小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット(日本小児アレルギー学会作成)

2018年09月11日 16時11分34秒 | 小児医療
 日本アレルギー学会が作成した「災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット(改訂版)・ポスター」が公開され、ダウンロード可能です。
 患者さんおよび関係者の方は是非ご利用ください。

 

 私がアレルギー診療で注意していることをひとつ記しておきます。

 食物アレルギー患者さんは、食べて蕁麻疹が出たり、咳き込んだり吐いたりとイヤなエピソードを経験すると、その食材が嫌いになって完全除去を続ける傾向があります。
 でも昨今、自然災害による避難所生活が珍しくなくなってきた日本列島に住んでいると、いざという時に何がどこまで食べられるか知っておく必要があります。
 例えば、食パンなら1枚は大丈夫だけど、2枚では症状が出てしまう、とか。

 なので、食物アレルギー患者さんには「どこまで食べられるか知っておくことが災害対策」と説明し、必要であれば経口負荷試験目的で病院を紹介しています。

□ 子どものアレルギー学会、災害対応まとめたパンフ公開
(2018年09月10日:朝日新聞デジタル)
 日本小児アレルギー学会は、地震で生活環境が変わり、症状の悪化を招くこともあるとして、対応策をまとめた「災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット」をホームページ(http://www.jspaci.jp/)で公開している。
 ぜんそくの子どもで、電動の吸入器を使って薬を服用している場合、「スペーサー」という補助具ならば電源がいらない。スペーサーが手に入らなければ、紙コップの底に穴を開けて代用することも可能という。
 アトピー性皮膚炎では、「毎日のシャワーや入浴は治療の一部」と呼びかける。環境の変化で悪化しやすいため、普段と同じか、少し強めのステロイド入り塗り薬の使用を勧めている。
 「炊き出し」や食料品の提供で注意が必要なのは、食物アレルギー。善意でもらい、知らずに子どもが食べてしまうこともあるので、事前に注意を促すことも必要だ。「ぐったりしている」ほか、「ゼーゼーする」「持続する強いおなかの痛み」も重い症状で、すぐに医師に知らせる。
 パンフレットでは周囲の人にも、「治療に必要な電源や水、スペースを優先して利用させてください」と呼びかけている。学会では、メール相談窓口(sup-jasp@jspaci.jp)も設けている。名前、年齢、性別、住所、電話番号、かかりつけ医の明記が必要という。

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子どもが頭をぶつけたので心配・・・

2018年09月05日 10時00分51秒 | 小児医療
 という相談をよく受けます。
 心配なのは頭部打撲による「頭蓋内出血」なので、小児科より脳神経外科領域ですが、重症感がなくとりあえず医者の意見を聞きたい・・・と受診されるのでしょう。

 診察で気になる所見があるときは迷わずCTのある病院へ紹介しています。
 一見して元気な患者さん(こちらがほとんど)に対する私の説明は、

・現時点で意識障害・けいれんなどの重い神経症状はないので緊急性を要する状態ではありません。
・ただし、脳内の細い血管が切れるとすぐに症状が出ないこともあります。
・頭部打撲後1ヶ月は注意して様子観察し、気になる症状(ぼーっとしやすい、吐きやすい、転びやすい)や今までできていたことができなくなったりした病院を紹介しますから、また来てください。


 という感じです。

 さて近年、子どもの頭部打撲傷に対する診療ガイドラインが複数の国で提案されるようになりました。
 とくに頭部CTの適応が議論されています。
 日本ではあまり注目されていませんが、頭部CTは放射線被曝により発がんリスクが存在します。
 諸外国ではコストともに、発がんリスクも評価における大きな要素です。
 資料によると、

<頭部CTによる被曝と発がん>
・2〜3回のCT → 脳腫瘍発生リスクが3倍
・5〜10回のCT → 白血病発生リスクが3倍(脳腫瘍/白血病の発症率は10万人中2.8/4.5)

 有名なのは米国の「PECARN」、カナダの「CATCH」、英国の「CHALICE」。
 他にも英国の NICE guideline(NICE clinical guideline 176 Head injury. Jan 2014)というのもあるらしい。
 ガイドライン作成ブームの火付け役は「PECARN」(Kuppermann による Lancet 論文)。
 現場の診療の参考になるのかどうか、記事を集めて読んでみました;


□ 頭部外傷患児に対する不要なCT検査を回避できる予測ルールが確立された
2009.10.15:ケアネット:菅野守:医学ライター
 新たに導出された予測ルールを用いれば、頭部外傷後の子どものうち臨床的に重大な外傷性脳損傷(ciTBI)のリスクが低い患児を同定して、不要なCT検査を回避できることが、アメリカCalifornia大学医学部Davis校救急医療部のNathan Kuppermann氏らPECARN(Pediatric Emergency Care Applied Research Network)の研究グループによって明らかにされた。外傷性脳損傷は子どもの死亡および身体障害の主要原因であり、脳手術など緊急の介入を要するciTBIの患児を迅速に同定する必要がある。頭部外傷小児に対するCT検査は、放射線被曝による悪性腫瘍のリスクがあるため、CTが不要な低リスク例を同定する方法の確立が切望されていた。Lancet誌2009年10月3日号(オンライン版2009年9月15日号)掲載の報告。

◇ ciTBIを除外する年齢別の予測ルールを導出し、検証するコホート研究
 PECARNの研究グループは、CTが不要な低リスク例の同定法の確立を目的に、頭部外傷患児を対象にプロスペクティブなコホート研究を行った。
 対象は、頭部外傷受傷後24時間以内の18歳未満の子どもで、Glasgow 昏睡スケールのスコアが14~15の患児とした。ciTBI(外傷性脳損傷による死亡、脳手術、24時間以上にわたる気管内挿管、2泊以上の入院)に関する年齢特異的な予測ルールを策定し、その妥当性を検証した。
 北米の25の救急施設から42,412例が登録された[2歳未満の導出集団(derivation population)8,502例、検証集団(validation population)2,216例、2歳以上の導出集団25,283例、検証集団6,411例]。CT所見は14,969例(35.3%)から得られ、376例(0.9%)でciTBIが検出され、60例(0.1%)で脳手術が施行された。

◇ 検証集団で、2歳未満、2歳以上のいずれにおいても、高い陰性予測値と感受性を確認
 2歳未満の患児におけるciTBI除外の予測ルールとして、
1)健常な精神状態
2)前頭部以外に頭皮血腫がない
3)意識消失がないあるいは5秒以内の意識消失
4)損傷の発生機序が重度でない
5)触知可能な頭蓋骨骨折がない
6)親の指示に従って正常な動作ができる
が導出された。
 検証集団におけるこれらの予測ルールのciTBIに関する陰性予測値は100%(1,176/1,176例)、感受性も100%(25/25例)であった。2歳未満のCT検査施行例694例のうち、この低リスクのグループに分類されたのは167例(24.1%)であった。

 2歳以上の患児におけるciTBI除外の予測ルールとしては、
1)健常な精神状態
2)意識消失がない
3)嘔吐がない
4)損傷の発生機序が重度でない
5)頭蓋底骨折の徴候がない
6)重篤な頭痛がみられない
が導出された。

 検証集団におけるこれらの予測ルールのciTBIに関する陰性予測値は99.95%(3,798/3,800例)、感受性は96.8%(61/63例)であった。2歳以上のCT検査施行例2,223例のうち、この低リスクのグループと判定されたのは446例(20.1%)であった。
 検証集団では、2歳未満および2歳以上の予測ルールのいずれにおいても、必要な脳手術が施行されなかった例は1例もなかった。
 以上の知見により、著者は「これらの検証された予測ルールを用いれば、ルーチンのCT検査が不要なciTBIのリスクが低い患児を同定することが可能である」と結論し、「予測ルールは患児を不要な放射線被曝から保護し、頭部外傷後のCT検査の意思決定において、医師および家族とって有益なデータをもたらす」と指摘している。


<原著論文>
Kuppermann N et al. Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: a prospective cohort study. Lancet. 2009 Oct 3; 374(9696): 1160-70. Epub 2009 Sep 14.



□ 軽症に見える小児の頭部打撲にCT検査は行うべきか?
2012/1/12 石垣恒一=日経メディカル オンライン
 症例数や統計学的な妥当性は大事だが、あまりにこだわると、読む論文はほとんどなくなってしまう。研究のオリジナリティーなどにも目を配り、「論文は愛をもって読む」ことを標榜する福井大総合診療部教授の林寛之氏。そんな林氏に、読破した大量の論文の中から、一読推奨という救急領域の論文を紹介してもらった。
 まず、「ここ数年で一番のヒット」と評するのが、一見軽症の小児の頭部打撲にCT検査を行うべきか否か、その判断基準を検討した論文9(次ページの「林先生のおすすめ論文リスト」参照)。小児への被曝のリスクを考えれば、CT検査は避けるに越したことはない。けれども、外傷性脳損傷を見逃すのは怖い…。現場でしばしば遭遇する逡巡に、指針を示そうとしたものだ。
 基準作成の検討に用いたのは、鈍的頭部外傷から24時間以内に北米の25の救急部を受診した18歳未満の患者4万2412人(平均年齢7.1歳)。その結果、2歳未満の頭部外傷についてCTをどう適用するかの考え方を示したのが図5だ。図の左側の7つの条件がクリアできれば、重篤な脳損傷であるリスクは0.02%。「こういったデータを親御さんに提示できれば、『CTはいらなさそうですね』といった説明の材料になる」。頭をぶつけてたんこぶをこしらえた子どもは頻繁に訪れる。「CTがない医療機関でこそ、参考にできる論文だと思う」(林氏)。
 図5右下を見ると、最終的にはCT適用の「判断」が求められることとなり、検討項目には「医師の裁量」「親の希望」が含まれている。「これを見て『な~んだ。結局同じじゃないか』と思うかもしれないけれど、逆に、実際の臨床を理解する人が研究しているという、リアリティーを感じる」と林氏は評価する。

図5 軽症と見られる頭部外傷(GCS=14,15)に対するCT 検査適用の考え方(2歳未満)
(論文9) Lancet 2009;374:1160-70. より改編引用。「2 歳以上」については、ぜひ原著を参照されたい。



<原著>
・Kuppermann N, et al. Lancet 2009;374 :1160-70.
Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma : a prospective cohort study.



□ 頭部CTの適応はどのように決めていますか?
2013/10/23:日経メディカル
 15歳以下の子どもの頭部外傷時にCTを撮る基準について、小児科の指導医の先生にPECARN studyというのを教えてもらいました。他にもいくつかstudyがあるみたいですが、親がしっかり監視してくれるという条件のもとで、なるべく被曝を避けるようにするのが現代の流れだということです。子どもは余命が長いこともあり、CTで悪性腫瘍発生率が有意にあがってしまうわけですね。
 PECARN studyは次のようにまとめられています。
 ciTBI (clinically important Traumatic Brain Injury:外傷性脳挫傷)除外基準によると、陰性予測値は、2歳未満で100%、2歳以上で99.95%だったそうです。これなら以下の基準を満たす小児はCTを撮らなくてもよさそうです。

<2歳未満>
1)健常な精神状態
2)前頭部以外に頭皮血腫がない
3)意識消失がないあるいは5秒以内の意識消失
4)損傷の発生機序が重度でない
5)触知可能な頭蓋骨骨折がない
6)親の指示に従って正常な動作ができる

<2歳以上>
1)健常な精神状態
2)意識消失がない
3)嘔吐がない
4)損傷の発生機序が重度でない
5)頭蓋底骨折の徴候がない
6)重篤な頭痛がみられない
(PECARN study: Kuppermann et al, Lancet(2009);372;1160)

 訳に関しては、こちらも参考にしました。論文で推奨されているAlgorithmはこちらでも参照できます。



□ 3つの小児頭部外傷ルール、診断精度が高いのはどれ?/Lancet
2017/04/21:ケアネット:医学ライター 吉尾 幸恵
 頭部外傷の小児において、CT検査の適応を臨床的に判断する3つのルール(PECARN、CATCH、CHALICE)は、デザインされたとおりに使用された場合の感度は高いことが、オーストラリア・王立小児病院のFranz E Babl氏らが行った前向きコホート研究(APHIRST)による検証の結果、明らかになった。これら3つのルールは、CT検査を行うべき頭部外傷患児の同定に役立つが、これまで外部検証や多施設大規模比較試験は行われていなかった。著者は、「今回の結果は、ルールの導入を検討している医師にとって、重要な出発点となる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年4月11日号掲載の報告。

◇ 頭部外傷小児約2万例で、3つのルールの診断精度を検証
 APHIRST(Australasian Paediatric Head Injury Rules Study)は、2011年4月11日~2014年11月30日に、オーストラリアおよびニュージーランドの10病院において行われた。対象は、救急診療部を受診した18歳未満のあらゆる重症度の頭部外傷患者で、PECARN(2歳以上と2歳未満で層別化)、CATCH、CHALICEの各ルールに特異的な転帰(それぞれ、臨床的に重大な外傷性脳損傷[TBI]、神経学的介入の必要性、臨床的に重大な頭蓋内損傷)を予測する診断精度を評価した。
 検証コホートで、ルールごとに選択基準および除外基準を満たした集団においてルール特有の予測変数を算出。2次解析では、軽度頭部外傷患者(グラスゴー・コーマ・スケール[GCS]:13~15)を対象とした比較コホートにおいて、ルール特有の予測変数を用いて臨床的に重大なTBIの診断精度を算出・評価した。

◇ 感度はPECARNが優れるものの3つのルールで診断精度に差はない
 計2万137例が解析され、このうちCT検査が行われたのは2,106例(10%)、入院は4,544例(23%)、脳神経外科手術施行83例(<1%)、死亡15例(<1%)であった。PECARNは、2歳未満5,374例中4,011例(75%)、2歳以上1万4,763例中1万1,152例(76%)、CATCHは4,957例(25%)、CHALICEは2万29例(99%)に適用された。
 検証コホートの解析において、感度が最も高かったのは、2歳未満に対するPECARN(感度100.0%、95%信頼区間[CI]:90.7~100.0、38/38例)、ならびに2歳以上に対するPECARN(99.0%、95%CI:94.4~100.0、97/98例)であり、次いでCATCH(高リスク予測因子のみ:95.2%、95%CI:76.2~99.9、20/21例/高リスクと中等度リスク予測因子:88.7%、95%CI:82.2~93.4、125/141例)、CHALICE(92.3%、95%CI:89.2~94.7、370/401例)の順であった。
 軽度頭部外傷患者1万8,913例を対象とした比較コホートの解析において、臨床的に重大なTBIの感度は同等であった。両解析における陰性的中率は、3ルールすべて99%以上であった。
 なお、著者は、「PECARNの主要評価項目である臨床的に重大なTBIを、評価項目として用いたため、PECARNルールに好ましい結果に偏った可能性がある」と指摘している。


<原著論文>
Accuracy of PECARN, CATCH, and CHALICE head injury decision rules in children: a prospective cohort study(Lancet)



□ ソファから落ちて頭をぶつけた男児に頭部CT?
2017/9/15 中西奈美=日経メディカル
 Choosing Wiselyキャンペーンで指摘された、時に患者に不利益を与える価値の低い検査。日常診療で遭遇しがちな肺血栓塞栓症、蕁麻疹、頭部外傷の症例を基に、実際に検査をどう賢く選んでいくかを実際に考えてみよう。

Q C君に頭部CT検査を実施する?
ケース3:C君、5歳男児。
 「ソファから落ちて床に頭をぶつけた」と母親に付き添われて外来を受診。落下直後、C君は火がついたように泣いたが、数分で泣きやんだという。受診まで特に変わった様子はなく、看護師とも楽しそうに話している。一方、母親は「頭のことなので、CTを撮ってほしい」と強く要望している。
【所見・既往歴など】
 殴打した部分に皮下組織の毛細血管から出血した痕があるが、血腫は認められない。
 母親からの聴取で、意識障害や嘔吐などはなかった。
 ソファ面の高さは50cm。落下から5時間程度たっている。
 既往歴、手術歴なし。

※ 出題:田波穣氏(埼玉県立小児医療センター放射線科)

 子どもが転倒し、壁や床に頭部を殴打することは日常起こりやすい事故。小児科や内科、救急外来では自分の状態を言葉で説明できない子どもを抱え、保護者が不安を募らせ駆け込んでくる場面によく遭遇するのではないだろうか。
 特に、ケース3のように頭部に関わる疾患や外傷の場合、母親をはじめとする家族が画像検査を望むことは少なくない。ここではC君の母親が要望する軽度の頭部外傷に対するCT検査について考えてみたい。
 「CT検査は小児においても画像診断のモダリティーになりつつある」と埼玉県立小児医療センター(さいたま市中央区)放射線科の田波穣氏は話す。装置やソフトウエアの進歩により、被曝線量の少ない撮影が可能になってきたが、CT検査はいまだ医療放射線被曝の主な要因となっている。
 小児の被曝に関しては、

(1)一部の放射線誘発性癌に対し、小児は成人よりも2~3倍脆弱である、
(2)小児は平均余命が長く、小児期の放射線曝露に関連する発癌が寿命に影響を与える可能性がある、
(3)放射線誘発性癌は長い潜伏期を経て増大することが多く、そのスピードは腫瘍の種類および被曝線量によって変化する

──という特徴がある。
小児では特に適応の正当化と線量の最適化が重要」と田波氏は言う。いずれも検査をオーダーする主治医と患児の家族が、リスクとベネフィットを理解した上で実施を検討しなければならない。

図1 軽度の頭部外傷に対するCT検査適用フローチャート(多施設共同研究「PECARN」の結果、Lancet. 2009;374:1160-70.より改変)




(ちなみの原著のフローチャートはこちら)


 特に、意識喪失やめまい、嘔吐などといった神経学的な異常を伴わない軽度の頭部外傷後にCT検査が必要かどうかは、「PECARN」と呼ばれる多施設共同研究から図1のように提案されている。他に、CHALICEルールやCATCHルールも、感度の高い基準として評価されている。
 C君の意識レベルを示すGCS(Glasgow coma scale)は15であり、頭蓋骨折や神経学的な所見も認められない。母親がCT撮影を望んでいるが、被曝のリスクを説明し納得してもらい、検査を行わないことが妥当だと田波氏は判断した。母親には、重症の可能性は低いため、被曝のリスクを説明し、検査を行うべきではないことを伝えた。また、帰宅後も目を離さず様子を確認し、嘔吐や痙攣、傾眠、頭痛の悪化などが認められた場合にはすぐに外来を受診するよう指導した。

A 頭蓋内出血などの危険性は低いため、被曝のリスクを重視し、CT検査は行わない。



参考
Glasgow Coma Scale


★ 意識障害の評価;
 15点:正常
 14−13点:軽度
 12−9点:中等症
 8点以下:重症。
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「近視との戦い〜“大流行”は止められるのか〜」

2018年08月01日 15時10分26秒 | 小児医療
「近視との闘い ~“大流行”は止められるか~」
初回放送:2018年6月5日(火)午前0時00分~
再放送:2018年7月31日(火)午後5時00分~

内容紹介
 アジアを筆頭に、欧米さらに途上国の現代っ子のあいだで爆発的に増える文明型疾患=近視。その原因となる遺伝子や生活環境などを探り、最新の知見と予防・治療法を紹介する。
 2050年までに5億人が視力を失うと警告する科学者がいる。若者の8割以上が近視の中国では、目を机に近づけないように姿勢を矯正するバーを教室に導入。近視の原因となる遺伝子は100種類以上あるとわかり、特定は困難とされているが、戸外で過ごす時間が長い子どもは近視になりにくいという意外な調査結果も注目を集める。瞳孔を開かせるアトロピン目薬が人気のシンガポールなど、各国での試行錯誤の例も数多く紹介する。

原題:The Myopia Boom
制作:ARTE France / Scientifilms(フランス 2017年)




 近視は感染症ではないので「流行」という表現は適当ではありませんが、でも爆発的に増えていることは確かです。
 その原因は何なのでしょう?

 まず遺伝子が注目されました。
 しかし、候補遺伝子は100以上発見されたものの、それだけでは説明できません。
 短期間の間に人類の遺伝子が世界レベルで変異することはあり得ないからです。

 「目の近くで近くで本やマンガを読んだり、テレビを見たりしてはいけません!」と小さい頃から言われ続けていました。
 現在ではパソコンやスマホもそうですね。
 でも、解決には至っておらず、近視は増え続けています。

 アメリカの研究者が、子どもたちの視力と生活環境を10年間にわたりフォローしました。
 当時悪化因子と考えられていた「近くでモノを見る」ことを証明しようとしたのです。
 しかし、その行為の多い少ないで近視の発生率に差は出ませんでした。

 唯一、有意差が出たのが「外でどのくらいの時間を過ごすか?」という質問項目です。
 1日2時間以上、屋外で過ごす子どもは、近視の発生が明らかに少なかったのです。

 その後の研究で、波長の短い紫の光が近視予防によいことがわかりました。
 「網膜に十分な光を当てることにより、視機能が正常に発達する」という単純明快な答。
 「近くを見る作業が悪い」のではなく、「暗い室内で過ごすのが悪い」だったのですね。
 台湾では、この医学論文を読んだ医師が「外で過ごそう」運動を始め、実際に効果が出て現在は国レベルの対策となり、台湾では近視の子どもが漸減してきているそうです。

 外で過ごす分には、タブレットやスマホを使っても問題ないとのこと。

 しかし残念なことに、一旦近視になってしまうと、外で多くの時間を過ごすよう努めてもその進行は止まらないそうです。
 そこで登場するのが医療行為。
 角膜の屈折率を調節して焦点を網膜に合うようにする手術は短時間で済みますが、費用が数十万円と高い。
 近年注目されているのが低濃度アトロピン点眼薬です。
 これから国際的に広がることが期待されます。

 以上、目から鱗が落ちた内容でした。

 
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小児夜尿症における抗利尿ホルモン製剤(ミニリンメルト®)の適応についての疑問

2018年05月04日 15時44分26秒 | 小児医療
 小児科医生活30年を越えた私にとって、小児夜尿症は治療の手応えのない病気の代表です。
 まず、夜尿症には下記のごとく3つのタイプが存在し、それぞれ対応が異なります。従来行われてきた治療も併記しました;

1.多尿型:薄いオシッコがたくさん出る → (治療薬)抗利尿ホルモン薬
2.膀胱型:膀胱が少ししかオシッコをためられない → (治療薬)抗コリン薬
3.混合型:多尿型と膀胱型の両方の要素がある → (治療薬)上記を合わせたもの

 小学校入学前後の子どもが相談によくみえますが、タイプ別では膀胱型(膀胱が小さくて尿をためられないため朝までに溢れてしまう)が多く、このタイプには薬も効きにくいのです。急に膀胱が大きくなるなんて不可能ですからね。
 通院していてもなかなかよくならないため、いつの間にか通院が途絶え、しかし数年後に困ってまた受診され、また通院が途絶え・・・を繰り返している間に成長とともに治る、という経過をたどりがちです。
 
 多尿型は薄いオシッコであることを検査で確認後、適応と判断されれば抗利尿ホルモン薬を使用すると有効率は高いです。
 しかし近年、専門家の講演会を聞いていると、必ずしも“薄いオシッコ”と言わないことが気になっています。
 フローチャートで「この治療が効かなかったら次はこれ」の流れの中にオシッコの濃い薄いを問わずに組み込まれているのです。
 この疑問に答えてくれる書籍がなかなか見つかりませんでしたが、先日下記啓蒙書に出会いました;

□ 「夜尿症のみかた」(金子一成著)南山堂、2018年。



 早速、治療の抗利尿ホルモン薬の項目を読んでみました。
 すると、以下のようにはっきりと書かれていました;

 夜尿症に対して酢酸デスモプレシン製剤(ミニリンメルト®)は、海外においては尿の濃縮力を考慮されずに使用されているが、わが国における保険適用は「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」とされている。
 したがって、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認するために、酢酸デスモプレシン製剤投与前に観察期間を設けて、起床時第一尿を用いて尿浸透圧あるいは尿比重を3回測定して平均値を算出する。その平均値が800mOsm/L以下あるいは1.022以下であれば、「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」であり、酢酸デスモプレシン製剤の適応となる。
 酢酸デスモプレシン製剤の夜尿症に対する効果は約7割の患者で認められる。


 ・・・スッキリしました。私のこだわりは間違っていないことがわかりました。

 さて、治りにくい膀胱型への対処法として、現在はアラーム療法がお勧めです。
 今まで使われてきた抗コリン薬は有効率が数割にとどまりますが、アラーム療法の有効率は7割と高い。
 しかも多尿型・膀胱型のタイプを選ばないのです。

 しかし、ちょっと待てよ・・・日本では従来、「夜尿症の子どもを夜間起こしてトイレに行かせるのはよくない」と指導してきたはず。アラーム療法って、それをやっていることになるけど、いいの?
 という疑問が湧いてきます。

 紹介した本には、「夜尿アラーム療法の作用機序は明確になっていないが」と断り書きの上で以下のように説明されています;

 夜尿症患者の未熟な排尿反射抑制神経回路を、膀胱が充満したときに覚醒させることで強化する、ある種の条件づけ療法と考えられる。
 すなわち夜尿のない子どもでは、膀胱が尿で充満すると膀胱の伸展刺激が脊髄を経て橋の排尿中枢(青斑核)を介して大脳に伝わり、高位蓄尿中枢が睡眠中の排尿を抑制するシグナルを発し、膀胱の収縮波抑制される(夜尿は起こらない)。夜尿アラーム療法はこの神経反射回路を強化するものと思われる。
 実際、夜尿アラーム療法で治癒した患者においては睡眠中の膀胱容量(蓄尿量)の増加がみられる。


 なんだかわかったようなわからないような説明ですねえ。
 「高位蓄尿中枢」っておそらく大脳皮質にあると思われますが、睡眠中にも働いているんだ・・・それを強化する治療?

 他の本ではこんな風に書いてありましたが、こちらの方がわかりやすいかな;

 尿が出たことをアラームで本人に知らせると、本人は「起きてトイレへ行くか」「トイレに行かないで我慢するか」の二択を迫られる。それを繰り返しているうちに「トイレへ行かないで我慢する」方向へ進み、徐々に膀胱にためられる量が増えて夜尿が治癒する。
 これは、親が寝ている本人を起こして寝ぼけ眼でトイレへ連れて行かれて排尿するのとは、脳に対する刺激が大きく異なる。



<まとめ>
 ようやく、小児夜尿症に対する有効な治療法が以下のように整理される時代になりました;
・多尿型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤:ミニリンメルト®)で70%に有効、再発率40%
・膀胱型 → アラーム療法で有効率70%、再発率15%
・混合型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤)+アラーム療法
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子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?

2018年05月03日 11時50分24秒 | 小児医療
 子どもの片頭痛は悩ましい病気です。
 なぜって、診断できても使用できる薬が限定されているからです。

 えっ、片頭痛の薬ってたくさん発売されてるはずでは?

 という感想を持つ方もたくさんいると思われます。
 しかし、片頭痛の治療薬として有名なトリプタン製剤は、大人には使えても子どもには使えません。
 その理由は、日本では「保険適応がない」からです。
 保険診療で認められているのは、かぜでよく処方されるアセトアミノフェンとイブプロフェンしかありません。
 それらを使っても効きが悪い、何とかして・・・という患者さんにどうしたらよいのでしょうか?
 私はそのような患者さんには漢方薬を勧めてきました。

 さて、最近発売された小児の頭痛関連本を購入して読んでみました。

□ 「小児・思春期の頭痛の診かた〜これならできる!頭痛専門小児科医のアプローチ〜」(藤田光江監修/荒木清・桑原健太郎著、南山堂、2018年)



 もちろん、一番の興味は「薬物治療」の項目。
 そこには「日本では認可されていないけど外国では認可されている、あるいは臨床治験データで安全性が確認されている薬剤は、アセトアミノフェン/イブプロフェンが無効の場合は使用可」と記載されています。
 これが現時点での小児頭痛専門家のスタンスのようですね。
 「日本では認可されていないけど外国では認可されている」というギャップを早くなくして欲しいものです。
 しかし日本の医療行政は慎重で石橋を叩いて渡る傾向があるため、ワクチンでも外国との“ワクチンギャップ”が埋められなくて問題視されてきた経緯もあります(HPVワクチンは逆に“お手つき”して社会問題化しましたが)。

 この本を読んだ結論です;
小児片頭痛患者に対してはアセトアミノフェンあるいはイブプロフェンを第一選択薬とし、無効の場合は「マクサルト®RPD錠を、体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠使用可能(25kg以上40kg未満では1/2錠)


<備忘録>

□ 片頭痛のメカニズム
 硬膜血管周囲の三叉神経の軸索に何らかの刺激が加わり、CGRP(calcitonin gene-related peptide)やサブスタンスP(SP)などの神経ペプチドが放出され、血管が拡張し、血漿タンパクの漏出および肥満細胞からのヒスタミンの遊離などにより神経原性炎症が生じることで発症する。三叉神経終末の刺激が順行性に伝えられると三叉神経核に至り、さらに視床を経由し大脳に至り、痛みとして自覚される。

□ 小児の片頭痛に対する第一選択薬はイブプロフェンとアセトアミノフェンである(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)。
 
□ アセトアミノフェン
 10〜15mg/kg/回を4〜6時間空けて使用する。1回最大投与量は500mgで、1日1500mg以内にとどめる。
 2013年には静注製剤が承認された。
 1日1500mgを超える投与量を長期使用する場合は定期的に肝機能検査を行う。
 アセトアミノフェンの作用機序:代謝物であるAM404が中脳、延髄、脊髄後角のカプサイシン(TRPV1)受容体やカンナビノイド(CB1)受容体を活性化して鎮痛効果を発揮している。

□ NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
 NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)に阻害的に結合し、プロスタグランディンなどの合成を抑制し、疼痛閾値を上昇させることで鎮痛作用を発揮する。化学構造の違いにより多くの種類に分類される;
・サリチル酸系:アスピリン
・アントラニル酸系:メフェナム酸
・アリール酸系:ジクロフェナク、インドメタシン
・プロピオン酸系:イブプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン
 しかし、小児に対するNSAIDsの使用は限定的にすべきである。アスピリン、ジクロフェナク、メフェナム酸は、インフルエンザ流行期において急性脳症発症のリスクを高めると指摘されており、添付文書上においても15歳未満には原則使用不可と記載されている。

□ イブプロフェン
 イブプロフェンは小児に最も使用されている安全性の高いNSAIDsであり、アセトアミノフェン同様に国際的にも小児への使用が推奨されている薬剤である。
 5〜10mg/kg/回を6〜8時間空けて使用する。1日40mg/kg以内にとどめる。最も多い副作用は肝障害であり、長期に使用する場合には肝機能検査が必要である。

□ トリプタン製剤
 作用機序:頭蓋内血管平滑筋に存在する5HT-IB受容体を介し、血管収縮作用を示す。また三叉神経終末に存在する5HT-ID受容体を介して神経ペプチド放出を抑制する。これらの相乗効果により、神経原性炎症を抑制し、頭痛発作改善に効果を示す。
 トリプタンは小児の場合、成人ほどの効果を実感できないことをしばしば経験する。これは小児片頭痛の持続時間が成人より短いためなのか、受容体感受性が小児ゆえ未熟なのか、不明である。
 現時点では小児の片頭痛に対してトリプタンは第一選択薬とはならず、アセトアミノフェンやイブプロフェンが無効な、日常生活への支障度が高い頭痛に対し、小学校高学年以上の体格であれば使用を検討してもよい。
 米国FDAが認可した小児片頭痛に有効なトリプタンは以下の通り;
・アルモトリプタン
・リザトリプタンOD錠
・ゾルミトリプタン点鼻
・スマトリプタン・ナプロキセン複合錠
 上記のうち日本で使用可能なものはスマトリプタン点鼻イミグラン®点鼻液)とリザトリプタン内服マクサルト®RPD錠)であるが、トリプタン製剤は日本ではすべて小児適応がないという困った状況である。

□ トリプタン製剤の使用の実際
 錠剤は体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠を、25kg以上40kg未満であれば1/2錠を使用する。
 1日2回まで使用可能であり、投与間隔は2時間空ける(ナラトリプタンだけは4時間)。
 トリプタンは片頭痛が生じてから時間が経てば経つほど効果は得られにくくなる。とくに中枢感作により生ずるアロディニア(異痛症)を呈した場合には、ほぼすべての鎮痛剤やトリプタンが無効となるため、そこに至る前までに使用しなければならない。

 大学病院頭痛専門外来での調査では、約2割の片頭痛患児がいずれかのトリプタンを処方されており、いずれかのトリプタンが有効であった患児は90%であった。最初に使用したトリプタンが無効であっても、別のトリプタンが有効であった症例もある。

□ トリプタン製剤の副作用と禁忌;
(副作用)胸部圧迫感、悪心・嘔吐、傾眠
(禁忌)
・虚血性心疾患、脳血管障害
・片麻痺性偏頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、網膜片頭痛
・エルゴタミン製剤との併用
・リザトリプタンとプロプラノロール

□ スマトリプタン(イミグラン®)
 トリプタン唯一の点鼻液があるため利用価値が高い。小児に対しても複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。
 悪心・嘔吐の随伴症状が多い小児の場合は内服困難例も存在するため、点鼻液はよい適応になる。ただし咽頭、舌後方に感じる強い苦みは点鼻薬独特の副作用であり、事前に十分説明しておく。

□ リザトリプタン(マクサルト®)
 最高血漿中濃度到達時間が最も短く、また血中半減期も短いため、効果発現が早く、持続時間の短い小児の片頭痛に対して有利な製剤である。スマトリプタン同様に小児に対する複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。口腔内崩壊錠があるため、登下校時や学校での授業中に適切なタイミングで内服しやすいという利点がある。
★ 片頭痛予防薬として使用されるプロプラノロール(インデラル®)との併用は禁忌。

□ 薬剤使用過多による頭痛(国際頭痛分類第3版)
 3ヶ月以上にわたり使用頻度が増す場合は予防薬使用を検討する。
・アセトアミノフェン:15日/月以上
・NSAIDs:15日/月以上
・トリプタン製剤/複合鎮痛剤:10日/月以上

□ 予防薬
 片頭痛発作の頻度が多く、薬物頓用でも生活に支障が出る場合は予防治療を考慮する。
 成人では月に2回以上あるいは6日以上が目安であるが、小児はケースバイケースで判断する。
・シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬で、かぜの際の鼻水止めとして日常的に処方されている。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。眠気、食欲増進の副作用がある。
・アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。ボストン小児病院の検討によると、アミトリプチリンは最も多く使用されている予防薬である。副作用として眠気、口渇、便秘に注意が必要。
・その他:バルプロ酸(デパケン®ほか):抗てんかん薬、塩酸ロメリジン(ミグシス®):カルシウム拮抗薬、プロプラノロール(インデラル®)β-遮断薬、トピラマート(トピナ®):新規抗てんかん薬・・・
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吃音の研究・対策はこれから

2018年04月08日 15時28分55秒 | 小児医療
 「吃音」(いわゆる“どもり”)というと、吃音ドクター・菊池良和先生が頭に浮かびます。
 自らが吃音であることを公表し、啓蒙書も書いています。
 NHKラジオの「健康ライフ」で彼のお話を聞いたことがあります。

 しかし以下の記事を読むと、吃音に関する研究はまだまだ進んでおらず、対策も“皆無”とは・・・。

■ わが国の吃音有症率が初めて明らかに
2018年03月28日:メディカル・トリビューン)より
 自治医科大学公衆衛生学部門の須藤大輔氏は、幼児吃音症の大規模調査の結果を第28回日本疫学会(2月1~3日)で発表した。吃音症は発達障害支援法に含まれる障害でありながら国レベルの対策が十分に取られておらず、わが国では発症率や治癒率などの基本的なデータもほとんど存在していないのが実情。調査の結果によると、吃音症の有症率は3歳児健診時点で4.7%であり、ほぼ海外と同程度であることが明らかになった。
 日本医療研究開発機構(AMED)の採択事業として「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」(代表:国立障害者リハビリテーションセンター病院第三診療部長・森浩一氏)が2016年に始まっており、今回の調査もその一環として行われた。  
 須藤氏によると、
・吃音症は幼児の100人のうち5~8人に発症、うち8割は自然回復する。
・回復しないと社交不安障害の引き金ともなり、7~12歳の吃音児では社交不安障害のリスクが6倍、成人吃音の22~60%で発症する
ーと報告されている。  
 しかし、吃音症を熟知した専門家が少なく、詳細に診ることができる小児科医や耳鼻咽喉科医も少ない。回復せずに成人になってもフォローする診療科がはっきりしないなど具体的な対応戦略が乏しい状況にある。国レベルでの対策を立てる上で必要となるわが国の疫学データも存在せず、海外のデータに頼っている。そこで、研究事業では吃音症に関する大規模調査を進めている。

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「こどもの病気 常識のウソ」(松永正訓著)

2018年04月07日 06時46分37秒 | 小児医療
 「こどもの病気 常識のウソ」(松永正訓著)
 中公新書ラクレ、2017年発行



 この本の内容は、読売新聞のWebサイト「YOMIURI ONLINE」の医療コーナー「ヨミドクター」で連載配信されていたエッセイをまとめたものです。
 私は読者の1人でしたが、小児科の臨床現場で感じることがそのまま記されていて感心しました。
 おそらく、中堅小児科医の本音はこんなもの。
 しかし小児科専門医にとっては当たり前すぎて、敢えて発信する内容に思えないことでも、小児外科医から小児科開業医に転身した著者には目新しい事実となり、客観的に記述できたのでしょう。
 
 患者さん向けというスタンスですが、私は「小児科標榜医」にぜひ読んでいただきたいと思います。
 「小児科標榜医」とは、元々の専門は小児科以外(内科、外科、耳鼻科、等々)の専門医が、開業の際に「子どもの患者さんも診ますよ」と小児科も標榜する医師のことです。ぶっちゃけて言えば「小児科は専門外」なので、その医療レベルはピンキリです。
 そのような医師にとってこの本は「小児科医の本音」を知るために格好の教材となると思われます。

 内容について。
 小児外科医しか書けない項目である「胆道閉鎖症」「GER」「盲腸と虫垂炎」「包茎」「重症便秘」「小児がん」「異物誤飲」は大変勉強になりました。
 一方、小児内科関係では大変よく勉強されていることはわかりますが、「?」と思う箇所も無きにしも非ず。

(例1)RSウイルス感染症で、一番やっていけない処方は鼻水止め(抗ヒスタミン薬)である。鼻水止めを飲むと痰が硬くなって呼吸困難が悪化します。咳止めも痰が出せなくなるのでNG。喘息のお子さんのように、気管支拡張剤を吸入してもらったり、内服薬で気管支拡張剤を飲んでもらう

 前半の鼻水止め、咳止めが無効であることは小児科専門医の常識ですが、下線部の「気管支拡張剤で治療する」には疑問があります。気管支拡張剤は気管支平滑筋が収縮して気管支内腔が狭くなった状態を解除する薬です。しかしRSウイルス感染症が重症化しやすい早期乳児では、この気管支平滑筋がまだ発達していません。つまり作用するターゲットがないので、残念ながら効果は期待できません。

(例2)スギ花粉は2月頃から飛び始めて、5月の大型連休を過ぎる頃まで続きます。そこで花粉症が治まるかと思うと、今度はヒノキの花粉の飛散がピークになります。

 一般的に、スギ花粉の飛散は3月がピーク、ヒノキ花粉の飛散ピークは4月とされています。5月のGW以降も症状が続いたり、再燃したりする場合にはイネ科花粉症を疑います。


<備忘録>

・腕のいい外科医とは「失敗しない」医師ではなく「合併症に対して正しい処置が取れる」医師を言う。
・第二世代の抗ヒスタミン薬(ザジテン、アレジオン、アレロック、アレグラ、ザイザル、ジルテック、セルテクトなど)はアレルギーの薬であり、かぜに対して保険適応はない。

・肺炎球菌とインフルエンザ桿菌は鼻の奥に住み着いている常在菌である。そこに存在しているだけなら何の悪さもしない。しかしウイルス感染で鼻の粘膜の炎症が続くと、耳管というトンネルを伝わって中耳(鼓膜の奥のスペース)で繁殖をすることがある。これが化膿性中耳炎である。・・・医学書に膿性鼻汁(黄色や緑色の鼻汁)には抗生物質を使うべきだと書いてあったりするが、この記載は明らかな誤りである。

・抗生物質を使用する場合は「どこの場所に、どんな細菌が感染しているか」を診断する必要がある。

・救急車を呼ぶ際、携帯電話より固定電話が有利である。

・風邪を引いて熱が出たときは、平熱になってその状態を24時間キープできて、はじめて登園させるべきである。

・風邪から肺炎に進行してしまう可能性を考慮して、保護者を納得させるために抗生物質が処方されているが、「かぜの段階で抗生物質を使えば肺炎を予防できる」という考え方は、完全に間違っている。そんなことをしても体内の細菌をゼロにすることはできない。

・寒さの強い日に風邪を引くのは、寒いから引くのではなく、寒いとウイルスが活性化するためである。

・ノロウイルスの検査は3歳未満にしか保険が利かない。

・ロタウイルス胃腸炎患者の下痢便の中には、1gあたり約100億個のウイルスが含まれている。そして、このうちのわずか10個くらいのウイルス粒子だけで感染が成立する。

・白色便はロタウイルスに限らない。どのウイルスでも白くなる。「食物が十二指腸を通過するときに、胆嚢が収縮して胆汁と混じって色が付く」という共調運動がうまくいかなくなるからであり、病気の重症度とは関係ない。

・赤ちゃんは基本的に包茎であり、剥けている場合は尿道下裂(500人にひとりの頻度)の有無を確認する必要がある。

・便秘の治療として、食事療法は大して有効ではない。水分をたくさん取っても「焼け石に水」である。食物線維をたくさんとると有効な例もあり試す価値はあるかもしれないが、高度な便秘は野菜だけでは解決できない。乳酸菌製剤も試す価値はあるかもしれないが、決定的な効果を示すことはない。プルーンや果汁も試してもかまわないが、それで解決するほど慢性便秘は甘くない。

・浣腸や下剤が「クセになる」ことはない。マルツエキス、酸化マグネシウム、ラキソベロンなどを使用してもうまくいかないときはグリセリン浣腸やテレミンソフト座薬を使って便を出す。「薬に頼るのではなく、薬を使いこなす」という発想転換が必要である。便秘治療の極意は「便をすべて出し切って、常に直腸が空っぽな状態をキープする」ことである。

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「小児抗菌薬適正使用支援加算」80点が新設

2018年02月13日 07時19分17秒 | 小児医療
 「小児科は儲からない」で有名です。
 知り合いのお子さんが医学部を卒業して小児科医になりました。
 その親は「形成外科のような儲かる科を勧めたのに、よりによって小児科を選ぶなんて・・・」と小児科医の私を前にして宣う・・・。

 小児科は子どもの風邪診療が中心で、検査もあまり必要なく、さらに近年の少子化がそれに拍車をかけて収入が減り続けているのは事実。
 おそらく今後は小児科単科の開業は難しくなるのではないか、と懸念する声さえあります。

 さて、2018年春に行われる診療報酬改定の概要が見えてきました。
 小児科に縁があるのは「小児抗菌薬適正使用加算」くらいでしょうか。

■ シリーズ◎2018診療・介護報酬同時改定【感染症】抗菌薬の適正使用への取り組みを新たに評価
「小児抗菌薬適正使用支援加算」80点が新設

2018/2/9 :日経メディカル

 う〜ん、この記事を読んでも、当院で算定できるのかどうか、よくわかりません。
 私はもう20年も前から、
「風邪の9割はウイルス感染症だから抗生物質は効かない、だから処方しません」
「風邪症状の患者さんに抗生物質が必要な場合は溶連菌感染症と中耳炎くらい」
 と説明してきました。
 だから、かかりつけ患者さんにたまに抗生物質を処方すると、
「先生、抗生物質がホントに必要なんでしょうか?」
 なんて逆に聞かれたりします。

 もう一つ、この件を扱った記事を見つけました。


■ 「小児抗菌薬適正使用支援加算」、80点の高評価 〜「抗微生物薬適正使用の手引き」に則した治療が原則
2018年2月7日:m3.com

 「感染症の研修会等に定期的に参加していること」ってアバウトな基準ですねえ。
 この時代、ネット配信の「e-ラーニング」で研修するシステムを作って欲しいものです。
 歳を取って持病を抱えると、なかなか遠くの研究会・研修会に参加できなくなりますので。

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成長期のアスリートに多い“スポーツ貧血”

2018年01月18日 07時30分50秒 | 小児医療
 思春期貧血は昔から有名で、「成長著しい時期であり需要に供給が追いつかない」とか女子の場合は「月経で失われるから」と説明されてきました。
 しかし近年、運動系部活動を熱心にしている選手の中で、足底を強く踏み込む動作があるとその衝撃で赤血球を壊してしまい貧血の原因になることが指摘されるようになりました。
 私が研修医の頃までは「行軍症候群」(軍隊の長時間の行軍で兵士の尿に赤血球の中身のヘモグロビンが出る)として知られた病態ですね。

■ 成長期のアスリートに多いスポーツ貧血って?
2018/1/16:日経メディカル
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「あなたの子供は肥満児、医師受診を」

2018年01月16日 06時31分45秒 | 小児医療
 群馬県は肥満児が多いらしい、そしてその理由は車保有率が高いため歩かないから?、という記事を紹介します。

 健診で「肥満」を指摘された子どもに医療機関受診を促す通知を出すことになったという内容ですが、素朴な疑問として「今まではどうしていたの?」ということ。
 健診で「肥満」を指摘されても、医療機関を受診するかどうかは保護者に委ねられていた、ということになりますよね。
 では何のために税金を使って健康診断をしてきたのでしょうか?
 問題を検出してもアフター・フォローがないなら、欠陥施策だと思います。

■ 群馬県教委「あなたの子供は肥満児、医師受診を」通知へ
毎日新聞2018年1月15日
18年度から定期健康診断で「肥満度50%以上」対象に
 群馬県教育委員会は15日、来年度から、定期健康診断で肥満度が高いとされた県内の小中学生に対し、病院で受診するよう通知すると発表した。群馬県は全国平均に比べ子どもの肥満傾向が高く、食生活や運動習慣を見直すきっかけにして将来的な生活習慣病のリスクを軽減するのが狙い。文部科学省の担当者は「全国的な調査はないが、個別の通知は珍しいのではないか」としている。
 対象は定期健康診断の結果、日本小児内分泌学会の基準で肥満度50%以上と判定された児童・生徒。男女とも身長に応じて定められている「標準体重」の1.5倍以上の体重になると肥満度50%以上の「高度肥満」とされ、通知の対象となる。
 対象者には、歯科、眼科健診と同様に通知を出し、医師の診断を受けた上で学校に結果を提出してもらう。
 文科省の学校保健統計調査によると、群馬県は肥満度20%以上の肥満傾向の子どもの出現率が高く、12歳男子で15.81%と全国平均の9.89%を大きく上回っている。県教委は、車の保有率が全国一という「車社会」が影響しているとみている。
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