関である教育委員会の責任です。
私も色々提案してきましたが、結局何も変わりませんでした。

これ以上学校医を追い詰めると、
ボランティア精神で担当してきた医師達はみんな現場から立ち去り、
学校健診が自然消滅していくことでしょう。

・・・私は「その方がいい」と思っている一人ですが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プロアクティブ療法 2.0

2024年06月14日 07時36分54秒 | 予防接種
・・・と書かれても「?」という方が多いと思われます。

これは「アトピー性皮膚炎治療のニュースタンダード」を指します。
昨晩、堀向健太Dr.の講演で聴きました。

その内容は・・・
・寛解導入はステロイド外用薬を使用
・維持期はステロイド以外の外用薬(タクロリムス(※1)、デルゴシチニブ(※2)、ジファミラスト(※3))で行う。
※ 1)プロトピック®軟膏
※ 2)コレクチム®軟膏
※ 3)モイゼルト®軟膏

というシンプルな構成。

あれ、これどこかで聞いたことがある・・・
そう、2024年5月に紹介した「開業医によるアトピー性皮膚炎診療」そのものです。
当院でも昨年から診療に取り入れている方法ですが、
今回の講演を聴いて、自分が行っている診療が正しいこと、かつ最先端であることが確認できました。

今回の講演はデルゴシチニブの製薬会社がスポンサーなので、
演者はその軟膏を中心にお話しされましたが、
私はジファミラストを使用しています。

ジファミラストは生後3ヶ月から使用可能で、
使用量制限がありません。

一方のデルゴシチニブは生後6ヶ月から使用可能、
使用量制限(1回5gまで、あるいは体表面積の1/3まで)。

さらに、副作用が少ない点からもジファミラストが有利です。

湿疹でお悩みの赤ちゃんのご家族の方、
でもステロイド外用薬の副作用が心配な方、
ぜひ当院にご相談ください。

ステロイド外用薬の副作用を心配しながら使う時代は終わりました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

舌小帯短縮症は、どこから病気?

2024年05月18日 15時10分36秒 | 予防接種
私が小児科医になって30年以上経ちました。
舌小帯短縮症の扱いは時代により変遷してきたことを実感します。

研修医の頃は、新生児期に膜状の薄い舌小帯はハサミで切っていました。
たまにそこに血管が通っている赤ちゃんがいて、
切ると出血することもありました。

数年後、画期的な論文が出ました。
3000例の赤ちゃんの舌小帯を観察し、
舌の先が伸びるので切る必要がない、という内容です。

それを根拠に、新生児期のランダムな舌小帯切り行われなくなりました。

生活に支障が出るほど舌小帯が短い場合、
つまり哺乳や発音に問題が発生する例には、
乳児期以降に切除することになりました。
この時期は全身麻酔が必要です。

ですから、舌小帯のリスクと全身麻酔のリスクを天秤にかけて、
手術が必要かどうか検討することになり、
耳鼻科医の中でも手術に対する温度差があります。

さて、近年の考え方はどうなっているのでしょう?
参考になる記事が目に留まりました。

学会レベルでも私が例示した論文以降、2000年代前半までは、
「切らない方がよい」
とされ、しかし2000年代後半以降は、
「支障があれば切るべきだ」
と流れが変わってきたものの揺れ動いていて、
現在もまだ“解決した”とは言えない状況のようです。


舌小帯短縮症、正しい知識で早期治療
~哺乳に支障、切開手術で改善~

◇舌先がハート形に
 舌の裏側の中央にある舌小帯という水かきのような膜が口の底に固定され、舌の動きが制限される先天性の異常を言う。舌先を持ち上げられない、舌を唇より前に出せない、舌を出すと膜が引きつれて舌の先端部分がハート形になる、などの症状がある。
 赤ちゃんの時期だと母乳を上手に吸えないため、授乳が頻回になり、特に夜間は母親にとってつらい。赤ちゃんは舌を乳頭に絡ませることが難しく、十分な量が飲めないため、栄養不足になる恐れもある。イライラした赤ちゃんが歯茎で乳頭をかむと周辺に傷ができ、授乳のたびに痛むため、母親は精神的にも追い詰められるケースが多い。乳腺炎にもなりがちで、障害は多岐にわたる。
 そうした子どもは離乳食期以降、かみ砕いたり、飲み込んだりする動作がうまくできない。食べ物が喉に詰まりやすく、飲み込めずに吐き出してしまうことがある。3歳を過ぎると発音がはっきりしない「構音障害」と診断されることも。「異常が出る前に舌を自由に動かせるようにしてあげたいと考えています」と話すのは、手術による治療を推奨している新百合ヶ丘総合病院の小児外科医、伊藤泰雄氏だ。
 みんなができるのに自分だけできないと感じるのは非常につらい。例えばソフトクリームやペロペロキャンディーがなめられない、うどんやラーメンなど麺類をうまくすすれない、トランペットやクラリネット、リコーダーなど音を出す楽器を上手に吹けない、舌足らずなしゃべり方になる、などだ。
・・・
 幼児期にこうした思いをせずに済むよう、伊藤医師はできるだけ乳児期に処置しているという。米国アラバマ州で同疾病を専門的に診療している小児歯科医師による2018年の著書「舌小帯短縮症」では、新生児の4~10%に出現するとしており、「決して珍しくはないのですが、舌の裏側なので親が気付きにくい上、小児科医もしっかり診ていません」と伊藤医師。
 見つけ方で最も分かりやすいのは、舌先がハート型にくびれているかどうか。泣いて大きな口を開けても舌先が上がらないなどがポイントだ。先に触れたが、母乳がうまく吸えない、体重が増えない、乳頭痛があるなど、哺乳に関する心配事や問題がある場合は舌をチェックしてほしい。
◇どうしたら治るのか
 効果がある治療の一つとして、伊藤医師は手術で舌小帯を切開し、舌を自由に動かせるようにする方法を提案する。舌は筋肉でできた運動器であるため、使わなければ成長・発達せず、逆に退化する。動く範囲が制限されていると機能を十分に発揮できないのは明らかで、伊藤医師は「成長とともに自然に治るわけではない。舌小帯切開で改善が見込まれます」と強調する。
 とはいえ、手術に伴うリスクはゼロではない。出血、痛み、術後の感染症や再癒着などが挙げられる。「まれに見られる痛みや傷による感染には鎮痛剤や抗生剤で対応します。帰宅後、万が一出血した場合を想定し、ご家族に圧迫止血法を指導しています」(伊藤医師)。幼児は全身麻酔で手術するため数日の入院が必要だが、乳児の場合は圧迫止血で縫合もせず日帰りできる。術後30分で授乳も可能だ。処置する時期が早ければ早いほど、リスクは少なく済む疾病と言える。
・・・
 年間200件ほど手術している新百合ヶ丘総合病院の集計によると、再癒着率は全体の7~8%に見られるというが、「再癒着防止のため、指で舌を持ち上げる切開創のストレッチを保護者に行ってもらっています。術後1週間と1カ月の外来受診で癒着があるときは、指による剝離で治すことが可能です」と伊藤医師。しっかり対応してもらえるようだ。
◇患者が相談できない
 2001年、日本小児科学会が「舌小帯短縮症に対する手術的治療に関する現状調査とその結果」を発表し、その中で「舌小帯短縮症と哺乳の関連は習慣的考え方で、学問的根拠はない」と記した。これ以降、母乳は飲めなくてもミルクが飲めて体重が増加していれば、舌小帯を診察したり、切開手術を検討する小児科が減少した。しかし05年以降、米英など諸外国は方針を転換。世界保健機関(WHO)は09年米小児科学会は17年哺乳障害がある赤ちゃんに舌小帯短縮が見られる場合、切開手術で改善すると発表し、見直しが進んでいる。一方、日本国内は特段の議論なく現在に至っている。
・・・
 「生後すぐ哺乳不良を自覚し、産院退院後に小児科を受診しても、搾乳での授乳や調乳への移行を勧められたり、体重増加が順調なら様子見と言われてしまったり。母乳育児に取り組もうとしている母親にとって、納得できる形の対応でないのが実情と聞いています」と伊藤医師は表情を曇らす。この流れを変えるため、さまざまな論文を発表するなど手を打ってきたが、まだ手応えはないという。
 ただ、少し動きもある。18年に日本歯科学会が「口腔(こうくう)機能発達評価マニュアル」を発表し、哺乳・摂食・構音障害がある舌小帯短縮症は手術対象という姿勢を明らかにしている。手術の実施を表明している小児外科医や、伊藤医師ら数少ない専門医への紹介状を書いて相談を促す小児科医が出てきたという。
 現在国内で舌小帯切開手術をしている医療機関は関東地方に集中していて、全体の数は少ないとみられる。特に、乳児の手術を受け入れている施設は首都圏に限られる。伊藤医師は「地域によって医療に格差が生じていると言えます。現状、全国どこでも治療が受けられるわけではない上に、国内に二つの異なった治療指針が存在している状態なのです」と憂慮する。
・・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナが五類に移行して1年、現在の状況は?

2024年05月18日 06時55分13秒 | 予防接種
2023年5月に新型コロナが五類相当に格下げされ、
感染対策が緩和されました。

その後、感染対策で抑制されていた他の感染症が、
「やっと出番が来た!」
とばかりにリバウンド流行しました。

それから約1年、現在の状況はどうなっているでしょう?
我々はコロナとどうつき合っていけばよいのでしょうか。

以下の記事を参考に確認してみました。

私がポイントと感じた箇所;

・感染対策が緩和されてもコロナ流行に大きな変化なし。逆に考えると、夏にまた流行がある可能性あり。

・若年者は軽症で済むが、高齢者は重症化のリスクがあることも変わりない。
 → 厚労省は65歳以上の高齢者を対象にワクチンの追加接種を行う予定

・インフルエンザは9月から流行が始まり4月まで続いた。これは感染対策緩和の反動と考えられる。今後は元の流行パターンに戻るだろう。

・影を潜めていた咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナ、A群溶連菌咽頭炎などが季節を問わず流行した。これも感染対策緩和の反動と思われ、今後は従来の流行パターンに戻るだろう。

・ただし、マイコプラズマ感染症だけはリバウンド流行が観察されていない、今後の動向に要注意。

・マスク着用を継続するのは非現実的だが、せめて頻繁な手洗いを続けていけば、呼吸器感染症は社会から少なくなっていくはず。

概ね頷けますが、最後の「せめて手洗いだけは続けよう」はちょっとさみしい表現ですね。
私は60歳で、持病持ちなのでハイリスク者です。コロナに感染したら重症化する可能性があり、人混みではマスクを外せません。
高齢者施設では、五類相当になってからもきびしい感染対策が続けられています。


■ コロナ5類移行で感染症全体に異変
2024/5/17:JIJI.com)より一部抜粋;

 新型コロナウイルス感染症が5類に移行して1年が経過しました。移行後に予防対策が緩和されても、新型コロナの流行状況に大きな変化は起きていませんが、インフルエンザなど、それ以外の呼吸器感染症の流行に影響が見られています。・・・
◇コロナに変化なし
・・・
 2023年5月8日、新型コロナが感染症法の2類相当から5類に移行されました。これに伴い、政府が国民に感染対策を一律に求めることはなくなり、個人や事業者の判断で実施するようになりました。すなわち、新型コロナの予防対策が大きく緩和されたのです。患者数の把握も、全数ではなく定点医療機関からの報告に基づく対応になりました。 
 こうした予防対策の緩和で新型コロナの拡大も懸念されましたが、この1年間は大きな変化なく経過しています。「変化がない」というのは、夏と冬の流行を5類移行前と同程度の規模で繰り返しているという意味です。 
 新型コロナの流行が始まってから、国民の多くは感染やワクチン接種により、新型コロナウイルスに一定の免疫を持つにようになりました。このように免疫を獲得した人が多い状況下であれば、予防対策をある程度緩和しても流行が大きく拡大することはないのです。さらに、この1年間はウイルスが大きな変異を起こしていないことも拡大しなかった要因と言えます。
◇高齢者はまだ重症化する
 5類移行後の1年間はウイルスの病原性も変化することはなく、若い人は感染してもほとんどが軽症で回復するようになりました。その一方で、高齢者の場合は重症化するケースも少なくありません。 
 厚生労働省が発表する人口動態統計によれば、5類移行後の23年5月から11月までの新型コロナによる死亡者数は約1万6000人で、その大多数は高齢者でした。移行前の22年5月から11月は、死亡者数が約2万4000人だったので減少していますが、相変わらず死亡者数の多いことが分かります。 
 つまり、高齢者にとって、新型コロナは今も5類移行前と同様に重症化する可能性があり、流行が拡大する冬の季節などには、十分な予防対策が必要になるのです。厚労省も今秋には、65歳以上の高齢者を対象にワクチンの追加接種を行う予定にしています。
◇インフルエンザの変則流行
 このように、5類移行後も新型コロナの流行に大きな変化は見られていませんが、それ以外の呼吸器感染症には異変が起きています。 
 顕著な例がインフルエンザです。日本では21年、22年とインフルエンザの流行が全く見られませんでした。要因は幾つかありますが、新型コロナ対策で国際交通を止めたことが大きいと思います。 
 23年は国際交通がある程度回復し、1~2月には3シーズンぶりにインフルエンザの流行が起こりました。ただ、この時期は新型コロナが2類相当で、国民の皆さんは予防対策を強化していたため、小規模で終わりました。そして、5類に移行した5月以降、インフルエンザの患者が少数ながら発生し、9月に入ってから大きな流行になったのです。これは24年4月まで続きました。 
 このように、23年秋から24年春まで長期にわたり流行が続いたのは、過去2シーズンにわたりインフルエンザの流行が無かったためです。それまで、私たちは毎年冬の季節、インフルエンザウイルスの暴露を受けて一定の免疫を得ていました。しかし、コロナ対策によってその機会が無くなり、免疫が低下していたのです。そんな状況下、コロナ対策を緩和したことで、インフルエンザが拡大したと考えられます。 
 23年からの流行では多くの国民が免疫を再獲得しており、次のシーズンには例年並みに戻ると思います。
◇小児の呼吸器感染症も増加
 咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナ、A群溶連菌咽頭炎など、小児を中心にまん延する呼吸器感染症も、新型コロナが発生してからしばらくは流行が見られませんでした。こうした感染症は飛沫(ひまつ)や接触で感染するため、新型コロナ対策でマスク着用や手洗いを強化したことにより広がらなくなったのです。そして5類移行後、予防対策が緩和されてから流行が再燃しました。 
 これらの感染症への免疫も、流行がしばらく無かった間に低下しており、患者数がコロナ前より増えているとともに、変則的な流行も見られています。例えば咽頭結膜熱は、本来は夏に拡大しますが、23年は秋から冬にかけて患者数が増加しました。このような患者数増加や変則流行も、次第に本来の状況に戻っていくと思います。 
 一つ気がかりなのがマイコプラズマ肺炎です。この呼吸器感染症は小児だけでなく大人もかかりやすい病気ですが、新型コロナが発生してから患者発生はほとんどなく、5類移行後も再燃していません。そろそろ大きな流行が起きることを想定しておく必要があるでしょう。
◇手洗いだけは続けよう
 新型コロナが発生する前まで、インフルエンザなどの呼吸器感染症は国民の間で毎年のようにまん延し、医療にも大きな負荷をかけてきました。しかし、新型コロナ禍を受け、マスク着用や手洗いなどの感染対策を強化したことにより、呼吸器感染症そのものが一時的に減りました。「この影響で免疫が低下した」とも言えますが、もし、私たちがこうした感染対策を続けることができれば、呼吸器感染症による医療への負荷を今後も軽減できるかもしれません。  マスク着用を継続するのは非現実的ですが、せめて頻繁な手洗いを続けていけば、呼吸器感染症は社会から少なくなっていくはずです。これは、今回の新型コロナ禍を経験して私たちが学んだ貴重な知恵だと思います。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナウイルスは「空気感染」するとWHOが定義しました(2024年)

2024年05月16日 15時52分30秒 | 予防接種
病原体の感染経路は従来3つに分類されていました;

1.接触感染
2.飛沫感染
3.空気感染

新型コロナウイルスが登場したときからずっと、
この病原体の感染経路が議論されてきました。
リアルワールドでのデータは、

2.飛沫感染では説明しきれない感染拡大
3.空気感染するほど感染率は高くない

というもので、はてどう理解したらよいのか、
専門家の間でも一致した考えはなかなか出ませんでした。

そこで苦肉の策としてひねり出したのが「エアロゾル感染」というワード。
イメージとしては飛沫感染と空気感染の間に位置し、
一応、粒子の大きさで分類されるようですが、
未だに正式な医学用語として認められていません。

そこに今回の情報が入ってきました。
WHOが「新型コロナウイルスは空気感染する」と定義したのです。
そして「粒子の大きさにかかわらず空気中に飛散した物体を介して感染する経路を“空気感染”と再定義したのでした。
つまり、粒子の大きさをもとに分類してきた
「飛沫感染」「エアロゾル感染」「空気感染」
の3つをグイッと一つにまとめてしまったのです。
これは画期的!

解説記事を引用させていただきます;

■ 「合意された『空気感染』の定義─コロナ禍の轍をふまない対策を」
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)
2024-05-13:日本医事新報社)より一部抜粋;
 コロナ禍が始まった当初から、コロナが空気感染であるか否かと合わせて議論されてきた「空気感染」の定義について、WHOと各分野の専門家が合意したことが発表された1)。これにより、大きさを問わず空気中へ飛散した物体を介して感染する経路を、総じて「空気感染」とすることが確認され、コロナもこれに含まれることが明示された。
 そもそも空気中に放出された病原体を含む粒子が、飛沫としてすぐに落下してしまうか、エアロゾルとして空気中にとどまり飛沫が及ぶ距離や時間を越えて広がるかどうかは、粒子の大きさだけでは決まらず、空気の流れや湿度など様々な要因に左右される。にもかかわらず、医学においては長らく「5μm」までの粒子を飛沫、それより小さい粒子をエアロゾルと定められ、前者による感染は1〜2m以上離れていれば広まらないとされてきた。
 しかし、その大きさは最初の記載では肺の奥まで到達しやすい粒子の大きさとして言及されたものが、空気中にとどまるエアロゾルの大きさの基準と混同されただけであったことも既に示されていた2)。・・・
 また、ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大は、コロナが空気感染である可能性を最も早く理解する機会であり、海外からもそのような指摘があったがその後多くの命を救うことに結びつけられなかったことも残念でならない3)。
・・・
 コロナ禍が始まった当初、空気感染はしない、人から人への感染はない、だから広範な検査は必要ないとされたことは、その後多くの命を奪うことにつながった。この轍をふまず、早急に対策を進める必要があるとの指摘に強く同意する4)。

【文献】
1)WHO公式サイト:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air.(2024年4月18日)
https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air
2)Randall K, et al:Interface Focus. 2021;11(6):20210049.
3)Almiraji O:Aerosol Air Qual Res. 2020;21(4):200495.
4)The New York Times公式サイト:OPINION. This May Be Our Last Chance to Halt Bird Flu in Humans and We Are Blowing It.(2024年4月24日)
https://www.nytimes.com/2024/04/24/opinion/bird-flu-cow-outbreak.html

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RSウイルスワクチン「アブリスボ」登場!(2024年1月)

2024年01月19日 07時37分36秒 | 予防接種
私が小児科医になってから30年以上経過しますが、
新規予防接種の開発・導入により、
感染症流行の構図が変化してくるのを観察できました。

その中でも肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは大きなインパクトがありました。
乳児早期の細菌性髄膜炎患者が激減したのです。
最近の研修医は診療経験がないと聞いています。

20年以上前、市中病院小児科の病棟では冬になると、
ロタウイルス胃腸炎の大部屋と、
RSウイルス気管支炎の大部屋が、
自然発生的にできるのが通例でした。

RSウイルスは乳児が感染すると、
こじれて気管支炎になりやすく、
ゼーゼー苦しそうになります。
とくに生後3ヶ月未満の赤ちゃんは重症化して顔色が悪くなり、
おっぱい、ミルクも飲めなくなり入院することも稀ではありません。

しかし従来、RSウイルスに特効薬はなく、
小児科医は対症療法で本人が自力で危機を脱するのを見守るしかありませんでした。

★ 小児のRSウイルス感染症について知りたい方はこちらをご覧ください。

近年、ロタウイルスワクチンが登場してから、
ロタウイルス胃腸炎による入院数は激減したと耳にします。

正式には「組み換え2価融合前F蛋白質抗原含有RSV(RSVpreF)ワクチン」だそうです。
このワクチンの特徴は、
乳児自身に接種するのではなく、
妊娠しているお母さんに接種(※)して抗体を作り、
それが胎盤を通して胎児にもたらされ、
出生後に乳児に効果を発揮するという画期的システムです。

※ 妊娠24〜36週の妊婦に1回接種(筋肉注射)

本人以外にワクチンを接種して予防効果を期待する方法は「コクーン戦略」と呼ばれ、
アメリカでは既に百日咳ワクチンなどで(2011年から)実施されてきました。

アブリスボ®の有効率(重症化予防率)は、
生後3ヶ月未満では約80%
生後6ヶ月未満では約70%
と良好です。


新生児用のRSウイルスワクチンを承認へ 妊婦に接種、肺炎を予防
(2023年11月28日 朝日新聞)より抜粋
 新生児や乳児の重い肺炎を防ぐための、妊婦向けのRSウイルス(RSV)ワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は27日、国内での製造販売承認を了承した。高齢者向けワクチンは9月に承認されていたが、新生児や乳児用はなかった。
 了承されたのは、米ファイザー社のワクチン(販売名・アブリスボ筋注用)。・・・米国では8月に承認されている。・・・
 RSVワクチンは、国の予防接種基本計画の中で「開発優先度の高いワクチン」に位置づけられていたが、子ども用ワクチンがなかった。重症化リスクの高い子には予防的に抗体を投与するしかなく、ワクチン開発が待たれていた。
 今回了承されたワクチンは、妊娠24週~36週の妊婦に1回接種する。ワクチンによりできた抗体が、母体から胎児に移行することで、新生児や乳児のRSV感染症による肺炎などを予防する。
 このワクチンの国際共同臨床試験(治験)の結果では、接種した妊婦から生まれた赤ちゃんでは、重症化を予防する効果は生後3カ月以内で81・8%、同半年以内で69・4%だった。

<参考>
・アブリスボ®筋注用 [組換えRSウイルスワクチン(母子免疫)]製造販売承認を取得
・RSウイルス感染症 妊婦向けのワクチン承認へ 厚労省専門家部会

さて、上記記事にあるように、高齢者に対するRSVワクチンも少し前に認可されています。
その名は「アレックスビー」。
こちらは60歳以上が対象で、一回接種(筋肉注射)です。

RSウイルス感染症のワクチン 日本国内初承認へ 対象は60歳以上
2023年8月28日:NHK)より一部抜粋; 
・・・RSウイルス感染症のワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は28日夜、60歳以上を対象に使用を認めることを了承しました。・・・了承されたのは、イギリスの製薬会社、グラクソ・スミスクラインが開発した、RSウイルス感染症のワクチン「アレックスビー®」です。
・・・
ワクチンの接種の対象は60歳以上です。
今後、厚生労働省の正式な承認を経て、RSウイルス感染症のワクチンの製造・販売が国内で初めてできるようになります。
製薬会社の臨床試験によりますと、ワクチンは17か国のおよそ2万5000人の60歳以上が接種を受けて、有効性が確認できたということです。
・・・
今回、ワクチンの承認申請をしている大手製薬会社、グラクソ・スミスクラインなどの研究グループの推計によりますと日本国内でRSウイルスに感染して入院する60歳以上の人は、1年間におよそ6万3000人、入院して亡くなる人はおよそ4000人とみられるということです。

<参考>
・60歳以上へのRSウイルスワクチン発売


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

子どもの側弯症

2023年11月23日 10時45分44秒 | 予防接種
WEBセミナーで側弯症のおなはしを聞きました。

私は中学校の学校医を担当していますが、
思春期に問題となる「特発性側弯症」に関して、勉強になりました。

・痩せている女子に多いこと(バレエや新体操はハイリスク)、
・装具治療は進行を抑えるだけで改善は期待できないこと、
・1日のうちで装具装着時間が長いほど効果が期待できること、
…等々。

ポイントと感じたことをメモしておきます。

 側弯症の年齢による分類
1.8歳以前:early onset scoliosis
2.学童期:late onset scoliosis
 ① 特発性側弯症
 ② 先天性側弯症
3.大人:成人脊柱変形

◆ 特発性側弯症の疫学
・有病率:約2%
・側弯症の8割
・女性が8~9割
・原因不明
・遺伝因子
 ✓側弯症を持つ母親の娘が側弯症である確率は27%
 ✓双子の場合、一卵性で73%、二卵性で36%
・ほかに異常がない
・身長の伸びる時期が最も悪化する
・Cobb角40/50°以上は成人後も進行する
・成人後の発症や進行もある

◆ 特発性側弯症の“かつての”治療方針
・50°以上の側弯症は手術適応
・成長終了時の50°に満たない患者は治療終了

◆ 特発性側彎症のスクリーニング「前屈テスト」
・もっとも簡便
・特異性:78%

◆ 側弯症のリスクのあるスポーツ
・バレエや新体操
 ✓痩せている(低BMI)
 ✓生理が来ないか不順
 ✓体が柔らかい
・クラシックバレエ:調整オッズ比 1.38

◆ 側弯症で起きうる症状・所見
・変形 → 心理的ストレス
・肺活量の低下・・・90°以上にならないと起こらない
・痛み → 成人後(50歳以降?)に悪化

◆ 側弯症の治療
・保存治療:装具
 ✓進行を抑える効果(ブレーキ)
 ✓改善させることはできない
→ 本当に効果があるのか?という議論が長年続いてきたが、
2013年に1日の装着時間と治療成功率が相関することが報告された(Weinstein 2013 N Engl J Med)
 ・・・6時間未満で40%、6‐12時間で70%、13時間以上で90%
・手術治療

特発性側弯症は思春期女子に多く、成長のスパートが起きている間に急速に進行する病気です。
昨年大丈夫だったから今年も大丈夫とは限りません。
それを発見すべく、学校医は神経を使っているのですが、
近年「脱衣診察はダメ!」という感情論が席巻し、
十分な診察ができず、進行してから学校健診以外で発見されて治療にたどり着く例を耳にします。
ここ数年、私の周りでも3名の中学生女子が学校健診以外で側弯症と診断されました。

もはや学校健診は形骸化しており、参加している私自身も疲弊するだけで意義を感じられません。
運動器検診・側弯症検診は学校健診と切り離して整形外科専門医が担当すべきだと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

long-covid(新型コロナ後遺症)の実態2023

2023年10月02日 06時41分00秒 | 予防接種
何かと話題になり、気になる“long-covid(新型コロナ後遺症)”。
その実態報告が目に留まりましたので紹介します。

まあ、だいたい予想される範囲の結果ですが、
今回の報告では「感染者と非感染者の症状出現頻度の比較」を導入した点が斬新ですね。
体の不調を訴える人は、コロナ感染にかかわらず一定頻度発生するのが現実です。
非感染者と感染者を比較検討することで、
新型コロナ感染による long-covid の実態がはじめて浮かび上がるのです。

これは、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)による副反応が検討された時(名古屋スタディ)と同じ手法です。
ワクチン接種後の副反応と訴える人と、ワクチン未接種者での同じ症状の出現頻度を比較しないと、ワクチンの影響が科学的に評価できません。
名古屋スタディでは、ワクチン接種者と未接種者で症状出現頻度が変わらないことが証明され、この結果をもって「HPVワクチンは安全である」と積極的勧奨再開につながりました。

▢ 感染者のCOVID-19罹患後症状、非感染者の2~3倍「3つの住民調査が明かしたLong COVIDの実態」オミクロン株流行期で割合が低く、11.7~17.0%

 新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(Long COVID)は、
・成人の方が小児により2~4倍高い。
・感染者は非感染者より2~3倍高い。
・オミクロン株流行期では低い。
・感染前のワクチン接種者で低い。
・症状があった感染者は主観的経済状況が悪化。

 研究は、・・・東京都品川区、北海道札幌市、大阪府八尾市の3つの住民調査からなる・・・ここでのLong COVIDの定義は、WHOの「感染から3カ月経過して時点で、少なくとも2カ月以上持続した症状」を採用している。

ポイント1◇成人が小児より高い
 3つの住民調査全体で見ると、何らかの罹患後症状があると回答した割合は、成人の方が小児より2~4倍高かった。
 3つの住民調査別に症状のある人の割合を見ると、成人については、札幌市(感染時期1~6波に該当)で23.4%、八尾市(同4~6波)で15.0%、品川区(同7波)で11.7%だった。小児については、八尾市(4~6波)、札幌市(1~7波)ともに6.3%だった。

ポイント2◇感染者が非感染者より高い
 3つの住民調査では感染者と非感染者の比較をしている点が特徴の1つ。全体で見ると、感染者のLong COVIDの割合は、非感染者が何らかの症状を有していた割合より、2~3倍高かった。住民調査ごとに見ると、成人の場合、札幌市では感染者が23.4%、非感染者が9.1%、八尾市ではそれぞれ15.0%と4.4%、品川区ではそれぞれ11.7%と5.5%だった。同様に小児の場合は、札幌市で感染者6.3%、非感染者3.0%、八尾市でそれぞれ6.3%と2.2%だった。

ポイント3◇オミクロン株流行期で低い
 COVID-19感染時期による比較では、Long COVIDの割合はオミクロン株流行期(6~7波)の方が他の流行期に比べて低かった。成人の場合、オミクロン株流行期は11.7~17.0%だったのに対し、アルファやデルタ株流行期(4~5波)は25.0~28.5%だった。小児の場合も同様で、オミクロン株流行期は5.8~7.3%だったのに対し、アルファやデルタ株流行期(4~5波)は6.5~13.7%だった。

ポイント4◇感染前のワクチン接種者で低い
 ワクチン接種歴とLong COVIDの関連を調べたところ、成人、小児ともに、ワクチン未接種者に比べて、感染前のワクチン接種者の方がLong COVIDを有する割合が低かった。・・・

ポイント5◇症状があった感染者は主観的経済状況が悪化
 このほかLong COVIDが個人の主観的な経済状況に及ぼす影響についても解析している。その結果、3つの住民調査とも、症状がなかった非感染者に比べて、Long COVIDがあった感染者では主観的な経済状況が悪化していた。また、八尾市(4~6波)と品川区(7波)の調査では、Long COVIDを認めた感染者だけでなく、遷延する症状があった非感染者でも主観的な経済状況が悪化していた。・・・

 今回の研究は、Long COVIDを自覚症状に基づいて評価しており、医学的に評価されたものではない点が限界の1つ。また、若年層や男性で回答率が低い傾向が見られ、結果に影響した可能性も指摘されている。こうした限界はあるものの、住民調査でLong COVIDの実態の一端が明らかになった意義は大きい。特に、感染者と非感染者を比較した点は、Long COVIDを理解する新たな視点となっている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナワクチンを接種すると「超過死亡」が減ることが証明されました。

2023年08月13日 16時27分46秒 | 予防接種
ある感染症に対して、そのワクチンが効いているのかどうか、
実はこれを判定するのは簡単なことではありません。

血液中の抗体価を測ればわかる、という意見もありますが、
その抗体が「感染を阻止する」とイコールとは限りませんし。

誰もが納得するデータとして“超過死亡”という数字があります。
これは、ワクチン接種者と非接種者を何万人、何十万人単位でその死亡数を比較し、
統計学的に有意差があるかどうか評価する方法です。

ワクチンを接種した10万人と
ワクチンを接種しない10万人、
この2つのグループを比較して、
死亡率に差があったかどうか?

・・・差がなければ「ワクチン無効」と言えますし、
ワクチン接種者で死亡率が低ければ「ワクチン有効」
ワクチン接種者で死亡率が高ければ「危険なワクチン」
と判断されます。

シンプルでわかりやすい。
そんな解析報告を扱う記事が目に留まりました。

結論は、
 新型コロナウイルスワクチンによる死亡確率は、
 デルタ変異株が流行した2021年7~9月で17.3%、
 オミクロン変異株が流行した2022年1~6月で36.2%と100%を大きく下回り、
 ワクチン接種に伴う死亡リスクの増加を認めることはありませんでした。
・・・つまりワクチンは有効であり安全、ということ。

▢ コロナワクチンと超過死亡との関係は? 米研究チームが専門誌で報告
 青島周一/勤務薬剤師/「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰
2023/8/13:日刊ゲンダイ)より抜粋;
 インターネット上では、「新型コロナウイルスワクチンの接種による超過死亡」といった情報をしばしば見かけます。超過死亡とは、集団の死亡率が一時的に増加し、本来的な死亡率の期待値を超えてしまう現象のことです。しかし、ワクチン接種と超過死亡の関連については、質の高い研究データが限られていました。そんな中、新型コロナウイルスワクチンの死亡リスクを調査した研究論文が、ワクチンに関する専門誌に2023年2月7日付で掲載されました。 
 一般的に、ワクチンを接種した人では、健康状態が良好な傾向にあり、ワクチンの効果とは無関係に死亡リスクが低く示されることがあります。そのため、この研究では単純な死亡率を比較せず、超過死亡に関するデータを用いて検討が行われました。 
 具体的には、米ウィスコンシン州のミルウォーキー郡において観察された新型コロナウイルス感染症による死亡率を、新型コロナウイルス感染症以外の原因による死亡率で割り、感染症による超過死亡の確率を算出しています。さらに、新型コロナウイルスワクチン接種者の超過死亡の確率を、未接種者の超過死亡の確率で割り、同ワクチンによる相対的な死亡確率が見積もられました。死亡確率が100%を上回れば、ワクチンによる死亡リスクの増加を認めることになります。 
 解析の結果、新型コロナウイルスワクチンによる死亡確率は、デルタ変異株が流行した2021年7~9月で17.3%、オミクロン変異株が流行した2022年1~6月で36.2%と、100%を大きく下回り、ワクチン接種に伴う死亡リスクの増加を認めることはありませんでした
  論文著者らは「死亡に対するワクチン接種の実質的な予防効果が認められた」と結論しています。 

実は、ワクチンが超過死亡を減らしていたかどうかという検討は、
過去にインフルエンザワクチンでも行われています。

私が子どもの頃、インフルエンザワクチンは「定期接種」で、
集団接種するのが当たり前の時代でした。

しかしあるときから「ワクチン反対運動」が盛んになり、
1980年代に定期接種は中止に追い込まれました。
ワクチンの副反応を大々的に扱ったメディアの影響です。

その後、アメリカの研究者から研究報告が発表されました。
日本のワクチン定期接種期の超過死亡と、
日本のワクチン任意接種期の超過死亡を比較したのです。
もちろん、任意接種期は接種率が大きく低下していました。

すると、高齢者の超過死亡がワクチン定期接種期は低くなっていたことが判明しました。
つまり、子どもを中心とするワクチンの集団免疫により、
高齢者の命が守られていたのです。

この論文をこちらの記事で扱っていたので、一部を抜粋します;

 かつてインフルエンザワクチンも罪悪視され根強い市民運動による反対の時代がありました。小生自身もそう思い患者さんにワクチン接種を勧めることはありませんでした。これがどのような結果を招いたか2001年のN Engl J Medに下記の米国の論文が掲載されました。原著論文(original article)で小生にとって人生最大の衝撃だったのがこの論文です。


 かつて日本国内ではインフルエンザに対し小中学校でのワクチン接種が1987年まで義務となっていました。しかし副作用事例にマスコミや市民が過剰反応し、それ以降は任意接種となりました。厚生労働技官も人の子ですから批判に耐えられなかったのでしょう。
 小生もインフルエンザワクチン接種は意味がないと思い込み患者さんに勧めることはありませんでした。日本の多くの医師も同様だったと思います。
 これがどのような恐るべき結果を引き起こしたか、なんと米国の研究者によって発表されたのが上記の論文なのです。日本の厚労省の死亡統計を詳しく調べ上げて書かれた論文で「民主主義が常に正しいとは限らない」ということを小生痛感しました。
 この論文の要点は次の3点です。

・ 日本では1962年から1987年まで小中学校でのインフルエンザワクチン接種が義務だった。
・ 1987年の中止により、日本の全死亡率および高齢者の肺炎死亡率が上昇した。
・ ワクチン強制接種はherd immunity(集団免疫)により、老人の死亡率を抑制していた。

 私たちがインフルエンザワクチンを小中学生にしなかったことにより集団免疫が起こらず多くの高齢者を死に追いやっていたのです。2001年にこのN Engl J Medの論文を読んだとき、小生これは国内で大問題になると思いました。しかしこの論文はマスコミからは完全に黙殺され話題になることはありませんでした。自分たちが音頭を取ったことの結末にマスコミは責任を取らなかったのです。このとき以来小生、日本のマスコミが信じられないのです。ニュースで疑問があるときは必ずBBC、CNN、France2などを確認しております。

私もこの記事を書いた医師同様、マスコミを信用しなくなりました。
読者の不安を煽る内容の方が発行部数が伸びるので、
ワクチンの効果を報道せず、副反応だけ強調して報道するのです。
医療界ではマスコミのことを“マスゴミ”と揶揄して呼んでいます。

近年では、HPVワクチン報道もありました。
副反応を強調して報道し、HPVワクチンは「積極的勧奨中止」に追い込まれました。
上記記事の中にこのような文言があります;

子宮頚がんワクチン反対運動によりこの10年で、
国内で子宮頸がんに10万人以上が罹患し、
3万人が無駄に亡くなったことになります。

この責任はマスコミに一部あることは明らかでしょう。
本来なら刑事告発されてもおかしくない、そう思います。

現在、ワクチンの効果を報道する際には、副反応も同時に報道する義務があるそうです。
賛成意見と反対意見を両方扱わなくてはいけないらしい。
ん、ワクチン副反応報道の際、ワクチンの効果をキチンと報道していたのですか?



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする