小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

予防接種情報2024〜小児肺炎球菌ワクチンの混乱(PCV13 → 15 → 20への変遷)

2024年11月08日 13時40分23秒 | 予防接種
肺炎球菌ワクチンが定期接種になってから、
小児の重症髄膜炎が激減したことを小児科医は実感しています。

しかし肺炎球菌にはサブタイプ(血清型)がたくさんあり、
それらからセレクトしたワクチンを作っても、
それ以外の血清型が流行してイタチごっこ状態に陥りがち。

2024年4月より前は、プレベナー13®(PCV13)というワクチンが使用されていました。
13とは、含まれる血清型の数を表します。
ちなみに13の内容は… 1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、25V

そして2024年に定期接種に採用された肺炎球菌ワクチンは二つあり、

1.バクニュバンス®(沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン、MSD) → 「PCV15」と略
 …PCV13の血清型に22F、33Fが加わった。
 …皮下注あるいは筋注
 …2022年9月薬事承認(高齢者)
 …2023年6月小児に適応拡大(生後2ヶ月以上18歳未満)
 …2024年4月定期接種化
※ PCV13とPCV15との交互接種は可
 …安全性に関して、PCV13と差はない。

2.プレベナー20®水性懸濁注( → PCV20
 …PCV15の血清型に8、10A、11A、12F、15Bが加わった。
 …2024年10月1日から定期接種化(生後2ヶ月以上6歳未満)
 …それに伴いPCV13は販売中止
※ PCV20はPCV15との交互接種を原則行わない。

んん?…PCV13とPCV15は交互接種可、しかしPCV15とPCV20は交互接種不可!
つまり、PCV15ではじめた方は、最後までPCV15で通す必要があり、
途中でPCV20に変更はできないということです。

だれですか、こんなわかりにくいルールを作ったのは?

以上のように現在、15と20が並列販売されて混乱していますが、
今後はどうなっていくのでしょう?
 → どうやらPCV20が残ってPCV15は消えていくようです(短命でした…)。



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ワクチン情報2024〜五種混合ワクチン登場

2024年11月08日 08時03分45秒 | 予防接種
2024年4月に五種混合ワクチンが定期接種になりました。
これにより、ワクチンデビューする赤ちゃんの同時接種数が一つ減りました。

五種とは“五つのワクチンが入っている“という意味です。
何が入っているかを確認しましょう;
1.ジフテリア
2.百日咳
3.破傷風
4.ポリオ
6.ヒブ(インフルエンザ菌)

使用できる五種混合ワクチンは二種類あります。
1.ゴービック®:2023年3月薬事承認(阪大微研)
2.クイントバック®:2023年9月薬事承認(KMバイオロジクス)

使用上の違いは、
・ゴービック®は準備操作が必要なく接種可能(プレフィルド)、
・クイントバックは液体とワクチン成分を混合するひと手間が必要です。

両方のワクチンはともに、重篤な副反応は認められず、認可に至りました。

接種対象者;
・定期接種対象者:生後2ヶ月〜7.5歳まで
・接種間隔:
  初回接種:生後2ヶ月〜7ヶ月未満で開始、4〜8週間隔で3回
  追加接種:6〜13ヶ月未満の間隔で1回
 ※ 接種開始月齢によって、接種回数は変わらない
・接種方法:皮下注 あるいは 筋注
・長期療養特例:上限年齢は15歳未満

…あらたに「筋注」が加わったのが特徴です。
ワクチンが2種類存在すると、合計4回接種の中で二つが混ざっても(交互接種)いいの?
という素朴な疑問が発生します。その答えは…

・原則として同一ワクチンを使用

とのことです。
ただ、以前のワクチン(日本脳炎など)は当初交互接種はダメだったけれど、
知見が澄んで問題ないことが判明後は許可された歴史もありますので、
この点は今後変わるかもしれません。

なお、ヒブ+四種混合(DPT/IPV)で開始したら基本的に五種へ変更できません。
しかし転居による自治体変更など、どうしてもの場合は可能、
との注意書きが添えられています。

細かいことですが、
開始が生後7ヶ月を過ぎたらどうなるのか?
という問題もあります。

五種混合登場以前の規定では、
・四種混合は開始時期にかかわらず4回接種。
・ヒブワクチンは開始年齢にリンクして接種回数が異なる。
でした。

では五種混合は? …答えは、
 → 五種混合ワクチンでは生後7ヶ月を過ぎても接種回数を減らす必要はありません。
と、四種混合のルールに従うことになります。

ややこしや〜。

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レプリコンワクチンの免疫は1年もつ?

2024年11月07日 17時59分47秒 | 予防接種
何かと話題のレプリコンワクチン。

私のようにSF好きな人は、
映画「ブレードランナー」に登場する「レプリカント」を連想してしまいます。

国が安全性と効果を認めて認可した薬ですから、
問題なく接種できるはずです。
「生物兵器」と非難する国会議員がいらっしゃいますが、
国の決めたことに反対する立場なんでしょうか?

ワクチン反対派やワクチン反対書籍で金儲けしている人たちには、
恰好のターゲットなのかのしれません…
まあ、勝手に騒いでいてください。

さて、医学的話題に戻りますが、
レプリコンワクチンの効果は如何に?

…従来のmRNAワクチンより効果が長持ちするようです。

▢ レプリコンワクチンvs.従来のmRNAワクチン、接種1年後の免疫原性を比較
ケアネット:2024/10/25)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 追加接種としての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)ARCT-154は、従来のmRNAワクチンであるBNT162b2と比較して優れた初期免疫応答を示し、接種後12ヵ月まで持続することが、50歳以上を含む日本人成人において確認された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年10月7日号CORRESPONDENCEに掲載の報告より。
 日本の11臨床施設において、少なくとも3回のmRNAワクチン接種歴のある成人(最後の接種は3ヵ月以上前)825人が登録され、ARCT-154群(417人)またはBNT16b2群(408人)に無作為に割り付けられた。接種前のベースライン、および接種後1、3、6、12ヵ月時点で、すべての適格参加者から血清サンプルを採取し、武漢株(Wuhan-Hu-1)およびオミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価を測定した。また、ベースラインからその後すべての時点でSARS-CoV-2陰性であった各群30人によるサブセットにおいて、デルタ株、オミクロン株BA.2、BA.2.86、およびXBB.1.5.6に対する中和抗体価が測定された。参加者は18~49歳(<50歳)と50歳以上(≧50歳)の2つの年齢グループに層別化された。
 結果は、中和抗体価の幾何平均(GMT)と両群間のGMT比、ベースラインの中和抗体価(定量下限未満の場合は定量下限の1/2)から4倍以上の上昇を示した割合で定義される中和抗体応答率で表された。
 主な結果は以下のとおり。

・既報のとおり、接種1ヵ月後までに、どちらのワクチンも両株に対して年齢によらず中和抗体価を上昇させた。
接種後1ヵ月時点におけるARCT-154群の武漢株およびオミクロン株BA.4/5に対する反応はBNT162b2群よりも高く、<50歳ではGMT比が1.45(95%信頼区間[CI]:1.22~1.71、武漢株)および1.31(1.01~1.71、オミクロン株BA.4/5)、≧50歳では1.42(1.18~1.72)および1.29(0.96~1.73)であった
GMTは時間の経過とともに両群で低下したが、12ヵ月の追跡期間中に両群間の差は拡大し、<50歳ではGMT比がそれぞれ1.79(95%CI:1.41~2.29、武漢株)、1.68(1.15~2.45、オミクロン株BA.4/5)、≧50歳では2.06(1.55~2.75)、2.14(1.40~3.27)であった。
・ARCT-154のBNT162b2に対する優越性は、両年齢層における中和抗体応答率の一貫した正の差によって裏付けられた。
・4つの変異株に対しても、BNT162b2群と比較してARCT-154群で優れた反応と持続性が確認され、GMT、GMT比、血清中和抗体応答率について同様の傾向がみられた。
・BNT162b2接種後12ヵ月時点で、デルタ株、オミクロン株BA.2、およびXBB.1.5.6に対するGMTはベースラインと同等であったが、ARCT-154群ではデルタ株およびオミクロン株BA.2に対するGMTはベースラインよりも高いままで、オミクロン株XBB.1.5.6に対するGMTもベースラインよりわずかに高かった(152[95%CI:83〜281]vs.106[52〜215])。

<原著論文>
・Oda Y, et al. Lancet Infect Dis. 2024 Oct 7. [Epub ahead of print]

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鼻水止めとけいれんとの関係〜アップデート2024〜

2024年11月06日 12時54分13秒 | 予防接種
風邪の時に処方される鼻水止め(第一世代抗ヒスタミン薬)はけいれんを起こしやすくする、
とされています。
そして近年、鼻水止めを処方する小児科医・耳鼻科医が減少してきました。

ではなぜ、政府・厚生労働省は「鼻水止めを乳幼児に使ってはいけない」と警告を出さないのでしょうか?
鼻水止めの代表格であるペリアクチン(シプロヘプタジン)の添付文書を確認してみましょう。
小児に関係ありそうな項目を抜粋してみますと・・・

【禁忌】
2.5 気管支喘息の急性発作時の患者
2.6 新生児・低出生体重児
【要注意】
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 気管支喘息(急性発作時を除く)又はその既往歴のある患者抗コリン作用により、喀痰の粘稠化・去痰困難を起こすことがあり、喘息の悪化又は再発を起こすおそれがある。
・・・
9.7 小児等
9.7.1 新生児又は低出生体重児
投与しないこと。新生児・低出生体重児を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない。新生児へ投与し、無呼吸、チアノーゼ、呼吸困難を起こしたとの報告がある。
9.7.2 乳児又は幼児
年齢及び体重を十分考慮し、用量を調節するなど慎重に投与すること。過量投与により副作用が強くあらわれるおそれがある。抗 ヒスタミン剤の過量投与により、特に乳・幼児において、幻覚、 中枢神経抑制、痙攣、呼吸停止、心停止を起こし、死に至ることがある。

以上がすべてです。
“痙攣”に関する記述は、「乳児又は幼児」という年齢層において、「過量投与」の際に起こすことがある、とあるのみです。
逆に言うと、通常量では乳幼児であっても安全、ということになりますね。

政府が使用を禁止していない、添付文書が変更されていないということは、
巷で「抗ヒスタミン薬は危険だ!」騒いでいても、
安全性を覆すエビデンスがまだないということなのでしょう。

政府が許可されている薬なので、
小児科専門医である私は、鼻水止めを処方しています。

ただし、効果が今ひとつなのです。
垂れてくる鼻水は減らしてくれるけど効果不十分、
青っ洟や、鼻の奥に溜まって鼻づまり状態では無効です。

そのため鼻水・鼻づまりがつらそうなこどもには漢方薬を提案しています。

漢方薬は鼻水の状態によりくすりを使い分けます。
水っぱなに効く漢方薬、
鼻づまりに効く漢方薬、
あおっ洟に効く漢方薬、
・・・すべて異なるのです。

鼻水止めと痙攣に関して、
以下の記事が目に留まりましたので紹介します。

けいれん発作(診断名はてんかん、てんかん重積、けいれん)に及ぼす抗ヒスタミン薬内服のリスクを評価した報告です。
一つ確認しておきますが、一般の方が心配する「熱性けいれん」がこの中に含まれているのかどうか不明です。そして日本の小児科医は「てんかん」と診断されている患者さんに抗ヒスタミン薬を処方することはありません。
上記より、この報告をどう読んでどう評価すべきか、ちょっと迷います。

結論は、以下の通り;
・発作が起きた1〜15日前に処方された抗ヒスタミン薬はけいれんのリスクを1.22倍高くする(統計学的に有意差あり)。
・生後6ヶ月〜24ヶ月児に抗ヒスタミン薬を投与すると痙攣リスクが約1.5倍高くなる(統計学的に有意差あり)。
・生後25ヶ月〜6歳児では約1.1倍(統計学的に有意差なし)。
・生後7歳以上では約1.1倍(統計学的に有意差なし)。

つまり、
小児に鼻水止めを飲ませると、飲んでいない時より痙攣のリスクが約1.2倍になり、
特に生後2歳未満の乳幼児では約1.5倍になる(それ以上の年齢では差はない)。
ということになります。

効かなくて痙攣のリスクを上げる抗ヒスタミン薬を処方するより、
効いて痙攣のリスクを上げない漢方薬の方がいいですね。


▢ 第一世代抗ヒスタミン薬は児のけいれん発作リスクを高める
「JAMA Network Open」より一部抜粋(下線は私が引きました);

 第一世代抗ヒスタミン薬(以下、抗ヒスタミン薬)は児のけいれん発作リスクの上昇と関連し、特に生後6〜24カ月の児ではリスク上昇が顕著であるとする研究結果が、「JAMA Network Open」に8月28日掲載された。
 慶熙医療院(韓国)のJu Hee Kim氏らは、韓国国民健康保険公団データベースのデータを用いて、第一世代抗ヒスタミン薬の処方と児のけいれん発作リスクとの関連を評価した。対象は、2002年1月1日から2005年12月31日の間に出生し、追跡期間中(2019年12月31日まで)にけいれん発作イベント(ICD-10による診断が、てんかん、てんかん重積、またはけいれん)のため救急外来を受診した児1万1,729人。条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、危険期間(index date;発作イベントが初めて生じた日の1〜15日前)における抗ヒスタミン薬の処方が発作イベントの発生に与える影響を、対照期間1(index dateの31〜45日前)および対照期間2(index dateの61〜75日前)と比較し、オッズ比として推定した。加えて、index date時点における年齢層(「生後6〜24カ月」「生後25カ月〜6歳」「7歳以上」)、性別、居住地などで層別化した解析も行った。
 対象者のうち3,178人(男児55.9%)が危険期間、対照期間1、対照期間2のいずれかで抗ヒスタミン薬を処方されていた。

発作イベントの発生は、
 生後6〜24カ月:985例、31.0%
 生後25カ月〜6歳:1,445例、45.5%
 7歳以上:748例、23.5%
第一世代抗ヒスタミン薬の処方を受けた児は、
 危険期間:1,476人(46.4%)
 対照期間1(1,239人、39.0%)
 対照期間2(1,278人、40.2%)
と危険期間が対称期間1・2よりも多かった。

 年齢、性別、居住地などの交絡因子を調整すると、
危険期間における抗ヒスタミン薬の処方は発作イベントのリスク増加と有意に関連していた(調整オッズ比〔aOR〕1.22、95%信頼区間〔CI〕1.13〜1.31)。
 次に年齢層別、男女別、居住地などでそれぞれ層別化して抗ヒスタミン薬の処方と発作イベントリスクとの関連を見たところ、年齢層の影響の大きさに違いが見られ(交互作用のP=0.04)、特に生後6〜24カ月の児ではaORが1.49(95%CI 1.31〜1.70)と有意なリスク増加が認められた。これに対し、生後25カ月〜6歳でのaORは1.11(同1.00〜1.24)、7歳以上の児のaORは1.10(同0.94〜1.28)と有意でなかった。男女別など他の因子別の解析では、有意な結果は得られなかった。
 著者らは、「6〜24カ月の児などけいれんリスクが高い者に対する第一世代抗ヒスタミン薬の処方は、慎重に行うべきであろう。今後、抗ヒスタミン薬とけいれん発作との関連を解明するため、さらなる研究が必要だ」と述べている。(HealthDay News 2024年9月4日)

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鉄不足の現代人

2024年11月06日 05時34分13秒 | 予防接種
近年、何かと話題の“貧血”。
いろいろな病気との関連が言及されています。

小児科領域でも“夜なき”など意外な病態と関連しているとか。
さらに数字的にはヘモグロビンが減少していないけど鉄やフェリチンが減少している“かくれ貧血”も治療対象と暗黙の了解で認められつつあります。

以前私が読んだ本には「人類は鉄を利用してきたが、それが過剰では健康を損ねる、ギリギリ足りるくらいがちょうどよい」と書かれていました。

さて、人類は鉄とどのようなスタンスでつき合っていけばよいのでしょう?

<ポイント>
・鉄が不足している人は、疲労感、息切れ、めまい、頭痛といった症状、さらには心臓病などを経験する。
・鉄分の不足は、貧血の原因として最も一般的だ。厚生労働省の令和元(2019)年国民健康・栄養調査によれば、日本では男性の10.8%、女性の13.5%が貧血の基準に当てはまる。
・鉄不足は短期的にも長期的にも、健康にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があり、リスクのある人は鉄分レベルの変化を確認すべき。
・月経のある女性は男性より鉄分が多めに必要で、1日の推奨量は15~64歳で10.5~11ミリグラム(18歳以上の男性の場合、1日の推奨量は7~7.5ミリグラム)だ。しかし、国民健康・栄養調査によれば、日本の女性は平均値でその6割ほどしか摂取していない。
・鉄の欠乏は、脳に変化を生じさせ、集中力の欠如や記憶障害など精神衛生上の問題を引き起こす可能性がある。
・糖尿病、高コレステロール、高血圧といった併存する病気と組み合わされた場合、鉄分不足は慢性疾患を発症するリスクをさらに高める。
・鉄分不足に似た症状、たとえば活力や運動・作業能力の低下は、心臓病の進行を示す目立った兆候の例でもある。貧血の有無にかかわらず、心不全患者の鉄分不足を治療すると、生活の質と再入院率の両方が改善される。

ほとんど常識的な内容ですが、新たな知識として最後の3項目が挙げられます。
鉄の欠乏は脳機能に影響を及ぼすこと、
生活習慣病に鉄不足が加わるとさらなる慢性疾患の発症リスクを高めること。
心臓の機能にも鉄の補充はよい影響を与えること。

これらの知見を元に、将来ガイドラインが書き換えられることでしょう。


▢ 鉄分不足は世界で20億人以上、心臓病など深刻な悪影響も
日本女性の摂取量は推奨量の6割、貧血のほか慢性疾患やメンタルヘルスにも影響
2024.11.05:National Geographic)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 世界では20億人以上の人々が鉄分不足に悩まされている。鉄分はいくつかの重要な体の機能にとって欠かせないミネラルであり、不足している人は、疲労感、息切れ、めまい、頭痛といった症状、さらには心臓病などを経験することが少なくない。
 鉄分不足はあらゆる年齢の男女がなりうるが、妊婦など特に影響を受けやすい人々もいる。鉄分不足を放置すると、貧血、つまり健康な赤血球の不足へ容易に進行する。鉄分の不足は、貧血の原因として最も一般的だ。厚生労働省の令和元(2019)年国民健康・栄養調査によれば、日本では男性の10.8%、女性の13.5%が貧血の基準に当てはまる
 こうした状態は、短期的にも長期的にも、健康にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があり、リスクのある人は鉄分レベルの変化を確認すべきだと語るのは、米スタンフォード大学の母体・胎児医学の講師であり、女性の生殖に関する健康を専門とするイログエ・イグビノーサ氏だ。
「通常、人が貧血になる場合、すでにしばらくの間、鉄分不足が続いてきたことを意味しています」と氏は言う。

▶ 鉄分不足や貧血に悩まされるのはどんな人たちか
 鉄分不足を抱えて生活すると、体に多大な負担をかける。鉄分は、赤血球が体内に酸素を運ぶために必要なタンパク質であるヘモグロビンを作るのに欠かせない。そのため、鉄分の量が少ないと、臓器、筋肉、組織が酸素を十分に受け取れず、最大の力を発揮できなくなる。
 多くの人は食物から十分な鉄分を吸収しているが、食事での摂取だけでは鉄分が足りない人もいる。それだけで死につながることはまれだが、鉄分不足は腎臓病や肝臓病といった慢性疾患を悪化させたり、感染症やけがからの回復を遅らせたりすることが知られている。なぜなら、そうした状態の修復には酸素が必要だからだ。・・・
 厚労省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、月経のある女性は男性より鉄分が多めに必要で、1日の推奨量は15~64歳で10.5~11ミリグラムだ。しかし、国民健康・栄養調査によれば、日本の女性は平均値でその6割ほどしか摂取していない。妊娠の中・後期はさらに9.5ミリグラム、妊娠初期と授乳中は2.5ミリグラムを加える必要がある。18歳以上の男性の場合、1日の推奨量は7~7.5ミリグラムだ。
 鉄欠乏性貧血は通常、徐々に進行するが、女性の方が男性よりもなりやすい。これは、月経周期によって悪化するためだとイグビノーサ氏は言う。出血量が多かったり、月経の期間が長かったりする場合には、もともと限られた鉄分の蓄えがさらに減ってしまう。
・・・
 体にとってこれほど重要な栄養素の欠乏は、脳に変化を生じさせ、集中力の欠如や記憶障害など精神衛生上の問題を引き起こす可能性がある。これらの不調は、場合によってはストレスやその他の生活要因が原因だと誤解されるかもしれない。
・・・
▶ 鉄分不足と心臓の健康
 体が弱っている気がする、やけにだるい感じがするというだけでは、医師に診てもらうまでもないと思うかもしれないが、この問題を放置しておくと、後になって不必要な苦痛を味わうことになる。
 こうした兆候を注意深く観察するのは極めて重要だと、米ベイラー医科大学教授のビケム・ボズカート氏は述べている。
 糖尿病、高コレステロール、高血圧といった併存する病気と組み合わされた場合、鉄分不足は慢性疾患を発症するリスクをさらに高める。また、鉄分不足に似た症状、たとえば活力や運動・作業能力の低下は、心臓病の進行を示す目立った兆候の例でもある
 「心臓はポンプとして血液を全身に送り出すだけでなく、心臓自体の筋肉にも血液を供給します」とボズカート氏は言う。「たとえば、血管に詰まりがある人が鉄分不足や貧血に陥ると、心筋への血液の供給が困難になります」
 一般に、心血管系の健康状態を評価する際、医師は患者の最高酸素摂取量(ピークVO2)を測定する。ピークVO2とは、激しい運動時に体が利用できる酸素量のことだ。
 体の中で使える鉄分の量は、その人が持つヘモグロビンの量に影響を与える。ヘモグロビンが多いほど、酸素はより効率的に体内に運ばれる。鉄欠乏性貧血はヘモグロビンの生成を妨げるため、ピークVO2の低下につながる可能性がある。
 これらの数値はまた、将来的な心臓病の発症リスクを予測するうえでも役立つ。入院患者のピークVO2は、どのような種類の治療を受けたらよいかを評価する際に重要な役割を果たし、たとえば心臓移植などの高度な救命措置を受けられるかどうかの判断にも関わってくる。
 ボズカート氏によると、貧血の有無にかかわらず、心不全患者の鉄分不足を治療すると、生活の質と再入院率の両方が改善される証拠が示されているという。
 一方、現在自宅で軽度の鉄欠乏性貧血の症状に対処している人の場合、治療のプロセスははるかに単純だ。専門家は、鉄分のサプリメントを摂取するか、鉄分を豊富に含む食事を取れば、全体的な健康状態を改善できるとしている。ただし、薬を飲む必要があるかどうかを判断するうえでは、かかりつけ医と相談し、自分に合ったプランを決めるのが最善だろう。
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何かと話題の「亜鉛欠乏症」

2024年10月11日 08時39分51秒 | 予防接種
小児科医にとっての「亜鉛欠乏症」は、
「腸性肢端皮膚炎」の原因としてインプットされています。

しかし昨今、この亜鉛欠乏症という単語をよく耳にするようになりました。
なにやら、いろんな病気の背景になっているらしい・・・
この辺は「体調不良は“かくれ貧血”が原因」という都市伝説(?)と似ているかもしれません。

さて、亜鉛欠乏症を概観する記事が目に留まりましたので紹介します。

いろいろな病気で亜鉛欠乏状態が観察されることが判明、
しかし病気により亜鉛が欠乏するというより、
日本人の食生活の変化、つまり米を食べなくなったことが背景にあるとのこと。

亜鉛欠乏症の症状は多岐にわたり、
「この症状があれば亜鉛欠乏症を疑う」
というものは味覚障害や頑固な皮膚炎くらい。

「特徴的な症状がなく、一見、不定愁訴のような訴えの場合でも、まず亜鉛欠乏も疑ってみることが、診断のきっかけになることもあり得る」
なんてコメントをもらっても・・・、
健康診断やスクリーニング検査に入れろということ?


▢ 亜鉛の測定が推奨される症状・タイミングは?
ケアネット:2024/07/04)より一部抜粋(下線は私が引きました);
   近年、健康維持に重要な栄養素として注目を浴びる亜鉛。小児の発育や味覚異常に影響することはよく知られているが、ここ数十年で国内外の研究報告からさまざまな生理作用に関与していることが明らかになっている。先般、国内レセプトデータを解析して日本人の亜鉛不足者の特徴を発表1)した横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)が「一般集団・患者群の血清亜鉛濃度の実際と低亜鉛血症患者の頻度やその臨床像」と題し、日本人の亜鉛欠乏の現状や検査の必要性について、6月4日に開催されたノーベルファーマのプレスセミナーにおいて解説した。

▶ 亜鉛不足はなぜ起こる?年齢や性差は?
 横川氏らが報告した研究1)からは、

▽疾病の治療を受けている日本人の3人に1人は亜鉛欠乏症(60μg/dL)
▽加齢に伴い血清亜鉛濃度は低下
▽誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、慢性腎臓病(CKD)を併存する患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、COVID-19、CKDの順に高い
▽利尿薬、甲状腺ホルモン治療薬、貧血治療薬、全身性抗菌薬による治療患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は利尿薬、全身性抗菌薬、貧血治療薬、甲状腺ホルモン治療薬の順に高い

などが示唆され、この結果に対し「これらの治療薬を使わなければならない患者の状態では亜鉛欠乏を引き起こすことが多い、と解釈するのが妥当」と同氏は補足した。
 また、性別や年齢でこの結果を振り返ると、男性の場合は60歳以上から、女性では70歳以上から血清亜鉛濃度の低下が顕著になっている。加えて、厚生労働省の国民健康・栄養調査報告2)おける亜鉛摂取データによると、男性は全年齢において亜鉛摂取量が不足しているのに対し、女性では50代までは摂取量が不足しているも60~70代の摂取量は推奨量と同等であった。
 これを踏まえると、栄養素や健康に対する意識の差が血清亜鉛濃度にも表れている可能性がある。実際に日本人の亜鉛不足には摂取食品の変化が影響しており、「日本人が低亜鉛に陥っている原因の1つは、元来の主食である米の消費量が減り、米や雑穀から得られる亜鉛などの摂取量が低下していること。米飯(精白米)の100gあたりの亜鉛含有量は多くはない(0.6mg)ものの、主食の役割を考えるとその影響は大きい。このほかにも亜鉛を多く含む上記3品には牡蠣(13.2mg)、豚レバー(6.9mg)、牛肩ロース(5.6mg)がある3)ので、これらの摂取を意識した食生活が重要」と食事に対する意識を促した。

▶ 亜鉛不足による症状
 そもそも亜鉛とは、生体内の300種以上の酵素、サイトカイン、ホルモンなどに関与している栄養素で、主に筋肉(60%)、骨(20~30%)、皮膚・毛髪(8%)、肝臓(4~6%)、消化管・膵臓(2.8%)、脾臓(1.6%)などに分布している。そのため、小児の身長の伸びや味覚の維持をはじめ、皮膚代謝、生殖機能、骨格の発達、精神・行動、免疫機能にまでその影響は及ぶ。そして、亜鉛不足に関連する症状を以下のように列挙すると、身長の伸びを除き、実は高齢者にみられる症状の多くと合致することから、横川氏は「“加齢によるもの”に留めてしまうのではなく、このような症状がある場合には、一度、亜鉛測定することを推奨する」と注意喚起した。

<亜鉛不足に関連する症状>
 味がわからない
 食欲がない
 皮膚炎
 生殖機能の低下
 脱毛
 傷が治りにくい
 元気がない
 貧血
 骨粗鬆症
 口内炎
 風邪をひきやすい
 下痢
 身長の伸びが悪い

▶ 亜鉛を測定するタイミング
 この10年で医療機関での亜鉛の検査数4)は加速度的に増加し、メディカル・データ・ビジョンの急性期病院の医療情報データベースを用いて亜鉛を検査した診療科比率を算出したところ、外来では内科(19%)、小児科(10%)、外科(8%)で、入院では内科(27%)、腎臓内科(7%)、外科(6%)で主に検査が行われており、「褥瘡管理や経管栄養などを行っている患者への栄養アセスメントの観点から検査件数が増加傾向にある」と見解を示した。では、前述のような亜鉛欠乏を想起するような症状がない場合、亜鉛を測定するタイミングはあるのだろうか? 横川氏によれば、「特徴的な症状がなく、一見、不定愁訴のような訴えの場合でも、まず亜鉛欠乏も疑ってみることが、診断のきっかけになることもあり得る」と説明した。

 最後に同氏は、「血清亜鉛濃度の低下は、腎疾患や肝疾患はもちろんのこと、加齢による亜鉛の消化管吸収低下が原因で生じることもある。そのため、消化器領域の診療においても上述のような症状がみられる患者に遭遇した際には、低亜鉛を意識した検査を行ってほしい。そして、亜鉛欠乏にも配慮した併存疾患の治療を行ってほしい」と締めくくった。

<参考文献・参考サイト>
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「オートミール症候群」とは?

2024年10月08日 11時03分06秒 | 予防接種
オートミールはエンバク(燕麦、オート麦)を減量とし、
グルテンを含まないため、
小麦アレルギー患者さんでも安全に食べられる食材とされています。

ところが最近、オートミールを食べてアナフィラキシーを起こしたという報告があり、
「いったいどういうこと?」
と私は疑問に感じました。

それを扱った記事を紹介します。
実はオートミールそのものが原因ではなく、
オートミールに混入していた昆虫(ヒラチャタテムシ)のアレルギーとのこと。
なるほど。

これに似た背景の食物アレルギーに「パンケーキ症候群」という病名があります。
こちらは原料の小麦が原因ではなく、
小麦に混入したダニが原因になることで有名です。


▢ オートミール混入ヒラタチャタテ摂取によるアナフィラキシー、国内初症例-東邦大ほか
2024年09月17日:QLifePro) より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ アナフィラキシー患者が摂取したオートミール中に多数の虫体を確認
 東邦大学は9月9日、オートミールに混入したヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)の摂取によるアナフィラキシーの症例を日本で初めて報告したと発表した。
・・・
 ダニなどの害虫は室内環境におけるアレルゲンとして、アレルギー性喘息などの気道疾患の原因となること、さらに、害虫に汚染された食品を経口摂取した後にアナフィラキシーを発症することはこれまで報告されている。
 今回、研究グループは、オートミールに混入していたヒラタチャタテの経口摂取によるアナフィラキシーを、日本で初めて報告した。具体的には、2021年3月に東邦大学医療センター大橋病院において、オートミールと、その他の食品を経口摂取した30分後に全身に紅斑が出現し、水様性下痢や嘔吐を伴う症例を経験した患者だった。来院時に頻脈、血中酸素飽和度の軽度低下、全身に紅斑と口唇のチアノーゼが認められ、アナフィラキシーと診断した。
 原因を特定するため、摂取した食品でプリックテストを行ったところ、オートミールだけが陽性反応を示した。しかし、新品の同製品では陽性反応を示さなかったため、摂取したオートミールを顕微鏡で観察したところ、多数の虫体が混入していることが確認された。



▶ オートミール中にヒラタチャタテ特異的抗原Lipb1、患者血清に特異的IgE抗体検出
 研究グループが定量的PCR法とウェスタンブロット法を用いて詳しく調べたところ、患者が摂取したオートミール中にチャタテムシ目ヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)の特異的抗原であるLipb1および同抗原をコードする遺伝子配列を検出し、さらにウェスタンブロット法によりLipb1抗原を検出し、ELISA法により患者血清中にLipb1特異的IgE抗体を検出した。これらの結果から、オートミールに混入したヒラタチャタテの経口摂取がアナフィラキシーの原因であると結論付けた。

▶ 室内環境におけるヒラタチャタテのアレルゲンとしての重要性を提示
 ヒラタチャタテは世界中の屋内環境に生息しており、穀類や微粉末食品などを直接食害する。これまでの研究で、ヒラタチャタテは室内塵の99%から検出され、小児気管支喘息患者の重要な吸入性アレルゲンであることが指摘されているが、経口摂取によるアナフィラキシーの報告は国内で本症例が初めてとなった。海外を含め初めて、Lipb1抗原および患者血清中Lipb1特異的IgE抗体を検出したことにより、その原因がヒラタチャタテであると特定した初の報告である。
 発症のメカニズムについては、2つの可能性が考えられた。第一は、患者が生活環境の中でヒラタチャタテの粉末状になった死骸を吸入または接触することによってアレルゲンとして感作され、その後ヒラタチャタテを経口摂取することによってアナフィラキシーを発症した可能性である。第二は、患者が過去にヒラタチャタテを経口摂取したことによりアレルゲンとして感作され、アナフィラキシーを発症した可能性である。本症例は、喘息などの呼吸器症状がないことから、後者であると推察された。
 日常生活においてヒラタチャタテは、ハウスダストが蓄積した室内環境で発生しやすい一方で、0℃以下の温度や55~65%以下の湿度では生育できないため、定期的な換気や天日干しなどの環境対策が重要だ。特に、汚染されやすい保存食品は密閉容器に入れて冷蔵保存するなどの対策が必要だ。また、殺虫剤の使用も選択肢のひとつとなるが、室内環境における害虫の防除には、環境改善や湿度管理などの総合的病害虫管理(Integrated Pest Management ; IPM)に基づく対策も不可欠だ。

▶ 「オートミール症候群」という新たなアレルギー概念を提案
 ダニを摂取することで発症する「パンケーキ症候群」に比べ、チャタテムシを摂取することで発症するアレルギーはあまり知られていない。しかし、日本人のアレルギー性喘息患者を対象とした皮内テストでは、ヒラタチャタテアレルゲンの陽性率は42%、すなわち約4割のアレルギー性喘息患者でヒラタチャタテアレルギーがあることが示されている。本症例および既報告2例(海外例)では、全てチャタテムシがオートミールに混入していたため、研究グループは、「オートミール症候群」という新たなアレルギー概念を提案した。
「研究成果は、アレルギー疾患の予防と室内環境管理に新たな視点を提供し、公衆衛生の向上に貢献することが期待される。特に、オートミールなどの穀物製品の保存方法や、室内環境の管理に関する注意喚起につながることを期待する」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

▼関連リンク
・東邦大学 プレスリリース


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「紹介状ください」のストレス

2024年10月07日 15時22分38秒 | 予防接種
前回、「アレルギー検査希望」のストレスをつぶやきました。
今回は「紹介状ください」のストレスです。

学術的(病気やアレルギー)な話ではないので、
そのような目的の方はスルーしてください。

こんな患者さんが来院しました。

「しばらく前から鼻水が止まらなくて近くの耳鼻科に通院していましたが、
 処方された薬を飲んでいるけどよくならない、
 そのうち咳も始まってつらそう、
 咳止めも処方されたけどよくならない・・・」

「診断名もはっきり言われておらず、
 心配になってこちらを受診しました」

という経過でした。話を詳しく聞くと、

耳鼻科で処方された薬は抗アレルギー薬で、
鼻汁は透明だったり白濁していたり・・・

という情報から私は「鼻副鼻腔炎の後鼻漏による咳嗽」を疑いました。
アレルギー性鼻炎であれば透明な鼻汁が続くはずです。
鼻汁が透明だったり白濁したり・・・という現象は風邪の反復です。

私はまず、副鼻腔炎の治療を提案しました。
それをターゲットにした薬の反応を見て次の一手を考えましょう、と。

「じゃあ、頑張って薬を飲ませてみます」

と診療が一旦終了しました。
・・・でもその直後、患者さんが「追加の話がある」とのこと。

看護師さんに間接的に聞いてもらうと、
「大きな病院に紹介状を書いて欲しい」
と希望しているらしい。

「えっ?」

と怪訝な表情に私がなったことは皆さんも想像できると思います。

長引く鼻水と咳はアレルギーより感染症の可能性が高いと思われ、
その治療をしてみましょうと提案し、納得してもらったと思っていたのに、
「アレルギーに関して大きな総合病院の診療を希望します」
という反応は、私を信頼していないということです。

「わかりました、それなら紹介状を書きますので、
 そちらでお薬ももらってください。」

と怒りを抑えて紹介状を書き、処方箋の薬を消しました。
初めから「紹介状目的の受診」だったのですね。
まあ、このような患者さんは時々いますので、
仕方がないか・・・。

しかし、意外な反応が返ってきました。

「かぜ薬は出してください」
「かぜ薬も出してくれないなんて信じられない」

と怒り始めたのです。

・・・私の話、聞いてました?

この患者さんとの信頼関係構築は諦めました。
しょうもないつぶやきをここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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解決されない「化学物質過敏症」

2024年10月04日 06時39分55秒 | 予防接種
化学物質過敏症・・・約20年前のアレルギー学会ではたくさん演題発表がありました。
しかし最近はあまり見かけません。
原因・メカニズムが解明されたという話も聞きません。
ただ、TVでは時々取りあげられますね。

最近の状況を知るために本を買ったのですが、
こちらに紹介されていました。

<ポイント>
・化学物質過敏症は、外の環境からのさまざまな刺激に対して脳が敏感に関与する、脳過敏(中枢性感作)な疾患であることがわかってきた。わかりやすくいえば、気管支喘息は気管支が過敏な疾患、アトピー性皮膚炎は皮膚が過敏な疾患、化学物質過敏症は脳が過敏な疾患ということになる。
・脳が関与していると思われる疾患を中枢性感作症候群と呼び、同じ概念と考えられる疾患としては片頭痛、慢性疲労症候群、線維筋痛症などが存在する。

やはりというか、想定内の結論ですね。
最近では慢性腰痛もこの要素があると指摘されています。


▢ 潜在患者1000万人以上の「ナゾの病」化学物質過敏症とは何か
2024/08/20:集英社オンライン)より一部抜粋(下線は私が引きました);

「化学物質過敏症」を聞いたことがあるだろうか。身の回りにある“刺激”に体が反応し、さまざまな症状を引き起こす病で、誰にでも発症し得るが、その正しい認知は広まっていない。そんな「ナゾの病」の臨床・研究に第一線で携わる渡井健太郎医師に話を聞いた。

▶ 潜在患者1000万人以上でも広まらない認知
 どんなに医学が進歩しても、いまだ全容解明に至っていない病がある。
 世間一般、また医療従事者の間にすら認知が十分に広がっていないにもかかわらず、現在の患者数は国内で100人に1人の約120万人。重篤なアレルギー疾患や精神疾患と誤診されやすいため、潜在患者は1000万人以上ともいわれている。しかも、ある日突然花粉症になってしまうように誰にでも発症の可能性があり、患者数は増加傾向にあるという。
 その病とは「化学物質過敏症」。10年以上前になるが、筆者はこの病を発症した当人や家族を取材したことがあり、ある人は空気中に漂う香料、タバコ、排気ガスなどに鋭く反応し、不特定多数の人が利用する電車やタクシーにも乗ることができない。
 食事は有機野菜に頼らざるを得ず、ご飯が炊けるときの匂いや新聞や雑誌で使われているインクの匂い、さらに窓の外から聞こえる子どもの大きな声で体調を崩すという人もいた。
 一度罹患すると日常生活や社会活動に支障をきたし、それだけでも問題なのに、周囲の理解を得られないことから孤独感を深め、当人のみならず家族までをも苦しめるとてつもなく恐ろしい病だと感じていた。
「患者さんは多種多様な化学物質や環境条件、日用品や薬剤、食物からの微量な刺激にも敏感に反応し、その7割程度に臭覚過敏が認められます。症状は、
 じんましん、めまい、頭痛、呼吸困難、吐き気、腹痛や疼(とう)痛
など人により実にさまざまで、受診すべき診療科がわかりにくく、ドクター・ショッピングを何年も繰り返してしまう。ようやく化学物質過敏症と診断されたのは、発症から10年後という例も多いです」
そう話すのは、湘南鎌倉総合病院免疫・アレルギーセンター部長の渡井健太郎医師である。
 15年ほど前からアレルギー科医として患者と向き合う過程で喘息や薬剤アレルギー、食物アレルギー、花粉症といった一般的なアレルギー症状とは明らかに異なる患者がいることを知り、生き地獄のような日々を送る患者を救いたいと、化学物質過敏症の解明に向けての研究を続けている数少ない医師の一人だ。

▶ 多大なストレスに山奥で暮らす患者も
 渡井医師は続ける。
「同僚の医師が『一番なりたくない病気は何だろうと考えたとき、化学物質過敏症かもしれない』と言っていました。命にはかかわらないけれど、生きているほうが当然いい……とはなかなか思えない。また診療に当たる医療従事者側も、多大なストレスから人に対して攻撃的な一部の患者への対応で心をすり減らし、最後はもう診られないと診療拒否に至るケースもあります。化学物質過敏症とは、患者にとっても医療従事者にとっても非常に過酷な病です」
 となれば、なおさら一日も早い治療法の確立が望まれるが、大規模な臨床試験に基づく科学的根拠に乏しく、現段階では化学物質過敏症に保険適応の治療法はない。
 「発症につながる根本的な原因がはっきりしていない、それが大きな理由です。患者さんが反応しやすいものとして洗剤や柔軟剤に含まれる香料、またここ数年ではコロナ禍以降頻繁に使われるようになった消毒用アルコールなどの揮発性物質がありますが、ではそれらを排除した生活を送ればこの病が治るかといったらそうでもない。これらがきっかけで引き起こされてはいても、それ自体が根本原因とは言い切れないのです」
 化学物質などからの曝露(さらされること)を避けるため、人里離れた山奥で生活しているという患者がいる。でもその生活を続けていたら治るかというと、治ってはいないのだという。あくまで回避にすぎず、転地療法や対症療法ともいえない根本の解決策ではないからだ。

▶ しぼられつつある「ナゾの病」のカラクリ
 では、直接の原因として何が考えられるのか。その答えを導き出そうとした国内外の研究結果をまとめると、一つの有力な仮説が出ているという。基礎医学的な研究結果のみならず、実際に診療にあたる医師の治療経験を併せてみても、ここに来てかなり確証の高いものとなっている。
 「化学物質過敏症は、外の環境からのさまざまな刺激に対して脳が敏感に関与する、脳過敏(中枢性感作)な疾患であることがわかってきました。わかりやすくいえば、気管支喘息は気管支が過敏な疾患、アトピー性皮膚炎は皮膚が過敏な疾患、化学物質過敏症は脳が過敏な疾患ということになります。
 脳が関与していると思われる疾患を中枢性感作症候群と呼び、同じ概念と考えられる疾患としては片頭痛、慢性疲労症候群、線維筋痛症などがあります。これらに対し、脳の敏感さを抑えてあげられるような薬の投与ができないか。そして、それが症状を軽くし、本当にこの病で困っている患者を救う有効な方法なのではないかと考えられています」
 過剰に反応する化学物質をある程度避けることは必要だが、そこにポイントを置くのでなく、模索しているのは脳や神経にアプローチする治療法である。
 「ごく簡単な例ですが、スギ花粉症の人に花粉がバンバン飛んでいる映像を見せると体が自然に反応し、鼻水が出たりする。確かにスギ花粉が悪さをしてアレルギーを引き起こしてはいますが、こうした現象は脳からきている部分も多分に関与していて、原因には大きく分けて2通りが考えられるのです。
 局所麻酔薬アレルギー疑いの患者さんを調べたときも、検査で単なる生理食塩水を投与したところ、局所麻酔薬を投与されたときと同じような症状を訴えた例もあり、アレルギーや過敏症では脳が関与する、いわゆる“気のせい”と言える部分もあながち否定できない。まだ仮説段階ながら、こうした感覚や脳の問題が化学物質過敏症では大きいのではないかと考えています」

▶ 化学物質過敏症かも…と思ったら
 実際に患者を診ていると、化学物質との闘いをひたすらやり続けている人ほど治りが悪い印象を受けるという。
 これには反論する患者も少なくないと思われるが、渡井医師は「患者との信頼関係が成り立ってから」と前置きしたうえで、「化学物質との闘いは、あるところまでで制限して、気にしすぎない生活を送ってみるのも一つの手かもしれません」と、アドバイスしている。
 化学物質過敏症は血液検査などの具体的な数値による診断基準がなく、診断法としては問診が主体だ。このため、まずは化学物質過敏症以外の他疾患を除外することが重要とされる。
 そのうえで、化学物質過敏症患者を診た経験がない医師には難しいが、経験のある医師なら5分ほど話を聞けば大方診断がくだせるという。
 受診方法としては、まずは身近な病院のアレルギー科、咳などの症状が出ているなら呼吸器内科も対象となる。そこで化学物質過敏症はアレルギーとは異なる疾患なので、「アレルギーなのか、そうではないのか」を判断してもらうことが第一段階として重要だ。
 渡井医師はこのほど『化学物質過敏症とは何か』(集英社新書)を上梓し、この病気の詳細を記した。「患者への理解を深めるとともに、アレルギー科以外の専門の診療科との連携も必須となるため、医療従事者にもより関心を寄せてもらいたい」と話す。
 出版後の反響は小さくなく、患者の家族から「やっと化学物質過敏症という病気の理解ができたました」と、感想をもらったという。
 「アレルギー科医としてこの病に精通し、確実な治療につなげていきたい。そして、このようなやっかいな病を引き起こす原因の一部が脳へのストレスだとすれば、過敏症の予防のために、ストレスのかからない、ストレスをかけない生活をみんなで考える。そんなことも必要なのかもしれないなと感じています」
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“レプリコン・ワクチン”って何?〜その2

2024年09月30日 13時12分56秒 | 予防接種
前項目で新しいタイプの新型コロナワクチン“レプリコン・ワクチン”を取りあげましたが、
話題が先行して中身が今ひとつよくわかりませんでした。
そこで、医師ではなく科学ジャーナリストが書いた記事を紹介します。

<ポイント>
・レプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)は、ワクチンのmRNAが体内で自己増殖するように改良したデルタ株とオミクロン株に有効なものである。
・レプリコン・ワクチンではRNAが少量でもmRNAワクチンと同等の免疫反応が得られ、生産効率の点でもメリットがある。
・レプリコン・ワクチンは、抗原を作り出すタンパク質の合成に必要なRNAを含み、より継続的に免疫反応を持続させるように作られている。
・抗原は新型コロナ・ウイルスが細胞へ侵入するときに発現するスパイク・タンパク質で、合成機能はベネズエラウマ脳炎ウイルスというウイルスから得たもの。これらのタンパク質や合成機能は、ヒトの遺伝情報に関与する部分を外してあり、安全性を高めている。
・レプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)の第三相試験では、オミクロンAB.4/5に対する抗体価の発現が従来のmRNAワクチンの58%に比べ、レプリコン・ワクチンでは70%だった。
・接種部の痛み、発熱、悪寒といった従来のmRNAワクチンと同程度の副反応がある。

mRNAワクチンとの違いは、

・mRNAワクチンは、mRNAを脂質膜で保護した成分を接種、それがヒトの細胞内に侵入し、ヒトの細胞核のタンパク合成機能を利用してスパイク蛋白を作成、それに対する人の免疫反応により抗体を作る。
・レプリコン・ワクチンは、接種したmRNA自身が(合成機能を持つため)自己増殖してmRNA数を増やし、それが人の細胞内に侵入し・・・(以下同文)。

と、大して変わりないかな?というイメージを持つ一方で、突っ込み処もあります。

・mRNA合成機能はどのくらいの期間持続して稼働するのか?
・長期にそれが続く場合、人体への影響はないのか?
等々。

国民みんなが理解できるよう、
どなたか、さらにわかりやすく教えていただきたいですね。


▢ 新型コロナ「レプリコン・ワクチン」接種開始への懸念とは
石田雅彦:科学ジャーナリスト
2024/9/11:Yahoo!ニュース) より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年10月から高齢者などを対象にした新しい新型コロナ・ワクチンの定期接種が始まります。使用が予定されているワクチンには「レプリコン(自己増幅型)」と呼ばれる「コスタイベ筋注用」ワクチンもあります。ただ、医療関係者の一部などから懸念が表明されるなど、このワクチンの接種に関しては心配する声もあり、過去記事などから問題点をまとめてみました。

・・・

▶ ワクチンの効果はあったのか

 新型コロナは一時のパンデミック状態から抜け出してはいますが、依然として多くの感染者が出続けています。世界が新型コロナ・パンデミックを乗り越えられた理由にはいくつかの要因があり、ワクチン接種もその一つでしょう。

 特にmRNAワクチンの開発により、短時間で多くの人がワクチンを接種しました。特に日本はワクチン接種率が高く、生活水準や寿命の長さなども相まって、新型コロナによる超過死亡率が他国より低くなっているようです(※1)。

 日本での新型コロナ・ワクチン接種は、2021年6月から公費負担で実施されましたが、全額公費負担は2024年3月末で終了し、2024年10月からの新型コロナ・ワクチンは、65歳以上の高齢者と60歳から64歳までの重症化リスクの高い人で一部費用負担(開始期間や負担金などは自治体によって異なる)をする定期接種となり、それ以外の人は全額自己負担となります。

 接種されるワクチンは従来のmRNAワクチン、そしていわゆるレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)などになりますが、厚生労働省の新型コロナワクチンコールセンターに問い合わせたところ、接種希望者がどのワクチンを選べるのかはまだ未定(2024/09/11時点)だそうです。現在、5社のワクチンが候補にあがっており、うち3社はまだ薬事申請中とのことで、レプリコン・ワクチンも接種が開始されるかどうかも未定ということになります。

 一般的なワクチンは、病原体を弱毒化させたり免疫機能への作用を模倣したりした物質を健康な人へ接種し、感染症などの予防や重症化を防ぐために開発されます。

 新型コロナで使われたmRNAワクチンは、新型コロナ・ウイルスの遺伝情報(mRNA)の一部を脂質のカプセルに入れたものです。mRNAワクチンを接種すると、私たちの身体はウイルスが侵入してきたと勘違いし、新型コロナに対する抗原を作り出し、免疫反応を起こして発症や重症化を防いだりします。

 従来型の不活性ワクチンに比べ、mRNAワクチンが圧倒的だったのは、その開発スピードの速さ、生産コストの安さ、ワクチンの有効性の高さでした。ただ、mRNAワクチンのmRNAは代謝されやすく、体内ですぐに消えてしまい、免疫反応が長続きしません。

▶ レプリコン・ワクチンとは

 また、mRNAワクチンは特許などで囲い込まれ、新たに参入するのにはハードルが高い技術です。そのため、ワクチンのmRNAが体内で自己増殖するように改良したデルタ株とオミクロン株に有効なレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)が開発されました。レプリコン・ワクチンではRNAが少量でもmRNAワクチンと同等の免疫反応が得られ、生産効率の点でもメリットがあります(※2)。

 レプリコン・ワクチンは、抗原を作り出すタンパク質の合成に必要なRNAを含み、より継続的に免疫反応を持続させるように作られています。抗原は新型コロナ・ウイルスが細胞へ侵入するときに発現するスパイク・タンパク質で、合成機能はベネズエラウマ脳炎ウイルスというウイルスから得たものになります。

 もちろん、これらのタンパク質や合成機能は、ヒトの遺伝情報に関与する部分を外してあり、安全性を高めていますレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用、ARCT-154)の第三相試験では、オミクロンAB.4/5に対する抗体価の発現が従来のmRNAワクチンの58%に比べ、レプリコン・ワクチンでは70%だったそうです。

 レプリコン・ワクチンでは、mRNAワクチンより相対的にRNA配列が長くなるため、どうコンパクトに脂質カプセルに入れるのか、そして分子量も多くなるため、細胞膜を通せるかどうかなどの製造上の課題があります。これらの課題はすでに解決されているようですが、安全性に関する疑念も完全に払拭されているわけではありません。

 例えば、接種部の痛み、発熱、悪寒といった従来のmRNAワクチンと同程度の副反応があります。また、ベトナムでの第三相試験では、新型コロナに感染したプラセボ群を含む死者も複数出ています。この死者がレプリコン・ワクチンによるものかどうかは不明だそうです(※3)。

 RNAの複製過程で何か別の物質が生成され、予期しない免疫反応が引き起こされる危険性も拭いきれません(※4)。当然ですが、これらの試験結果を発表した論文には製造メーカーの研究者が加わっています。


▶ 後れを取ったmRNAワクチン

 新型コロナのワクチン開発では、ファイザーやモデルナなどが先行し、国産ワクチンの開発は後れを取りました。また、ワクチン供給でも国際的な競合が起き、医薬品の安定的な供給体制の整備が急務です。

 mRNA技術を使った医薬品開発では、感染症のみならず、がん予防や治療、他の疾患への応用などが期待でき、新たな技術が常に求められています。日本政府は、医療安保体制を強化するため新型コロナでの後れを鑑み、国内のCDMO(医薬品開発製造受託機関)関連企業へ支援しつつ、レプリコン(自己複製型)のRNA技術に梃子入れしてきました。

 医薬品の製造工程の開発から治験薬や商業生産までを受託する機関や団体がCDMOですが、全てを自社で開発や製造などができるわけではありません。海外の研究機関や企業などと連携する水平分業が重要であり、日本のレプリコンRNA技術開発は米国のArcturus Therapeutics(アクチュラス・セラペウティクス、以下、アクチュラス)社と一緒に組む国内のCDMO、Arcalis(アルカリス)社が進め、福島県の工場で原薬から製剤まで一気通貫の製造を準備してきました。

 また、アクチュラス社のレプリコン・ワクチン(ARCT-154)の全世界での権利を保有するのはオーストラリアのCSL社であり、国内CDMOである明治製菓ファルマは2023年4月、CSL社より日本国内でのレプリコン・ワクチンの供給販売提携の契約を締結し、アルカリス社は2023年4月、明治製菓ファルマと社外連携を締結して国内でのレプリコン・ワクチンの供給体制を構築しています。

 その後、2023年11月、明治製菓ファルマは厚生労働省からレプリコン・ワクチン(コスタイベ筋注用)の国内における製造販売の承認を受けます。このタイプのワクチンの承認は、日本が世界で初めてということになりました。また、アクチュラス社とCSL社は、欧州の規制当局にレプリコン・ワクチンを申請中とのことです。

 日本政府のレプリコン・ワクチンに対する迅速な対応については、mRNAワクチンで海外の後塵を拝した苦い経験がありそうです。次のパンデミックについて常に監視と警戒の目を注いでいく必要がありますが、感染対策のために広汎で素早いワクチン接種、そして医薬安保体制の強靱化のためにも他国へのワクチンの供給体制の整備などが重要という認識が強くなっているのだと思います。


▶ レプリコン・ワクチンに広がる懸念

 一方、2024年7月には宮城県でmRNAワクチンの危険性を訴える団体がレプリコン・ワクチン接種中止を求める集会を開き、2024年8月には日本看護倫理学会という団体が「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念」という緊急声明を発表しました。

 こうした懸念の内容には、なぜ海外で承認されていないワクチンが日本だけで承認されるのかという疑義、自己複製型RNAがワクチン接種者から体外へ出て他者へ何らかの悪影響をおよぼすのではないかという危惧、臨床試験での重篤な副反応の情報開示の不足、そして長くRNAの効果が持続することでヒトの遺伝情報が改編されるのではないかという恐れなどがあります。

 こうした危惧や懸念について、多くの人が不安を抱いているのは事実でしょう。筆者の知り合いにもレプリコン・ワクチンは当面、打たないと述べている開業医がいます。

 mRNAワクチンでも副反応による死亡を含む重篤な症状があり、予防接種法の救済対象になる人は年々増え続けています。ワクチンは基本的に健康な人に接種するものであり、健康被害が出てはいけないものです。どうしても副反応が出てしまうこともあり、ワクチンは強制ではなく任意での接種ということになっています。

 この10月から始まる新型コロナ・ワクチン接種に関しては、まだどんな種類のワクチンを接種するのか未定という状況です。ワクチンの安定供給と安心して接種できる体制の構築ができるかどうか、そして丁寧な説明と情報開示などがしっかりされるか、注視していきたいものです。

<参考文献>
※1:Mitsuyoshi Urashima, et al., "Association Between Life Expectancy at Age 60 Years Before the COVID-19 Pandemic and Excess Mortality During the Pandemic in Aging Countries" JAMA Network Open, Vol.5(10), e2237528, 19, October, 2022
※2:Sander Herfst, Rory D. de Vries, "Self-amplifying RNA vaccines against antigenically distinct SARS-CoV-2 variants" THE LANCET Infectious Diseases, Vol.24, Issue4, P330-331, April, 2024
※3:Nhan Thi Ho, et al., "Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials" nature communications, 15, Article number: 4081, 14, May, 2024
※4:Gavor Tamaz Szabo, et al., "COVID-19 mRNA vaccines: Platforms and current developments" Molecular Therapy, Vol.30, Issue5, 1850-1868, 4, May, 2022
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